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第一章 はじまり
#1
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頬を撫でる風、むせ返るような土と草の匂い、ザワザワと鼓膜を沢山の音に打たれ、護は目を覚ました。
「ん……う、ここは……?」
目蓋を開くと、緑の天井。所々に青や白の斑がある。
寝惚け眼をパチリパチリと開閉させながら、その光景をしばらく眺めていたが、ようやく目が覚めたのか、意識が途絶えるまでの事を思い出す。
「ここが……トイボックス……?」
ようやく護は緑の天井改め、森の中の少し開けた場所に、木にもたれかけさせられている事を認識する。
知らない場所とは言え、まだ草木しか見ていない。
トイボックスにしか生息しない草木もあるのだが、地球の草木の知識すら希薄な護には、本当に異世界に来れたのか確信しきれなかった。
「ぬう、何か体の節々が痛い上に、気分も悪い……」
(……どれだけ寝ていたか分からないけど、こんな場所で寝れば体が痛むのは当然か。気分が悪いのは……もしかして魔力の影響?)
痛む体をほぐしながら立ち上がり、序々に現状を確認していく。
背伸びをして、一息ついた所で、妙な違和感を感じる。
「あれ、何か視点が低い? それに手も綺麗になってる」
手が綺麗に、とは護のバイト先での仕事内容に起因する。
一つ目のバイト先では火傷や細かい傷。
二つ目のバイト先では皮膚に油が染み込んで、やや黒ずんだ手となっていた。
(油を取るだけならともかく、傷も消えてる……。鏡が無いから顔は見れないけど、まさか、もしかして若返ったりしちゃってる?)
まさかと思いつつも他の様々な傷や、体毛の有無、成長具合などを確認し、確信する。
(ここの毛がこれくらいってことは……もしかして中一の頃の体か?)
体の確認と共に気付いたが、服装もかなり地味、……というか肌触りも悪い、麻の服に革のズボンを穿いていた。
腰にはベルトが巻いてあり、腰の左側には日本なら銃刀法違反で捕まりそうな長さのナイフが挟まっていた。
腰の右後ろあたりには、二つ小さな袋がついている。
片方の小袋の中には貨幣らしき物が数種類、それぞれ数枚から十数枚入っているようだ。
もう片方には表紙が革で出来た、やや紙がごわごわしてるメモ帳と、鳥の羽根? それに墨? の入った、小さな壷。
墨があるという事は、羽根は羽根ペンだったようだ。
一応何か書いていないか。と、護はその場に座り込み、メモ帳をパラパラめくっていく。ざっと見てみたが、別段何を見つけられるわけでも無く終盤まで進み、しかし終わりから数えて数ページ、うっすらと青みがかっている。何やら書いてあるようだった。
『目が覚めたかな? おはよう、護君』
アマテラスからのメッセージ、なのだろう。
『体の変化には気付いた? 多分驚いただろうけど、説明しておくね。これは必要な事でもあったんだけど、ささやかなプレゼントでもあるんだよ』
『何故必要かって言うと、世界の移動に使うための想いの力を得るためなんだ』
『はっきり言っちゃうと、最後にプラスの想いを生み出し始めたとはいえ、多くのマイナスの想いを生み出してきた君や、他の人達を移動させるのに、それなりに多くのプラスの想いを使うわけにはいかなくってね。省エネってやつ?』
『そこで今回、必要な想いの力を得るために…………君達の魂をちょこっと削っちゃいましたっ。てへっ』
「――は!?」
(てへっじゃないよ! 何してんの神様あああああああ!)
『削られた魂の情報分、体が幼くなったんだ。基本は肉体の情報から削ったから記憶に障害は無いと思うけど、精神的にもちょっと若返ってるかも? でも心配しないで大丈夫! 削られた魂は 体や心の成長と共に、ちゃんと元通り、あるいは成長するからね!』
護はほっと安堵の息をついた。魂が元通りにならないなどと聞かされていたら、危うく以前にも増してマイナスの想いを生み出していたかもしれない。
『プレゼントってことについてなんだけど、若返るのだって悪い事じゃないし、不健康だった二十八歳の体で冒険するよりずっといいでしょ? その年齢の体から鍛え始めれば、きっと成長も早いと思うよ?』
そう言われてみれば、確かにいい事ばかりな気もしてくる。
『他にもサプライズがあるからねっ。きっとギルドカードを見たらびっくりするよ!』
期待を煽られるが、微妙に不安である。とりあえず今は先を読み進める。
『次は道具の確認だね。衣服は何の変哲もない、トイボックスでよく着られてるもの。ちなみに着替えさせたのは私じゃないのであしからず!
――期待したかな?』
(……してません!)
『次にベルトに取り付けてあるものだけど、左腰のナイフは、そこそこ長持ちする程度の量産品、とは言っても、冒険者するなら割とよく使うだろうから、手入れしないとすぐダメになっちゃうからね?』
などと言われても、護にはもちろん手入れの経験などない。
(手入れ? どうすればいいんだ……。思いつくのは、使った後に血や脂をきちんと拭ったり、時々砥ぐくらいか?)
『もし経験が無いようなら、スキルを探してみるといいかも。色んな知識や技術がスキルとして存在してるって話だから、基本的なモノならすぐ手に入るんじゃないかな?』
話には聞いていたが、スキルとは戦闘に関する物だけではないようだ。
この先大丈夫だろうか、と少しばかり不安に思っていた護だが、その一文を見て気を取り戻す。
『それから、右腰の小袋には、駆け出しの冒険者がある程度の装備や道具を揃えて、駆け出しの冒険者が泊まるような宿に半月くらい滞在出来る程度のお金と、まあ、今見てるメモ帳、羽ペン、墨の入った壷だね』
『貨幣の価値については、頭に突っ込んだ、ある程度の常識に関する知識で分かると思う。メモ帳は紙の質をちょっと荒くしてあるけど、そっちでは割と高品質でそれなりに高いものだから、落とさないよう気をつけてね』
頭に突っ込んだ、とはいささか乱暴な表現だが、言われ、護は改めて貨幣を観察する。
眺めていると、最初の内はなんとなく既視感を覚える程度だったが、ふとした瞬間にそれぞれの貨幣の価値や名前を思い出したような感覚にあう。
(イーセン王国銀貨? に、半銀貨、それと鉄貨、半鉄貨に銅貨か。単位は……イース?)
イーセン王国とは。
現在、護の近くにある街を含め、大陸の1/3近くの地域を支配し、積極的にダンジョン街や砦を建てるよう各国に働きかけた大国だ。
イーセン王国の他にも貨幣を発行する国はあるが、基本的にこの大陸であればイーセン王国の貨幣がよく使われている。
(所持金は……合計18400イースか。日本円で言えば大体二十万円くらい? 駆け出し冒険者だとすればそこそこ恵まれてるほう……なのかな?)
『最後に、足元の雑嚢に三日分の保存食と少しの塩、それから水が入ってるから、忘れないように!』
慌てて確認すると、先程立ち上がった時には気付かなかったが、木の脇にそれらしいものがあった。
カバン……というより、やや大きめの布袋のようだ。革で補強されていて、そう簡単には破損しないだろう事が窺える。
『道具の確認は済んだかな?準備が出来たら、近くに街が見えるはずだから、そこに行くといいよ。
そこから先は、君が選ぶ道だ。何をするのかは、好きにすればいい。
その世界、トイボックスを、精一杯生きて、精一杯楽しんで!』
最後のページを読み終えると、青みがかっていたページは白くなり、文字も消えてしまった。
護はメッセージを噛み締めるように、しばらくの間、目を閉じてアマテラスに感謝の祈りを捧げていた。
(ありがとうございます、アマテラス様。
この世界に送って頂いた事。まるで、人生をやり直す機会を与えて頂いた事に感謝します。
きっと、この世界を、全力で楽しんで生きてみせます)
祈りを終えた護は、袋を背負って立ち上がった。
魔力の浸透、蓄積による体調の不良も、いつの間にか治まっていたようだ。
木々の隙間から見える街の外壁を見つけ、護は歩き始めた。
「俺の人生は――ここから始まるんだ!」
「ん……う、ここは……?」
目蓋を開くと、緑の天井。所々に青や白の斑がある。
寝惚け眼をパチリパチリと開閉させながら、その光景をしばらく眺めていたが、ようやく目が覚めたのか、意識が途絶えるまでの事を思い出す。
「ここが……トイボックス……?」
ようやく護は緑の天井改め、森の中の少し開けた場所に、木にもたれかけさせられている事を認識する。
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「ぬう、何か体の節々が痛い上に、気分も悪い……」
(……どれだけ寝ていたか分からないけど、こんな場所で寝れば体が痛むのは当然か。気分が悪いのは……もしかして魔力の影響?)
痛む体をほぐしながら立ち上がり、序々に現状を確認していく。
背伸びをして、一息ついた所で、妙な違和感を感じる。
「あれ、何か視点が低い? それに手も綺麗になってる」
手が綺麗に、とは護のバイト先での仕事内容に起因する。
一つ目のバイト先では火傷や細かい傷。
二つ目のバイト先では皮膚に油が染み込んで、やや黒ずんだ手となっていた。
(油を取るだけならともかく、傷も消えてる……。鏡が無いから顔は見れないけど、まさか、もしかして若返ったりしちゃってる?)
まさかと思いつつも他の様々な傷や、体毛の有無、成長具合などを確認し、確信する。
(ここの毛がこれくらいってことは……もしかして中一の頃の体か?)
体の確認と共に気付いたが、服装もかなり地味、……というか肌触りも悪い、麻の服に革のズボンを穿いていた。
腰にはベルトが巻いてあり、腰の左側には日本なら銃刀法違反で捕まりそうな長さのナイフが挟まっていた。
腰の右後ろあたりには、二つ小さな袋がついている。
片方の小袋の中には貨幣らしき物が数種類、それぞれ数枚から十数枚入っているようだ。
もう片方には表紙が革で出来た、やや紙がごわごわしてるメモ帳と、鳥の羽根? それに墨? の入った、小さな壷。
墨があるという事は、羽根は羽根ペンだったようだ。
一応何か書いていないか。と、護はその場に座り込み、メモ帳をパラパラめくっていく。ざっと見てみたが、別段何を見つけられるわけでも無く終盤まで進み、しかし終わりから数えて数ページ、うっすらと青みがかっている。何やら書いてあるようだった。
『目が覚めたかな? おはよう、護君』
アマテラスからのメッセージ、なのだろう。
『体の変化には気付いた? 多分驚いただろうけど、説明しておくね。これは必要な事でもあったんだけど、ささやかなプレゼントでもあるんだよ』
『何故必要かって言うと、世界の移動に使うための想いの力を得るためなんだ』
『はっきり言っちゃうと、最後にプラスの想いを生み出し始めたとはいえ、多くのマイナスの想いを生み出してきた君や、他の人達を移動させるのに、それなりに多くのプラスの想いを使うわけにはいかなくってね。省エネってやつ?』
『そこで今回、必要な想いの力を得るために…………君達の魂をちょこっと削っちゃいましたっ。てへっ』
「――は!?」
(てへっじゃないよ! 何してんの神様あああああああ!)
『削られた魂の情報分、体が幼くなったんだ。基本は肉体の情報から削ったから記憶に障害は無いと思うけど、精神的にもちょっと若返ってるかも? でも心配しないで大丈夫! 削られた魂は 体や心の成長と共に、ちゃんと元通り、あるいは成長するからね!』
護はほっと安堵の息をついた。魂が元通りにならないなどと聞かされていたら、危うく以前にも増してマイナスの想いを生み出していたかもしれない。
『プレゼントってことについてなんだけど、若返るのだって悪い事じゃないし、不健康だった二十八歳の体で冒険するよりずっといいでしょ? その年齢の体から鍛え始めれば、きっと成長も早いと思うよ?』
そう言われてみれば、確かにいい事ばかりな気もしてくる。
『他にもサプライズがあるからねっ。きっとギルドカードを見たらびっくりするよ!』
期待を煽られるが、微妙に不安である。とりあえず今は先を読み進める。
『次は道具の確認だね。衣服は何の変哲もない、トイボックスでよく着られてるもの。ちなみに着替えさせたのは私じゃないのであしからず!
――期待したかな?』
(……してません!)
『次にベルトに取り付けてあるものだけど、左腰のナイフは、そこそこ長持ちする程度の量産品、とは言っても、冒険者するなら割とよく使うだろうから、手入れしないとすぐダメになっちゃうからね?』
などと言われても、護にはもちろん手入れの経験などない。
(手入れ? どうすればいいんだ……。思いつくのは、使った後に血や脂をきちんと拭ったり、時々砥ぐくらいか?)
『もし経験が無いようなら、スキルを探してみるといいかも。色んな知識や技術がスキルとして存在してるって話だから、基本的なモノならすぐ手に入るんじゃないかな?』
話には聞いていたが、スキルとは戦闘に関する物だけではないようだ。
この先大丈夫だろうか、と少しばかり不安に思っていた護だが、その一文を見て気を取り戻す。
『それから、右腰の小袋には、駆け出しの冒険者がある程度の装備や道具を揃えて、駆け出しの冒険者が泊まるような宿に半月くらい滞在出来る程度のお金と、まあ、今見てるメモ帳、羽ペン、墨の入った壷だね』
『貨幣の価値については、頭に突っ込んだ、ある程度の常識に関する知識で分かると思う。メモ帳は紙の質をちょっと荒くしてあるけど、そっちでは割と高品質でそれなりに高いものだから、落とさないよう気をつけてね』
頭に突っ込んだ、とはいささか乱暴な表現だが、言われ、護は改めて貨幣を観察する。
眺めていると、最初の内はなんとなく既視感を覚える程度だったが、ふとした瞬間にそれぞれの貨幣の価値や名前を思い出したような感覚にあう。
(イーセン王国銀貨? に、半銀貨、それと鉄貨、半鉄貨に銅貨か。単位は……イース?)
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現在、護の近くにある街を含め、大陸の1/3近くの地域を支配し、積極的にダンジョン街や砦を建てるよう各国に働きかけた大国だ。
イーセン王国の他にも貨幣を発行する国はあるが、基本的にこの大陸であればイーセン王国の貨幣がよく使われている。
(所持金は……合計18400イースか。日本円で言えば大体二十万円くらい? 駆け出し冒険者だとすればそこそこ恵まれてるほう……なのかな?)
『最後に、足元の雑嚢に三日分の保存食と少しの塩、それから水が入ってるから、忘れないように!』
慌てて確認すると、先程立ち上がった時には気付かなかったが、木の脇にそれらしいものがあった。
カバン……というより、やや大きめの布袋のようだ。革で補強されていて、そう簡単には破損しないだろう事が窺える。
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そこから先は、君が選ぶ道だ。何をするのかは、好きにすればいい。
その世界、トイボックスを、精一杯生きて、精一杯楽しんで!』
最後のページを読み終えると、青みがかっていたページは白くなり、文字も消えてしまった。
護はメッセージを噛み締めるように、しばらくの間、目を閉じてアマテラスに感謝の祈りを捧げていた。
(ありがとうございます、アマテラス様。
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きっと、この世界を、全力で楽しんで生きてみせます)
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