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花火
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「わ!花火だ!花火だ!」
親友が嬉しそうに笑う。彼女につられ、私も空を見上げた。
__ヒュー… パァン
「きれーだね」
「だよね!!あの花火すご!!!!でっか!」
あたしと親友は温度差が凄い。風邪を引いてしまいそうなぐらい、冷たいし、暑い。
「私、花火になりたいなぁ…」
「え、あんた将来の夢花火なの?」
「違うって!そんなんじゃないから!」
花火になりたい…って。いくら花火が綺麗だからって、そんな事言う人間いないぞ、と私は半笑いで言う。小さい子がプリキュアやら仮面ライダーやらに憧れるのは分かるが、花火…。
「なんで花火なんかになりたいの?」
「だってさ。花火って儚いじゃん!たった数秒、人を感動させて散っちゃうなんてさ。でも、その人の心にずーっと残るの。その光景。それって良くない?人間なんかに生まれるぐらいなら、いっそ余命数秒の花火になって、人の心に残りたいんだ__って、聞いてる??」
「あんた、今息継ぎした?」
恐ろしいほどのマシンガントーク。私でなきゃ帰っちゃうね。と、某パロディを彷彿とさせる言葉を放ってしまいそうなぐらい、彼女は目を輝かせながら意気揚々と馬鹿げた夢を語る。
「あんたはいーね。夢があってさ。あたしなんて高校後の進路すら決められなかったのにさ。」
「あれ、そーだっけ?行きたいとこ、まだ決めてなかったんだ。てっきり決めたのかとばかり。」
「あたし頭悪すぎてもうあたしが選べる立場じゃない。むしろ頭下げて入学する立場かな。」
「ふーん、大変なんだね…。」
「はは、ほんと、人生終了って感じ。」
「って!そんな暗い話してちゃ、花火もかわいそーじゃん!せっかく数秒の余命を散らして精一杯人を感動させよーとしてんのに!」
「はいはい、そーね。じゃ、花火さんの最期をしっかり見届けてやるか。」
「うんうん!」
全く、おかしな会話だ。もし周りに人がいれば、きっとあたし達を軽蔑するだろうな。変な女子高校生、って。だから、周りに誰もいない此処を選んで正解だった。
「__さっきの言葉取り消し。」
「え?なんのこと?」
「さっきあんたに言ったこと。」
「え?なんか言ったっけ?」
「なんで花火なんかになりたいの、ってとこ。」
「なんでそこを取り消し?」
「花火様になんか、って言葉は失礼かなって。」
「花火様?急に恭しくなって、どーしたの?」
「……あたしも、花火になりたい。進路とか、人間関係とか、勉強とか、なーんも考えずにさ、ただ人を感動させる為に夜空で咲いて、余命を全うしたいなって。あたしも、あんたの考えに納得しちゃったわ。」
「__大学、目星もついてないの?」
「そ。やばいよね、もうちょいで入試なのにさ。成績足りなくて、頭悪いから良いとこ行けないのはもう知ってんだけどさ。先生も親も、あたしの事見放してんだよね。今のままだと大学は少し大変かなと思います、って。母大号泣。父DVしてくる、もー散々だっつーの。」
「先生、キッパリ言わないんだね。」
「あたしもキッパリ言って欲しいわ。無理だって。いつまでもダラダラ引きずってるから、親も希望持っちゃうんだって。結局このザマだし。」
「先生って、言葉を濁すの上手いからなぁ…。」
「んね。二酸化炭素と石灰水の入った集気瓶振ったって、先生の言葉の方が濁るわ、ほんと。」
「はは、言えてる言えてる。」
__ヒュー パァン
「これ、何番目の花火?」
「えーっと…。あ、後ろから3番目。もう花火終わっちゃう。あーあ、ずっとこのまま時が止まんないかな~。」
「やだよ。時が止まったら、あんたと2人っきりで永遠に話さなきゃじゃん。その内会話の話題無くなって気まずくなるよ。」
「えぇー?ひどーい!大丈夫!私がずーっと話し続けるからさ!今話題の韓国ドラマとか、新コスメとか、あ、あとね__」
__ヒュー パァン
「……なんか今の花火、ショボイ。」
「思った。これ最後だったら最悪だったね。」
「あんたも思ったんだ。てか、次でラストじゃない?はぁー。もー終わったか。」
「なんか、花火が終わるのって、私達の夏が終わるみたい。終わんないで~!夏~!」
「やれやれ。」
ヒュ_____ パァァァァァン
「…綺麗。」
「最後は大成功だな。うし、いくか。」
「…いいな。ねぇ、私やっぱり、花火にはなりたくない。数秒の余命なんて嫌かも。」
「なに、怖気づいたの?全く。度胸ないんだから。」
「ふふ。私ね、いいこと思いついたの。星になる、ってのはどうかな?」
「??、星になる?」
「花火は数秒で散るけどさ、星はどうだろ。ずーっと輝き続けられるでしょ?しかもさ、花火を1番近くで見られるのって、星だと思わない?あの夜空に光る星になって、間近で花火を見る、うん、絶対素敵!決めた!星になる!」
「全く、馬鹿げてんだから。ほら、もーいくよ。」
「じゃ、最後にお願いしとこ!
……生まれ変わったら、星になれますよーに!」
「……。あたしも、星、なろっかな。
星になって、あんたの隣で一緒に花火見るのも、悪くないかも。」
「じゃ、一緒に願おう!」
ぎゅっ、と、気づけば彼女の右手は私の左手に強く握られている。
「ん。はいはい。
……生まれ変わったら、星になれますように。」
「やったぁ!あたしたち、星になれるね!」
「そーね。そんときはよろしく。…じゃ逝こっか。」
緑色のフェンスを背に、あたし達は強く手を握る。
2人で飛び出したその空は、星が輝いていた。
…
____続いてのニュースです。
昨夜、〇時過ぎ頃、××市内のビルの屋上にて、2人の女子高校生が飛び降り自殺をしたことが分かりました。
警察は、自殺の原因について、詳しい調査を進めています。
__「ママぁ!星!綺麗!!」
「こらこら、勝手に外出ちゃいけませんよぉ~。
……あら、確かに、綺麗なお星様ね。」
夜空には無数の星が輝いている。
その中でも一際光る、並んだ2つの星は、まるでこの世界丸ごとを照らしているようだった。
end
親友が嬉しそうに笑う。彼女につられ、私も空を見上げた。
__ヒュー… パァン
「きれーだね」
「だよね!!あの花火すご!!!!でっか!」
あたしと親友は温度差が凄い。風邪を引いてしまいそうなぐらい、冷たいし、暑い。
「私、花火になりたいなぁ…」
「え、あんた将来の夢花火なの?」
「違うって!そんなんじゃないから!」
花火になりたい…って。いくら花火が綺麗だからって、そんな事言う人間いないぞ、と私は半笑いで言う。小さい子がプリキュアやら仮面ライダーやらに憧れるのは分かるが、花火…。
「なんで花火なんかになりたいの?」
「だってさ。花火って儚いじゃん!たった数秒、人を感動させて散っちゃうなんてさ。でも、その人の心にずーっと残るの。その光景。それって良くない?人間なんかに生まれるぐらいなら、いっそ余命数秒の花火になって、人の心に残りたいんだ__って、聞いてる??」
「あんた、今息継ぎした?」
恐ろしいほどのマシンガントーク。私でなきゃ帰っちゃうね。と、某パロディを彷彿とさせる言葉を放ってしまいそうなぐらい、彼女は目を輝かせながら意気揚々と馬鹿げた夢を語る。
「あんたはいーね。夢があってさ。あたしなんて高校後の進路すら決められなかったのにさ。」
「あれ、そーだっけ?行きたいとこ、まだ決めてなかったんだ。てっきり決めたのかとばかり。」
「あたし頭悪すぎてもうあたしが選べる立場じゃない。むしろ頭下げて入学する立場かな。」
「ふーん、大変なんだね…。」
「はは、ほんと、人生終了って感じ。」
「って!そんな暗い話してちゃ、花火もかわいそーじゃん!せっかく数秒の余命を散らして精一杯人を感動させよーとしてんのに!」
「はいはい、そーね。じゃ、花火さんの最期をしっかり見届けてやるか。」
「うんうん!」
全く、おかしな会話だ。もし周りに人がいれば、きっとあたし達を軽蔑するだろうな。変な女子高校生、って。だから、周りに誰もいない此処を選んで正解だった。
「__さっきの言葉取り消し。」
「え?なんのこと?」
「さっきあんたに言ったこと。」
「え?なんか言ったっけ?」
「なんで花火なんかになりたいの、ってとこ。」
「なんでそこを取り消し?」
「花火様になんか、って言葉は失礼かなって。」
「花火様?急に恭しくなって、どーしたの?」
「……あたしも、花火になりたい。進路とか、人間関係とか、勉強とか、なーんも考えずにさ、ただ人を感動させる為に夜空で咲いて、余命を全うしたいなって。あたしも、あんたの考えに納得しちゃったわ。」
「__大学、目星もついてないの?」
「そ。やばいよね、もうちょいで入試なのにさ。成績足りなくて、頭悪いから良いとこ行けないのはもう知ってんだけどさ。先生も親も、あたしの事見放してんだよね。今のままだと大学は少し大変かなと思います、って。母大号泣。父DVしてくる、もー散々だっつーの。」
「先生、キッパリ言わないんだね。」
「あたしもキッパリ言って欲しいわ。無理だって。いつまでもダラダラ引きずってるから、親も希望持っちゃうんだって。結局このザマだし。」
「先生って、言葉を濁すの上手いからなぁ…。」
「んね。二酸化炭素と石灰水の入った集気瓶振ったって、先生の言葉の方が濁るわ、ほんと。」
「はは、言えてる言えてる。」
__ヒュー パァン
「これ、何番目の花火?」
「えーっと…。あ、後ろから3番目。もう花火終わっちゃう。あーあ、ずっとこのまま時が止まんないかな~。」
「やだよ。時が止まったら、あんたと2人っきりで永遠に話さなきゃじゃん。その内会話の話題無くなって気まずくなるよ。」
「えぇー?ひどーい!大丈夫!私がずーっと話し続けるからさ!今話題の韓国ドラマとか、新コスメとか、あ、あとね__」
__ヒュー パァン
「……なんか今の花火、ショボイ。」
「思った。これ最後だったら最悪だったね。」
「あんたも思ったんだ。てか、次でラストじゃない?はぁー。もー終わったか。」
「なんか、花火が終わるのって、私達の夏が終わるみたい。終わんないで~!夏~!」
「やれやれ。」
ヒュ_____ パァァァァァン
「…綺麗。」
「最後は大成功だな。うし、いくか。」
「…いいな。ねぇ、私やっぱり、花火にはなりたくない。数秒の余命なんて嫌かも。」
「なに、怖気づいたの?全く。度胸ないんだから。」
「ふふ。私ね、いいこと思いついたの。星になる、ってのはどうかな?」
「??、星になる?」
「花火は数秒で散るけどさ、星はどうだろ。ずーっと輝き続けられるでしょ?しかもさ、花火を1番近くで見られるのって、星だと思わない?あの夜空に光る星になって、間近で花火を見る、うん、絶対素敵!決めた!星になる!」
「全く、馬鹿げてんだから。ほら、もーいくよ。」
「じゃ、最後にお願いしとこ!
……生まれ変わったら、星になれますよーに!」
「……。あたしも、星、なろっかな。
星になって、あんたの隣で一緒に花火見るのも、悪くないかも。」
「じゃ、一緒に願おう!」
ぎゅっ、と、気づけば彼女の右手は私の左手に強く握られている。
「ん。はいはい。
……生まれ変わったら、星になれますように。」
「やったぁ!あたしたち、星になれるね!」
「そーね。そんときはよろしく。…じゃ逝こっか。」
緑色のフェンスを背に、あたし達は強く手を握る。
2人で飛び出したその空は、星が輝いていた。
…
____続いてのニュースです。
昨夜、〇時過ぎ頃、××市内のビルの屋上にて、2人の女子高校生が飛び降り自殺をしたことが分かりました。
警察は、自殺の原因について、詳しい調査を進めています。
__「ママぁ!星!綺麗!!」
「こらこら、勝手に外出ちゃいけませんよぉ~。
……あら、確かに、綺麗なお星様ね。」
夜空には無数の星が輝いている。
その中でも一際光る、並んだ2つの星は、まるでこの世界丸ごとを照らしているようだった。
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