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後継
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一番前の椅子に座り、左隣に座るおふくろを見てから右隣に座る斗真を抱いた向日葵を見た。二人とも目に涙を浮かべていた。幸仁は涙こそ出ないが、悲しくて辛くて、そして悔やんだ。お経を聴きながら、目を閉じると、親父と行った塚原農園の景色が瞼の裏に浮かんだ。
最後に親父はおふくろに向かって「苦労をかけたな」と言った。
斗真の頬に手を当て、「楽しく生きろよ」と言った。
向日葵の手をとり、「ありがとう」と言った。
幸仁の手を握り、「あとは頼むな。これまでありがとう。俺は幸せだった」と言った。
幸仁は嗚咽が出るだけで、言葉が出なかった。親父の手を握ったまま、心の中で、向日葵を守ってくれてありがとう、意地はってごめんなさいと何度も繰り返した。
最後に親父はニコリと笑みを浮かべたまま目を閉じた。
「あなたー」
「親父」
「お義父さん」
「ジィージ」
残された家族四人が一斉に声を上げた。
喪主のおふくろに代わり、幸仁が参列者に向かって挨拶をした。何度も嗚咽し言葉を詰まらせながら、参列者に感謝の言葉を述べ、親父との思い出を話した。話が終わる前に声を上げて泣いた。周りを気にすることなく、子どものように大声で泣いた。
会場からすすり泣く声が漏れる中、親父との別れの時間が近づいてきた。棺の周りに人が集まり、順番に棺に花を入れてくれた。一人の男性が棺に花を入れてから長い時間手を合わせた後、幸仁の方に体を向けた。
「この度は御愁傷様です」
男性は悲しそうな潤んだ瞳を幸仁に向けてきた。十五年の年月が流れたが陽に焼けた顔は変わらない。
「ありがとうございます」
幸仁は頭を下げた。
「三浦社長のご子息の幸仁さんですよね」
「はい、そうです。塚原さんですよね。ご無沙汰しております」
親父と塚原農園に行った時の記憶が鮮明に甦った。
「三浦社長には、大変お世話になりました」
「いえ、父の方こそ、塚原さんにはお世話になりっぱなしだと、私が子供の頃から聞かされてました。本当にありがとうございました」
「いえいえ、私たちにとって、三浦社長と先代の奏輔さんは恩人ですから」
「そう言ってもらえると、祖父も父も天国で喜んでいると思います」
「ところで、幸仁さんは、スーパーミウラの後を継がなかったんですね」
「ええ、叔父が継いでくれますから」
少し後ろめたい気持ちになった。
「お子さんができて、他で働いてるんですってね」
「はい、親父が話してたんですか」
「ええ、三浦社長から聞きました。すごく喜んでましたよ。息子は自分でやりたいことを見つけて頑張ってる、そうおっしゃってました」
「そうでしたか。私のわがままで後を継がなかったから怒ってるとばかり思ってました」
「いいえ、あなたのことを話す時の三浦社長はいつもニコニコと目を細めてましたよ。特にあなたの奥さんとお子さんの話をしている時は顔がとろけてましたね」
「けど、親父は私に後を継いでほしかったんじゃないですかね」
「確かに継いでほしかったみたいですけど、それより、あなたが家族を持って幸せに過ごしてくれてることが嬉しかったみたいです」
「そうなんですか」
「また今度、お子さんと奥さんを連れてうちに遊びに来てくださいよ」
「いいんですか」
「もちろんですよ。ぜひ来てください」
「近いうちにお言葉に甘えさせていただきます」
そうだ、斗真にも、俺が子供の頃に味わった塚原農園での楽しかった思い出を体験させてあげよう。塚原農園まで行く道中、親父の運転する軽トラックの助手席に座り感じたワクワク感、塚原農園で汗をいっぱいかいて収穫を手伝った充実感、最後に美味しい桃をお腹いっぱい食べさせてもらった満足感、そんな親父との思い出を斗真とも味わおう。そして、その時は隣で笑っている向日葵の笑顔が見たい。
最後に親父はおふくろに向かって「苦労をかけたな」と言った。
斗真の頬に手を当て、「楽しく生きろよ」と言った。
向日葵の手をとり、「ありがとう」と言った。
幸仁の手を握り、「あとは頼むな。これまでありがとう。俺は幸せだった」と言った。
幸仁は嗚咽が出るだけで、言葉が出なかった。親父の手を握ったまま、心の中で、向日葵を守ってくれてありがとう、意地はってごめんなさいと何度も繰り返した。
最後に親父はニコリと笑みを浮かべたまま目を閉じた。
「あなたー」
「親父」
「お義父さん」
「ジィージ」
残された家族四人が一斉に声を上げた。
喪主のおふくろに代わり、幸仁が参列者に向かって挨拶をした。何度も嗚咽し言葉を詰まらせながら、参列者に感謝の言葉を述べ、親父との思い出を話した。話が終わる前に声を上げて泣いた。周りを気にすることなく、子どものように大声で泣いた。
会場からすすり泣く声が漏れる中、親父との別れの時間が近づいてきた。棺の周りに人が集まり、順番に棺に花を入れてくれた。一人の男性が棺に花を入れてから長い時間手を合わせた後、幸仁の方に体を向けた。
「この度は御愁傷様です」
男性は悲しそうな潤んだ瞳を幸仁に向けてきた。十五年の年月が流れたが陽に焼けた顔は変わらない。
「ありがとうございます」
幸仁は頭を下げた。
「三浦社長のご子息の幸仁さんですよね」
「はい、そうです。塚原さんですよね。ご無沙汰しております」
親父と塚原農園に行った時の記憶が鮮明に甦った。
「三浦社長には、大変お世話になりました」
「いえ、父の方こそ、塚原さんにはお世話になりっぱなしだと、私が子供の頃から聞かされてました。本当にありがとうございました」
「いえいえ、私たちにとって、三浦社長と先代の奏輔さんは恩人ですから」
「そう言ってもらえると、祖父も父も天国で喜んでいると思います」
「ところで、幸仁さんは、スーパーミウラの後を継がなかったんですね」
「ええ、叔父が継いでくれますから」
少し後ろめたい気持ちになった。
「お子さんができて、他で働いてるんですってね」
「はい、親父が話してたんですか」
「ええ、三浦社長から聞きました。すごく喜んでましたよ。息子は自分でやりたいことを見つけて頑張ってる、そうおっしゃってました」
「そうでしたか。私のわがままで後を継がなかったから怒ってるとばかり思ってました」
「いいえ、あなたのことを話す時の三浦社長はいつもニコニコと目を細めてましたよ。特にあなたの奥さんとお子さんの話をしている時は顔がとろけてましたね」
「けど、親父は私に後を継いでほしかったんじゃないですかね」
「確かに継いでほしかったみたいですけど、それより、あなたが家族を持って幸せに過ごしてくれてることが嬉しかったみたいです」
「そうなんですか」
「また今度、お子さんと奥さんを連れてうちに遊びに来てくださいよ」
「いいんですか」
「もちろんですよ。ぜひ来てください」
「近いうちにお言葉に甘えさせていただきます」
そうだ、斗真にも、俺が子供の頃に味わった塚原農園での楽しかった思い出を体験させてあげよう。塚原農園まで行く道中、親父の運転する軽トラックの助手席に座り感じたワクワク感、塚原農園で汗をいっぱいかいて収穫を手伝った充実感、最後に美味しい桃をお腹いっぱい食べさせてもらった満足感、そんな親父との思い出を斗真とも味わおう。そして、その時は隣で笑っている向日葵の笑顔が見たい。
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