命の針が止まるまで

乃木 京介

文字の大きさ
上 下
40 / 69
Chapter2「この命に名前を付けて」

#22

しおりを挟む

 冬の種が順調に成長して蕾を開き始めた。ずいぶん寒くなったなだとか、夜の時間が長くなったなだとか、季節の移ろいを感じることは何よりも命が機能している実感を抱く。

 そんな毎日を生きているうちに、ユウと再会して一年の月日が経った。これまでの人生の中でいちばん長く感じた一年で、最も自分の意志で選択を続けた一年でもあった。

 クリスマスイブ。昨年は仕事が休みで、ユウと会う約束の直前まで眠りについていた僕だったが、今日は一仕事を終えて後の予定は空白となっていた。

 リビングの片隅にはミニクリスマスツリーがあり、今年も姉と一緒に十二月の初旬に飾り付けた。コンセントにプラグを挿入すると、申し分程度に巻かれた電飾が点灯した。部屋の明かりを消すと、闇夜を照らす蛍のように光が浮かび上がる。それを綺麗だな、と思えるくらいには自分の心に余裕が出来ていることに気付く。けれど、その感情を共有できる人がいない。

 いま姉の隣には、大切な人がいることだろう。あれから恋人とは順調に関係を築いていると聞いている。今日デートをするということも事前に決まっていて、「服装はこれでいいかな?」「プレゼント交換するんだけど、男の人はどんな物を貰ったら嬉しい?」と参考相手にするには随分と心許ない僕に情報を求めていた。

  ただ幸いにも僕には人間旅行――本で得た仮想経験がある。そのありったけの知識を広げながら、うんうんと頷く姉を見ているだけで僕も幸せな気持ちになったが、どこか寂しさを感じるのも事実だった。

 部屋の明かりを戻してテレビを付けると、クリスマスソング特集と謳った生放送の歌番組がやっていた。僕はコンビニで買ってきたチキンにかぶりきながら、画面をぼんやりと見つめる。

 国民的アイドルが曲の間奏で「メリークリスマス!」と投げ掛けている。その言葉は、どのくらいの人の心に届いて不明瞭な明日を救っているのだろう。

 そういえばカラパラも、二十四日と二十五日の両日に活動復活ライブがある。今頃開場時間でたくさんの人が詰めかけているだろう。明日はいよいよ、新メンバー募集オーディション合格者のビジュアルも発表され、春には新たなメンバーを加えた新体制として本格的に活動していくらしい。コンセプトそのものは変わらないだろうが、新しい風がどんな未来を吹かせるかは非常に興味がある。

 最近のユウはライブに行かず、特にギターを触れている時間が多いとらむから聞いていた。何か自分を見つけている時間なのだろうと考え、この二日間もユウから誘われたら一緒に行こうと思っていたが、どうやら今回も参戦を見送るつもりらしい。このクリスマスの時期に一人でいくには少し心寂しいし、新メンバーのことも気になりはするが、お披露目の時に観ればいいかなと思考を揺らしていた。

 その時、テーブルに置いていたスマホの通知音が鳴った。視線だけ動かして確認する。

『花咲ユウさんから新着メッセージ』

 その一文を見て、僕はいちどテレビ画面に視線を戻した。パフォーマンスを終えたアイドルがカメラに向かって笑顔で手を振っている。生放送を終えたアイドルは、これからどんなクリスマスイブを過ごすのだろう。メンバー同士で食事に行ったり、誰かの家で集まりパーティーを開いたり、あるいは別の仕事を控えているのだろうか。

 そんなことを考えながらチキンをコーラで流し込み、呼吸を整えた僕はユウのメッセージを確認した。

『コウタくんに会いたい。直接伝えたいことがあるの。思い出の街広場で待ってるね』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女子小学五年生に告白された高校一年生の俺

think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。 幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。 司優里という小学五年生の女の子に出会う。 彼女は体調不良だった。 同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。 そうしたことで彼女に好かれてしまい 告白をうけてしまう。 友達からということで二人の両親にも認めてもらう。 最初は妹の様に想っていた。 しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...