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Chapter2「この命に名前を付けて」
#22
しおりを挟む冬の種が順調に成長して蕾を開き始めた。ずいぶん寒くなったなだとか、夜の時間が長くなったなだとか、季節の移ろいを感じることは何よりも命が機能している実感を抱く。
そんな毎日を生きているうちに、ユウと再会して一年の月日が経った。これまでの人生の中でいちばん長く感じた一年で、最も自分の意志で選択を続けた一年でもあった。
クリスマスイブ。昨年は仕事が休みで、ユウと会う約束の直前まで眠りについていた僕だったが、今日は一仕事を終えて後の予定は空白となっていた。
リビングの片隅にはミニクリスマスツリーがあり、今年も姉と一緒に十二月の初旬に飾り付けた。コンセントにプラグを挿入すると、申し分程度に巻かれた電飾が点灯した。部屋の明かりを消すと、闇夜を照らす蛍のように光が浮かび上がる。それを綺麗だな、と思えるくらいには自分の心に余裕が出来ていることに気付く。けれど、その感情を共有できる人がいない。
いま姉の隣には、大切な人がいることだろう。あれから恋人とは順調に関係を築いていると聞いている。今日デートをするということも事前に決まっていて、「服装はこれでいいかな?」「プレゼント交換するんだけど、男の人はどんな物を貰ったら嬉しい?」と参考相手にするには随分と心許ない僕に情報を求めていた。
ただ幸いにも僕には人間旅行――本で得た仮想経験がある。そのありったけの知識を広げながら、うんうんと頷く姉を見ているだけで僕も幸せな気持ちになったが、どこか寂しさを感じるのも事実だった。
部屋の明かりを戻してテレビを付けると、クリスマスソング特集と謳った生放送の歌番組がやっていた。僕はコンビニで買ってきたチキンにかぶりきながら、画面をぼんやりと見つめる。
国民的アイドルが曲の間奏で「メリークリスマス!」と投げ掛けている。その言葉は、どのくらいの人の心に届いて不明瞭な明日を救っているのだろう。
そういえばカラパラも、二十四日と二十五日の両日に活動復活ライブがある。今頃開場時間でたくさんの人が詰めかけているだろう。明日はいよいよ、新メンバー募集オーディション合格者のビジュアルも発表され、春には新たなメンバーを加えた新体制として本格的に活動していくらしい。コンセプトそのものは変わらないだろうが、新しい風がどんな未来を吹かせるかは非常に興味がある。
最近のユウはライブに行かず、特にギターを触れている時間が多いとらむから聞いていた。何か自分を見つけている時間なのだろうと考え、この二日間もユウから誘われたら一緒に行こうと思っていたが、どうやら今回も参戦を見送るつもりらしい。このクリスマスの時期に一人でいくには少し心寂しいし、新メンバーのことも気になりはするが、お披露目の時に観ればいいかなと思考を揺らしていた。
その時、テーブルに置いていたスマホの通知音が鳴った。視線だけ動かして確認する。
『花咲ユウさんから新着メッセージ』
その一文を見て、僕はいちどテレビ画面に視線を戻した。パフォーマンスを終えたアイドルがカメラに向かって笑顔で手を振っている。生放送を終えたアイドルは、これからどんなクリスマスイブを過ごすのだろう。メンバー同士で食事に行ったり、誰かの家で集まりパーティーを開いたり、あるいは別の仕事を控えているのだろうか。
そんなことを考えながらチキンをコーラで流し込み、呼吸を整えた僕はユウのメッセージを確認した。
『コウタくんに会いたい。直接伝えたいことがあるの。思い出の街広場で待ってるね』
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