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23 この世界の昔話
しおりを挟むよし揃ったな?
今日は魔術講座では無く、昔話をしようと思う。
以前此処は村だったが、今では町となった。村で暮らすなら知らずとも良かった事も、此れからは知る必要がある。
例えば敵も、村で暮らすなら精々近隣の魔物か、山賊紛いの人間だ。
しかし町で暮らすなら、果たして何が相手になるかはわからん。
人間の正規軍や、或いは魔族同士での争いだって無いとは言えないだろう。
故に広く物事を知れ。
汝等は疑問に思った事は無いか?
何故北西と北東の魔族領は争うのか。何故魔族は人間と争うのか。そもそも魔族とは何なのか。
今日はその辺りの話をしてやろう。
まあ安心せよ。魔術の訓練がしたい者は後で付き合ってやる。今は昔話を聞くが良い。
では、始めるぞ。
1『第一期』
遥か昔、この世界には世界の器のみが在った。
その器を、何処よりか飛来した十の神々が発見し、大地を、空を、海を整備する。
此れが世界の始まりだ。
十の神々にも世界の創造は初めてだったので、先ずは己達に似せた種族を作った。
其れが魔族だ。
そしてその経験を元に、古エルフ、古ドワーフ、妖精族等の種族を生み出す。
この時に生み出された種族を一期族、或いは原形種と呼ぶ。
原形種等は神々等と暮らし、栄えた。第一期は創世期とも、栄光の時代とも呼ばれる時期だ。
しかし長く続いた第一期も、やがては終わる。
その切っ掛けとなったのは我々魔族だった。
我々魔族は可能性を秘めた種族だ。何せ神々が己等に似せた種族であるからな。
魔族の一部は変化し、或いは進化し、亜種を己の内から生み出した。
魔力を生み出す器官である筈の魔核を変化させ、強靭な肉体と力を持つ種族と化した魔鬼族。
世界への愛が強く、神々の管理していた領域へ溶け込んで生まれ変わった精霊族。
死を乗り越え、不死の存在と化した死貴族だ。
この時変化した者等を一・五期族やら亜種魔族とも言うが、当人等に此れを言うと大概怒るので気を付けると良い。
神々の一部はこの変化に大層驚き、或いは恐怖した。
特に神々の管理域に溶け込んだ精霊族や、不死の存在になった死貴族は、神へ一歩近づいた存在と言えたからだ。
このまま魔族を放置すれば、やがて神に至る者が現れるかも知れぬと、神々の一部は原形種や精霊族を除いた亜種魔族を滅ぼして世界を一度リセットする事を決める。
この時精霊族を除いたのは、彼等は既に世界を管理する存在と化していて、彼等を取り除くと世界の器自体に問題が生じかねなかったからだと言う。
しかし神々の中には、その決定に異論を持った者が一柱居た。
異論を持ったと言うか、ブチ切れたと言うか、ヒステリーと言うか、兎に角烈火の如く怒り狂ったのが、今では魔族の神と呼ばれる我が母だ。
苦労して生み出した子を滅ぼすとは何事かと怒る母は、原形種や亜種魔族等に呼びかけて世界のリセットを決めた神々に戦いを挑む。
特に世界のリセットに関しての意見を表明しなかった五柱の神々は、この時に神同士で争う事は愚かだと言い残して別の世界へと旅立つ。
そして世界をリセットしたい四柱の神々対、我が母とその子等の戦いが始まった。
此れが第一期の出来事だ。
故に死貴族は母以外の神に対して、強い憎しみを抱いている。
流石にこの時代から生きるような古く強大な死貴族は丸くなった者も多いが、まあ種族全体として過激な傾向があると覚えておくと良い。
此処までの話で最も大事なのは、魔族は可能性を秘めており、正しく進化した者が研鑽を詰めば神に至れる可能性を、他ならぬ神々自身が認めていると言う事だ。
2『第二期』
戦いは我が母の陣営が優勢だったが、決着は付かずに中断する。
世界が傷付き過ぎた為だ。精霊族等が居らねば、この時に世界は崩壊していた可能性すらあったらしい。
だが精霊族の存在があっても尚、世界に傷は刻まれた。
神々の放った魔力が世界を巡り、その魔力より魔物が生まれ出したのだ。
その対応を、或いは調節とも言うがな、行う為、四柱の神々も、母も、一度争いを中止する。
神々の戦いで数の差にも関わらず我が母が優勢だったのは、母が他の神よりも力が強かったり、怒り狂って居た為モチベーションが高かった事もあるが、最大の要素はやはり付き従った種族達だった。
故に四柱の神々は、自分達の身で新しい種族を創造する。
人間、獣人、エルフ、ドワーフ、様々な種族がその時生まれた。
まあ新しいとは言っても、凡そは一期族の下位種ばかりなのだが。一期族が原形種とも呼ばれるのはこのせいだ。
母も対抗心を燃やしたのか、或いは単に羨ましくなったのか、新しい種族を生み出そうとするが、……実はこれに失敗する。
一概に失敗とも言えんのかも知れんが、まあ当初の目的とは形が大分変わってしまったのは確かだな。
うむ、母がこの時に生んだのはゴブリン、オーク、オーガの三つの種の原形だった。
何が失敗だったのかと言えば、此奴等は生み出された後に世界に満ちた魔力の影響で魔物化したのだ。
第二期に創造された種族、人間等だな。を、二期族と言うが、其処にゴブリン等を加えるかは微妙である。
別段魔物を見下す訳では無いぞ。時に魔物は我等の盟友となる事もあるのだから。
さて第二期の創造は四柱の神々、まあ此処からは人間の神と呼ぶが、連中の方が成果を出したと言えよう。
そうなると当然次に来るのは、新しい種族を生み出した事でより不要になった、母側種族の根絶の再開だ。
人間の神々と魔族の神、人間側種族と魔族側種族、今の世にまで続く対立構造はこの時に生まれた。
神々の戦いの再来である。
此処までが第二期の出来事だな。
この対立構造故に、人間と魔族は決して相容れずに戦い続けている。
別に人間に個人として善い奴が居ないとは言わんよ。
魔族にも善い奴悪い奴、気の合う者、合わぬ者が居るのと同じだ。
個人と個人でなら、友誼を結んだ者が居るのは確かだし、似た様な貨幣が流通する程度には取引もある。
だが大きな視点で物事を見れば、決して相容れん。
もし仮に人間の国と大手を振って友誼を結び、取引をしていると公言したならば、その時は例え穏健派と言われる魔王でも魔族側の全てが敵に回ろう。
3『第三期』
今の時代だ。
先に言えば、この時期に生み出された種族は居ない。少なくとも我は知らぬ。
第二期の最期に起こった争いは、第一期の其れを凌ぐ規模になった。
その余波は確実に世界を蝕んだ。
まず魔物の数が激増した。種類も増えた。強力な魔物が出現する様になった。
戦いの最中に、世界を覆う魔力の影響で狂化し、其れが更に進んで魔物と化す者すら現れた。
人間の神々と魔族の神は最期の決着の際に、世界に影響を及ぼさぬ為に虚空領域と呼ぶ場所を創造する。
そして両者のぶつかり合いは虚空領域ごと互いをこの世界から切り離す。
虚空領域は強力な力に引き裂かれて、五つに分断された。其処には一柱ずつ神が住まう。
人間側の神々が住まう四つは神界と、そして魔族の神、我が母の住まう一つは魔界と呼ばれ、この世界から神が消える。
しかし話は其れで終わらなかった。
人間側に、神界の神より力を授かりし者、勇者が出現したからだ。
魔族側種族の根絶を神より命じられた勇者は、人間側の先頭に立って魔族側の領域へと攻め込む。
最初の勇者は恐ろしく強かったらしい。
魔族側の領域には幾つかの国が在ったが、その半数程が最初の勇者に滅ぼされたそうだ。
だがその際に、後ある魔族の国の王が我が母に願った。どうか救いをと。
そして遣わされたのが、最初の降臨魔族だ。
願いを問うた降臨魔族に、その国の王は答えた。如何か我が国の王となり、魔族の危機を救い給えと。
降臨魔族が魔王と呼ばれるようになったのは、この時の出来事のせいだな。
第三期は人間と魔族、勇者と魔王の争う時代だ。
この第三期がどんな形で終わるのかは未だわからん。
まあ心配せずとも、我は其れなりに優秀な魔王である。
汝等と、その数代の子孫位は無事に導いて見せようぞ。
無論汝等の忠誠と働きがあるならばだが、な。
では昔話は以上とする。
この話は魔族の神たる母から直接聞いた話なので、主観は混じれど大体は真実だ。
質問はあるか?
無ければ待ちかねた者もおろうし、魔術の練習に入ろうか。
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