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オマケの章4

114 新たな悪魔と変わり行く魔界

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 僕の魔界に人間が移り住む様になって、数十年が経った。
 一度受け入れる様になってしまえば、その数はどんどん増えて行く。

 当初は人間が生存可能な環境の維持や、食料等の必要物資の輸入に掛かるコストで結構な赤字が出ていたが、今では彼等の働きにより黒字に逆転している。
 勇者のサポート等で異世界への派遣に赴いてる精鋭は勿論の事、錬金術を覚えた者等による特殊な生産活動や、農業、店の従業員等と彼等の活躍の幅は広い。
 今の僕の魔界は様々な生物が暮らすが、悪魔を除けば一番稼ぎが大きいのは矢張り人間だろう。
 人間の活躍を見、我もと貢献を申し出てくれる様になった他の生き物だって居た。
 例えば幻獣達は自分の角を削ったり、剥がれた鱗を錬金素材として供出してくれたりしている。
 何とあの妖精でさえ、羽から出る粉や、妖精の蜜と言った秘薬の素を自ら納めてくれているのだ。

 当然魔界に住む種が多くなった事で、色んな問題は起きる様になったし、それを解決する僕等の手間も増えた。
 けれどもまあ、純粋な利益だけでなく、悪魔達にも笑顔が増えて雰囲気が明るくなった様に思う。
 今の所は、僕の魔界は上手く回ってると言って良い。

 そして今日、僕の魔界に住む人間達にとっては、一つ大きな催しがあった。
 人間の異世界への派遣が始まった最初期から最前線で活躍し、現役を退いてからは後進の指導と管理に当たっていた四人が、悪魔となる事を希望したのだ。
 即ち異世界派遣のテストケースも務めた一色・紗英、渡瀬・岳哉、柳・仁之と、彼等の連れ帰った元異世界の勇者であるシャンナの四人。
 この数十年で紗英は岳哉と、シャンナは仁之と其々結ばれて、今では孫だって居る。
 優秀な彼等の事だから悪魔になっても直ぐに中位に、何れは高位にだって登って来るだろう。
 だから彼等の申し出は大きな利となるが、実の所、僕は少し迷ってた。

 だって僕は、別に己の配下を増やす為に人間やその他の生物を魔界に住まわせてる訳じゃない。
 此れまでも数度、人間以外の生物は悪魔にしたが、其れはひっそりと行ってる。
 人間達の代表格でもあった四人が悪魔になれば、同じく悪魔を目指して自らを鍛える者は増える筈だ。
 でも其れは、彼等にとって本当に幸せなのだろうか?
 行き場の無い者を匿う事から始まった移住が、優秀な悪魔を養殖する為の物に変わってしまわないだろうかと、僕は思い悩む。
 悪魔を目指す事が当たり前の風潮になるのは避けたかった。
 そもそも悪魔になる事を目的として生きて来た人間では、配下とする魅力に欠ける。
 そう、養殖悪魔を僕は欲しない。

 勿論今回悪魔になる事を希望した四人は、人間として精一杯生きて数々の功績を積み上げた末に、僕等と共に歩もうと考えてくれたのだから資格は充分だ。
 個別に呼び出し、悪魔とならずとも、もう一度人間として転生する道があるとも言ってはみたが、
『此処が好きだし、何より他の三人と離れ離れになりたくない。子や孫に自分の道を強制する心算は無い』
 四人の答えは一緒だった。
 だから此の四人に関しては悪魔化は決定している。
 後に続きたがる人間に関しては、何らかの手を考えよう。
 厳選してハードルを上げたり、悪魔以外の道を目指せる様に広い情報を与えたり、魔界生まれには他の世界で一定期間暮らして貰うのも良い。


 さて未だ人間である彼等を、普段僕の住む石塔に招く訳にも行かず、悪魔化は実験区域で行われる。
 すると当然の様に見物人は多い。
 人間だけでなく、普段は森から出て来ない幻獣達も、並んで此方を注視していた。

「じゃあ最後にもう一度聞くけど、君達は本当に悪魔になってしまって良いんだね?」
 僕の最終確認に、老齢と言って良い年齢になった四人は、其れでも仲良く全く同時に頷く。
 だったら矢張り、僕も四人同時に悪魔にしなければならないだろう。
 実の所、四人も悪魔化すると言うのは、僕にとっても負担の大きい仕事となる。
 悪魔化自体もそうだけれども、僕は配下に最初から人の姿を与えているから、より多くの力を使うのだ。

「では君達四人には、此れから全てを僕に捧げて貰う」
 僕は少し気合を入れて宣言した。
 余計な事を考えるのは止めて、今は新たな配下の誕生に集中しよう。
 優秀な彼等が僕の配下に加わる事は、喜ぶべき慶事なのだから。
「悪魔の王様に全てを捧げます」
 僕はその言葉を発した紗英から、岳哉、仁之、シャンナと順番に額に触れて行く。
 此処から先はもう、彼等は人間じゃなくなる。

「ならば僕は一色・紗英、渡瀬・岳哉、柳・仁之、シャンナの四人の全てを受け取り、我が眷属の悪魔と変えよう」
 その言葉と同時に彼等の身体は光に、闇に、魔力になって、魂と共に僕の中へと取り込まれた。
 結びつきの強い彼等の魂は、僕の中で一つになろうとするけれど、そうなってしまえば自我は潰れてしまうだろう。
 だから引き離したままに抑えながら一人ずつ、僕の一部を混ぜ合わせて馴染ませて行く。
 此れまでも何人もの悪魔を生みだして来たが、失敗した事は一度も無い。
 けれども、其れでも毎回この瞬間は緊張を強いられた。

「出でよ、新たな悪魔。その名はイサラ」 
「出でよ、新たな悪魔。その名はセーガ」
「出でよ、新たな悪魔。その名はシュキ」
「出でよ、新たな悪魔。その名はリューシャン」

 紗英から順番に、岳哉、仁之、シャンナと、新たな名前を呼ぶ度に、新しい姿となった彼等が飛び出して行く。
 悪魔に変わった自分達の身体をしげしげと眺める彼等に、実験区域を揺るがす様な歓声が、観客の人間や幻獣達から起きる。
 彼等の子等の視線は少し複雑そうだったが、其の事に僕は少し安堵した。
 四人の子等は、其れが人間としての死であると、正しく理解してるのだから。

 何にせよ、今は新たな悪魔の誕生を祝おう。
「四人とも、実験区域の外に新しく住む場所を与えるから、先ずはその身体に慣れると良いよ。此れから先、ずっとこき使うからね。君達が選んだ道なんだから、覚悟して歩む様に」

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