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オマケの章
78 ゲームの中の悪魔戦争
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だだっ広いフィールドの端っこに、光る召喚円が描かれ、僕はこの世界へと顕現する。
フィールドの中央では既に戦いが始まっていて、ベラが敵の悪魔の群れと交戦していた。
そして驚愕すべき事に、何とベラは敵に圧されていて力尽きる寸前だ。
けれども、ベラがやられそうになっていても僕の足は動かない。
もう少し正確に言えば『この僕』は動ける様に出来ていなかった。
何故なら『この僕』は、タワーユニットに分類されるから。
僕の召喚により、僕固有の特殊効果である『レプトの悪魔軍に属するユニットの能力アップ』が発動したが、それでも既に傷付いていたベラは戦況を覆す事が出来ずに、その身体を砕かれる。
しかし充分以上の働きだ。
守護の力を持つベラが粘ったおかげで、敵対の悪魔の殆どは其処に集結していたのだから、僕の放った砲撃魔法で全てが消し飛ぶ。
だが次の瞬間、敵陣に凄まじい魔力が渦巻き始めた。
……やはり出て来るのか。
否、出て来ない筈が無い事は、始めからわかっていたのだ。
悪魔王『グラーゼン』。
最強の悪魔王と名高い彼が、今回の僕の敵だった。
アレを倒し、敵陣へ砲撃魔法を放り込んで破壊し尽す事が、『この僕』を召喚した今回の召喚主の意向である。
ただし、其の召喚主と言うのは、僕、レプト自身であるのだけれど。
事の起こりは、数ヶ月前にグラーゼンがヴィラを貸してくれと言って来た事だと思う。
多分あの時から、今回の件は動き出していたのだ。
そしてつい先日、僕はグラーゼンにこう問われた。
「友よ、君はどの程度まで細分化が可能だろうか?」
……と。
いや別に僕を何処まで切り刻んでも生きてるか、とかそう言う怖い話じゃない。
其れはグラーゼンとヴィラが協力して創り出した、分身体召喚システムの話である。
何でも極小の召喚式で、人間で言う所の細胞の一個位に切り取った、髪の毛の先よりも小さな一部分だけの悪魔の分身体を召喚するシステムなんだとか。
うん、全く持って意味が不明であるのだけれど、グラーゼンの代わりに説明してくれたヴィラによると、
「つまりこの私達の開発したゲーム、仮称『D・W』の仮想世界に、My lordの極小分身体をゲームユニットとして召喚します」
との事だった。
要するに、今目の前に差し出されたスマートフォンのアプリの中に、ユニットとして召喚されろと言う事らしい。
このゲームを現代レベルの文明を持つ世界で流行らせ、ゲームユニットとして召喚される度に、プレイヤーから極小の魔力を回収する。
アップデートを重ねて、最終的にはグラーゼンと協力関係にある悪魔王達の全ての陣営をユニット登録する心算なのだが、先ずがテストプレイと言う事で僕の陣営に協力して欲しいとの事だった。
良く見れば、グラーゼンの輝きは何時もより少し薄いし、気のせいか目の下に薄っすらと隈の様な物が浮かぶ。
ヴィラの協力があったとは言え、たった数ヶ月でこんなシステムと、更にはゲームを完成させたのだから、流石のグラーゼンでも疲労を感じているのだろう。
僕の思うグラーゼンの優れたるは、他の追随を許さぬ強さや強者の余裕、寛容さを持ちながらも、其れは其れとしてシビアに利益の追求をし続けれる所だ。
彼の発案である以上、便乗して損が出ない事は確実だった。
まあ何たって此れ、どう見てもソーシャルゲームだしね。
そんな経緯があるのだけれど、其れはタワーユニットとしての僕にはあまり関われない話である。
今の僕にとって最も重要なのは、如何にしてあのグラーゼンを排除し、敵の本陣を落とすかだ。
ゲームの中でもグラーゼンは、もう物凄い勢いで輝いていて、倒すのに苦労するであろう事は一目で理解出来た。
僕の前に、新たな召喚円が二つ現れる。
「うわぁ、此れは酷いなぁ」
「悪魔王グラーゼンが敵って、何の罰ゲームなの?」
召喚円の中から出て来たのは、グレイとイリス。
僕の悪魔軍に属する悪魔なので、『レプトの悪魔軍に属するユニットの能力アップ』の効果が及ぶユニットではあるけれど、だからってこの二人にグラーゼンを止める事は不可能だ。
さてプレイヤーの僕は一体何を考えてるのか。
このゲーム、仮称『D・W』は画面を下半分を自分の魔界、上半分を敵の魔界とし、敵魔界の奥にある核を破壊する事が勝利条件となる。
ゲームがスタートすれば一定時間ごとに魔力が溜まり、その魔力を消費してユニットの召喚やスペルカードの使用をして行く。
まあよくある形のゲームではあるのだけれど、このゲームならではの特徴として、ユニット破壊時に二つの効果が発生した。
自軍ユニットは、自分の魔界に存在する際には能力に+補正を受けるのだが、ユニットが破壊される度に其の+補正は失われ、十体のユニットが破壊されれば全ての補正は消えてしまう。
更にユニット破壊時、そのユニットの召喚に使われた魔力は、半分が自分の元に戻り、もう半分は相手の物となってしまうのだ。
この二つのユニット破壊時の効果により、終盤に成れば成る程、戦況が一気に変化し易くなるって仕組みらしい。
一応後半の方が魔力の溜まりも早いのか。
グレイとイリスは僅かな時間グラーゼンを足止めしたが、だが碌なダメージは与えられずに破壊された。
そして接近してきたグラーゼンは高笑いを上げながら、僕のHPをゴリゴリと削って行く。
僕も砲撃魔法で反撃しているのだが、間違いなく此方が力尽きる方が早いだろう。
何せテストプレイ段階の話ではあるが、グラーゼンはこのゲームの最強ユニットだ。
真正面からぶつかっては、遠距離攻撃力だけは匹敵する僕だって勝ち目はない。
けれども漸く僕は、プレイヤーの僕の狙いに気付いた。
グラーゼンは確かに最強のユニットだが、同時に強烈な弱点を持つ。
その弱点とは、グラーゼンが召喚されている間は、召喚主は新たに魔力を溜める事が出来ないと言う物である。
時間経過が経過しても、敵ユニットを破壊しても、グラーゼンがフィールドに居る間は、其の召喚主の魔力が増える事は無いのだ。
故にグラーゼン召喚以降、敵に新たな悪魔は増えていない。
「友よ、この勝負は貰ったぞ!」
僕を砕かんと、グラーゼンが最後の一撃を繰り出そうとした時、プレイヤーとしての僕が動く。
グレイとイリスが稼いだ時間と、彼等の破壊によって得た、そして僕が殴られてる間にも増えた魔力で、勝負を一気に決めに掛かった。
スペル発動『幻惑の悪魔ピスカ』。
「はーい、さっせないよー!」
発動した効果に、グラーゼンの攻撃が途中で止まる。
此のスペルの対象になったユニットは、五秒間攻撃の対象にならなくなり、また攻撃を行えない。
一時的な時間稼ぎにしか使えないスペルに思われがちだが、その真価は互いのターゲッティングを一時的にリセットする事にあった。
更にスペル発動『転移の悪魔アニス』。
「予想はしてたけど、私ってやっぱりこういう役割多いわよね」
アニスの呟きを聞きながら、僕は門に吸い込まれて飛ばされる。
選択対象をフィールド内の好きな場所、例え敵の魔界内にでも、移動させれるスペルの効果で、僕は敵魔界の核を射程内に捉える位置へと移動した。
ピスカのスペルでターゲッティングが外れている為、僕はグラーゼンでなく、敵魔界の核へと砲撃魔法の準備を行う。
だが其れはグラーゼンも同様で、彼のターゲットも僕では無く、僕の魔界の核になる。
一撃、二撃と、互いの魔界の核のHPが大きく削れた。
でも此のままでは負けてしまう。
グラーゼンと僕は、一撃の攻撃力こそは然程変わらないけれど、攻撃速度は彼方の方が上回るのだ。
でもだからこそ、最後に残った魔力と、更に数撃の間に溜まった魔力で、
「お決め下さい。My lord.」
最後のスペルカード『叡智の悪魔ヴィラ』が発動した。
ヴィラの特殊効果は勿論ユニット能力の超増幅で、膨れ上がった僕の砲撃魔法は、敵魔界の核を貫き打ち砕く。
――勝者レプト――
画面に表示された演出と文字を見ながら、僕は大きく息を吐いた。
「わ、私が負けただと!? ずるいぞ友よ!」
一体何がズルいと言うのか。
開発者がテストプレイに負けてムキになるってどうなの?
そもそもあんな、ステータスは最強だけれど、一度出したらもうプレイヤーが戦況に関与する余地の無くなるユニットを、相手にまだ猶予のある状態で出す方が悪いのだ。
多分あれは、僕のユニットが出て来たから、対抗したくなって出したのだろう。
もう一度勝負だと言い募るグラーゼンを適当にあしらいながら、僕はスマートフォンに目を落とす。
未だ未だ粗削りで未完成な出来だけど、……けれども仲間達がユニットとして動き回るゲームは少し楽しかった。
完成と、皆が遊んでくれる日がとても楽しみである。
「ヴィラ、取り敢えず気付いた事なんだけど……」
先ずは身内だけが楽しいゲームじゃ無くなるよう、完成度を高める事を目指そうか。
カード解説等。
能力値はE(低)→A(高)でSが上限。
→で増加している能力は悪魔王の効果が及んだ場合。
コストは1→10まで
カードタイプは三つ。ユニット、タワーユニット、スペル。
特殊能力に悪魔王と書かれた悪魔は、フィールドに存在する限り、同所属のカードの能力アップと使用コストダウンが起こる。
名称:レプト
レアリティ:SSR
コスト:8
種別:タワーユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃×
遠距離攻撃力S 射程S 攻撃速度D
移動速度×
耐久A 近接防御力E 遠距離防御力A
特殊能力:悪魔王
説明:砲台ユニットとしての能力は非常に高く、特に射程は全体フィールドの半分程まで届く。
しかし反面近付かれると一切の反撃が出来ず、また意外な程に脆い為、使用には注意が必要。
レプトの悪魔軍は所属するカードの能力が高いので、如何に早くこのタワーユニットを設置し、守り抜くかが勝利の鍵となるだろう。
名称:ベラ
レアリティ:SR
コスト:6→5
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃B→A 射程E 攻撃速度B→A
遠距離攻撃力D→C 射程D 攻撃速度E
移動速度A
耐久B→A 近接防御力B 遠距離防御力C→B
特殊能力:守護
説明:高性能の近接攻撃型ユニット。本陣攻めよりも敵の殲滅に活躍。
特殊能力守護により、自分の後方にユニットが配置されている場合、耐久が一段階増加し、敵ユニットからの優先攻撃目標となる。
守護と悪魔王の効果が重なった場合、敵を引き付けながら殲滅する修羅の如き活躍が期待できる。
名称:グレイ
レアリティ:R
コスト:4→3
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃C 射程D 攻撃速度C
遠距離攻撃力C→B 射程B→A 攻撃速度C
移動速度D→C
耐久C→B 近接防御力C 遠距離防御力C
特殊能力:女悪魔の群れの主
説明:長射程の遠距離型ユニット。
特筆するべきは特殊能力で、レプトの悪魔軍専用のユニットである女悪魔の群れの能力を全て一段階上昇させる。
此れは悪魔王の効果と同等で、レプト、グレイがフィールドに同時に存在する場合、女悪魔の群れの能力はオールEからオールCに変化する。
名称:イリス
レアリティ:R
コスト:3→2
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃D→C 射程E 攻撃速度D
遠距離攻撃力C 射程C→B 攻撃速度C
移動速度B→A
耐久D→C 近接防御力C 遠距離防御力C
特殊能力:繋がり
説明:移動力の早いユニット。ただし脆い。
特殊能力繋がりにより、レプトが破壊されるダメージを受けた場合、そのダメージを肩代わりする。
繋がりを期待して配置する場合、このユニットの移動力が仇となって敵の只中に突っ込んでしまうので、レプトより先に普通に破壊されてしまう事が多く注意が必要。
名称:幻惑の悪魔ピスカ
レアリティ:N
コスト:2→1
種別:スペル
所属:レプトの悪魔軍
効果:此のスペルの対象になったユニットは、五秒間攻撃の対象にならなくなり、また攻撃を行えない。
悪魔王の効果発動中は、五秒間中にユニットをタップする事で効果の途中消滅を選択可能。
説明:低コストのカード保護スペル。主な使い道は、敵のターゲットをレプトから外し、敵が離れた所でレプトの遠距離攻撃を当てる為に使用する等。
名称:転移の悪魔アニス
レアリティ:SR
コスト:3→2
種別:スペル
所属:レプトの悪魔軍
効果:選択対象(例え敵ユニットでも)をフィールド内の好きな場所に移動可能。
悪魔王の効果発動中は、二体のユニットを同時に選択出来る。
説明:非常に使い勝手の良いスペル。使用デッキがレプトの悪魔軍以外の場合でも良く使用される。
名称:叡智の悪魔ヴィラ
レアリティ:SSR
コスト:5→4
種別:スペル
所属:レプトの悪魔軍
効果:選択したユニットの性能を10秒間、一段階上昇させる。
悪魔王の効果発動中は、5秒間、二段階上昇に効果が変更。
説明:このカードの能力上昇は、上限であるSを突破させる数少ない方法である為、非常に強力。
名称:女悪魔の群れ
レアリティ:N
コスト:1
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃E→D 射程E→D 攻撃速度E→D
遠距離攻撃力E→D 射程E→D 攻撃速度E→D
移動速度E→D
耐久E→D 近接防御力E→D 遠距離防御力E→D
特殊能力:無し
説明:他の悪魔軍で言う所の下級悪魔の群れと同等のユニット。
基本的にはイラストが違うだけなのだが、グレイ召喚時には能力が全て一段階上昇し、悪魔王の効果と合わせるとコストからは考えられない強さを発揮する。
名称:グラーゼン
レアリティ:SSR
コスト:10
種別:ユニット
所属:グラーゼンの悪魔軍
近接攻撃S 射程E 攻撃速度A
遠距離攻撃力A 射程A 攻撃速度A
移動速度A
耐久S 近接防御力S 遠距離防御力S
特殊能力:悪魔王、強欲の王
説明:ステータス的には最強のユニット。
大体の状況はこのユニットが出れば引っ繰り返る。
しかしデメリットも強烈で、フィールドにグラーゼンが居る場合は、強欲の王の効果で召喚主は一切保有魔力が増えなくなる。
故にグラーゼンの悪魔軍を選択デッキとする場合は、悪魔王の効果に頼らぬ戦況のコントロールが必要。
またグラーゼンの悪魔軍にはスペル『王の降臨を待つ悪魔』等の、グラーゼン召喚前から、召喚後の状況を有利にする為のカードが存在するのも特徴である。
フィールドの中央では既に戦いが始まっていて、ベラが敵の悪魔の群れと交戦していた。
そして驚愕すべき事に、何とベラは敵に圧されていて力尽きる寸前だ。
けれども、ベラがやられそうになっていても僕の足は動かない。
もう少し正確に言えば『この僕』は動ける様に出来ていなかった。
何故なら『この僕』は、タワーユニットに分類されるから。
僕の召喚により、僕固有の特殊効果である『レプトの悪魔軍に属するユニットの能力アップ』が発動したが、それでも既に傷付いていたベラは戦況を覆す事が出来ずに、その身体を砕かれる。
しかし充分以上の働きだ。
守護の力を持つベラが粘ったおかげで、敵対の悪魔の殆どは其処に集結していたのだから、僕の放った砲撃魔法で全てが消し飛ぶ。
だが次の瞬間、敵陣に凄まじい魔力が渦巻き始めた。
……やはり出て来るのか。
否、出て来ない筈が無い事は、始めからわかっていたのだ。
悪魔王『グラーゼン』。
最強の悪魔王と名高い彼が、今回の僕の敵だった。
アレを倒し、敵陣へ砲撃魔法を放り込んで破壊し尽す事が、『この僕』を召喚した今回の召喚主の意向である。
ただし、其の召喚主と言うのは、僕、レプト自身であるのだけれど。
事の起こりは、数ヶ月前にグラーゼンがヴィラを貸してくれと言って来た事だと思う。
多分あの時から、今回の件は動き出していたのだ。
そしてつい先日、僕はグラーゼンにこう問われた。
「友よ、君はどの程度まで細分化が可能だろうか?」
……と。
いや別に僕を何処まで切り刻んでも生きてるか、とかそう言う怖い話じゃない。
其れはグラーゼンとヴィラが協力して創り出した、分身体召喚システムの話である。
何でも極小の召喚式で、人間で言う所の細胞の一個位に切り取った、髪の毛の先よりも小さな一部分だけの悪魔の分身体を召喚するシステムなんだとか。
うん、全く持って意味が不明であるのだけれど、グラーゼンの代わりに説明してくれたヴィラによると、
「つまりこの私達の開発したゲーム、仮称『D・W』の仮想世界に、My lordの極小分身体をゲームユニットとして召喚します」
との事だった。
要するに、今目の前に差し出されたスマートフォンのアプリの中に、ユニットとして召喚されろと言う事らしい。
このゲームを現代レベルの文明を持つ世界で流行らせ、ゲームユニットとして召喚される度に、プレイヤーから極小の魔力を回収する。
アップデートを重ねて、最終的にはグラーゼンと協力関係にある悪魔王達の全ての陣営をユニット登録する心算なのだが、先ずがテストプレイと言う事で僕の陣営に協力して欲しいとの事だった。
良く見れば、グラーゼンの輝きは何時もより少し薄いし、気のせいか目の下に薄っすらと隈の様な物が浮かぶ。
ヴィラの協力があったとは言え、たった数ヶ月でこんなシステムと、更にはゲームを完成させたのだから、流石のグラーゼンでも疲労を感じているのだろう。
僕の思うグラーゼンの優れたるは、他の追随を許さぬ強さや強者の余裕、寛容さを持ちながらも、其れは其れとしてシビアに利益の追求をし続けれる所だ。
彼の発案である以上、便乗して損が出ない事は確実だった。
まあ何たって此れ、どう見てもソーシャルゲームだしね。
そんな経緯があるのだけれど、其れはタワーユニットとしての僕にはあまり関われない話である。
今の僕にとって最も重要なのは、如何にしてあのグラーゼンを排除し、敵の本陣を落とすかだ。
ゲームの中でもグラーゼンは、もう物凄い勢いで輝いていて、倒すのに苦労するであろう事は一目で理解出来た。
僕の前に、新たな召喚円が二つ現れる。
「うわぁ、此れは酷いなぁ」
「悪魔王グラーゼンが敵って、何の罰ゲームなの?」
召喚円の中から出て来たのは、グレイとイリス。
僕の悪魔軍に属する悪魔なので、『レプトの悪魔軍に属するユニットの能力アップ』の効果が及ぶユニットではあるけれど、だからってこの二人にグラーゼンを止める事は不可能だ。
さてプレイヤーの僕は一体何を考えてるのか。
このゲーム、仮称『D・W』は画面を下半分を自分の魔界、上半分を敵の魔界とし、敵魔界の奥にある核を破壊する事が勝利条件となる。
ゲームがスタートすれば一定時間ごとに魔力が溜まり、その魔力を消費してユニットの召喚やスペルカードの使用をして行く。
まあよくある形のゲームではあるのだけれど、このゲームならではの特徴として、ユニット破壊時に二つの効果が発生した。
自軍ユニットは、自分の魔界に存在する際には能力に+補正を受けるのだが、ユニットが破壊される度に其の+補正は失われ、十体のユニットが破壊されれば全ての補正は消えてしまう。
更にユニット破壊時、そのユニットの召喚に使われた魔力は、半分が自分の元に戻り、もう半分は相手の物となってしまうのだ。
この二つのユニット破壊時の効果により、終盤に成れば成る程、戦況が一気に変化し易くなるって仕組みらしい。
一応後半の方が魔力の溜まりも早いのか。
グレイとイリスは僅かな時間グラーゼンを足止めしたが、だが碌なダメージは与えられずに破壊された。
そして接近してきたグラーゼンは高笑いを上げながら、僕のHPをゴリゴリと削って行く。
僕も砲撃魔法で反撃しているのだが、間違いなく此方が力尽きる方が早いだろう。
何せテストプレイ段階の話ではあるが、グラーゼンはこのゲームの最強ユニットだ。
真正面からぶつかっては、遠距離攻撃力だけは匹敵する僕だって勝ち目はない。
けれども漸く僕は、プレイヤーの僕の狙いに気付いた。
グラーゼンは確かに最強のユニットだが、同時に強烈な弱点を持つ。
その弱点とは、グラーゼンが召喚されている間は、召喚主は新たに魔力を溜める事が出来ないと言う物である。
時間経過が経過しても、敵ユニットを破壊しても、グラーゼンがフィールドに居る間は、其の召喚主の魔力が増える事は無いのだ。
故にグラーゼン召喚以降、敵に新たな悪魔は増えていない。
「友よ、この勝負は貰ったぞ!」
僕を砕かんと、グラーゼンが最後の一撃を繰り出そうとした時、プレイヤーとしての僕が動く。
グレイとイリスが稼いだ時間と、彼等の破壊によって得た、そして僕が殴られてる間にも増えた魔力で、勝負を一気に決めに掛かった。
スペル発動『幻惑の悪魔ピスカ』。
「はーい、さっせないよー!」
発動した効果に、グラーゼンの攻撃が途中で止まる。
此のスペルの対象になったユニットは、五秒間攻撃の対象にならなくなり、また攻撃を行えない。
一時的な時間稼ぎにしか使えないスペルに思われがちだが、その真価は互いのターゲッティングを一時的にリセットする事にあった。
更にスペル発動『転移の悪魔アニス』。
「予想はしてたけど、私ってやっぱりこういう役割多いわよね」
アニスの呟きを聞きながら、僕は門に吸い込まれて飛ばされる。
選択対象をフィールド内の好きな場所、例え敵の魔界内にでも、移動させれるスペルの効果で、僕は敵魔界の核を射程内に捉える位置へと移動した。
ピスカのスペルでターゲッティングが外れている為、僕はグラーゼンでなく、敵魔界の核へと砲撃魔法の準備を行う。
だが其れはグラーゼンも同様で、彼のターゲットも僕では無く、僕の魔界の核になる。
一撃、二撃と、互いの魔界の核のHPが大きく削れた。
でも此のままでは負けてしまう。
グラーゼンと僕は、一撃の攻撃力こそは然程変わらないけれど、攻撃速度は彼方の方が上回るのだ。
でもだからこそ、最後に残った魔力と、更に数撃の間に溜まった魔力で、
「お決め下さい。My lord.」
最後のスペルカード『叡智の悪魔ヴィラ』が発動した。
ヴィラの特殊効果は勿論ユニット能力の超増幅で、膨れ上がった僕の砲撃魔法は、敵魔界の核を貫き打ち砕く。
――勝者レプト――
画面に表示された演出と文字を見ながら、僕は大きく息を吐いた。
「わ、私が負けただと!? ずるいぞ友よ!」
一体何がズルいと言うのか。
開発者がテストプレイに負けてムキになるってどうなの?
そもそもあんな、ステータスは最強だけれど、一度出したらもうプレイヤーが戦況に関与する余地の無くなるユニットを、相手にまだ猶予のある状態で出す方が悪いのだ。
多分あれは、僕のユニットが出て来たから、対抗したくなって出したのだろう。
もう一度勝負だと言い募るグラーゼンを適当にあしらいながら、僕はスマートフォンに目を落とす。
未だ未だ粗削りで未完成な出来だけど、……けれども仲間達がユニットとして動き回るゲームは少し楽しかった。
完成と、皆が遊んでくれる日がとても楽しみである。
「ヴィラ、取り敢えず気付いた事なんだけど……」
先ずは身内だけが楽しいゲームじゃ無くなるよう、完成度を高める事を目指そうか。
カード解説等。
能力値はE(低)→A(高)でSが上限。
→で増加している能力は悪魔王の効果が及んだ場合。
コストは1→10まで
カードタイプは三つ。ユニット、タワーユニット、スペル。
特殊能力に悪魔王と書かれた悪魔は、フィールドに存在する限り、同所属のカードの能力アップと使用コストダウンが起こる。
名称:レプト
レアリティ:SSR
コスト:8
種別:タワーユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃×
遠距離攻撃力S 射程S 攻撃速度D
移動速度×
耐久A 近接防御力E 遠距離防御力A
特殊能力:悪魔王
説明:砲台ユニットとしての能力は非常に高く、特に射程は全体フィールドの半分程まで届く。
しかし反面近付かれると一切の反撃が出来ず、また意外な程に脆い為、使用には注意が必要。
レプトの悪魔軍は所属するカードの能力が高いので、如何に早くこのタワーユニットを設置し、守り抜くかが勝利の鍵となるだろう。
名称:ベラ
レアリティ:SR
コスト:6→5
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃B→A 射程E 攻撃速度B→A
遠距離攻撃力D→C 射程D 攻撃速度E
移動速度A
耐久B→A 近接防御力B 遠距離防御力C→B
特殊能力:守護
説明:高性能の近接攻撃型ユニット。本陣攻めよりも敵の殲滅に活躍。
特殊能力守護により、自分の後方にユニットが配置されている場合、耐久が一段階増加し、敵ユニットからの優先攻撃目標となる。
守護と悪魔王の効果が重なった場合、敵を引き付けながら殲滅する修羅の如き活躍が期待できる。
名称:グレイ
レアリティ:R
コスト:4→3
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃C 射程D 攻撃速度C
遠距離攻撃力C→B 射程B→A 攻撃速度C
移動速度D→C
耐久C→B 近接防御力C 遠距離防御力C
特殊能力:女悪魔の群れの主
説明:長射程の遠距離型ユニット。
特筆するべきは特殊能力で、レプトの悪魔軍専用のユニットである女悪魔の群れの能力を全て一段階上昇させる。
此れは悪魔王の効果と同等で、レプト、グレイがフィールドに同時に存在する場合、女悪魔の群れの能力はオールEからオールCに変化する。
名称:イリス
レアリティ:R
コスト:3→2
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃D→C 射程E 攻撃速度D
遠距離攻撃力C 射程C→B 攻撃速度C
移動速度B→A
耐久D→C 近接防御力C 遠距離防御力C
特殊能力:繋がり
説明:移動力の早いユニット。ただし脆い。
特殊能力繋がりにより、レプトが破壊されるダメージを受けた場合、そのダメージを肩代わりする。
繋がりを期待して配置する場合、このユニットの移動力が仇となって敵の只中に突っ込んでしまうので、レプトより先に普通に破壊されてしまう事が多く注意が必要。
名称:幻惑の悪魔ピスカ
レアリティ:N
コスト:2→1
種別:スペル
所属:レプトの悪魔軍
効果:此のスペルの対象になったユニットは、五秒間攻撃の対象にならなくなり、また攻撃を行えない。
悪魔王の効果発動中は、五秒間中にユニットをタップする事で効果の途中消滅を選択可能。
説明:低コストのカード保護スペル。主な使い道は、敵のターゲットをレプトから外し、敵が離れた所でレプトの遠距離攻撃を当てる為に使用する等。
名称:転移の悪魔アニス
レアリティ:SR
コスト:3→2
種別:スペル
所属:レプトの悪魔軍
効果:選択対象(例え敵ユニットでも)をフィールド内の好きな場所に移動可能。
悪魔王の効果発動中は、二体のユニットを同時に選択出来る。
説明:非常に使い勝手の良いスペル。使用デッキがレプトの悪魔軍以外の場合でも良く使用される。
名称:叡智の悪魔ヴィラ
レアリティ:SSR
コスト:5→4
種別:スペル
所属:レプトの悪魔軍
効果:選択したユニットの性能を10秒間、一段階上昇させる。
悪魔王の効果発動中は、5秒間、二段階上昇に効果が変更。
説明:このカードの能力上昇は、上限であるSを突破させる数少ない方法である為、非常に強力。
名称:女悪魔の群れ
レアリティ:N
コスト:1
種別:ユニット
所属:レプトの悪魔軍
近接攻撃E→D 射程E→D 攻撃速度E→D
遠距離攻撃力E→D 射程E→D 攻撃速度E→D
移動速度E→D
耐久E→D 近接防御力E→D 遠距離防御力E→D
特殊能力:無し
説明:他の悪魔軍で言う所の下級悪魔の群れと同等のユニット。
基本的にはイラストが違うだけなのだが、グレイ召喚時には能力が全て一段階上昇し、悪魔王の効果と合わせるとコストからは考えられない強さを発揮する。
名称:グラーゼン
レアリティ:SSR
コスト:10
種別:ユニット
所属:グラーゼンの悪魔軍
近接攻撃S 射程E 攻撃速度A
遠距離攻撃力A 射程A 攻撃速度A
移動速度A
耐久S 近接防御力S 遠距離防御力S
特殊能力:悪魔王、強欲の王
説明:ステータス的には最強のユニット。
大体の状況はこのユニットが出れば引っ繰り返る。
しかしデメリットも強烈で、フィールドにグラーゼンが居る場合は、強欲の王の効果で召喚主は一切保有魔力が増えなくなる。
故にグラーゼンの悪魔軍を選択デッキとする場合は、悪魔王の効果に頼らぬ戦況のコントロールが必要。
またグラーゼンの悪魔軍にはスペル『王の降臨を待つ悪魔』等の、グラーゼン召喚前から、召喚後の状況を有利にする為のカードが存在するのも特徴である。
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2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
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