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しおりを挟む木製の短剣を2本、両の手に持ってギルドの訓練場に立つ。
右を振り、左も振る。やはり両方とも短剣の方がバランスが良く扱い易い。
以前の模擬戦でも思ったが、逆手に短剣を持つのは思ったよりも有用だ。しっくりくる。
勿論魔物、特に魔獣等の相手をする場合は圧倒的に盾と片手剣の、何時ものスタイルが良いと思う。
先ず魔獣相手なら防御の重要性が高い。魔獣の攻撃を短剣で受けるのは困難だが、盾でなら受け止める事が可能だ。
ヘルハウンドのブレス等に対してでも、盾なら少しは身を守る役に立つ。
ちなみにトーゾーさんはヘルハウンドのブレス位は刀で斬り散らせるらしいけど、あの人は少々規格外なだけである。
此方からの攻撃に関しても、刃の短い短剣では魔獣の急所には届き難い事があるのだ。
けれど対人、或いは対人型の魔物を仮定するなら、短剣2本を持つと言うのも悪くは無いと僕は思う。
何と言っても、短剣は刃物だから。
両の手に刃物を持てば、相手はその両方に注意を分散させなきゃならない。
逆に半身に構えれば、片方の短剣を相手から隠す事だって出来る。戦い方の自由度がとても高いスタイルだろう。
人は魔獣と違い、急所の位置が深くない。短剣程度の刃の長さでも、命を奪うには充分なのだ。
勿論鎧の存在もあるので常に有効だとは言い難いが、短剣の刃が通らない分厚い鎧を着た相手には、片手剣でも多分大差はないだろう。
そんな相手の場合はそもそも相手をせずに逃げたら良いし、距離を取ってから弓で射っても良い。
何時、どんな場所で、何と戦う機会があるかはわからない。
だから増やせる手札は出来る限り増やしておきたかった。
クレンとの模擬戦をイメージする。
先ず、あの時みたいに、軸のぶれた槍を右手の短剣で抑え、左手の短剣で喉を裂く。
左手での武器の扱いに慣れていないからか、微妙に鋭さが足りないように思う。
あの時は不意を突いたから勝ちを拾えたが、そうで無ければこの速度では避けられる。
だから鋭さを意識して、右で抑え、左で裂く。右で抑え、左で裂く。何度も、何度も、身に染み込む様に。
時にはイメージを変えても見よう。
相手の突きを右手の短剣で逸らし、踏み込んで左の短剣で臓腑を突き刺して抉る。此れも何度も何度も繰り返す。
次の相手は剣士だ。イメージモデルは、僕で良いや。
がっちり構えられると盾が物凄く邪魔なので、先ずは相手の攻撃を誘って避け、腕を薙ぐ。ダメージに体勢を崩せば喉を突く。
利点は小回りと自由な動き。リーチの無さは体ごと大きく動いてカバーする。そして狙うは人体の急所だ。
ずっと動き回っていたから、大量の汗が滴り落ちる。
でも楽しい。徐々にイメージ通りに体が動くようになって来た。
まだ不慣れなスタイルだからこそ、上達が目に見えて実感出来るから、気晴らしにも丁度良いかも知れない。
最近膝の痛みで安静気味にしてたので、少し身体を動かしたい欲求が溜まっている。
また膝が痛くなっても困るから、後で入念に柔軟の運動はするけれど、うん、おさらいに一通りだけ動きをなぞって終わりにしよう。
そう思い、再びクレンをイメージして動き出す。
「ずーっと熱心に、物騒な事やってるねぇ。小僧君、君は一体誰を殺す練習をしてるんだい?」
けれど動き出して暫く、途中で声をかけられた。
ずっと見られていたのはわかってたけど、敵意も無いので気にしないようにしていたのだが、もしかして終わるの待ってたんだろうか。
でも終わる様子が無いので、待ち疲れて声をかけたのだとすれば……、でも僕は悪くないよね?
別に用事あるって言われてないし。
僕は動きを止め、大きな呼吸を繰り返して、鼓動と熱を鎮めた。
「今の所、別に殺したい人は思い当たりませんでした。お久しぶりです。どうしました?」
ほんの少し葛藤はあったが、意を決して振り返る。
小僧君と僕を呼ぶ人の心当たりは一人だけだ。そして僕はその人物を然程得意としてなかった。
この町のベテラン中級冒険者であるガジルさんとチームを組む斥候職、具体的に言えば盗賊のジギさんだ。
ガジルさんが僕を未だ半人前とみなして小僧と呼ぶのを真似て、其処に更に君を付ける。
ちょっと小馬鹿にされてるみたいであまり好きな呼ばれ方じゃないけれど、それを言ってもこのジギさんは喜ぶだけだと思う。
「いやいや、余りに熱心に訓練してるから気になっただけさ。ほら最近小僧君はガジルのライバルの人斬りと良く組んでるらしいし。するとこの私のライバルは君って事になる」
そんな風に言うジギさん。
でもいやいやと言いたいのは此方の方である。
ガジルさんと組んでずっと活躍してるベテラン中級冒険者が、中級になったばかりの僕に何を言うのかって話だ。
そもそもトーゾーさんの相棒枠は僕じゃ無くてパラクスさんだし。
「町でも有数のベテランと並べられても……。それに僕のスタイルは戦士か狩人で、盗賊じゃないです」
斥候は得意だ。森の中であるならば、多分眼前のジギさんにだって引けはとらない自信もある。
罠も使えるし扉の鍵だって何とか出来なくはない。
でもそれは狩りや依頼に有用であろうから覚えた技術があるだけで、別に盗賊になりたい訳では無いのだ。
「そうだね。小僧君が盗賊の技をあまり好んでないのは察してるさ。いや正確には、盗賊ギルドにあまり深入りしたくないから、過剰に遠ざけようとしてると見るね」
ジギさんの言葉は、多分きっとその通りなんだろう。
僕は何も知らない冒険者と盗賊ギルド、以上の関係に踏み込みたくないと思ってる。
だから盗賊ギルドに縁のある人間は警戒するし、情報屋の情報も信用は半分しかしない。
盗賊と盗賊ギルドって関係になりたくないから、これ以上の技を盗賊ギルドに求めなかった。僕があのギルドから買ったのは基礎の基礎だけだ。
勿論情報屋も、盗賊の技も、非常に有用であると充分に承知はしてるのだけど……。
「其れは正しい感覚だよ。君が下級のままなら、或いはソロならそのままでも良い。でも君は難易度の高い冒険に挑める実力と仲間を得てしまった」
少し、ジギさんの言いたい事が見えて来た。
僕が一人だったなら、未熟な盗賊技術が齎す危険も僕だけの物だ。
当然僕だって自分の未熟さを自覚してるから、その分野での無理はしない。
「ガジルが心配していたよ。君の仲間は、君の中途半端な盗賊の腕に頼らねばならない場面が来るかもしれない事を理解してるんだろうかとね」
でも仲間達と難易度の高い冒険中、例えば遺跡で、鍵を開けるのが遅くて魔物に取り囲まれ……、てもトーゾーさんが何とかするな。
えっと、例えば罠に気付かず引っ掛かって、カリッサさんは平気だし怪我を治せるけど、パラクスさん辺りが大変な事になる可能性が無いとは言えない。
其れでも何とかしそうだけど、何とかしてしまえる仲間に恵まれてるからと言って、自分の穴を放置していては、胸を張って彼等の仲間を名乗れないだろう。
「私も君の仲間は何とかしそうに思えてしまうね。兎に角、私は君が嫌いだよ。君は善意に守られ過ぎてる。君はもっと人の悪意を知りたまえ」
ガジルさんに頼まれての事かも知れないが、過分にアドバイスをしてくれていながら嫌いだと言われても、反応に困る。
悪意を知り、けれど悪意に呑まれず、とても難しいとは思うけど、少しずつやって行こう。
ユーディッド
age13
color hair 茶色 eye 緑色
job 狩人/戦士 rank4(中級冒険者)
skill
片手剣5 盾4 格闘術4 弓6 短剣3 逆手武器2(↑)
野外活動5 隠密4 気配察知5 罠3 鍵知識2 調薬2
unknown 召喚術(ヨルム)
所持武装
鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード(高) 複合弓(高)
革の小盾(高) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高) デススパイダーシルクの手袋(最高)
ヨルム
age? rank7(上位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚 脱皮
unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド)
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