少年と白蛇

らる鳥

文字の大きさ
上 下
47 / 113

47

しおりを挟む
「成る程ね、それでウチの旦那の協力が欲しい、と。確かにそういった事なら力にはなれるかも知れないね」
 湯のみのお茶を啜り、メーラさんがじっと僕の瞳を見つめて来る。
 まるで僕を見透かすように。
 ちなみに当の本人であるルリスさんとクーリさんは、家の外でメーラさんの二人の子供、シュラとシュリにもみくちゃにされてた。
「でも一つ聞きたいんだけどね。ユー、何で旦那に直接言わずにアタシに言いに来たんだい?」
 メーラさんの問いかけは、ある意味で当然かも知れない。
 多分直接頼みに行っても、メーラさんの旦那、この町で唯一トーゾーさんに並ぶとまで言われる戦士、ガジルさんなら多分頼みを引き受けてくれただろう。
 厳つい見た目と高い実力で他の冒険者達から、怖れられたり尊敬されてるガジルさん。
 もしそんなガジルさんが時折ルリスさんとクーリさんの面倒、例えば訓練等をしてくれれば、二人へのちょっかいは大幅に減るだろう。
「メーラさんに知らせずに、ガジルさんが女の子の面倒見てたら、浮気と勘違いして喧嘩になったら嫌だなって……」
 勿論女性の悩みは女性に相談するのが良いとの考えもあったが、そんな誤解で家庭に不和を持ち込みたくなかったのが一番の本音だ。
 だってガジルさんってメーラさんへの説明下手そうだもの。
「ぷっ、あはははは。全くもう、ユーは可愛いねぇ。そうだねえ、うん。まあアンタの紹介する子なら、大丈夫だろうし良いよ。旦那に言ってあげる。お土産も貰ったしね」
 可笑しそうに笑い、お腹を押さえるメーラさんに、僕はほっと息を吐く。
 そんな理由でお土産を買って来た訳では無いのだけれど、まあ喜んで貰えたのなら良いかなと思う。
 けれどその時、家の外からシュリが泣き喚く声がした。

「アンタ等、クーリに何するのよ!」
 慌てて外に飛び出せば、倒れたクーリさんにしがみついて泣くシュリ、クーリさんを守る様に立つシュラ、そして見知らぬ3人の男に食って掛かるルリスさんが居た。
 ……どんな状況だろう。多分この3人が彼女達に嫌がらせをしてた冒険者なのは予想が付くのだけど。
 でも冒険者の割りには武器を所持していない様だ。
 多分武器を持って嫌がらせをすれば、いざ訴えられた際に警邏の守兵に捕まった場合の罪が重くなるからだと思うけれど、賢いと言うよりはセコイ印象を受ける。
「俺は石を投げて来た餓鬼にお仕置きしようとしただけだぜ。割って入ったその女が悪いんじゃねえか」
 ああ、成る程。態々説明有難う御座います。でも彼等を殴って良い事は良く判った。
 多分だが、ルリスさんとクーリさんに嫌がらせをしに来た3人の冒険者に怒ったシュラが石を投げたのだろう。
 そして怒った冒険者がシュラを蹴とばそうとして、庇ったクーリさんが倒れてる。だからシュリが泣いたのだ。
「いい加減にしてよ。こんな子供にまで手を上げようとして、最ッ低!」
 随分と精神的に限界が来ている様で、怒って怒鳴るルリスさんの眼尻には涙が滲んでた。
 しかし彼等は正気だろうか、今泣かしたシュリはガジルさんのお子さんで、そしてガジルさんよりある意味でもっと恐ろしいメーラさんの子供なのだ。
 勿論知らないからこそ出来る暴挙なのだろうけど、正直彼等の辿る運命を考えれば冷や汗しか出ない。
「ユー、警邏が来てもアンタは悪くないって証言してあげるから。殺りな」
 上意が下達された。到底逆らう事の出来ない命令だ。
 でもメーラさん、やりなって、殺せって事じゃないよね。懲らしめろって意味だよね?
 腰のベルトから剣を鞘ごと外し、そして構える。うん、流石に殺すのは無理無理。
 でも取り敢えず痛い目は見て貰おう。相手は3人、見た感じ、恐らくは駆け出しを抜けたばかりの下級冒険者だ。
 僕も同じ下級ではあるけれど、依頼もこなさず、訓練もせずに、女の子への嫌がらせを優先する程度の冒険者には、負ける気はし無かった。
 え、男なら素手同士って?
 嫌だよ。相手3人も居るんだもの。折角相手が武器を持ってないのだから楽をするに決まってるじゃないか。


 騒ぎを聞き付けてやって来た警邏の守兵が3人の冒険者が担ぎ上げて運んで行く。
 彼等が目を覚ますのは多分牢屋の中だろう。
 でも一晩牢屋で頭を冷やして釈放されたところで、彼等の受難は終わらない。
 だってその次はガジルさんの怒りが降り注ぐのが確定しているのだから。
 本来ならば喧嘩両成敗になるのだが、メーラさんの取り成しで僕は罪に問われなかった。
 ガジルさん一家の顔は結構広いのだ。それにホント僕別に悪くないしね。
「良いんだよ。アンタ達は悪くない。悪いのは下らないちょっかいを出したアイツ等さ。もう大丈夫。それより、ウチの子を守ろうとしてくれてありがとうね」
 ルリスさんとクーリさん、泣いて謝る二人を抱きしめ、メーラさんは言う。
 此れで彼女達の抱えた問題は解決に向かうと思うし、ほっとする。
 けれどこう、泣いてる二人をメーラさんが慰めているこの場所には、僕の居場所が無い。
 凄く居心地が悪かった。どうしよう。シュリとシュラと遊んでて良いんだろうか。
 僕も一応、どうしたら良いか考えたし、3人の冒険者もちゃんと相手したんだけどな……。
 シュルシュルと、胸元から上がって来たヨルムが慰めてくれたので、僕はルリスさんとクーリさん、そしてメーラさんに手を振って、シュリとシュラを抱えてその場を離れる。
「ユー、どこ行くの?」
「ゆー?」
 不思議そうに僕を見上げるシュラとシュリに、僕は微笑む。
 何にせよ、面倒な問題が比較的穏便に片付いて良かった。
 メーラさん達、ガジルさん一家との縁は彼女達にとって大きくプラスになるだろう。
「そうだね。ママもお姉ちゃん達も忙しそうだし、僕と一緒に屋台で何か食べに行こうか」
 この時間なら、少し位何か食べても晩御飯には響かない筈。
 僕の言葉に歓声を上げる、まあシュリはシュラの真似をしてるだけだろうけど、二人の姿に、自然と口元が綻んだ。



 朽多 藤蔵(guest)
 age26 
 color hair 黒色 eye 黒色
 job 侍 rank6(中級冒険者)
 skill 朽多派一刀流8(9/7) 片手剣3 柔術6 野外活動3 気配察知6 その他
 unknown 闘気・中(発動時に体力消耗。身体能力、攻撃力、防御力を中上昇)
 所持武装 ドワーフ製の刀(並) 中位魔獣の革鎧(高)


 パラクス(guest)
 age24 
 color hair 金色 eye 緑色
 job 魔術師/錬金術師 rank6(中級冒険者)
 skill 術式魔術6 術式研究5 錬金術5 野外活動3 気配察知3 雑学知識5 その他
 unknown なし
 所持武装 シルバースタッフ(並) 魔術師のローブ(並)



 朽多 藤蔵、パラクスのステータスが更新しています。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...