少年と白蛇

らる鳥

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 気が付けば、顔の上にヨルムが乗っていた。
 どうやら気を失っていたらしい。
「あ、気付かれましたか? ユーディッドさん」
 上から降ってくる声に、顔のヨルムを退けてから頭を上げると、クーリさんが其処に居た。
 ……どうやら膝を借りてたらしい。
 少し申し訳ない気分になりつつも、慌てて起きてしまった事を勿体なくも思う。
 服の中に潜り込んで来るヨルムを指で突きながら、周りを見渡す。
 見れば場所は訓練所のままで、今はカリッサさんとルリスさんが軽い打ち合いの様な物をしていた。
「……僕、どうなったんです?」
 皆の前でヨルムに尋ねる訳にも行かず、少し考えてからクーリさんに向かって聞いてみる。
 どうなったのかは概ね想像が付くけれど、どうやってそうなったのか、取り敢えず状況の整理がしたかった。
「えっと、カリッサさんは咄嗟の事で加減を忘れて蹴っちゃったって仰ってました」
 クーリさんが説明してくれた言葉を纏めれば、どうやら僕はあの時、カリッサさんに膝蹴りを喰らったらしい。
 負ける寸前だったカリッサさんは、流れに逆らわずに寧ろ身体を捻って加速して、僕の服部に膝を叩き込んだのだ。
 勝利を目前にし、攻撃ばかりに意識を割いてた僕はその膝を察知出来ずに、意識する事も無くまともに受けた。
 その結果体内の空気を絞り出されて、意識がブラックアウトしたのだろう。
 しかも其れはカリッサさんが咄嗟の事で加減を忘れた一撃だったのだから無理はない。
 寧ろ良く無事だったな僕のお腹……。
 まあ不自然な体勢から無理矢理繰り出した一撃だったからこそまともに喰らってしまったし、無理矢理繰り出した一撃だったからこそ気を失う程度のダメージで済んだのだろう。
 つまりは勝利に目が眩んだ僕が悪いだけの話だった。
 相手が膂力の以外でも、身体能力で勝る事を咄嗟に忘れてしまっていたのだ。
 本当に魔獣を相手にしていたなら、絶対にしてはいけないミスである。 
 訓練でミスしておいて良かったと思っておこう。
 それにしても、やはりカリッサさんは強かった。勝ちに近づけてただけに、届かなかった事が余計に悔しい。
「強い、ですね」
 クーリさんが、ルリスさんの打ち込みを軽々と捌くカリッサさんを見ながら、ぽつりと呟く。
 両者の実力の差は大きく、ルリスさんには悪いけど正直猫がじゃれついてる姿を連想してしまう。
 でも僕との模擬戦の時でも、カリッサさんは自分の力を出来る限り抑えていたのだ。……最後の一発は兎も角として。
 彼女の本領は軽々と振り回される重量とリーチのある両手剣と、そして神聖魔法にある。
「まだちょっと遠いかなあ」
 僕もどちらかと言えば剣よりも弓を得意とするが、其れを含めてもカリッサさんには1枚も2枚も劣るだろう。
 でも以前に一緒の依頼に出かけた時は、どの位遠いのかさえ測る事も出来なかったのだから、以前より近づけたのは間違いは無かった。
 あの身体能力は羨ましいが、僕はズルいとは思わない。
 だってアレをズルいと言うのなら、いざとなればヨルムの力を借りれてしまう僕の方がよっぽどズルい立場にあるのだから。
 ヨルムの頭を指で押す。指先をチロチロと舌で舐められた。
 あまり負の方向に考えるのはやめるとしよう。
 今回の模擬戦で課題は見えた。そのうち、一本を取る事くらいは多分出来る様になる筈だ。
 別にカリッサさんに勝つのが僕の目的な訳じゃ無いけど、でも負けっ放しは悔しいから。
 クーリさんが何かを言いたげに僕を見てたけれど、結局彼女が何かを言う前に4人での訓練は終わりとなった。

「よし! 終わりにしよう。ユー君、大丈夫だったかな? ごめんね。思わず力が入ってしまって」
 体力が底を突いたルリスさんを肩に担ぎ上げて、カリッサさんがやって来る。
 その持ち方はどうだろうと思うけど、それ以外に問題は無い。お腹のダメージも数日痣が残る程度で済むと思う。
 カリッサさんは神聖魔法での治癒を申し出てくれたけど、其れは謹んで辞退した。
 だって教会で神聖魔法をかけて貰うには、それなりの額の寄付が必要となるのだ。
 彼女がお金を要求したりしないのは判ってても、特に問題のない程度のダメージに神聖魔法を使って貰うのは、根が貧乏性の僕には気が引ける。
「この後私は女の子達を連れて浴場に行く心算だけど、ユー君はどうする? 一緒に行くかい?」
 良く見れば、カリッサさんの褐色の肌は汗が滲んで少し光ってる。
 僕はカリッサさんの提案に少し悩み、でも首を横に振った。この時間の浴場にヨルムを入れると多分ばれて怒られるだろう。
 個室を借りるって手もあるのだけれど、弓を新しくしたばかりなのにそんな贅沢をするのも少し躊躇われた。
 それに何より、女性達と連れ立って浴場に行くのは何だか気恥ずかしかった事もある。
 あの蒸気のもうもうとした浴場で汗をかき、汚れをこそぎ落とし、最後に水で身体を締めるのがとても心地良いのは知っているので、ちょっと惜しくはあるのだけれど。
「ふむ、そうか。残念だ。では今の間に言っておこう。君の成長は確認出来た。短期間の間なのに、正直驚く程だったよ」
 まあカリッサさんと初めて出会った時は、魔物と戦い始めてそれほど経って無い、ゴブリンにも苦戦する時期だったから、あれに比べれば成長は確かにしてると思う。
 でもストレートに褒められると、何だか少し恥ずかしい。勿論素直に嬉しくもあるが。
 けれど、そこで彼女の瞳の光が急に真剣みを帯びる。
「君の本領が弓である事を考えたら、中級にも手は届きかけてると思う。しかしそれはギルドの判断だからさて置き、私は今度古代都市に挑もうと思ってるんだけど、ユー君、今の君なら大丈夫。私と一緒に行かないか?」
 カリッサさんの突然の誘いに、僕は差し出された彼女の手を茫然と見つめた。



 ユーディッド
 age13
 color hair 茶色 eye 緑色
 job 狩人/戦士 rank3(下級冒険者)
 skill 片手剣3 盾3 格闘術3(↑) 弓5 野外活動3 隠密2 気配察知3 罠1 鍵知識1 調薬1
 unknown 召喚術(ヨルム)
 所持武装 鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード(高) 革の小盾(高) 複合弓(高) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高)


 ヨルム
 age? rank6(中位相当)
 skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚
 unknown 契約(ユーディッド)


 ルリス(guest)
 age13 
 color hair 金色 eye 碧色
 job 盗賊 rankなし
 skill 短剣1 逆手武器1 投擲1 野外活動1 隠密1 罠1 鍵知識1 その他
 unknown
 所持武装 鉄のショートソード×2(低) 革鎧(低)


 クーリ(guest)
 age14 
 color hair 銀色 eye 赤色
 job 戦士/盗賊 rankなし
 skill 片手剣1 盾2 野外活動1 隠密1 気配察知1 その他
 unknown
 所持武装 鉄のファルシオン(並) 革の小盾(低) 革鎧(低)



 訓練と経験により格闘術が上昇しました。
 ルリス、クーリのステータスが更新されています。
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