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しおりを挟む洞窟内は酷い有様になっていた。
入り口からすぐの場所には、二体のオークの骸が転がっている。
一体は喉を食い破られて、もう一体は爪で引き裂かれて、その命を奪われたのだろう。
この殺し方は間違いなく昨日であったキラータイガーの物だ。
僕は人に仇成す妖魔であるオークの死を悼んだりはしないが、それでも殺戮の痕跡には些か胸が気持ち悪い。
此れは魔物だと自分に言い聞かせて、オークの耳をナイフで切り取る。
落ち穂拾いだとわかってて来たのだから、報酬になる部位は拾わねば此処までやって来た意味が無いのだ。
鉄製の武器と耳だけを回収して、僕は更に奥へと進む。
オークは知恵の高い妖魔なので、住処に罠が仕掛けられている可能性を一応警戒していたのだが、罠は発動した痕跡が残るのみである。
槍衾の罠が発動している傍に、複数のオークの骸が転がっていた。
罠と同時にキラータイガーに襲い掛かるも、回避されて返り討ちにあったのだろう。
分かれ道に出くわす。此処から先は生き残りが居る可能性が無くは無いので、死体の数にうんざりしていた気持ちを引き締め直した。
右手の道は広い空間に繋がっていた。どうやらここは居住スペースとして利用されていたようだ。
粗末な木製の家具はオークの手作りだろうか?
寝床として使われていたのであろう並んだ筵に、生活臭を感じる。だが見るべき物は何も無い。
分かれ道へと戻り、今度は左手の方へと進む。
その先にあったのは少し拡張された空間だ。此処は戦士の待機所だろう。
奥に向かう道が三本ある。転がっている武器を回収し、僕は虱潰しに道を確かめて行く。
一本目、此処はまたもう一つの居住空間だ。先に見つけた其れよりも家具の質は良く、スペースにもゆとりがある。
戦士の待機所で守られた場所である事からも、1つ目の居住スペースよりも此方に住んでたオーク達の方が身分が高いのかも知れない。
二本目は、恐らく群れの長の部屋だろう場所に繋がっていた。
護衛であろう一回り大きなオークが二体と、護衛よりも更に大きなオークが一体、骸となって転がっている。
長のオークはもしかしたら上位種かも知れない。今までと同じく耳と装備を回収だ。
この部屋には更に奥があり、其処は宝物庫……と呼ぶにはあまりに貧相だが、多少の財貨が眠っていた。
旅人を襲ったのか、不運な冒険者を数に任せて襲ったのかは定かでは無いが、人の手による細工であろう首飾りや、少し上質な武器に防具、それに幾つかの鉱石等。
……防具は女性物だった。
我が物とするかどうかはさて置き、回収する。
そしてこの洞窟の最後である三本目の道は、恐らく捕虜の監禁場所だろう。
首輪の先が食いに繋がった裸の女性が、爪に引き裂かれて死んでいた。
オークの骸はどうでも良いが、彼女だけは弔ってやらねばならない。
幸い首輪は彼女の首よりも少し大きく、剣を当てて思い切り良く体重を乗せれば、遺体を傷つける事なく破壊する事が出来た。
恐怖に歪んだ表情を、顔を撫で付けて歪みを戻す。裸のままではあんまりなので、マントを外して彼女を包む。
洞窟を出、彼女を抱えたままにその場を離れる。
可哀想だが彼女を人里に連れ帰る事は困難だった。
もっと少し町が近ければ、担いで帰り切れないでも無いのだろうが、此処からでは僕の体力が到底持たない。
せめて獣に食い荒らされぬ様に深く埋めて、冒険者ギルドに報告をしよう。
身元が判明して遺族が回収を望んだのなら、改めてその依頼が出る筈だ。
先程回収した首飾りや女物の防具は、身元を調べる為の遺品としてギルドに提出する必要があるだろうけど、それ位は問題無い。
穴を深く、深く掘り、マントに包んだ彼女を埋める。
愛用のマントは少し惜しいが、他に彼女を包める様な布は持ち合わせが無かった。
どうせ新調する予定だったのだから、此処でケチる必要は無いと考えよう。
彼女が何の神を信仰しているのかは知りようが無いので、思い付く限りの神に対して死後の安寧を願って聖句を唱える。
土を少し盛り、目印代わりになる様にちょっとした墓も拵えた。
僕は荷物を担ぎ直し、町を目指して歩き出す。
此処にやって来た本来の目的は賦活石の採取だったが、偶然にもそれは既に果たされた。
オークの住処で手に入れた鉱石の幾つかが目的である賦活石だったのだ。
僕は真っ白な鉱石を日の光に翳す。
賦活石は砕いて傷薬や病気の治療薬等に混ぜると薬効が上がる不思議な石で、錬金術でポーション等を作る際にも使用するらしい。
大昔の生物の骸が地中に埋まり、地の魔力を吸い上げて結晶化した物だと聞いてる。
僕はあまり詳しく無いが、当然それなりに貴重な代物だ。人が中々来ない山とはいえ、其処ら辺にごろごろと転がっていたする物では無い。
恐らくだけど、この賦活石は彼女が採取した物だと思う。
危険な場所での採取を終えて、気が抜けてしまった所を彼女はオークに囚われたのではないだろうか。
無謀な行為の結末だけど、僕は決して彼女を笑えないし、哀れむ資格だってありやしない。
何故なら僕だってヨルムが居なければ、彼女と同じ運命を……、まあ僕は男なのでただ餌になるだけだろうけど、どちらにせよ死の可能性は充分にあった。
町の外の世界は力を持たない者には厳しい。
いや、町の中でだって完全確実に安全だとは言い切れないのだ。
現れた魔物の大軍に滅ぼされた町だって世界には数多くあるのだから。
でもだからこそ、僕は町の外に出て強くなる。
ヨルムと共に戦えるくらいに。ヨルムが一体何と戦って傷付き死にかけてたのかを、僕に教えても良いと思えるくらいに。
でも差し当たっては先ず、冒険者ギルドにこの2日間の成果をどうやって説明すれば良いのかで悩むとしよう。
キラータイガーに、オークの巣穴に、亡くなった冒険者。
根掘り葉掘り聞かれる事は間違いないし、筋道は考えて置かないと返答で妙なボロが出かねない。
明日は依頼は休みにしよう。金銭的には充分以上に稼げたが、この二日間は少し内容が濃過ぎたから。
町は未だ未だ遠いけど、気を抜かずに、帰り着くまでが冒険だ。
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