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16歳の章
凍った時の亡霊1
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長く王都をあけていた僕だけど、まるでそんな事は無かったかの様に以前と同じ日常に戻る。
出張先では全てと言っても過言では無い程に僕が差配していたので勘違いしそうになっていたが、王都ではそうでは無い。
別に此れは僕が軽んじられてるとかそういった類の事では無く、ただ此処の大きさを久しぶりに実感しただけだ。
僕は王都と言う巨大魔術を構成する術式の、ほんの一部でしかない事を。
それを改めて再確認出来た事だけでも、外に出てたのは無駄じゃないと思う。
でも一つだけ残念な事があった。
僕が王都を留守にしている間に、アイツと仲間達、僕の冒険者時代のパーティメンバーが王城を訪ねて来てたらしい。僕の誕生日を祝う為に。
忙しい彼等は僕の不在に落胆しながら、手紙と贈り物だけを置いて次の冒険へと慌ただしく旅立って行ったそうだ。
とても残念に思う。久しぶりにアイツや、他の2人とは少し話がしたかったのに。
冒険者ギルドに手紙を預けよう。すぐには無理でもやがてどこかの支部で彼等の手に渡るだろう。
どうせ王都での日々は忙しく、僕に退屈する暇はあまりないのだから、そのうちに。
「えっと、幽霊退治は流石に僕も少し自信とかないですけど」
そして本日、僕が呼び出しを受けたのは旧市街の教会のシスター、更にはもうすぐ教師もしてくれる予定のカトレアさんからだった。
彼女の頼みの内容に、僕はお茶を戴きながら眉根を少し寄せる。
ちなみに先日取って来たお肉を柔らかく美味しくする木の葉はこの教会のお土産にした。
とても喜んでもらえたので僕も嬉しい。出来ればあれを使った料理とかが食べれたらもう一つ嬉しいのだけど、今はそんな空気じゃないようだ。
「えぇ、でも私の知人の祓魔師の方が何度も失敗して、ちょっと心を病みそうになってるので……」
困り顔のカトレアさんを見ると、是非とも何とかしたくなるけど、此れはちょっとどうしよう。
祓魔師とは教会所属の魔性や霊的存在への対処のスペシャリストだ。
何でもその事件は王都にある一軒の廃屋敷で起きたらしい。
屋敷の主は引退した元宮廷魔術師だったが、ある日を境に行方が分からなくなったのだ。
元宮廷魔術師は、魔術師に良くありがちな自分の研究が一番大事という偏屈なタイプで、伴侶も子供も居なかった。
主なく、給金が支払われなければ家人も出て行く。
そして住む者の居なくなった屋敷は荒れ果てて行き、20年の時が過ぎる。
つい最近に近所からの要望も出た事で、流石に景観も損ねているのでそろそろ取り壊そうと言う運びになったそうだ。
けれど解体の為の業者が屋敷に入った所、出たのである。
何が出たのかと問われれば、えっと、あれだ。あの、幽霊的な物……、らしいよ?
そこで解決に乗り出したのがカトレアさんの知人である祓魔師の方だったのだが、一時的には退散せしめても祓い切れずにまた出て来てしまうのだそうだ。
信心深く、経験豊富な祓魔師だっただけにショックは大きかったらしく、見るに見かねたカトレアさんが僕に相談を持ち掛けて来たという経緯らしい。
普通に祓えない以上は何らかの魔術が絡んでいるのではないかと考えたのだ。確かに対象が元宮廷魔術師だっただけにそれは十分あり得る話かも知れない。
「私の知ってる魔術師の方の中では、一番頼りになるのがセレンディル様でしたから、その、ご迷惑でしょうか?」
……滅茶苦茶断りづらかった。笑顔を崩さないように表情筋を頑張らせるが、上手い言葉が思い浮かばない。
カトレアさんの瞳は僕を信頼し切っていたから。
正直に言うと僕はお化けの類が苦手だ。いや僕自身の名誉を守る為に言うが、決して臆病だからとかでは無い。
魔術師の力とは準備だと言うのが僕の持論だ。詠唱もそうだし、魔法陣も、ドグラみたいな魔導生物も、無詠唱の為に術式を脳裏に刻むのだって全ては準備だとの考えだ。
敵の全てを知れれば、その全てに対して準備をして対応が出来るのが魔術だと僕は本気で信じている。
なので、お化けみたいにこうふわっといきなり出て来るのとか、ずるいし苦手でも仕方ないのだ。
暗い所で後ろからいきなりワッとか大声出されるのさえ嫌である。冒険者をやるようになってからはそんな真似を許した事は無いけれど、兎に角苦手なのは仕方ない。
アイツは気合入れたり付与のかかった武器を使えば斬れるから平気とか言ってたが、あんな脊椎反射みたいな物の考え方はおかしいと思う。
そもそもお化けとかで無ければアンデッドでも平気なのだ。
ゾンビや、その上位種といわれるワイトだって臭い以外は平気だし、スケルトンなんか怖くも無いし、不死王と言われるリッチとだって友好的であるなら魔術論議やティータイムもこなしてみせる。
これは僕が臆病では無いと言う事の十分な証左となるだろう。
しかしまあそれはそれとして、
「どうしよう引き受けちゃったよ……」
教会を後にした僕は途方に暮れる。カトレアさんの瞳には勝てなかった。
とはいえ後2時間もすれば夕方だ。調査に少し手間取れば薄暗くなってしまう時間帯。つまり今日はの調査はあり得ない。絶対に無理である。
行くならば明日の朝一からがベストだが、……明日はベッドから出るのが嫌な朝になりそうだ。
出張先では全てと言っても過言では無い程に僕が差配していたので勘違いしそうになっていたが、王都ではそうでは無い。
別に此れは僕が軽んじられてるとかそういった類の事では無く、ただ此処の大きさを久しぶりに実感しただけだ。
僕は王都と言う巨大魔術を構成する術式の、ほんの一部でしかない事を。
それを改めて再確認出来た事だけでも、外に出てたのは無駄じゃないと思う。
でも一つだけ残念な事があった。
僕が王都を留守にしている間に、アイツと仲間達、僕の冒険者時代のパーティメンバーが王城を訪ねて来てたらしい。僕の誕生日を祝う為に。
忙しい彼等は僕の不在に落胆しながら、手紙と贈り物だけを置いて次の冒険へと慌ただしく旅立って行ったそうだ。
とても残念に思う。久しぶりにアイツや、他の2人とは少し話がしたかったのに。
冒険者ギルドに手紙を預けよう。すぐには無理でもやがてどこかの支部で彼等の手に渡るだろう。
どうせ王都での日々は忙しく、僕に退屈する暇はあまりないのだから、そのうちに。
「えっと、幽霊退治は流石に僕も少し自信とかないですけど」
そして本日、僕が呼び出しを受けたのは旧市街の教会のシスター、更にはもうすぐ教師もしてくれる予定のカトレアさんからだった。
彼女の頼みの内容に、僕はお茶を戴きながら眉根を少し寄せる。
ちなみに先日取って来たお肉を柔らかく美味しくする木の葉はこの教会のお土産にした。
とても喜んでもらえたので僕も嬉しい。出来ればあれを使った料理とかが食べれたらもう一つ嬉しいのだけど、今はそんな空気じゃないようだ。
「えぇ、でも私の知人の祓魔師の方が何度も失敗して、ちょっと心を病みそうになってるので……」
困り顔のカトレアさんを見ると、是非とも何とかしたくなるけど、此れはちょっとどうしよう。
祓魔師とは教会所属の魔性や霊的存在への対処のスペシャリストだ。
何でもその事件は王都にある一軒の廃屋敷で起きたらしい。
屋敷の主は引退した元宮廷魔術師だったが、ある日を境に行方が分からなくなったのだ。
元宮廷魔術師は、魔術師に良くありがちな自分の研究が一番大事という偏屈なタイプで、伴侶も子供も居なかった。
主なく、給金が支払われなければ家人も出て行く。
そして住む者の居なくなった屋敷は荒れ果てて行き、20年の時が過ぎる。
つい最近に近所からの要望も出た事で、流石に景観も損ねているのでそろそろ取り壊そうと言う運びになったそうだ。
けれど解体の為の業者が屋敷に入った所、出たのである。
何が出たのかと問われれば、えっと、あれだ。あの、幽霊的な物……、らしいよ?
そこで解決に乗り出したのがカトレアさんの知人である祓魔師の方だったのだが、一時的には退散せしめても祓い切れずにまた出て来てしまうのだそうだ。
信心深く、経験豊富な祓魔師だっただけにショックは大きかったらしく、見るに見かねたカトレアさんが僕に相談を持ち掛けて来たという経緯らしい。
普通に祓えない以上は何らかの魔術が絡んでいるのではないかと考えたのだ。確かに対象が元宮廷魔術師だっただけにそれは十分あり得る話かも知れない。
「私の知ってる魔術師の方の中では、一番頼りになるのがセレンディル様でしたから、その、ご迷惑でしょうか?」
……滅茶苦茶断りづらかった。笑顔を崩さないように表情筋を頑張らせるが、上手い言葉が思い浮かばない。
カトレアさんの瞳は僕を信頼し切っていたから。
正直に言うと僕はお化けの類が苦手だ。いや僕自身の名誉を守る為に言うが、決して臆病だからとかでは無い。
魔術師の力とは準備だと言うのが僕の持論だ。詠唱もそうだし、魔法陣も、ドグラみたいな魔導生物も、無詠唱の為に術式を脳裏に刻むのだって全ては準備だとの考えだ。
敵の全てを知れれば、その全てに対して準備をして対応が出来るのが魔術だと僕は本気で信じている。
なので、お化けみたいにこうふわっといきなり出て来るのとか、ずるいし苦手でも仕方ないのだ。
暗い所で後ろからいきなりワッとか大声出されるのさえ嫌である。冒険者をやるようになってからはそんな真似を許した事は無いけれど、兎に角苦手なのは仕方ない。
アイツは気合入れたり付与のかかった武器を使えば斬れるから平気とか言ってたが、あんな脊椎反射みたいな物の考え方はおかしいと思う。
そもそもお化けとかで無ければアンデッドでも平気なのだ。
ゾンビや、その上位種といわれるワイトだって臭い以外は平気だし、スケルトンなんか怖くも無いし、不死王と言われるリッチとだって友好的であるなら魔術論議やティータイムもこなしてみせる。
これは僕が臆病では無いと言う事の十分な証左となるだろう。
しかしまあそれはそれとして、
「どうしよう引き受けちゃったよ……」
教会を後にした僕は途方に暮れる。カトレアさんの瞳には勝てなかった。
とはいえ後2時間もすれば夕方だ。調査に少し手間取れば薄暗くなってしまう時間帯。つまり今日はの調査はあり得ない。絶対に無理である。
行くならば明日の朝一からがベストだが、……明日はベッドから出るのが嫌な朝になりそうだ。
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