王様とメイド

立花すずな

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18 怖い夜

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 それはある夜の出来事だった。

 
 時刻は夜中の2時すぎ。




 オリヴィアはトイレに向かっていた。

 「もう、今日寒すぎ。トイレ近い~…」
 とブツブツ言いながら向かう。

 無論、これは怖さを紛らわすためのものだった。

 「小さいころから真夜中は怖いんだよね…」


 いくら廊下の電気を点けていても、

 「こわい…」

 その癖、窓を見てしまう。

 いくら、目をそらしても、知らないうちにまた見ている。

 …が続いていた。そしてやっとトイレに着いた。


 「この城、トイレ遠いのよね…」

 またブツブツ行って、トイレに入った。



〇〇〇

 オリヴィアがトイレに入った頃。


 アンドレアが飛び起きた。

 「…トイレ行きたい…」


 
 アンドレアは夜が嫌いだった。暗くて怖い。

 ましてや今は夜中だ。最悪だ。

 アンドレアは寒くて凍えながらトイレを目指した。


 「おい、窓見んな。怖いだろ」
 
 窓を見ているのは自分なのに。

 何度も窓を見ている。あぁ、やめてくれ。


 暗い廊下を歩く。

 「なんでこんなにトイレが遠いんだよ」
 
 設計したのは自分なのに…。


 ブツブツ言いながら、トイレに着いたのだった…。


〇〇〇

 「ふぅ~。スッキリぃ」
 オリヴィアはトイレが終わった。

 「あとは帰るのみ!」

 部屋に戻れば、あとは電気をいっぱい点けてきたから、もう安心!


 「行くぞ!」
 オリヴィアは息を大きく吸い込んで、トイレを出た。



すると、


 …何かが、向かってきている。


 それは、人の影のように見える。…いや、違うのかもしれない。


 それは黒くて、こちらへやってくる。


 オリヴィアは動けなかった。足がすくんでしまって。

 「…」
 
やばい、そう言いたいのに、声が出ない。

 「…」


 それはどんどん近づいてくる。


 止まることを、知らない。


 「…!」

 
 そして、それはついに、目の前に来た。

 暗くて、何がなんだか分からなかった。


 「…!!」
 やばい!!と言いたいのに。


 そして、オリヴィアの拳は勝手に出ていた。


〇〇〇

 「っ痛!!!」
 
 この声はアンドレア様…?


 得体のしれない物体は、倒れた。


 「ったく何すんだ」

 目の前にはアンドレア様の姿だ。トイレで点いている電気で微かに分かった。


 「お前!アンドレア様の姿に化けてもお前の正体は分かっているぞ!ゆうr」

 「はいはい。待って。ちょっと待って」


 それは、自分の腕を掴んだ。


 「!おい!やめろ!」

 幽霊ごときに、腕を振り払えない自分が、悔しい。


 それは、私をトイレへ連れ込んだ。

 「え!待って!よ…」


 「アンドレア様だ…!」


 「いや、何ポカーンとして、当たり前の事言ってんの。てかお前、俺を殴ったな⁉痛かったんだぞ!!」


 「え、すみません…。というか、幽霊だと思ってましたぁ…」

 オリヴィアは安堵の表情を浮かべた。


 「そんな、幽霊、とか…」

 「え?」
 
 よ~く見てみると、アンドレアの顔は、仄かに青白くなっていた。


 「え?え?」

 「やめろよ。せっかく、忘れていたというのに…」


 すると、確かに!と怖がる様子もなく、オリヴィアは、

 「もしかして、怖いんですかぁ?」と言ってきた。

 
 「!何を!別にぃ?」と返すも、

 「ふん。嘘ついても、意味ないんだから」
 そう返した。


 「ていうか、怖いから、お前ここにいろ」
 突然、そう言った。


 「…へ?」

 「だからぁ、ここにいろっての。お前のせいで更に怖くなったんだ。しょうがないだろ」

 「えぇぇぇ!嫌です!そんなの嫌です!!」

 オリヴィアは必死に抵抗するも、

 「いいからいいから」と言われ、目の前でそれをされる。


 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 
 結局、アンドレアはボコられた。


 「痛ったぁ…」


 「ふん!アンドレア様が悪いんですからね!」
 オリヴィアがそっぽを向く。


 「ごめんって。よし行くぞ」

 「待って」

 「はぁ?またトイレしたいのか?」

 「!違いますよ!怖いんです!!」


 ニヤリ。

 「なら、手を繋いでやろうか?」

 元々いつか繋ごうと思ってたしぃ~、とアンドレアは心の中で思う。


 「は⁉いいし!」

 「そ。なら、一人で帰ってね」

 「いや待て!」
 オリヴィアは、必死に叫んだ。


 「なに。王様になんて口の利き方。…で。どうしてほしいの」

 「…うぅ…。手を、繋いでください…」


 「何?聞こえないなぁ」

 「!手を繋いで!!」


 「はぁ?まだ口の利き方を知らないのぉ??」

 「もう!手を繋いでください!!」

 「はい。どーぞ」


 手を差し出す。すぐにオリヴィアは手を繋ぐ。


 手が、震えている。


 ま、実際俺も少し怖かったし、よかった。




 二人で薄暗い廊下を歩く。一列になって。


 何か喋った方がいいかな、ということで、

 「今は2時10分くらいか。日本では今を丑三つ時と言って、幽霊が出る時間らしい」

 と、言ってしまった。



 あ、やべ。今一番言っちゃいけない言葉。


 「もう、何言い出すかと思ったら!!怖い事言わないで下さいよ!!自分だって怖いんでしょ!!私はただでさえ怖いのに!!」

 と、空いている右手で、アンドレアの背中をドンドンと、叩く。


 自分も、更に怖さが増した、のだが、


 (手は繋げるし、背中叩いてくれたし、ラッキー。やったぜ)


 と思っている自分もいた。



 「もう、やめてくださいよ…?」と言ってくる。

 かわいすぎか!!



 ちょっとした幸福感に包まれているアンドレアと、恐怖感しかないオリヴィアはまだ、半分すら歩いていなかった。



 「まだですかね…」
 オリヴィアが言う。


 「確かに」


 さっきから、どれだけ歩いても、まだまだ廊下が続く。


 こんなに部屋、遠かったか?

 部屋遠すぎない…?



 それからまた歩いても、部屋へ一向に近づかない。

 部屋の位置として、もうすぐ歩けば、オリヴィアの部屋に着くはず。

 そして少し歩いて、自分の部屋もあるはず。…なのに。


 「一向に着かないな」
 口を開いたのはアンドレアだった。


 「そうですね…」



 すると、変な影が、二人を横切っていくのを、二人とも見た。


 「おい…」

 「あれって…」

 「「ヤツ⁉」」


 二人は血の気を引いた。そして全身の力が抜けていく。


 「おい、走るぞ!!」

 「はい!」


 アンドレアが、オリヴィアの手を強く引っ張り、二人は、勢いよく走る。

 走る走る。



 が、やはり一向にゴールにたどり着かない。


 「たくっ、どうなってんだ⁉」

 アンドレアが怒っていると、

 「…見て、あそこ…」


 オリヴィアが声になっていないような、ひどく掠れた声で、言う。



 指を指す方向に目を向けると、


 「!!」


 二人は見てしまった。



 開けていないはずの窓が開き、カーテンが風に揺らめいていることを…。


 おかしい。おかしすぎる。


 この城にいるのは二人だけ。


 二人が、開けていない、と言えば、開ける者など


 そう、存在しない、のだ。


 そして、更におかしいこと。


 アンドレアが怯えながら、開いている窓に近づく。


 「!」


 アンドレアは知ってしまった。


 そこだけ、風が吹いているのを…。


 流石にオリヴィアを怖がらせると思うい、それは言わなかった。


 「おい、行くぞ!」


 そうは言ってみるものの、この先、廊下が続くことをそれが止めなかったら、どうなる?


 更にやばいことが起こるんじゃ…。


 アンドレアの頭は悪いことばかり考えてしまう。


 「はい!」
 
 オリヴィアも必死に走る。



 アンドレアは走りながら、電気のスイッチを押す。


 途端に、あたりは明るくなる。


 これで少し気が紛れたか…?


 確かに、二人はその明かりで、少し落ち着きを取り戻した。


 二人は、そして、奥を見つめた。



 すぐ近くに、オリヴィアの部屋が見えた。

 「私の部屋!」


 オリヴィアはひどく喜んだ。


 「あぁ、よかった…」


 更に奥に。自分の部屋も見えるではないか。



 幽霊も、明かりには、負けたか。


 二人は安堵した。




 「じゃあ、おやすみなさい!」

 「あぁ、おやすみ」




 二人はさっきまでの事を忘れようと、すぐに部屋に入って、眠りについた。







 次の日の朝。


 「おはようございます…」
 
  オリヴィアは申し訳なさそうな顔をして、部屋に来た。


 「どうした?トイレに行きたいのか?」
 嘲笑しながら言う。


 「!違います!あの、その…」

 「なんだ?言ってみろ」


 愛してる、とかかな。と考えていた、バカアンドレア。



 「その…昨日の窓は私が開けていました…。実は…」
 もじもじしながら言った。


 「…はぁ!?」

 そう言った途端、オリヴィアは何度も謝る。


 「本当にすみませんでした!」


 「あぁ、まぁいいさ。人は失敗するからな。しかも、もう終わったことだしな」
 優しく言う。


 オリヴィアもその声で安心したようだ。


 「良かった!これからは気を付けます!じゃ、ダイニングで待ってます!」

 ルンルン♪とスキップをしながら部屋を出ていった。




 
 なんだ。と思っていた。



 矢先。



 おい。



 待てよ?



 じゃあ、なんで廊下が続いていたんだ?



 ダイニングの扉が閉まる音が聞こえる。



 そう言えば、ダイニングの目の先はトイレだ。



 オリヴィアがここを出てからの今の音は数秒だった。



 スキップして行ったから速いとしても、歩いても1分くらいか。



 冷や汗がでてきた。


 
 そして。




 なんで、あそこだけ、風が吹いていたんだ…?



〇〇〇

 その後、書庫で見つけた。
 ずいぶん昔に書かれた、とても分厚い本。


 その本は、約1000年前のここら辺の事について書かれていた。


 人々の暮らし、食べ物、流行ったもの、お店や、子供たちのことや、村の政治のこと…など。



 その中に、土地、と書かれた項目を見つけた。


 それを見て、アンドレアはゾっとして、声も出なかった。



 『この土地は、今や、処刑場と化している。政府の奴らが、勝手にここらで、罪人を処刑していく。
 ついには、それをやめてほしい、と言った村人たちも、無差別に殺されてしまっている。
 もしかしたら、王は、われわれ全員を殺してしまうつもりかもしれない。
 村人はとてつもない恐怖に囚われている。あぁ、今ついに家の中にまで入ってきてしまった。
 私たちはやはり殺されるのだ。
 殺されるのは時間の問題だが、ならば私は、この身が完全に尽きてしまうまで、これを書くことをやめない。
 これは、無惨な国への、私の唯一の反抗であり、村人の仲間たちの様々な気持ちを背負って書く。
 だから、これは一種の、私たちの村からの唯一の反抗である。
 最後に。
 この手記を見たものは、直ちに、これを本にしてほしい。
 そしてこの無惨な出来事を、後世に伝え続けてほしい。


          こんな出来事がもう永久に起きないように。』



 アンドレアはそっと本を閉じた。



 そして、昨日の出来事を怖がった自分に腹を立てた。



 そして、この本を守り抜こうと思った。
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