王様とメイド

立花すずな

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12-4 戦いの終わり

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 さて、つい先程なぜか敵軍のグローが運良く(?)、それかグローがアホなのか知らんけど、仲間になった。


 「グローが仲間になったら俺たち無敵だよね!」と少年が言う。

 「そうだな。私たちの力は未来永劫変わらないだろう。歴史に名を遺すのだ」と、あの生意気少年が言う。

 さっき少年が言ったことを小難しく言って、少し付け足しただけだろう、とオリヴィアは思うのであった。

 今は生意気少年に対して返答するものはいなくなった。
 皆『へっ。ただのガキが。生意気なんだよぉ?』と思っているに違いない。


 「それにしても戦いが始まる気配はないですね…」と主婦が言う。確かに、とみな口をそろえて言う。

 するとロウラさんが、「オリヴィアちゃん。アンドレア様は戦いを始めないのかしら。聞いてきてもらえない?」と。

 「わかりました!聞いてきます!」オリヴィアは急いでアンドレアがいる、屋上へ向かった。


〇〇〇

 「それにしても、グローが見当たらないが」と言うのは、無論ジャーロだ。

 国同士の重要な戦いを疲れたから明日に、というバカだ。まさか仲間が敵にとられたとは思っていないだろう。グローだってバカなんだから。

 「そうですね…トイレでしょうか」と執事が言う。

 「いや、トイレ?昨日の夜から籠ってるのか?とんだ災難だな!ワハハハ!!」と。

 流石に軍人たちが数人、「いや、ねぇよ」と言った。
 


 「アンドレア様!」アンドレアは、いつも通り屋上から敵軍の動きをただ眺めていた。

 「なんだ」

 「アンドレア様、いつ戦いを始めるのですか?」と戸惑いながら答える。

 「戦い、か」アンドレアは、悩んでいるようだった。
 

 「いや、やらない」

 「…へ?」え、どゆこと??

 「あの、それって…」

 「だから。戦いはやらない」

 「…へ?」

 「何回言わせるんだ。戦いはやらないさ」

 「どうしてです?」やっと、意味が分かったオリヴィアは問う。

 「理由は簡単だ。アイツに戦いをやる気がないからだ」

 「どうしてそれが分かるんです」私は、人を見ただけで戦いのやる気度とか分らないから。

 「アイツは、俺という人物を見たかっただけだろう。俺は昔から見ただけで、人を一歩後ろへ下がらせることができるんだ。出しゃばっている奴も、俺を見れば元の位置に戻る」自慢げに話した。


 「…いやそれただ、目つき悪いだけじゃないですか」冷たく言う。

 「いや違う」

 「違いません。大体、ジャーロ様もアンドレア様を見たとき一瞬、顔が引きつってましたもん。ね?目つきが悪いだけでしょう?」どうだ。わかったか。

 「確かに!俺も初対面のときは怖かったなぁ~」とコーヨが言う。

 どっから湧いて出たんだ。

 「そうか?目つきが悪いだけか」納得している。

 「いや、納得するんですか。まぁ、戦いはしないんですね。なら、どうやって、あの人達を退散させるんですか?」


〇〇〇

 「おい」

 「…」

 「おい!」

 「ん?なにぃ?」ジャーロは敵の城の前で、のんきにケーキを食べていた。


 「なにじゃない。戦いはどうなった」

 一瞬ジャーロの眉間がぴくっと動く。

 「戦い…」

 「あの、する気がないんですよね?」オリヴィアが言う。

 「いや、やる気はあるよ」必死の抵抗をしているみたいに言う。

 「いや、やる気ないでしょ」

 「なんだ?俺にビビってんのか?」にやにやと笑う。

 「………あぁ。正直お前が怖い。噂には聞いていた。大した奴ではないと思っていた。俺は頭脳明晰だから、理詰めにすれば勝てる、と思っていた…」

 「頭脳明晰って…。それは百発百中ないでしょ」とすかさずオリヴィアが言う。

 「今はぁ?」アンドレアが笑いながら言う。

 「………すんません。怖くておしっこちびりそうです…」冷や汗を垂らしながら言った。



 我々は笑いをこらえるのに必死だった。ただただ必死だった。

 あれから、アンドレアのドSぶりが存分に発揮された。

 「怖いってどこが?」

 「おい、目ぇ見て話せよ」

 「どこらへんでちびりそうになったよ。おい、言えよぉ?」…と。

 全ての質問においてジャーロが返答できたのは「はうぅ…」という漏らすのを我慢している声だけである。

 そして、「ん?なんて言った?目見てもっかい言ってみてくれるぅ?」と畳みかけるように言うアンドレア。

 こんな変なやり取りが小一時間続いた。

 敵軍の兵士たちはアンドレアのドSぶりを見て、マジでちびりそうになる奴や、震えている奴。そして、

 「アイツの仲間だったら、戦えるんじゃね?そこのヤツは、いっつも敵軍が怖いとか言って、毎回退散だもんな」と愚痴をこぼす奴もいた。

 とにかく分かったのは、ジャーロというどっかの国の王は、メンチを切られると秒でちびる奴だと分かった。軍も仲間割れはしているし…。とんだバカ軍団だ。


 結局その後、戦いはされるはずもなく、敵軍は真っ二つに分かれた。彼らは敵の城の前で、勝手に庭の空いているスペースを使った。

 何をしだすかと思えば、どっから持ってきたのか、長い木の枝を使い、スペースを縦に割り、『のこる』と、『はいる』と書きだした。そして、そこのスペースに兵士たちが自分で選んだのか、一列の並び始めた。

 『はいる』と言った奴らは、すぐさまアンドレアがいる屋上に来て、「仲間にしてください!お願いします!!」と、約300人ぐらいが頭を下げた。

 アンドレアは、「ほぉ…。そうか。いいだろう。だがもし、この国の規則を守れなかったら…分かってるな?」と怪しい目をして言った。

 兵士たちは、「勿論ですとも!国王!!」と言った。


 『のこる』と言った奴らはたったの50人ぐらいか。まだまだちびりそうなジャーロの肩を抱いて逃げるように馬に乗って帰っていった。
 

 こうして、戦い(?)の幕は閉じた。



 次の日の朝。

 「よ~しお前らぁ。今からこの国の規則を教える。この紙に書いてある。これを全て覚えろ」と、模造紙5枚分くらいはあると思われる、超小さい文字がびっしりと書かれた、今さっき完成した即席規則がでてきた。

 「あの、こんなのありましったけ?てか私たちも覚えるのですか?」とオリヴィアは聞いた。が、

 「ははっ、なわけないだろう。こいつらはあんな馬鹿丸出しの奴らの仲間だったんだ。心も体もへなちょこだろう。これを覚えさせれば、世界一強い軍隊になると思って今さっき作ったんだ」と自慢げに言った。

 「あの、マジでこれを覚えるのですか?」とイチ兵士が言った。

 「そうだ」

 「…ちなみに何週間」

 「?はは、笑わせるな。の間違いだろ?勘違いも甚だしい」とバカにしながら笑った。

 「ははは…そうですよねぇ…」と兵士は引きつった笑顔で言った。

 「できなかったら、どうなるか…」

 「「「「「わかっておりますぅ!!!!」」」」」と兵士たちは言った。



 夜。皆が寒い外で約700条ぐらいある即席規則を暗がりの下で暗記しているとき。

 「あのぉ…」

 それを全て監視していたアンドレアが「あ?」と後ろを振り向くと、

 「え、誰」後ろに、メガネをかけた30代くらいの男性が立っていた。

 そいつはアンドレアに多少ビビりながら、「わたくし、ジャーロの元執事です…仲間にしてください」と言った。

 アンドレアはさぞ嬉しそうに「いいだろう」と言った。


〇〇〇

 同じ頃。ゾフィエに帰ってきた疲れ、幽霊でも見たかのような顔をしたジャーロは、ふと呟いた。
      
 「あれ、ヨイ(元執事)は?」と、夜中じゅう城内を探すのであった。
 いない人間をいつまでも探し続けていた…。
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