王様とメイド

立花すずな

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5  秘密な話と結婚

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 朝。今日も清々しい朝です!朝早くから洗濯して、朝ごはんを作って…。

「よし!今日もがんばるぞ!」

「ほう。それはいい心掛けだ」

「ひぇ!?」後ろにはアンドレア様がいました。


「すまないが今日はイーサンがまた来るんだ。もう向かってるらしい」

「承知しました。この時間に向かっているとなると…二人分の朝ごはんお作りしますね!」

「え?いや……すまんな」


〇〇〇

 「やっほー!」イーサン様がお着きになられました。玄関に立っているようです。

 「はい、ただいま!」

 「はぁやぁくぅ!メイドちゃん!」

 「はっはい!」急いで玄関を開けます。


 「あっ、おはよ!メイドちゃん?」

 「おはようございます」

 イーサン様は今日もカッコいいです。ただテンションが前と違いすぎます…。
 

〇〇〇

 「うっわー!美味しい!なにこれ!」

 イーサン様は、私が作ったご飯をこんなにも褒めてくれました!

 その向かいに座るアンドレア様は、不服そう?

 美味しくないのかな。アンドレア様の舌は確かだから、イーサン様の舌がおかしいのね。やっぱりもう少し勉強しないと!

 「いやぁ、毎日こんなおいしいものが食べられるなんて、最高だよ。メイドちゃん、僕のお嫁さんにならないかい?」

 「えっ!?」ぴくっ、とアンドレア様の眉間が動く。

 「いやいや…」

 「何を言ってんだ?」いつものアンドレア様声じゃない!低く、怒っているような声。


 「は…?冗談だよ…」イーサン様もビビっている様子。

 「そう言う問題じゃない」…え?

 「ごめんって!そういえば、昨日の話だが…」

 「あぁ…」なんのことでしょうか…?気になる…。


〇〇〇

 「さぁ、どうする?」

 「俺は、認めない」

 「はぁ?」イーサンとアンドレアはある件について話していた。
 

 「お前、来年でいくつになる?そろそろ結婚したらどうだ?」

 「はぁ…。それを言うのはお前もだろ」そう、それはアンドレアの結婚についてだった。

 「サルファだってずっと待ってるんだぞ」


 サルファ……それはアンドレアの許嫁。アンドレアより五つ下で、幼いころからよく遊んでいた。

 「俺は許嫁だとは思わない」

 「おいおい、よく遊んでたろ。それに後継ぎだってこれから必要だ」

 「そんなのどうだっていい。俺は今のままでいい」

 「お前がそうでも、サルファはずっと待ってるんだぞ?この間も、アンドレア様といつお会いできるのかしら、なんて言ってたぞ。お前を待ってるんだ」

 「わかった。もう少し待ってくれ。近々サルファのところに行くよ」

 「はぁ…。分かった。勝手にしろ」イーサンは乱暴にドアを閉めた。
 

 「あれ?イーサン様?もう帰られるのですか?」メイドが近づいてきた。

 「あぁ。もう話すことは終わったからね。そうだメイドさんはアンドレアの事好きかい?」突然だったので驚いた。

 「え?まぁ、厳しいというか頑固なところもありますけど、根はとてもいい人だと分かっています。私はそういうところが好きです」

 「へぇ…。そっか。じゃあ、アンドレアも退屈しないね」

 「?」


 「それじゃ、またいつか来るよ、近々会えると思うし」
 

 「はい!またいらして下さい!」

 イーサン様の最後なにを言っているか分からなかったなぁ。
 でも近々会えるってことは、また何かお話があるのね!料理の勉強しよーっと!!


〇〇〇

 サルファとはただの友達だった。6歳の頃に初めて会った。母が連れてきた。

 『この子とこれから仲良くしてね』 

 それまで遊び相手といえばイーサンしかいなくて、しかも女の子で、何をすればいいのだろう、といつも戸惑っていた。


 『お兄様?何して遊びましょう?』

 サルファは本当に何も知らなくて、遊びも勉強も、何もかも俺が教えた。お兄様、と言われるから、兄らしく立派でいようと努めた。

 が、10歳の時、『実はサルファはね、あなたのお嫁さんになる人なのよ』と母から言われた。

 兄らしくいたからこそ、近々、妻になるなんて想像できなかった。二人の関係は、夫婦ではなく、兄妹なのだと。


 15の時母が病で倒れた。治る病気ではなかった。もう手遅れだった。

 日に日に弱弱しくなっていく母を父が見て、『お母さんが亡くなってしまう前に結婚しなさい。お母さんもそれはそれは嬉しい事だろう』と言った。

 俺は結婚する気なんてなかった。両親が大嫌いだから従うのは嫌だし、母のために結婚するのも癪に障る。

 そして俺はとうとう結婚しなかった。


 母の葬儀の時、『とうとう結婚されなかったわね…』と皆俺の陰口をたたいた。俺はそんなのどうでもよかった。
 
 それから父は酷く乱暴になった。

 物を叩きつけたり…、気に入らないメイドや使用人に暴力をふるったり。

 そして処刑される人が増えた。元々は罪人を処刑する場が、その頃には王の気に入らないやつの処刑場に様変わりしていた。

 俺の事は眼中にもなくて、なにもかもバカバカしくなって、オリヴィアと逃げた。

 後継ぎ…というが俺はこの国を続けるつもりはない。俺が死んだら終わりだ。

 俺はただ嫌いな父に反抗したくて、この国を作ったわけで、いずれはアレッサンドロを降伏させて、この国と統合させる。

 王になりたくてなったわけじゃない。俺が死んだら、弟にでも継がせればいい。

 俺が死ぬ前にアレッサンドロは必ず降伏するのだから。


〇〇〇

 「アンドレア様、夕食が出来上がりました!ダイニングへいらしてください」

 「あぁ」面倒だ。色々。 


 「さぁ、夕食にしましょ!」だけど、こいつの顔を見ると全部なくなっていく。

 「そうだな」

 「今日はアンドレア様が大好きなチーズケーキをデザートにしましたよ!」

 「あぁ、ありがとう」



 二人でご飯を食べる。

 あの国にいたときは毎日辛かった。誰も話さない、黙々と食べていた。楽しくもなく、ただただ苦痛だった。

 ただ今は話さなくてもなぜか特に何も思わない。


 「なぁ」

 「なんでしょう?」

 「お前、俺が結婚すると言ったら何て言う」

 「?おめでとう、としか言えませんが…?」

 「そうか」

 「はい。アンドレア様のお嫁さんが誰かは分かりませんが、私は快くお迎えします。だってアンドレア様の大事なお嫁さんですもの!」

 「ふ~ん。そうか。お前は結婚しないのか?」

 「わたくしがですか?私は死ぬまでアンドレア様のメイドですから。それが仕事です。結婚なんて別にしなくてもいいのです」

 「そうか。変な話をしたな。すまん」

 「いえ、全然。それはそうと、ご結婚されるのですか?」ワクワクした顔で言う。

 「いや、もしもの話だ」

 「そうなのですか…」悲しげな顔をした。

 「なぜそんな顔をする?」


 「だって、アンドレア様が結婚されれば、私、話し相手ができるんですもの…。お嫁さんが家に来れば一日中暇になりません!」

 「暇、なのか?」

 「…はい」

 「なら、女の使用人を来させるか?」

 「いえ!時々買い物をするとき、お店の皆さんと少しおしゃべりしますから。問題ありません」
 
 「そうか。俺は寝る」

 「えっ、はい。おやすみなさいませ!」
 

〇〇〇

 俺は人の気持ちが分からない。あいつが暇で、退屈で、話し相手を求めていたことを気付けなかった。
 これまでどのくらい酷いことを言ってしまっただろうか。何回苦労を掛けさせた?

 サルファの事もだ。

 ずっと俺を待ってるのか?俺がお前と結婚しないことくらい分かってるだろうに。そのくせ俺はあいつに何もしてない。

 周りは俺に優しいじゃないか。俺が人の気持ちを分かろうとしなかっただけだ…。



 最近のアンドレア様はおかしいなぁ。ついでにイーサン様も。結婚とか、アンドレア様を好きかどうかとか。よく分かんないよ。

 人の気持ちなんて気にしてこなかった。

 貧民区で生きてきた。他人の事よりも自分が今日生きられるかの方が大事だったからだ。他人なんて蚊帳の外だった。

 だって…大好きな弟も、見殺しにしてしまったのだから。
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