王様とメイド

立花すずな

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23 私を探してください~後編~

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 3人は馬車で森へ向かった。


 「着きましたよ」運転手が言う。因みに舞踏会やイーサンの結婚式で乗った馬車はすべて、この、ライヤというおじさん運転手が運転していた。

 「そうか」

 早速3人は馬車から降りて森へ向かう。

 「私は、行かなくてもいいのですか。私も皆さんのお力になりたい」

 「いいよ。お前、持久力ないじゃん」とあっさりアンドレアに切り捨てられる。

 「いや、持久力なくても、銃は撃てます…」

 「いいです。あなたみたいな人は大工の投げる金槌であっさりデッドでーす」

 「いや、アンドレア様、今日なんか変!もしかして…」ライヤは怪しく笑う。

 「る…のですね?」

 「あぁ、もちろん。散々悪い事をしたんだ、いたぶって殺ってやるよ…」

 「はぁ、私も見たい。アンドレア様は小さい頃からドSですからね。人が苦しんでいる姿は大好物ですものね」

 「もちろん…」

 二人が顔を向けあって怪しく笑っている。

 「なんかそれドSじゃなくて、軽いサイコパスなんじゃないのぉ~?」ルシアが言う。

 「しっ!オネエになってるよ!」

 「あっ、失敬。私も少しドSなもので…」

 二人は一瞬、?な顔をしたが、取り繕った一言でまた怪しく笑った。

 「後でご感想をお聞かせ下さい。楽しみにしております…」

 「あぁ。血の気が引くくらいの凄い話をしてやるよ…」

 オリヴィアには二人がプロの殺し屋に見えて仕方なかった。



 
 〇〇〇

 3人は慎重に歩みを進める。どこに罠が仕掛けてあるか分からない。

 薄暗い森。本当にこんなところに野鳥、そして女性がいるのだろうか。

 歩いているうちに鳥が群生して木にとまっていたり、飛び回っていた。

 「これだったらいるかもしれないな」

 アンドレアは段々と気分が高揚してきた。

 「あっ、あれ!」オリヴィアは指を指す。

 少し遠くの方に小さな薄汚れた小屋が見えた。

 「確かに、あれかもしれないですね」

 「あぁ。慎重に行くぞ」

 

 小屋は真四角の赤いレンガ造りだった。この小屋は多分ファリーが作ったものだろう。大工のくせに作りが粗末な小屋だ。

 ツタが所々に張っていて、汚らしさを感じてしまう。

 屋根もただのっけただけ、というような、本当にこれ屋根か、という屋根だった。雨が降ったら一発で終わりな感じだ。
 確か、1週間前、結構な量の雨が降っていたな…とアンドレアは思う。きっと雨漏りどころじゃなかっただろう。

 「よし行くぞ」

 「「はい!!」」


 アンドレアは一つしかない、それも小さなドアを足で蹴った。案の定ドアは簡単に壊れた。

 3人は中に入る。

 部屋は薄暗く何もない。またその奥にドアがある。

 「あの部屋に彼女はいるんですかね」ルシアは小声で言う。

 「扉を壊したのに出てこないんだ。ファリーは今はいないんだろうよ」大声で、わざとらしくアンドレアは言う。

 その声が聞こえたのか、奥の部屋から声が聞こえる。

 小さな声で、今にも消えてしまいそうな。


 「やっぱりいたか」

 「行くぞ!」


 3人はそれでもあたりに気を付けながら部屋に入…ろうとした。ドアには鍵がかかっているのか開かない。

 「ったく…」アンドレアはまたドアを蹴った。

 
 「!」オリヴィアは声も出せなかった。

 汚く、狭い何もない部屋にたった一人の女性が倒れているからだ。

 「大丈夫ですか!?」オリヴィアは声を絞り出して彼女に歩み寄った。

 「…」女性は黙っている。

 髪は長髪で金髪。そんな綺麗な色の髪も土がついているのか黒くなっている。

 顔は土で汚くなっているが端正な顔立ちをしている。

 床はない。土のままだ。

 「ったく、これは即処刑もんだな」アンドレアは憎しさを込めた声で言った。

 「大丈夫ですよ。私たちはあなたが書いた手紙を読んで、ここまで助けにきたんです。もう安心してください」ルシアは優しく微笑む。

 「大丈夫か?今から戻ってくると思うがファリーが来たら、捕まえていたぶってやる…いや、言葉遣いが悪いか。まぁ、とにかく安心しろ」

 
 土の上に一切れのパンが転がっている。こんなものが食事、なのだろうか?

 「さぁ、取り敢えず私と一緒に馬車へ行きましょう。辛いかもしれませんが、歩きましょう」オリヴィアは肩を貸す。

 すると、「いやっ!」彼女は小さな声でそう叫んだ。

 アンドレアの後ろに、ファリーがいた。

 ルシアはすぐさま猟銃で右足を撃つ。

 アンドレアは気が付いていなかったのか、「ちっ、こんなクソ野郎に背後をとられるとは…」と呟きながら胸倉をつかんだ。

 彼女はオリヴィアに咄嗟に抱き着いた。オリヴィアは背中をポンポンと叩いて安心させようとするが、彼女は泣いて、震えている。

 「おい、なぜこんなことをしているのだ!答えろ!」アンドレアは怒号を放つ。

 「うるせぇな!」と右足を押さえながら、ファリーは言う。

 「なんだと!?」とアンドレアは腹を蹴る。ここで殺してしまうかのような勢いで。

 勢いよく血が吐き出される。

 それでも抵抗は止まなかった。

 必死にもがいている。

 アンドレアはこんなところで処刑はしない。

 城の後ろの広場というと聞こえがいいが、アンドレアだけが処刑場と呼ぶ広場で処刑は行われる。

 だから殺すわけはないのだが、今回は少し弱らせないとだめかもしれない。

 彼女は泣き止まない。ファリーはそれから、

 「おい!なんで泣くんだよ!お前は俺のものだろ!なんでそんな奴らに助けを求めた!」

 鳴き声と大声が飛び交う。

 アンドレアはまた腹を蹴る。がそれでもファリーは抵抗し続ける。

 「しぶとい奴だな」アンドレアは言う。ここで殺さないために、何度腹を蹴ればいい。

 左足も撃ってしまおうか。そうすると、馬車までいけないな、と少し呑気なことも考えてみる。

 「おい!なんで泣くんだよ!?俺と一緒にこれから暮らそ…」

 「おい」

 声を出したのはルシアだ。

 背筋が凍るほどに怖い、低い声。

 ルシアはファリーの元まで行くと、

 「お前みたいな奴にそんな権利はない。とっとと失せろ。それ以上喋るようだったら彼女を殺すぞ」と言った。

 オリヴィアは「は!?」と言うが、それをアンドレアが止める。

 「は…?何言ってんだよ。俺の女を殺すのか?そんなことすんじゃねぇよ!」

 「そうか。だったら…」

 すると突然ファリーの方を振り返って、

 「そういえば、憲法でこういう奴は処刑してもいいって書いてあったなぁ…。そうだ、彼女を殺させないのなら、あなたが死ねばぁ?私はね、アンタみたいなクソ男大嫌いなの。だから、さっさと大人しくしなさい!」ついオネエ口調で言う。
 
 それを言った後でハッ!とするが、

 「まぁいいわね」と言って何故か笑う。何故だろうか。

 「そんな…。彼女を殺させないためには、僕が死ぬ…」

 「物わかりのいい坊やね。そうよ、あなたがそうなるの」

 「だったら…」

 「はい、決ーまり!」ルシアは首チョップした。

 「アンドレア様、最初からこうしておけばいいんですよ」ルシアは振り返って怪しく笑った。



 オリヴィアは彼女を。ルシアとアンドレアは乱暴にファリーを引き摺るようにして馬車まで歩いていく。

 「なんでこんなことを俺が…」とアンドレアは少し不機嫌だった。



 馬車に着いて、早速アンドレアから乗っていく。

 皆が乗り終わるとライヤが言った。

 「お疲れさまでした。早かったですね。どうでした?」

 「ふっ。クソだよ。こんなの」

 「左様ですか。まぁ良かったしゃないですか。まだ楽しみが余ってる」

 「あぁ、本当だな…」

 そう言って二人はまた怪しく笑った。

 そうして馬車は走り出した…。

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