涙女村

立花すずな

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 涙女村。


 「おはよう、紫都しとちゃん。」

 「おはようございます。池さん」

 「今日も出来上がってるよ。早くおいで」


 池さんは村のリーダーだ。いつも優しくて、面白い。

 「わぁ!」


 村の広場にある大きなテーブル。ここは、村人全員でごはんを食べる場所だ。

 皿にのった、てんこ盛りに焼かれた肉はとても良い匂いがする。

 「さぁ、お食べ」

 「いただきます!」

 食べた瞬間、美味しさが舌に伝わる。おかずは肉しかないのにごはんはいくらでも食べられる。


 「美味しいー!」
 「そうかい、よかった」

 「ね、池さん。他のみんなは?」
 「えーと、今日はみんな食料を調達しに行ってるよ」

 「どこに行ったのかな?」
 「裏山だよ」


 「そう!なら私も行こうかな」
 「ダメだ!」


 突然、池さんが大きな声で言った。びっくりした。

 「裏山には危ない動物がいることがあるんだ。だから行くのは大人だけなんだ」

 「そう。なら仕方ないわね」


〇〇〇

 私は生まれてから村の外に出たことがない。

 そして親もいない。
 村の人は遠いところに仕事に行っていると言うけど、私は知ってる。両親は私の前に現れないことを。

 きっと捨てられたんだ。

 そんなときは、池さんや大好きな村の人たちから、たくさんの面白い話を聞いてみる。
 すると心は、あったかくなり、両親のことなんてどうでもよくなる。



この村はおかしい。そう思い始めたのは1年前のことだ。

 村の佐藤さんが亡くなった。そう池さんは言った。理由は教えてくれなかった。


 でもその日の夜、聞いてしまった。


 『あんなことしなきゃよかったのにね』
 『食ってしまおうか』と。

 おかしい。

 次の日。
 案の定、お肉は出た。それが佐藤さんなのかはわからない。でもきっとそうだ。怖くてあまり食べられなかった。


 暇で村の中を歩いていたら、人骨を見つけたこともあった。

 やっぱりおかしい。

 もし自分が食べているものが人間の肉だったら…。考えるとゾッとする。

 以前、

 「この肉はなんの肉なの?」と聞いたことがある。

 すると、
 「鹿だよ」と返された。

 鹿肉を見たことがなかったから多分そうなのだろうと思う。

 先ほどの森に行けないのと同じで、村の大人は何か隠してる。

 裏山は本当に、危ない動物がいるのか?
 前に綺麗な黒い少し大きい鳥を見たことがあるけど。あれはきっとカラスというものだと思う。

 そんな裏山に危ない動物なんているのかなぁ。

 隠していることがあるのに、誰もかれも平然と私と接する。

 隠し事をして申し訳ない気持ちなのか、その反対なのか。
 
 それはわからないが私は素直にそれが嫌だ。隠し事なんてしてほしくない。

 そんな私だけどみんなに隠してることがあるんだ。


 それは、この村から逃げること。
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