涙女村

立花すずな

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 「ここ…?」

  やっと大通りに出た。車は通っていないけど、少し遠くに何軒か家が見える。

 「早く行こう。助けを求めなきゃ」煉が言った。

 「そうね」
 
 私たちは走り出す。


 

 そこは森だった。

 「あそこに人がいないか?」煉が言った。確かに、女性がいる。

 煉は走ってその女性の元まで行った。

 「すみません!」

 「わぁ!びっくりした」女性が煉の方を向くとそう言った。


 「どこから来たんですか?久しぶりに人が来たからびっくりしちゃった」

 茶色い髪の毛をお団子にしてメガネをかけた20代後半くらいのぽっちゃりした女性だった。

 「僕たち、近くの村から逃げてきたんです!助けてください!」

 「村…?ああ、確かありましたね、少し遠いけど。逃げるって?」

 「それはちゃんと話します!取り敢えず警察に電話してください!」紫都が言った。

 
 「警察なら美穂、お前が電話したらいい。俺がそいつらを家に通すよ」後ろから大柄な男性が来た。

 「君たち、話を聞かせてくれ。こっちに」男性は家の扉を開けた。

 二人は家に入る。

 美穂という女性は不安そうな顔の二人を見て急いで電話を掛ける。

 「もしもし…」


 「で、逃げてきたって聞いたけど」

 「僕たちは隣の村…涙女村という村に住んでいるんです」

 「へぇ」

 「月に一度、この村に販売車が来ますよね?」

 「そうだな」

 「うちの村のリーダーがその時歩いて販売車まで来るんです。見たことあるかもしれません」

 「あ、おじさんを見たことがある。その人かもな」

 「その人と村の大人たちが、村に来た外部の人達を殺して食べているんです」

 「嘘だろ」

 「本当です!」紫都が叫んだ。

 
 「そうか。で君たちはその事実を知って逃げてきたってわけか」

 「はい。何度も逃走を試みたんですけど、うまい具合で村人に見つかって」

 「私たち一度、捕まえられたんです!私はジュースに毒を入れられたんです…」

 「マジかよ…でも大丈夫だ。警察に電話したから大丈夫だろう、もう安心してくれ」

 美穂は丁度電話が終わったようだ。


 「電話したよ、すぐ来てくれるって。…でもここは森の奥だから30分は最低でもかかるみたい」

 「でも大丈夫だろ。ここには体力に自信のある若い男たちが沢山いる。外に出れば分かるさ」

 「そうそう。みんな頼りになるしね」


 「ここには若者が住んでいるんですか。てっきりお年寄りかと…」紫都が言った。

 「まぁ、俺と美穂は東京に住んでたんだが、都会に疲れちゃってさ。結婚してすぐここに引っ越してきた」

 そういえば二人の左手の薬指には指輪がはまっていた。


 「東京…そういえばここは何という県なんですか」紫都が言った。

 「宮城県だよ。…知らなかった?」

 「私たち学校も行ったことないし、ここが何県なのかも教えてもらったことなかったんです」

 「何も知らなかったんだな…」煉は悲しい顔をした。


 美穂が家に入ってきた。

 「今、みんなに事情を話したよ。助けてくれるって」

 「よかった。もう安心だな」

 
 警察が来るまでの30分、私たちは不安で仕方なかった。いつあいつらが追いかけてきてもおかしくない。


 トントンと扉を叩く音が聞こえた。

 「はい」

 「通報を受けた警察ですが」

 男性が扉を開ける。

 「あぁ、この二人ですか」入ってきた二人の警官の内の一人が言った。

 「はい」美穂が言う。

 「君たちや村のことは詳しく聞くから、取り敢えず町に出よう。その方が安全だ」

 「村のことだけど、警察官数名を村へ送ったよ」

 「それは危ない!もしかしたら警官も食べられてしまうかも…」紫都が言った。」


 「その『食べる』というのは本当なのか?…一応銃を持っているし、大丈夫だとは思うけど」

 「さぁ、まずは安全確保のために町へ出よう」

 紫都と煉は警官に連れられ、森を出る。

 「ありがとうございました」二人は礼を言って、パトカーに乗った。

 警官二人は峰岸と佐屋という名前だった。

 峰岸はまだ20代前半に見える。一方、佐屋は峰岸より年上で少し強面だ。どちらも高身長の男性。一気に安心してきた。


 「それにしても現実とは思えないよなぁ」峰岸が言った。

 「おい、そういうこと言うなよ…」佐屋は言った。

 「いいですよ、全然。僕たちもこれが異常っていうのは知ってるので」

 紫都は黙っている。

 「まぁ、もう大丈夫だから。安心して」

 「君たちに戸籍はあるのかな」佐屋がふと言った。

 「多分、ないと思います」煉が言った。

 「だろうね。君たちはまだ未成年のようだから施設に送られるよ。…親は?」

 「どっちも両親がいません。死んだか捨てられたかも分かりません」

 「そうか…いやね、施設って18歳までしかいられないんだよ。だから来年からは君たちは引き取られるか働いて頑張って生きていくしかないんだ」

 これが外の世界。煉は思った。

 俺たちが生きてきた世界とはまったく違う。厳しいこともあるかもしれないけど、あんな村に居るよりマシだ。


 30分して大きな警察署に着いた。街並みは大きく変わっていた。

 「ここは宮城の中でも田舎の方に入るけど、さっきの所よりはまだ都会に見えるだろ?」佐屋は笑って言った。


 煉と紫都は中にいた警官に連れられ、それぞれ別の部屋に通された。

 「君たちには村の事や君たち自身のことを聞くから」峰岸に言われた。

 「じゃあ」煉は紫都に言った。

 「うん…」紫都は不安そうな顔で言った。



 佐屋は署内の警官に「村に着いたか?」と言った。

 「ああ、着いたそうだ。さっき連絡があった」と警官は言った。

 「あいつらは人を食うらしいからなぁ」

 「涙女村ねぇ。祖父がそんな話してたけど、本当だったんですね。なににせよ、危ない村なのは事実だし、立派な殺人罪ですから、すぐに警察に連れてくるよう言ってますから」

 「ああ」




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