類は執愛を呼ぶ

あるば

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すれ違い

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しかし、人間というのは体が成長していくにつれて共に心も曇っていくものだ。

純粋な恋心と思われたそれも世間を知るにつれ人間知り、執着心へと変わり果てた。

零士は自分の知らない陽がいることが許せなかった。

零士のスマホのカメラロールには陽の写真のみで埋め尽くされており、毎日陽の様子、言動、行動、他の人と目を合わせた回数、会話の回数等、陽の関わるもの全て1ミクロン単位で記録していた。

その行動は異常であり、周りが病気疑うほどだった。

ある時、危うく陽にその行動をばらされそうになったため、それからは異常行動を行うことは無かった。

表向きは。

周りから向けられる白い目や教育虐待とも取れる親からの度を超えた勉強の重圧は零士の執着に拍車をかけていた。

そんな陽との出会いと過ごしてきた日々を思い出しながら零士は心を落ち着かせる。

「…零士?…どうしたんだ?」
陽は零士にそう問いかけた。
「え?…いやなんでもないよ。…陽は相変わらず優しいなとって思っただけだよ。」
(あんな猿に付き合うなんて)

「…そんなことないよ。当たり前のことしただけだし。」
陽は零士の瞳を覗き込む。零士の全てを見るかのように。
そして、零士もまた、もはや愛とは呼べない感情を陽に注ぐ。

HRも終わり、それぞれの委員会や係の仕事を終えたところ、辺りはすっかり残紅のようなどこか哀しい雰囲気を纏った鮮やかな紅色で染まった。

夕刻を告げるカラスの鳴き声が周囲に木霊する。

零士と共に帰ろうと足早に昇降口へと足と気持ちを走らせる陽だったが、あとひとつ角を曲がればというところで緊張を節々に感じる高い声が聞こえてくる。

「零士くん。私、貴方のことが好きなの。そのために彼氏とも別れたのよ。あなたも私のことが好きでしょう?」

そう告白しているのは先程話していた男の彼女だった。

その女の好意が溢れる甘い声に陽は嫌悪感を覚えた。

「う、嘘嘘嘘嘘!やだ。やだやだやだやだやだやだやだ!
零士…れ、零士…やだ。」
陽の胸が締め付けられる。息ができず、過呼吸になる。女の好きという言葉が陽の頭の中で響き渡り心をぐちゃぐちゃに掻き回す。

胸を抑え、服が引きちぎれそうなほど握りしめる。
床に膝を落とし、額を着き、冷や汗をかきながら
「僕の傍から居なくならないで…零士…」
そう、繰り返しつぶやく。

陽は零士が自分に対する執着心を抱いていることは露知らず、黒く曇った瞳から大粒の涙が頬を流し、白く透き通った美しい肌が、真冬の渓流のように冷たく輝く。うちに抱えた感情を際立たせるように。

これ以上聞いてしまえば自分の心が瓦解してしまうことを感じた陽はその場を離れる。

廊下を走り学校の裏口の方までたどり着いた陽はプッツリと気持ちが切れたかのように廃人同然の人形に成り果てた。

虚空を見つめる黒い瞳から流れる涙 は止まることを知らない。ただの失恋程度ならどれだけ良かっただろうか、陽の生き方を肯定してくれた零士は生きる理由そのものだった。

漫画家になりたいという夢をありきたりに肯定してしてくる人は今まで五万といたが、零士は向き合い本気では叶えられると肯定してくれた。

零士に好いてもらえるならと陽は人間として誇れることは一通りしてきた。もちろん元からの人柄もあっただろうがそれはほんの一欠片であっただろう。陽を作っていたのは零士対する感情が全てを占めていたと言っても過言では無い。

自分の魂とも言える感情が崩壊してしまい
そうなのだから廃人になってしまうのは無理もない。



そんな頃、零士は女子からの告白を突き放し、冷めた態度で睨みつける

「俺の事好きだから何?俺は全く好きじゃないね。嫌悪感さえ覚えるよ。」

「は、はぁ!?どうしてそんな冷たいこと言うのよ!色々相談に乗ってくれたじゃない!」

「…役に立たないな本当に。利用されてんのもわかんないのかよ。」

「利用って…」

「陽に好きになってもらう計画が台無しだ。陽には僕にしかいないって分からせたかったのに思ったよりも働かなかったなあの男。」

「ねぇ、さっきから何言ってるのよ!?」

「お前らの仲が冷めれば
放課後一緒に残ってた陽を疑うだろう。そうなればあの猿は陽に対していじめでもするかと思ったんだけどな。」

「は、は?」

「そのいじめから俺が颯爽とヒーローのように助けるんだ。ネチネチといじめてくれればそれを助けるだけ、俺への陽の気持ちは増していく…完璧な計画だろう?ふはっはは」

血走った目でそう語る零士の様子は恐ろしい魔物のようだった。

「でも仕方ないかぁ、だって俺の陽は誰にでも優しいからなぁ…そこが、陽のいい所の1つでもあるんだだもんなぁ…」

恐ろしい重苦しい愛を大切に大切に抱きしめ、頬を紅色に染める姿は女に恐怖を覚えさせた。

「…陽はどこに行ったんだろうな…遅いな…」

女がいることなどとっくに忘れ、零士は辺りを見渡し陽を血眼になって探す。

そうとも知らず裏口から重い足を進め、極限まで涙を流し乾いた瞳を見開きながら陽は帰路に着いた。



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