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執着
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朝を知らせる雀の鳴き声が窓の外に響いている。
カーテンの間から指す光に目が覚め、薄暗い部屋の中で気だるそうに起き上がったのは奥津 零士(おくつ れいじ)。
脱力しきった鉛のように重い体をゆっくりと動かし部屋を出て、階段を下りリビングに向かう。
零士が目覚め1番に目に入った人物は優雅に紅茶を飲み、ブランドの服をみにつけた自分の母親だ。
彼は母親を怪訝そうな目で睨みつけ、冷蔵庫のお茶をコップに注ぎ朝の一杯を飲み干したあとさっさと制服に着替え玄関に向かおうとした。
「あら、零士朝ごはん食べないの?サンドイッチ冷蔵庫に入ってるわよ。そんなんじゃ授業集中できなくてヘマするわよ。恥かかせないでちょうだいね。」
「…そんなことわざわざ言われなくてもヘマしないよ。あと、俺はあのサンドイッチ嫌いだ。」
そう言い放ち玄関のドアを開け学校に向かおうとした時、門の外には小学校の時に彼が知り合った高原 陽(たかはら みなみ)現在同じ高校に通っている親友がいた。
満面の笑みで零士を迎えるその姿は彼の瞳に太陽の光もあいまって天使の様相に写った。
「零士おはよう!まだ眠そうな顔してるな!」
「あぁ、おはよう。さっき起きたばっかだから。 」
目を擦りながら歩みを進め、空腹に苛まれていた零士の横でガサガサとカバンを漁り陽が取り出したのは零士の好物のカレーパン。それを零士に手渡した。
「どーせまた、朝ごはん食ってないんだろ?前食べた時に美味しいって言ってたカレーパンあげるよ。 」
「…ありがとう陽、お前は俺の事よく分かってくれるよな」
「…当たり前だろ。親友なんだから。」
陽は眉を少し下げ悲しげな雰囲気を纏いながら笑った。
そんな陽を愛おしそうな目で見つめる零士の瞳、それは純粋な恋心とは程遠い執着を含んだものだった。
そんな淀んだ感情とは裏腹に木の上で燦々と輝く太陽が彼らを照らしている。
学校に着き、まだ朝も早く誰も居ない静寂とした教室の椅子に2人腰を下ろした。
まるで示し合わせたような運命のようにいくら席替えをしても彼らは隣同士になる。
なんて都合の良い話ではなく零士が陽と隣同士になるために陽の隣を引いたやつに交換を強いていたのだ。
陽は机の中から1冊のノートを取り出した。そのノートにはびっしりとイラストが描かれている。
「…また、上手くなったな。はじめに見せてもらった時より」
「いつのこと言ってるんだよ、零士。初めにみせたのって小学生の頃だろ。当たり前だろ」
「…そうだな…」(初めてあったのも…)
少し時間が経ったあとぞろぞろとクラスメートが入ってきた。その中に睨みつけながら陽に向かってズカズカと歩いてくる一人の男がいた。
「おい。高原。お前俺の彼女に手ぇ出しやがっただろ! 」
「え!?そ、そんなことしてないよ。する訳ないじゃないか。」
「とぼけんなよ!彼女が他に好きな人が出来たから別れてくれって言ってきたんだよ! 」
「え、それでなんで僕が?」
「…この前放課後教室に残るって委員会の書類のホッチキス止めするって意気揚々と言ってたからだよ!お前も教室に残ってたろ! 」
「いや、それは委員会の仕事手伝ってただけで…」
「お前あいつと同じ委員会じゃ無いだろ!」
男は陽の胸ぐらを掴んで食って掛る。
そんな男の腕をへし折るがごとく零士は強く握り陽から引き剥がす。
「いってぇ!!!何しやがんだ。」
そして、小さくもずっしりと響く声で
「お前こそ何してんだ。陽に触んじゃねぇーよ猿が」
零士の思いもよらない恐ろしい形相に男はたじろぐ。
「くっそ!覚えてろよ!」
「…大丈夫か?陽。」
「…うん。ありがとう。助かったよ零士。」
陽の白い頬に紅色の少量の血がつたる。
「!?おい!頬から血が!」
「え?あ、ほんとださっき零士が腕を引き剥がしてくれた時にあいつの爪で多分引っ掻いたんだな。」
「…ごめん…」
「?なんで零士が謝るんだよ。悪いのは突っかかってきたあいつだろ?」
零士は手を強く握りしめる。爪がくい込み赤くなるほどに。
昼休み突っかかって来た男に陽は呼び出された。
「いい加減認めたらどうだ。俺の彼女手ぇ出したのはお前だろ!?」
「ち、違うよ!僕そんなことしてないって!」
「てめぇ!」
男は陽に殴りかかろうとする。
殴られると思った陽は目をつぶり怯える。しかし一向に殴られる気配がないため、恐る恐る目を開けると目の前には頼もしい大きな背中が見えた。
零士が陽の前に立ち、男の拳を受け止めていた。
「零士!?」
「また、陽に突っかかってたのかてめぇ」
「ぐっ!奥津…!」
零士は本当に殺しかねない勢いで男に殴りかかろうとする。
「ぶっ殺すぞ…」
「零士!!」
零士の殺気を察知した陽は彼の腕を掴み首を振る。そして男に歩み寄り落ち着けるように優しい声で話しかける。
「…放課後委員会の仕事を手伝っていたのは本当だけど、彼氏がいる人に手を出したりしないよ。きっと彼女さんが言う好きな人は僕じゃないよ。僕なんか好きになるはずないし…」
「…でも、だったら誰が…」
「…1回落ち着いて、教室に戻ろう。もう少しで5限が始まるし…」
「あ、あぁ…悪かった…。」
「ううん。好きな人に好きな人がいるって辛いもんな。暴走しちゃうのは仕方ないよ。」
「高原…」
2人が話し合っている後ろで今にも壊れてしまいそうな恐ろしい雰囲気を零士は纏っていた。
息を荒らげて男を睨みつける。
そして2人に聞こえないほんの小さな声で
「こんなはずじゃない…」
ともらす…
カーテンの間から指す光に目が覚め、薄暗い部屋の中で気だるそうに起き上がったのは奥津 零士(おくつ れいじ)。
脱力しきった鉛のように重い体をゆっくりと動かし部屋を出て、階段を下りリビングに向かう。
零士が目覚め1番に目に入った人物は優雅に紅茶を飲み、ブランドの服をみにつけた自分の母親だ。
彼は母親を怪訝そうな目で睨みつけ、冷蔵庫のお茶をコップに注ぎ朝の一杯を飲み干したあとさっさと制服に着替え玄関に向かおうとした。
「あら、零士朝ごはん食べないの?サンドイッチ冷蔵庫に入ってるわよ。そんなんじゃ授業集中できなくてヘマするわよ。恥かかせないでちょうだいね。」
「…そんなことわざわざ言われなくてもヘマしないよ。あと、俺はあのサンドイッチ嫌いだ。」
そう言い放ち玄関のドアを開け学校に向かおうとした時、門の外には小学校の時に彼が知り合った高原 陽(たかはら みなみ)現在同じ高校に通っている親友がいた。
満面の笑みで零士を迎えるその姿は彼の瞳に太陽の光もあいまって天使の様相に写った。
「零士おはよう!まだ眠そうな顔してるな!」
「あぁ、おはよう。さっき起きたばっかだから。 」
目を擦りながら歩みを進め、空腹に苛まれていた零士の横でガサガサとカバンを漁り陽が取り出したのは零士の好物のカレーパン。それを零士に手渡した。
「どーせまた、朝ごはん食ってないんだろ?前食べた時に美味しいって言ってたカレーパンあげるよ。 」
「…ありがとう陽、お前は俺の事よく分かってくれるよな」
「…当たり前だろ。親友なんだから。」
陽は眉を少し下げ悲しげな雰囲気を纏いながら笑った。
そんな陽を愛おしそうな目で見つめる零士の瞳、それは純粋な恋心とは程遠い執着を含んだものだった。
そんな淀んだ感情とは裏腹に木の上で燦々と輝く太陽が彼らを照らしている。
学校に着き、まだ朝も早く誰も居ない静寂とした教室の椅子に2人腰を下ろした。
まるで示し合わせたような運命のようにいくら席替えをしても彼らは隣同士になる。
なんて都合の良い話ではなく零士が陽と隣同士になるために陽の隣を引いたやつに交換を強いていたのだ。
陽は机の中から1冊のノートを取り出した。そのノートにはびっしりとイラストが描かれている。
「…また、上手くなったな。はじめに見せてもらった時より」
「いつのこと言ってるんだよ、零士。初めにみせたのって小学生の頃だろ。当たり前だろ」
「…そうだな…」(初めてあったのも…)
少し時間が経ったあとぞろぞろとクラスメートが入ってきた。その中に睨みつけながら陽に向かってズカズカと歩いてくる一人の男がいた。
「おい。高原。お前俺の彼女に手ぇ出しやがっただろ! 」
「え!?そ、そんなことしてないよ。する訳ないじゃないか。」
「とぼけんなよ!彼女が他に好きな人が出来たから別れてくれって言ってきたんだよ! 」
「え、それでなんで僕が?」
「…この前放課後教室に残るって委員会の書類のホッチキス止めするって意気揚々と言ってたからだよ!お前も教室に残ってたろ! 」
「いや、それは委員会の仕事手伝ってただけで…」
「お前あいつと同じ委員会じゃ無いだろ!」
男は陽の胸ぐらを掴んで食って掛る。
そんな男の腕をへし折るがごとく零士は強く握り陽から引き剥がす。
「いってぇ!!!何しやがんだ。」
そして、小さくもずっしりと響く声で
「お前こそ何してんだ。陽に触んじゃねぇーよ猿が」
零士の思いもよらない恐ろしい形相に男はたじろぐ。
「くっそ!覚えてろよ!」
「…大丈夫か?陽。」
「…うん。ありがとう。助かったよ零士。」
陽の白い頬に紅色の少量の血がつたる。
「!?おい!頬から血が!」
「え?あ、ほんとださっき零士が腕を引き剥がしてくれた時にあいつの爪で多分引っ掻いたんだな。」
「…ごめん…」
「?なんで零士が謝るんだよ。悪いのは突っかかってきたあいつだろ?」
零士は手を強く握りしめる。爪がくい込み赤くなるほどに。
昼休み突っかかって来た男に陽は呼び出された。
「いい加減認めたらどうだ。俺の彼女手ぇ出したのはお前だろ!?」
「ち、違うよ!僕そんなことしてないって!」
「てめぇ!」
男は陽に殴りかかろうとする。
殴られると思った陽は目をつぶり怯える。しかし一向に殴られる気配がないため、恐る恐る目を開けると目の前には頼もしい大きな背中が見えた。
零士が陽の前に立ち、男の拳を受け止めていた。
「零士!?」
「また、陽に突っかかってたのかてめぇ」
「ぐっ!奥津…!」
零士は本当に殺しかねない勢いで男に殴りかかろうとする。
「ぶっ殺すぞ…」
「零士!!」
零士の殺気を察知した陽は彼の腕を掴み首を振る。そして男に歩み寄り落ち着けるように優しい声で話しかける。
「…放課後委員会の仕事を手伝っていたのは本当だけど、彼氏がいる人に手を出したりしないよ。きっと彼女さんが言う好きな人は僕じゃないよ。僕なんか好きになるはずないし…」
「…でも、だったら誰が…」
「…1回落ち着いて、教室に戻ろう。もう少しで5限が始まるし…」
「あ、あぁ…悪かった…。」
「ううん。好きな人に好きな人がいるって辛いもんな。暴走しちゃうのは仕方ないよ。」
「高原…」
2人が話し合っている後ろで今にも壊れてしまいそうな恐ろしい雰囲気を零士は纏っていた。
息を荒らげて男を睨みつける。
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「こんなはずじゃない…」
ともらす…
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