物語は突然に

かなめ

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別視点(ウォード)

妖精(?)との出逢い

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最近、城外での魔獣の活動が活発化しているとの知らせを受けた。
ここ最近は平和そのものだったのだが、もしそれが本当の事であるなら、どの程度のものなのか、また討伐隊を編成しなければならないほどなのか、討伐隊を編成するなら、人数は如何程必要なのか、まずは簡単に調査をしなければならない。だが今は新人の基礎育成期間中。色々と人手の足りない時期なのだ。別の人員をそちらに割くよりは、今、予定がまだ入っていない自分が行ったほうが、余程手間も時間も省けるというもの。そう思い、城外へと1人で出たのだが…。
城下の表門を出て、緑紅樹の森までの街道沿い、また森の入口から中程まで進み、一度休憩をとる。この間、街道で二度、森に入ってからは四度程魔獣に襲われている。大して長い訳でもないこの距離でこの回数となると、確かに活発化しているようだ。しかし、討伐隊を編成する程の脅威という訳ではない。どちらかと言うと魔獣が活発化した原因を調べるほうが良いのではないかと感じる。
「ふむ…」
これ以上は不要だな。戻って調査団の編成を指示するか。
そう考慮し、城下への帰路に着く。途中、またも魔獣に出逢うも風魔法で撃退する。何も問題は無いと思っていた。ところが…何かが胸にぶつかってきた。咄嗟にぶつかってきたソレを片手で受け止め、何だろうかと確認すると…妖精(?)のようだった。良く見れば羽根が無い!
(まさか私の魔法の所為で羽根を失ってしまったのだろうか!?)
妖精族にとって羽根はとても重要な物だった筈。何という事か。失態もいいところだ。急ぎ治療しなければ!
落とさない様にソッと手で包み込むと同時に城下へと向かう。ジリスに頼めば何とかなるのではないか、そう考慮して。
城下に入ってからも立ち止まる事なく、城に向かって歩く。何故ならジリスは今日、城中警護の日だったから。しかし城門で門兵に留められた。急いでいると言うのに。まぁ、いくら私の立場があっても、こんな時間に城中に簡単に入れては門兵の意味が無いというもの。仕方がないと言えば仕方ない。しかし此方も急いでいるのだ。口頭での説明で足りぬと言うなら、事実を見て判断してもらうしかない。
門兵の前に先程の妖精を見せる。門兵は妖精を見るのは初めてだ等、如何でもいい感想を述べながら妖精を凝視している。
…うん…?
先程まで大人しかった妖精が身動ぎしている。如何やら門兵に凝視されているのが不快な様だ。それもそうか。元々妖精族は余り姿を見せる事がない種族だ。それがこの様に凝視されているというのは、不快以外の何物でもないのかもしれない。
ソッともう片方の手で妖精を隠すようにして門兵からの視線を遮りながら、もう一度、城門を開けてほしいと頼む。今度は了承してくれた。
門扉が開くと直ぐに中へと進む。そうだ。先程、不快にさせるような行動をとってしまった事を詫びなくては。思い返してみれば怪我をさせてしまった事にも詫びていない。私とした事が…随分と焦っていたようだ。まるで気付いていなかった。
「怪我をさせてしまった事、そして先程の行為、どちらも誠に申し訳ない」
手の中の妖精に向かい合い、改めて詫びる。
簡単には許してもらえないだろうが、出来うる限りで謝罪せねばなるまい。そのように決意していると妖精から返事が返ってきた。
何を言っているのかは解らないが。そう言えば確か妖精は妖精言語を使うのだったか。
そうなると先程の私の言葉は通じていなかったのやもしれん。改めて妖精言語で詫びる。魔術師たる私にとって妖精言語は魔術を行使する際に必要とされる言語の一つだ。その言語での会話も苦ではない。しかし、それは私の勘違いであったようだ。いや、色々と勘違いがあったようだ。
何故そう思ったのかと言えばそれは、妖精が突然、泣きながら叫びだしたその言葉は妖精言語では無かったから。もっと詳しく言うなら、私の知る言語には無いものだった。




暫く叫んでいた妖精(?)が静かになったと気付いた時には、既に手の中でグッタリとしていて。まさか怪我の状態が悪くなったのだろうか?急がねば!



ジリスのいる執務室前までくるとノックもせずに部屋へと入る。
「済まん!急ぎ治療してほしい者がいるのだ!」
そう言ってジリスに妖精(?)を見せる。
「妖精…だと思うのだが、私の魔法の所為で
羽根を傷付けてしまったのではないかと思うのだが」
とは、随分曖昧だねぇ?
…どれ…見せてもらっていいですか?」
妖精をジリスに手渡す。彼はというと優しく丁寧に妖精を診ている。
「うん…怪我はしていないようだよ?
と言うか…たぶん、最初から羽根は無かったんじゃないかな?」
「最初から羽根が無い?
羽根の無い妖精族がいるものなのか?」
驚愕の事実だ。そんなの聞いた事が無い。
「いや私もそれは知らないが…見てご覧よ。
通常は羽根の邪魔にならないように背の開いた衣服を身に着けているものなのに
この子は背どころか、肌をほとんど見せないような作りの衣服だ。
こんな衣服を身に着けているだけでも普通の妖精族とは思えない」
そう言うと何やら考え込んでいる。
言われれば確かにそうだが、それならば。彼女は一体何者なんだろうか。そう言えば妖精言語ではない言葉を発してもいた。
「如何したものだろう?」
「まぁ、明日にでも
彼女が目覚めたら尋ねてみるのが一番早いかと。
今日のところは彼女がユックリと休める場所を用意してあげては如何でしょう?」
穏やかに、しかしハッキリとそう告げられて、成る程と納得したのだった。
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