魔法学園の令嬢ですが、婚約破棄され悪魔に囁かれました

しきど

文字の大きさ
上 下
11 / 15

11.人狼のご令嬢(グリルフェン視点)

しおりを挟む
 ────



 人間ってのは、パーティーが大好きらしい。

 大勢の人間を集めて話しあったり、酒を飲んだりする。それ自体は、大いに結構。人と話すのも、美味いものを食べるのも人生の彩りであり、人はそれを娯楽と呼ぶ。

 俺は悪魔だけれど、人間のそういう面には大いに共感できる。昔っから誘惑には弱いタチなのである。多分俺は、悪魔じゃなかったら、真っ先に悪魔に誘惑されるタイプだろうと、その自覚はある。

 そんな自堕落な俺でも、一つだけどうしても疑念が払えない事がある。パーティーというふざけた場で、度々国の歴史が動いてきたという事実だ。

 国の有権者達は、楽しみながら、酒に酔いながら、まるで雑談のように政治の話をするのだという。経済の行く末、文化の行く末、戦争の行く末。国の歴史は、そういった娯楽者達のその時の気分によって決められてきた。

 物事の決め方に疑問すら抱かないから、汚穢と呼ばれるような歴史を何度も繰り返してしまっている。馬鹿っぽいな、人間って。まぁ、それが可愛くもあるのだけど。

 ……しかし今回のパーティーに関しては、開催したのが有権者でも、招待された人間は圧倒的に家名なしの市民が多いようだが──。

 バルト子爵家──そこの令息であり、魔法学園の生徒でもあるという、ヴァンフォート・バルトが開催したダンスパーティーで、参加者の殆どが学友。今宵、ここで真実が明らかになると、うそぶいたからにはおそらく、この中に幻術スキルを強奪、使用した者がいるのだろう。

 俺は目を細め、二階のテラス──少し離れた場所から、会場を見下ろしていた。当然招待客じゃないから、見つかったらつまみ出されてしまう。

 何をどうするつもりか知らないけど、あの人狼のお嬢さんのやりたいようにやらせてみよう。文字通り高みの見物だ。

 それにしても、肝心のお嬢さんはまだかな。続々と人が集まる中で未だその姿が見えないが……。

 なんて事を考えていた時だった。会場から微かなざわめきが上がった。見やると入り口の方に、彼女の姿が見えた。

 フレア・ルナソル子爵令嬢──。

 淡い赤色の、きめ細やかで腰まで届くストレートヘア。黒い薔薇を模した髪飾りと、装飾の多い黒いドレスは悪趣味なようにも思えたが、周りの平民など比べ物にならない程のオーラを纏っている。

 まるで太陽のようだ、と俺は思った。学生服も似合っていたが、こうしてドレスを着ているとなるほど、限りなく子爵令嬢っぽい。

 ダンスや作法の稽古は苦手なんて言っていたが、歩き方からして品位なようなものが感じられるではないか。

 「いらっしゃい、フレア」

 「……バルト子爵」

 彼女を出迎えたのは、中年小太りの貴族だった。この家の主で、主催者の父親である。彼はフレアの手の甲に軽くキスをすると、会場の真ん中へ案内した。

 俺は黙って、テラスから二人の会話に集中していた。悪魔は人間の何倍もの聴力をもっているので、この位置からでも誰が何を言っているのかは丸聞こえである。

 「……よく来てくれた。来てくれないと思っていたよ。馬鹿息子の非礼は、どう詫びたらいいか」

 「子爵が気にされる事では御座いません。それに……言葉は悪いですが、長くは続かないかもしれないと、覚悟はしていましたので」

 「女性に恥をかかせた事が問題だ。しかし君はこうして祝いの席に来てくれた。なんという器量の持ち主だろうか。断言出来るが、息子はいつか後悔するだろう。君を捨てた事をね」

 「……そうかもしれませんね」

 そういうと人狼のご令嬢は少し笑ってみせた。

 ははぁ、なるほどな、と俺は思う。

 なんとなく、事情は読めた気がする。彼女がどうして自分の力で犯人を暴きたいと拘ったのかも。

 すると犯人は、あそこでさっきから婚約者とイチャイチャやっている主催者──ヴァンフォートか? ああ、言われてみればなんとなく、いけすかなそうな、なめきったような顔をしてやがる。

 「皆様! ご静粛に!」

 屋敷の従者らしき男が、そう言った。

 「これより当家ご子息のヴァンフォート・バルト様より、パーティー開催のご挨拶と、皆様に重大発表が御座います!」

 パラパラと騒ぎ散らしていた生徒達、他来客が一斉に静まり返り、会場の中心へ向けて整列をした。

 中心の壇上へ、ご令息とその連れが上がる。彼は集まった者たち全てに流すような視線をやると、喉を鳴らし、言った。

 「皆様、本日はお忙しい中お集まり頂きありがとうございます! ダンスパーティーとは称しておりますが、今宵は形式ばったものは一切抜きに、ただ学友の皆さんと楽しい時間を過ごせれば幸いと考えています!」

 「踊らなくていいのか!?」

 生徒の誰かがそう言って、場に僅かに失笑があった。ご令息はにっこりと微笑み、

 「ええ、勝手にしてください!」

 と言った。また小さな笑いが起こった。

 「さて、すでに気になっている方もいらっしゃると思います。私事にはなりますが、今宵はこの場をお借りし改めて、正式に、皆様にご紹介したい女性がいます!」

 と、隣にいた女性に視線をやり、彼は続けた。

 「僕の新しい婚約者の──!」

 「お待ち下さい!」

 来客の方から声が上がり、周囲がざわついた。

 フレアが、黒いドレスをなびかせながら壇上へ詰め寄る。

 俺は目を細めた。

 「その婚約、認めるわけにはいきません!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~

キョウキョウ
恋愛
 前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。  そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。  そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。  最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。 ※カクヨムにも投稿しています。

お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?

リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。 5話完結。 念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。

しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ! 平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。

処理中です...