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5.家族証明書
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───
「レイシェル・エメリア! 君との婚約は破棄させてもらうぞ!」
……翌日。
何となく、初手はそうくるだろうと思っていましたが、アズライは綺麗に定石を打ってきました。聞かずとも分かりきっている事ではありましたが、私は一応言いました。
「理由をお聞かせ下さいますか?」
「聞けば君は今まで散々、ミライに意地悪をしてきたそうではないか!? お父様に協力して領地を納めろと遺言されたにも関わらず、一切の権利をミライに与えてこなかったと、そんな独裁者のような冷酷女との婚約など願い下げだ!」
「アズライ様は親身になって私の話を聞いて下さいましたわ!」
すかさず妹──ミライが援護してきます。
いや、一切仕事を手伝おうとせず遊び呆けていたのは妹の方です。家の事は私が仕方なく全てこなしてきたのですから、それを今更どうこう言われても。
二人とも自信満々なようですが……私は更にアズライに問いました。
「……そうして親身になって相談を聞いている内に、妹に情が移ってしまったと?」
「ああ、そして僕はようやく気付いたのだよ、真実の愛というものになっ!」
私より妹と結婚した方が、この屋敷を乗っ取るのに都合が良いと、正直にそう言うわけはありません。
妹は妹で領主としての殆どの権利を私に奪われているのが面白くないだけで、単に利害の一致があるだけの話。
真実の愛と言い張るには、ちょっと無理があります。
「先日妹にも話しましたが、婚約破棄は構いません。どうぞ妹はご自由にお持ちください。ただ、屋敷の所有権は私にありますので、出ていってもらいますが」
「……そこだ!」
アズライは得意気に鼻を鳴らしました。
「なんです?」
「そもそもこの屋敷の所有権が君にあるという、明確な証拠はあるのか!?」
「お父様は遺言書も残されていませんわっ! お姉さまが勝手に乗っ取ったのです!」
「……お父様の最期に、あなたも立ち会ったでしょうミライ? お父様は確かに私に屋敷を継ぐと言ったわ」
「その証拠がないと言っているのだ!」
「そうよ! お姉さまが嘘を言ってる!」
どうもよくない流れのようです。
父の死はあまりに突然の事でしたから。確かにアズライの主張通り、書面など証拠に残っているものは一切ありません。
「こういう場合は当然、血を分けた家族であるミライにも遺産と屋敷を相続する権利はあるのだ! 家族証明の書類を出したまえ! 君が持っていると聞いたぞ!」
「お姉さま! 家族証明書を出して! それが私の権利の証拠になるんだから!」
私は溜め息をつきました。
確かに、遺言の証拠がないのではあれば遺産は平等に分配されるべきで、法的に間違いのない資料である家族証明書は、私が持っています。
やっぱりそういう方向になるのです。仕方のない。見せない事には納得しないでしょうから。
出来るならば、墓までもっていきたかった、秘密を。
「レイシェル・エメリア! 君との婚約は破棄させてもらうぞ!」
……翌日。
何となく、初手はそうくるだろうと思っていましたが、アズライは綺麗に定石を打ってきました。聞かずとも分かりきっている事ではありましたが、私は一応言いました。
「理由をお聞かせ下さいますか?」
「聞けば君は今まで散々、ミライに意地悪をしてきたそうではないか!? お父様に協力して領地を納めろと遺言されたにも関わらず、一切の権利をミライに与えてこなかったと、そんな独裁者のような冷酷女との婚約など願い下げだ!」
「アズライ様は親身になって私の話を聞いて下さいましたわ!」
すかさず妹──ミライが援護してきます。
いや、一切仕事を手伝おうとせず遊び呆けていたのは妹の方です。家の事は私が仕方なく全てこなしてきたのですから、それを今更どうこう言われても。
二人とも自信満々なようですが……私は更にアズライに問いました。
「……そうして親身になって相談を聞いている内に、妹に情が移ってしまったと?」
「ああ、そして僕はようやく気付いたのだよ、真実の愛というものになっ!」
私より妹と結婚した方が、この屋敷を乗っ取るのに都合が良いと、正直にそう言うわけはありません。
妹は妹で領主としての殆どの権利を私に奪われているのが面白くないだけで、単に利害の一致があるだけの話。
真実の愛と言い張るには、ちょっと無理があります。
「先日妹にも話しましたが、婚約破棄は構いません。どうぞ妹はご自由にお持ちください。ただ、屋敷の所有権は私にありますので、出ていってもらいますが」
「……そこだ!」
アズライは得意気に鼻を鳴らしました。
「なんです?」
「そもそもこの屋敷の所有権が君にあるという、明確な証拠はあるのか!?」
「お父様は遺言書も残されていませんわっ! お姉さまが勝手に乗っ取ったのです!」
「……お父様の最期に、あなたも立ち会ったでしょうミライ? お父様は確かに私に屋敷を継ぐと言ったわ」
「その証拠がないと言っているのだ!」
「そうよ! お姉さまが嘘を言ってる!」
どうもよくない流れのようです。
父の死はあまりに突然の事でしたから。確かにアズライの主張通り、書面など証拠に残っているものは一切ありません。
「こういう場合は当然、血を分けた家族であるミライにも遺産と屋敷を相続する権利はあるのだ! 家族証明の書類を出したまえ! 君が持っていると聞いたぞ!」
「お姉さま! 家族証明書を出して! それが私の権利の証拠になるんだから!」
私は溜め息をつきました。
確かに、遺言の証拠がないのではあれば遺産は平等に分配されるべきで、法的に間違いのない資料である家族証明書は、私が持っています。
やっぱりそういう方向になるのです。仕方のない。見せない事には納得しないでしょうから。
出来るならば、墓までもっていきたかった、秘密を。
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