上 下
5 / 6

5.家族証明書

しおりを挟む
 ───



 「レイシェル・エメリア! 君との婚約は破棄させてもらうぞ!」

 ……翌日。

 何となく、初手はそうくるだろうと思っていましたが、アズライは綺麗に定石を打ってきました。聞かずとも分かりきっている事ではありましたが、私は一応言いました。

 「理由をお聞かせ下さいますか?」

 「聞けば君は今まで散々、ミライに意地悪をしてきたそうではないか!? お父様に協力して領地を納めろと遺言されたにも関わらず、一切の権利をミライに与えてこなかったと、そんな独裁者のような冷酷女との婚約など願い下げだ!」

 「アズライ様は親身になって私の話を聞いて下さいましたわ!」

 すかさず妹──ミライが援護してきます。

 いや、一切仕事を手伝おうとせず遊び呆けていたのは妹の方です。家の事は私が仕方なく全てこなしてきたのですから、それを今更どうこう言われても。

 二人とも自信満々なようですが……私は更にアズライに問いました。

 「……そうして親身になって相談を聞いている内に、妹に情が移ってしまったと?」

 「ああ、そして僕はようやく気付いたのだよ、真実の愛というものになっ!」

 私より妹と結婚した方が、この屋敷を乗っ取るのに都合が良いと、正直にそう言うわけはありません。

 妹は妹で領主としての殆どの権利を私に奪われているのが面白くないだけで、単に利害の一致があるだけの話。

 真実の愛と言い張るには、ちょっと無理があります。

 「先日妹にも話しましたが、婚約破棄は構いません。どうぞ妹はご自由にお持ちください。ただ、屋敷の所有権は私にありますので、出ていってもらいますが」

 「……そこだ!」

 アズライは得意気に鼻を鳴らしました。

 「なんです?」

 「そもそもこの屋敷の所有権が君にあるという、明確な証拠はあるのか!?」

 「お父様は遺言書も残されていませんわっ! お姉さまが勝手に乗っ取ったのです!」

 「……お父様の最期に、あなたも立ち会ったでしょうミライ? お父様は確かに私に屋敷を継ぐと言ったわ」

 「その証拠がないと言っているのだ!」

 「そうよ! お姉さまが嘘を言ってる!」

 どうもよくない流れのようです。

 父の死はあまりに突然の事でしたから。確かにアズライの主張通り、書面など証拠に残っているものは一切ありません。

 「こういう場合は当然、血を分けた家族であるミライにも遺産と屋敷を相続する権利はあるのだ! 家族証明の書類を出したまえ! 君が持っていると聞いたぞ!」

 「お姉さま! 家族証明書を出して! それが私の権利の証拠になるんだから!」

 私は溜め息をつきました。

 確かに、遺言の証拠がないのではあれば遺産は平等に分配されるべきで、法的に間違いのない資料である家族証明書は、私が持っています。

 やっぱりそういう方向になるのです。仕方のない。見せない事には納得しないでしょうから。

 出来るならば、墓までもっていきたかった、秘密を。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない

家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。 夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。 王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。 モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。

いくら何でも、遅過ぎません?

碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」  ある日突然、婚約者はそう仰いました。  ……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎  何故、今になってーっ!!  わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

貴方と私では格が違うのよ~魅了VS魅了~

callas
恋愛
彼女が噂の伯爵令嬢ね…… 魅了魔法を使って高位貴族を虜にしていく彼女。 ついには自分の婚約者までも…… でもね…相手が悪かったわね

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...