【完結】私の婚約者を奪おうとした妹は、家が貰えると思っていたようです

しきど

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3.大きな口をたたいて大丈夫?

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 その夜、私は自室で昼間の妹とのやりとりを執事のキーファに話しました。

 「慰謝料?」

 「そう言ったわ」

 「なるほど、慰謝料ですか」

 キーファは、そう言って明後日の方を向きます。多分、笑いをこらえているのでしょう。笑われて当然ではあります。

 彼は主に私の身の回りの事を手伝ってくれている従者です。私と同い年ではありますが、優秀であったため執事として側に置いています。

 幼い頃から気心の知れた彼ですが、私の執事になってからは、私相手には絶対に敬語を崩さないようになりました。よくいえば公私混同せずしっかりしていますが、悪くいえばドライです。

 そんな彼が思わず吹き出してしまいそうになるのは、珍しい事ではありました。

 「笑えないのよ?」

 「失礼しました、レイシェルお嬢様……しかし、ミライお嬢様を納得させられますか?」

 「出来ないでしょうね。私の言うことだけは絶対聞かない。反論したければカラスも白いと言い張る。そういう子よ、あの子は」

 「……エメリア男爵が……お父様が生きていらっしゃったら、たいそうお嘆きになるでしょうね」

 「……そうね」

 私は溜め息をつきました。父は戦術家として知れた騎士でした。農民の出ではありましたが、戦争で大きな功績を残し、国王陛下直々に騎士男爵の地位と領土を授かった偉大な英雄。

 若くして亡くなった彼の一番の心残りといえば、私達姉妹の事だった筈です。

 二人仲良く力を合わせ、この領地を納めて欲しいという父の死に際の願いは、永劫叶う事はないでしょう。

 「今日は本当に疲れたわ」

 「チェスはやめておきますか?」

 キーファが意地悪っぽくそう言います。

 少し考えましたがこう返しました。

 「やりましょう。気分転換は必要よ」

 「仰せの通りに」

 私が部屋着に着替えている間に、彼が盤と駒を用意しました。

 彼と寝る前に行うチェスの対決は、私にとって唯一といっていい娯楽です。初めは無理矢理付き合わせていたのですが、何事も器用にこなしてしまう彼は、今では立派に私の相手が務まるまでに成長しました。

 「今日は負けませんよ。新手を考えてきましたからね」

 「大きな口をたたいて大丈夫? 新手なんて大概、欠陥だらけよ」

 「欠陥から生まれるものこそ真の成功です。まぁ、見てください。ちゃんと研究はしてきました。唸らせてみせます」

 腕捲りして意気込むキーファを見て、私はクスリと笑ってしまいました。
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