3 / 6
3.大きな口をたたいて大丈夫?
しおりを挟む
────
その夜、私は自室で昼間の妹とのやりとりを執事のキーファに話しました。
「慰謝料?」
「そう言ったわ」
「なるほど、慰謝料ですか」
キーファは、そう言って明後日の方を向きます。多分、笑いをこらえているのでしょう。笑われて当然ではあります。
彼は主に私の身の回りの事を手伝ってくれている従者です。私と同い年ではありますが、優秀であったため執事として側に置いています。
幼い頃から気心の知れた彼ですが、私の執事になってからは、私相手には絶対に敬語を崩さないようになりました。よくいえば公私混同せずしっかりしていますが、悪くいえばドライです。
そんな彼が思わず吹き出してしまいそうになるのは、珍しい事ではありました。
「笑えないのよ?」
「失礼しました、レイシェルお嬢様……しかし、ミライお嬢様を納得させられますか?」
「出来ないでしょうね。私の言うことだけは絶対聞かない。反論したければカラスも白いと言い張る。そういう子よ、あの子は」
「……エメリア男爵が……お父様が生きていらっしゃったら、たいそうお嘆きになるでしょうね」
「……そうね」
私は溜め息をつきました。父は戦術家として知れた騎士でした。農民の出ではありましたが、戦争で大きな功績を残し、国王陛下直々に騎士男爵の地位と領土を授かった偉大な英雄。
若くして亡くなった彼の一番の心残りといえば、私達姉妹の事だった筈です。
二人仲良く力を合わせ、この領地を納めて欲しいという父の死に際の願いは、永劫叶う事はないでしょう。
「今日は本当に疲れたわ」
「チェスはやめておきますか?」
キーファが意地悪っぽくそう言います。
少し考えましたがこう返しました。
「やりましょう。気分転換は必要よ」
「仰せの通りに」
私が部屋着に着替えている間に、彼が盤と駒を用意しました。
彼と寝る前に行うチェスの対決は、私にとって唯一といっていい娯楽です。初めは無理矢理付き合わせていたのですが、何事も器用にこなしてしまう彼は、今では立派に私の相手が務まるまでに成長しました。
「今日は負けませんよ。新手を考えてきましたからね」
「大きな口をたたいて大丈夫? 新手なんて大概、欠陥だらけよ」
「欠陥から生まれるものこそ真の成功です。まぁ、見てください。ちゃんと研究はしてきました。唸らせてみせます」
腕捲りして意気込むキーファを見て、私はクスリと笑ってしまいました。
その夜、私は自室で昼間の妹とのやりとりを執事のキーファに話しました。
「慰謝料?」
「そう言ったわ」
「なるほど、慰謝料ですか」
キーファは、そう言って明後日の方を向きます。多分、笑いをこらえているのでしょう。笑われて当然ではあります。
彼は主に私の身の回りの事を手伝ってくれている従者です。私と同い年ではありますが、優秀であったため執事として側に置いています。
幼い頃から気心の知れた彼ですが、私の執事になってからは、私相手には絶対に敬語を崩さないようになりました。よくいえば公私混同せずしっかりしていますが、悪くいえばドライです。
そんな彼が思わず吹き出してしまいそうになるのは、珍しい事ではありました。
「笑えないのよ?」
「失礼しました、レイシェルお嬢様……しかし、ミライお嬢様を納得させられますか?」
「出来ないでしょうね。私の言うことだけは絶対聞かない。反論したければカラスも白いと言い張る。そういう子よ、あの子は」
「……エメリア男爵が……お父様が生きていらっしゃったら、たいそうお嘆きになるでしょうね」
「……そうね」
私は溜め息をつきました。父は戦術家として知れた騎士でした。農民の出ではありましたが、戦争で大きな功績を残し、国王陛下直々に騎士男爵の地位と領土を授かった偉大な英雄。
若くして亡くなった彼の一番の心残りといえば、私達姉妹の事だった筈です。
二人仲良く力を合わせ、この領地を納めて欲しいという父の死に際の願いは、永劫叶う事はないでしょう。
「今日は本当に疲れたわ」
「チェスはやめておきますか?」
キーファが意地悪っぽくそう言います。
少し考えましたがこう返しました。
「やりましょう。気分転換は必要よ」
「仰せの通りに」
私が部屋着に着替えている間に、彼が盤と駒を用意しました。
彼と寝る前に行うチェスの対決は、私にとって唯一といっていい娯楽です。初めは無理矢理付き合わせていたのですが、何事も器用にこなしてしまう彼は、今では立派に私の相手が務まるまでに成長しました。
「今日は負けませんよ。新手を考えてきましたからね」
「大きな口をたたいて大丈夫? 新手なんて大概、欠陥だらけよ」
「欠陥から生まれるものこそ真の成功です。まぁ、見てください。ちゃんと研究はしてきました。唸らせてみせます」
腕捲りして意気込むキーファを見て、私はクスリと笑ってしまいました。
46
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!


見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。
しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ!
平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

婚約破棄した令嬢の帰還を望む
基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。
実際の発案者は、王太子の元婚約者。
見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。
彼女のサポートなしではなにもできない男だった。
どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる