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第13話 漏洩
しおりを挟む里野義製薬の新薬発表から一か月後、里野義製薬が第三臨床で使用したアルツハイマー病の治療薬によって、第一次治験者の半数が死亡したとを各放送局がトップで報道した。
この事は、製薬業界全体を震撼させた。第三臨床は、第二臨床までと違い、人間に投与して行う。
里野義製薬では、第三臨床第一次治験としてアルツハイマー病の進行が軽度、中度、重度の三段階の検体者それぞれ二人づつに対して治療薬と、体に支障のない液体を投与して、臨床を行った。
そして治療薬を投与された検体者全員が死亡した。本来有ってはならない結果だった。
里野義製薬の新薬開発担当役員は、今回の状況に新薬開発研究室長に厳しく問い質した。
「これは、どういうことだ」
「はっ、そう言われましても、我々も後藤新薬開発特務室長からの情報を信じて……」
「馬鹿者!後藤からの情報を精査しなかったのか。第二臨床の結果はどうだったのだ」
「はっ、実は…」
「なにーっ、何を言っているんだお前は。データ内容が緻密で第二臨床しなくていいと思っただと。意味が分からん」
「至急今回どこが悪かったのか、第一臨床ベースから洗い直せ。直ぐだ。結果は、直ぐに俺に報告しろ。お前の首は皮一枚と覚えて置け」
「ひーっ!」
デスクの室内フォンが鳴った。新薬開発担当役員からだ。
「後藤室長、どういう事なんだ。竹山製薬からのデータは、正しかったのだろう」
「はい、そこは抜かりないと考えます。AI技術研究所のマザーからダウンロードしただけです。加工はしていません」
「ならば、竹山製薬が誤った結果をだし、それを我々が実証したという事か」
「…なんとも。データを見ない限り」
担当役員からの電話が終わるとデスクに手をついて考えた。
どういうことか、俺にも分からない。竹山製薬が第三臨床で死人を出すほどの結果を出しているとは思えない。
そろそろ電話が連絡が来る頃だと思っていたら、やはり来たか。
「白石です」
「今回の件抜かりはないはずだな」
「はい」
「作業のカモは完璧だろうな」
「はい、監視カメラと同じ位置にカメラを設置して、研究室にいない時の映像を録画しています。作業当日は、日付を変えて、監視室にその映像が流れる様にしています。ハックした時研究室には誰もいない事になっています」
「そうか。では、お前達がばれる事は無いな」
「問題ありません」
「ならばいい。平静を装えよ」
「分かっています」
ふん、お前に言われなくても分かっている。しかし、里野義製薬の新薬研究者達は、データが誤っていることがまだ分からないのか。情けない。
里野義製薬の第三臨床失敗の報道から一週間後、
「担当役員。後藤室長から渡されたデータの解析が終わりました」
「早いな」
「新薬開発及び研究担当者全員で調べました」
「で、結果は」
「第一臨床、第二臨床、第三臨床の各工程毎のプロセスプロトコル及びデータに改竄の後が見られます。不要なプロセスの組込みとプロトコルの削除、データの書き換え等、色々な所で見つかりました」
「何だと。渡したデータに改竄の後が有っただと」
どういうことだ。こちらの意図が最初から漏れていて、竹山製薬の連中が誤った情報を意図的に入れたというのか。
しかし、いま、竹山製薬の新薬開発研究室長は自宅謹慎中、AI技術研究所の開発室長も自宅謹慎中になっている。つじつまが合わない。
「後藤、どういうことだ。コピーデータが改竄されていたというのは」
「私にも理由が……」
「馬鹿者!貴様にこれを渡した輩を捕まえて白状させろ」
「分かりました」
白石が裏切ったのか。しかしあいつは里野義の人間。裏切るメリットがない。ならば立花か。しかし立花は、第二臨床データからだ。第一臨床からとなると白石しかいない。
「新薬担当役員、大変です」
「なんだ」
「地検が…」
「なにーっ」
「皆さん、東都地検特捜部です。今のまま一切何にも触らないで下さい。何も手を出さずに、端にどいて下さい」
「何故、地検が」
俺の所にも地検の奴らが来る。取敢えず逃げるか。
地検特捜部の人間が室長室のドアを開けると
「……いません」
「逃げたか」
その日の昼のワイドニュースでどの局もトップでこの記事を取り上げた。
『里野義製薬の第三臨床が行われ、死者が報告されてから、三週間後の今日、東都地検特捜部が、里野義製薬本社及び新薬開発研究所に立入調査に入りました』
『東都地検特捜部は、里野義製薬が第三臨床で死者を出しただけでなく、その開発手続きを不正入手という情報を掴んでいる様です』
『情報の入手先はまだ分からないようです。いや、伏せられているのかもしれません』
どういう事。
家で、謹慎という休暇を貰い、会社のメンバとは連絡を取りつつ、良き妻として過ごしていた私には、寝耳に水だった。
俺は、自分のマンションで謹慎して、ほとぼりの覚めるのを待って海外に逃れるつもりでいた。白石と一緒に。
だが、事情が変わった。里野義製薬に地検の調査が入ったという事は、いずれ俺の所にも手が伸びる。自分だけでも。
部屋で、旅行の準備をしてると
「立花さん。東都地検特捜部です。ドアを開けて下さい」
早い。何故だ。AI技術研究所の奴らはどうなったんだ。
ふふふっ、私もそろそろ消えますか。小林君ごめんね。
後藤は逃げたようね。地検もだらしないわね。彼の情報も渡したのに。
でも後藤、あなたへの復讐はまだ終わっていないわよ。
―――――
ありゃりゃ。地検特捜って、なんで?
白石さん、やっぱりあなたは何者?
後藤への復讐って?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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