12 / 15
第12話 ライバル企業
しおりを挟む第三臨床を厚労省に申請して三か月後、
私は、研究所に出社すると自分のデスクにハンドバッグを置いてPCを立ち上げようとした時、
「望月主任、見ましたかニュース」
「えっ、なに」
「なにじゃないです。里野義製薬が、アルツハイマー病の進行を止める薬を開発したと発表したんです。第三臨床は既に厚労省にも申請して許可が下りていると」
「何ですって…」
「望月主任、担当役員からの電話です」
「望月君、どういうことだね。里野義製薬が発表した治療薬は、我が社が開発した治療薬素のそのものじゃないか」
「……申し訳ございません。私も今知ったばかりで」
「とにかく、緊急に情報収集だ。最優先で行ってくれ」
「分かりました」
研究室に行くとこの話題で持ちきりだった。立花主任が私を見つけるなり寄って来て
「望月主任、これはどういうことだ」
「私に聞かれても分からないわ。役員から里野義製薬が今回発表した治療薬…私達の開発していた薬を何故発表出来たのか。もっと言い換えればどうして情報が漏れたのか。緊急に調べる様要請が有ったわ」
「立花主任。担当役員からの電話です。緊急です」
「あっ、いえ。はい。分かりました」
「望月主任。同じ指示が我々にも出たよ」
「……」
その後、一週間の間、新薬の開発を一時停止して、調査した結果、AI技術研究所のスーパーコンピュータに何者かが侵入してマザーからデータがハッキングされたことが分かった。
調査関係者を驚かせたのは、ハッキングが三回も行われていた事、ハッキングした日は、必ず本社へ報告が有る日だったことだ。
更にショックだったことは、二回目のハッキングの時、マザーへのアクセスで使われたパスコードが私のコードで有ったことだ。
この件は、外部に出ない事を条件に和樹に体を許したのに…。
AI技術研究所が竹山製薬にハッキングされた事実を隠していた事も問題として挙がった。
当然、私は、この研究から外され、自宅待機になった。
「あなた。ごめんなさい。あなたにまで迷惑が」
「友梨佳、大丈夫だよ。実は、君から話を聞いた段階で、経理部長を通して、新薬開発担当役員に説明してある。君が絶対できない理由もね。ちょっと恥ずかしかったが。
だから、君の自宅待機は、あらぬ中傷を回りから受けさせない為の役員と部長と僕が考えた結果さ。特別休暇位に思っておきなさい。この騒ぎが収まったら、また研究に戻れる。
もちろん、僕にもお咎めは無い。表向きは妻と夫は違う仕事をしているからというちょっと強引な理由だけどね」
「あなた…」
私は、自分の犯した夫への裏切り、罪の重さに後悔しか生まれて来なかった。
ただ、夫の胸の中で泣くしかなかった。
『立花さん、後藤です』
『今、電話してくるのは不味いのでは』
『いや、大した要件ではない。約束を守って貰った代償を実行したと伝えたくてね。もうこれきり連絡もしない』
いきなり電話が切れた。
急いでスマホから銀行預金口座を確認すると一億円が振り込まれていた。ふふっ、ほとぼりが冷めたら、これで海外旅行でもするか。白石にも分けないとな。旅行には白石も連れて行こう。楽しみが多くなる。
「影山室長。担当役員からの連絡です」
「分かった」
役員からの連絡は、担当の前で話せる内容ではない。俺は、室長室に戻ると
「はい、影山です」
「影山か。里野義製薬のニュース、随分にぎやかだな。ところで、前に説明の有った件、あれは本当だろうな」
「はい。間違いありません。犯人もほぼ特定できています」
「なに、犯人もか」
「多分。ですが、そいつが竹山製薬の新薬開発研究室にいるというのが腑に落ちない所です」
「お前さんも、我が社のセキュリティ室で油売ってるだろう」
「それは言わない約束です」
「はははっ、でっ、誰だ。想定している犯人は」
「レディフォックス(女狐)」
「なに、あのレディフォックスか。各国の情報機関が手を焼いているという」
「間違いありません。何度か、私も渡り合いましたが、相手にたどり着くことはおろか、アクセス経路さえも特定できなかったんですから。ですから、なぜこんなに分かり易いところにいるのかが分からないのです」
「ふふっ、面白いな。こっちの手駒に出来ないか」
「それは……」
私は笑いが止まらなかった。
里野義製薬の馬鹿どもが、碌にデータも確認しないで送られた情報を元に治療薬を作り発表するなんて。新薬開発工程のプロセスプロトコルもそこで使われているデータもよく見れば、おかしいと気付くはず。馬鹿どもね。
でも第三臨床で死人があまり出ないと良いのだけど。
自宅マンションでカップ麺をすすっていると、スマホがピコンとなった。
「あら、誰かしら私の口座に三千万。振込間違いなら、せっせと降ろして使ってしまおうかな。今度は、どこの島買おうかしら。前からの分もあるし。
後藤は里野義から始末される。これで私の復讐も終わる。その前に立花も失脚する。ふふふっ、男ってバカね」
それから一か月後、里野義製薬が第三臨床で使用したアルツハイマー病の治療薬によって、第一次治験者の半数が死亡したと各放送局がトップで報道した。
―――――
白石さん、あんた何者?
やっぱり女性って怖いよ~。
でも後藤さん、白石さんに何したの?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる