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第6話 戻る日常
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「柏木、じゃあ、また来週な」
「ああ、今回は車出して貰って悪かったな」
「全然気にするな。楽しかったから。じゃあな」
「おう」
土田にマンションの前で降ろして貰い、荷物を持って、部屋に戻った。
「ふー。楽しかったな」
「うん。楽しかった。ありがとう。あなた」
昨日の事が無ければ良かったんだけど。忘れよう。
「さて、取敢えず荷物を片付けよう」
「はい」
「里美、見てくれ。これ」
「わーっ、凄い」
「メジナは、焼いて、他は、煮付けしよう。型も大きいから、二人で十分おかずになる」
「はい」
昨日は、あの一件で聞くことが出来なかったが、夫は、メジナ、カサゴ、アイナメと結構釣っていた。
「土田さんは」
「ああ、あいつもそれなりに釣れていた。奥さんに調理してもらうんじゃないか」
「そう。土田さん夫婦の会話が目に浮かびそうね」
「ははっ、そうだな」
「里美、今日は飲まないのか」
「うん、昨日の事もあるし、今日は控えておく」
「そうか」
夫は、お酒を飲んだが、私は、さすがに止めておいた。
お風呂は、仕事の日以外は、一緒に入っていたが、今日は別々で入った。
変な跡が残っていないか、確認したいし、昨日の嫌な事を洗い流したい。
触られた所を一生懸命洗った。胸やお尻は、何度も洗った。
今日は、夫に思い切り抱いて貰って、昨日の事を忘れる事にしよう。幸い明日は、休みだし。
ベッドに先に入って、五分後に夫が、入って来た。
直ぐに寝ようとした夫に体を付けて
「ねえお願い。思い切りして。宿だとちょっと……だったから」
「えっ、……疲れてないのか。昨日の事もあるし」
「いいの。あなたに……」
どうしたんだろう。今日みたいな時は、直ぐに寝るのに。でもいいか。明日休みだし。
夫が唇を塞いできた。
いつもの様にゆっくり、胸からあそこに口付けしてくれて、それで……最後までしてくれて。もちろん後ろからもしてくれて。私もちょっと積極的になってしまった。
でも体の芯まで感じる事が出来た。声も思い切り出してしまった。これでいい。これで忘れる事が出来る。
妻のあそこは、いつもと同じだ。昨日のお風呂での事は気の性だったのかな。それとも里美が酔い過ぎていたからだろうか。
でも、今日の里美は、積極的で、喘ぎ声もいつもより大きい様な気がする。
「土田、おはよう」
「おはよう。奥さん、大丈夫だったか」
「えっ、ああ。家に帰ったらケロっとしてたよ。酔い過ぎたんだろ」
「そうか。それなら良かった」
「土田。夏休みも終わったし、気合入れないとな」
「いや、僕はスローに慣れていくよ」
「ははっ、そうか。いつものマイペースだな」
「当然」
あれから三ヶ月近くが経つ。私は、一つだけ頭の片隅に心配事を持っていた。
あの時、男は着けていなかった。もし、妊娠していれば、そろそろ体調に変化が有るはず。
夫の子供は欲しいが、万一あの時に受精していれば・・。恐ろしい想像だが、何も変化はない。大丈夫の様。
本当に忘れよう。何も無かったんだ。楽しい旅行だったんだ。夫も旅行の事は、もう口にしないし。
「柏木。総務から。創立記念パーティが有るんだと。課長職以上は、出席必須だとさ」
「冗談だろう。課長職以上だけで何人いると思っている」
「それが、これを見てくれ。柏木にもメールが届いているはずだ」
メール受信フォルダを最新にすると、
「おいおい、冗談だろう」
「ご愁傷様」
「この忙しい時に」
「里美。三週間後の話なんだが」
「えっ、なに」
食事が終わって、ウィスキーを飲みながら、総務通達を話す事にした。
「三週間後にわが社の創立記念パーティが有るんだが、課長職以上で指名された社員は、伴侶を連れて出席しろという通達が有った」
「え、えーっ」
「伴侶とは、言わず物がな、妻であり、婚約者であり、内定の妻や彼女で良いという事だ。僕は課長代理だが、総務からの指示で出席の命令が有った」
「そうですか。それは、強制ですか」
「強制という程ではないが、僕は今、課長昇進考査中の身だ。この機会に考査委員に良い印象を持って貰いたい。
普段は合えない人たちだから。そうそう、黒田課長も直属の上司として考査委員になっている。課長の強い推薦は、必要だ。
今回のパーティへの出席は、黒田課長が、考査委員に僕の印象を良くしようという狙いもあるみたいだ」
「断れないですね」
「ああ、里美がこういうの好きじゃない事は、分かっているけど、今回は、頼む。課長職に成ったら、好きな物一つ買ってあげるよ」
「ほんと。じゃあ出ちゃおうかな」
里美は、結構現金だな。僕も妻を会社の人の目に晒したくないのは、本音だが。
三週間後、都内のホテルで創立記念パーティが開かれた。アメリカの親会社からも社長をはじめとした役員が来日している。
「なるほどな、部長以上じゃ手に余るから、課長職以上で、将来性のある人間を出席させたのか」
出席している社員は、柏木と同じように課長昇進考査中の者等も含まれていた。
里美の今日の洋服は、淡いクリームのワンピースに白のハイヒールだ。少し腰が絞ってあるせいか、胸とお尻が強調されている。
お化粧は、パーティという事で少しはっきりしていて、可愛さと綺麗さが、強調されていた。明らかに目立っている。
周りの社員が、里美に視線を送っているのが分かる。
まだ課長代理の僕は、端の席で妻と一緒に社長や来賓のスピーチを聞いた後、ホテルで用意しているパーティ会場に移った。
「あなた、なんか居心地悪い」
「仕方ないよ。皆、君に視線送っているんだから」
「皆さん、奥様連れているのに良いですかね」
「いあや、良く無い様だ。ほら右前方見て、マーケの部長が奥方から肘鉄食らっている」
「ふふっ、そうね。でもあなたは、他の奥様をジロジロ見ないでね」
「当たり前だ。この中では、一番美しいのは君だからな」
「ふふっ、嬉しいわ」
二人で話していると、パーティ主催者の音頭の元、乾杯が行われ、歓談の時間になった。
「里美。色々な方に挨拶するけど、我慢してくれ」
「我慢って」
「君をしっかり見ようとする人達の視線さ」
「もう。分かりました!」
「柏木君」
「………っ!」
その声に体に電気が走った様に驚いた。あの時の声だ。
―――――
おっと、意外な所で悪夢が甦るか・・。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
「ああ、今回は車出して貰って悪かったな」
「全然気にするな。楽しかったから。じゃあな」
「おう」
土田にマンションの前で降ろして貰い、荷物を持って、部屋に戻った。
「ふー。楽しかったな」
「うん。楽しかった。ありがとう。あなた」
昨日の事が無ければ良かったんだけど。忘れよう。
「さて、取敢えず荷物を片付けよう」
「はい」
「里美、見てくれ。これ」
「わーっ、凄い」
「メジナは、焼いて、他は、煮付けしよう。型も大きいから、二人で十分おかずになる」
「はい」
昨日は、あの一件で聞くことが出来なかったが、夫は、メジナ、カサゴ、アイナメと結構釣っていた。
「土田さんは」
「ああ、あいつもそれなりに釣れていた。奥さんに調理してもらうんじゃないか」
「そう。土田さん夫婦の会話が目に浮かびそうね」
「ははっ、そうだな」
「里美、今日は飲まないのか」
「うん、昨日の事もあるし、今日は控えておく」
「そうか」
夫は、お酒を飲んだが、私は、さすがに止めておいた。
お風呂は、仕事の日以外は、一緒に入っていたが、今日は別々で入った。
変な跡が残っていないか、確認したいし、昨日の嫌な事を洗い流したい。
触られた所を一生懸命洗った。胸やお尻は、何度も洗った。
今日は、夫に思い切り抱いて貰って、昨日の事を忘れる事にしよう。幸い明日は、休みだし。
ベッドに先に入って、五分後に夫が、入って来た。
直ぐに寝ようとした夫に体を付けて
「ねえお願い。思い切りして。宿だとちょっと……だったから」
「えっ、……疲れてないのか。昨日の事もあるし」
「いいの。あなたに……」
どうしたんだろう。今日みたいな時は、直ぐに寝るのに。でもいいか。明日休みだし。
夫が唇を塞いできた。
いつもの様にゆっくり、胸からあそこに口付けしてくれて、それで……最後までしてくれて。もちろん後ろからもしてくれて。私もちょっと積極的になってしまった。
でも体の芯まで感じる事が出来た。声も思い切り出してしまった。これでいい。これで忘れる事が出来る。
妻のあそこは、いつもと同じだ。昨日のお風呂での事は気の性だったのかな。それとも里美が酔い過ぎていたからだろうか。
でも、今日の里美は、積極的で、喘ぎ声もいつもより大きい様な気がする。
「土田、おはよう」
「おはよう。奥さん、大丈夫だったか」
「えっ、ああ。家に帰ったらケロっとしてたよ。酔い過ぎたんだろ」
「そうか。それなら良かった」
「土田。夏休みも終わったし、気合入れないとな」
「いや、僕はスローに慣れていくよ」
「ははっ、そうか。いつものマイペースだな」
「当然」
あれから三ヶ月近くが経つ。私は、一つだけ頭の片隅に心配事を持っていた。
あの時、男は着けていなかった。もし、妊娠していれば、そろそろ体調に変化が有るはず。
夫の子供は欲しいが、万一あの時に受精していれば・・。恐ろしい想像だが、何も変化はない。大丈夫の様。
本当に忘れよう。何も無かったんだ。楽しい旅行だったんだ。夫も旅行の事は、もう口にしないし。
「柏木。総務から。創立記念パーティが有るんだと。課長職以上は、出席必須だとさ」
「冗談だろう。課長職以上だけで何人いると思っている」
「それが、これを見てくれ。柏木にもメールが届いているはずだ」
メール受信フォルダを最新にすると、
「おいおい、冗談だろう」
「ご愁傷様」
「この忙しい時に」
「里美。三週間後の話なんだが」
「えっ、なに」
食事が終わって、ウィスキーを飲みながら、総務通達を話す事にした。
「三週間後にわが社の創立記念パーティが有るんだが、課長職以上で指名された社員は、伴侶を連れて出席しろという通達が有った」
「え、えーっ」
「伴侶とは、言わず物がな、妻であり、婚約者であり、内定の妻や彼女で良いという事だ。僕は課長代理だが、総務からの指示で出席の命令が有った」
「そうですか。それは、強制ですか」
「強制という程ではないが、僕は今、課長昇進考査中の身だ。この機会に考査委員に良い印象を持って貰いたい。
普段は合えない人たちだから。そうそう、黒田課長も直属の上司として考査委員になっている。課長の強い推薦は、必要だ。
今回のパーティへの出席は、黒田課長が、考査委員に僕の印象を良くしようという狙いもあるみたいだ」
「断れないですね」
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里美は、結構現金だな。僕も妻を会社の人の目に晒したくないのは、本音だが。
三週間後、都内のホテルで創立記念パーティが開かれた。アメリカの親会社からも社長をはじめとした役員が来日している。
「なるほどな、部長以上じゃ手に余るから、課長職以上で、将来性のある人間を出席させたのか」
出席している社員は、柏木と同じように課長昇進考査中の者等も含まれていた。
里美の今日の洋服は、淡いクリームのワンピースに白のハイヒールだ。少し腰が絞ってあるせいか、胸とお尻が強調されている。
お化粧は、パーティという事で少しはっきりしていて、可愛さと綺麗さが、強調されていた。明らかに目立っている。
周りの社員が、里美に視線を送っているのが分かる。
まだ課長代理の僕は、端の席で妻と一緒に社長や来賓のスピーチを聞いた後、ホテルで用意しているパーティ会場に移った。
「あなた、なんか居心地悪い」
「仕方ないよ。皆、君に視線送っているんだから」
「皆さん、奥様連れているのに良いですかね」
「いあや、良く無い様だ。ほら右前方見て、マーケの部長が奥方から肘鉄食らっている」
「ふふっ、そうね。でもあなたは、他の奥様をジロジロ見ないでね」
「当たり前だ。この中では、一番美しいのは君だからな」
「ふふっ、嬉しいわ」
二人で話していると、パーティ主催者の音頭の元、乾杯が行われ、歓談の時間になった。
「里美。色々な方に挨拶するけど、我慢してくれ」
「我慢って」
「君をしっかり見ようとする人達の視線さ」
「もう。分かりました!」
「柏木君」
「………っ!」
その声に体に電気が走った様に驚いた。あの時の声だ。
―――――
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