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第19話 康人の復帰
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朝の廻診が終わり、面会の時間がやって来た。
個室なので、その辺は多少緩かったが。
ドアがノックされると
「河西君」
「中田社長。わざわざ」
入ってくるなり、ベッドの側まで来ていきなり床に正座した。
「河西君。この度は本当に申し訳なかった。愚息の行いとはいえ、親である私にも責任がある。この通りだ」
床に手を着いて、頭を下げた。
「…頭を上げて下さい。社長が謝る事はないです。洋二さんの所為です」
「しかし」
「今、洋二さんは」
「さんなんぞ付けないでくれ。あいつは、今府中の刑務所にいる。七年の服役だ。出所したらすぐにブラジル支店に飛ばす。河西君達の目には触れないようにする」
「分かりました。もう、手を上げて下さい。香澄、椅子を」
「はい」
「社長、仕事ですが」
「気にするな。事務代理印は、常務の岩城にやらせる。専務決済案は、私が、受け持つ」
「しかし、それでは社長が」
「いいんだ。せめてこの位はやらせてくれ。むしろゆっくり休んで退院後、しっかりとした体で出社してくれることが、今の君の仕事だ」
「…ありがとうございます」
中田社長が、病室を出てから、一時間くらいして、金田社長が薫と美香を連れて入って来た。
「河西君。具合はどうだ」
「大分、楽になりました。まだこれからですが、肝臓の回復は順調だと主治医が言っていました」
「そうか。それは、良かった。中田社長は来ましたか」
香澄の顔を見て聞いている。
「はい、先ほどお見舞いに来て下さいました」
「そうですか。君が刺された後の中田の様子は見られたものじゃなかった。ここに来れるまでに立ち直ったのか」
「…そこまで」
「ああ」
少し、話した後、香澄と美香を残して金田社長が帰って行った。
「康人さん。良かったです。本当に良かったです」
香澄がいる事も気にせずにベッドの側に来て僕に近付いて言う。
自由にできる手を握り、頬を寄せて目を瞑った。目から涙がこぼれている。
少しの時間が経った後、薫は目を開けて、
「美香、こちらに来なさい」
「はい、お母様」
「康人さん、美香です」
「美香ちゃんか。元気にしているか」
「はい、お父様」
それを確認すると薫は、
「香澄さん、すみませんでした。これで帰らせて頂きます」
薫は、美香の手を繋いで病室を出て行った。
私は、ショックだった。薫さんは、康人にとって、言い方は悪いが、公認の愛人。そう思っていた。
だけど、それが間違いだったことを知った。薫さんにとって康人は心の中では夫であり、自分の子美香は、康人が血を分けた子供であるという事を。
涙が出て来た。自分は、康人の妻であり、美羽は夫の子供。これが事実のはず。でも…。
「香澄、どうした」
「いえ、何でもありません。すみません」
僕は、香澄が何を思ったのか、少しだけ感じた。薫の行動。それに反応したんだ。特に最後の言葉「はい、お父様」という言葉に。
私は、美香の手を引きながら康人さんの病室を出て廊下を歩いている。
ふふっ、これで香澄さんに一歩リードよ。
一か月後、
「河西さん、一昨日の精密検査の結果が出ました。患部はほぼ回復しました。あばら骨も順調に修復し、補強材も消えつつあります。明後日には、退院できると思います」
「本当ですか」
「あなた、良かった」
主治医の言葉に僕は感激を覚えた。やっと病院を出れる。二週間前からのリハビリも最初はきつかったが、今は、痛みもなくなった。これで仕事にも復帰できる。
「河西さん。退院は出来ますが、経過観察をする必要があります。当分は、一週間に一度患部を見せに来て下さい。それと…。激しい運動は絶対に禁物です。肝臓に負担を掛ける様な事は、しないで下さい」
「望月先生」
「なにか」
「ちょっと」
先生の耳に口を近づけて
「あちらは」
「控えめにして下さい。するなとは言いませんが」
真面目な顔をして言う先生に
「分かりました」
はあ、これから大変そう。
僕は無事に退院した。玄関には主治医の他、今までお世話になった看護師の皆さんが送りに来てくれた。
やっと病院を出れる反面、ちょっと寂しさを感じたのも事実だった。
退院したその週は、家で過ごした。いきなり出社は無理だろうと自分で判断したからだ。会社には、病院から家に戻るとすぐに電話した。
「中田社長。河西専務からお電話です」
「なに、そうか。直ぐに繋いでくれ」
「中田社長、河西です。本日退院しました。長い間、ご迷惑かけてすみませんでした」
「何を言っている。復帰してくれるだけでも嬉しい。いつから来れる」
「はい、来週の月曜からは普通に出社できると思います」
「分かった、ここ一ヶ月の引継ぎも含めて岩城常務に言っておこう。月曜は出社したら、私の所へ一番に来てくれ」
「承知しました」
「月曜日を楽しみにしているぞ」
「はい」
久々の家族での夕食。テーブルには結構な料理が並べられていた。
「凄いな。香澄」
「あなた、今日は退院祝いです」
「お父さん、美羽もお手伝いしたのよ」
「それは凄いな」
僕の膝元で甘えている可愛い娘に言うと
「ふふっ、そうですよ。美羽もいっぱいお手伝いしてくれました」
「お父さんは、もう病院行かなくていいの」
「もう少し、通院するよ。一週間に一度位」
「一週間に一度かあ。しかたないな。でも、もうずっと美羽の側に居てくれるんでしょ」
「うんそうだよ」
美羽が、膝の上で僕に抱き着いて来た。
「あなた、お風呂に入りましょう」
「えっ」
「背中を流さしてください」
「…わ、分かった」
夫の背中を見た。大きな傷が、右背中にある。優しく指で触った。そして背中を優しく撫でる様に洗うと自分の体を夫の背中に着けた。
ああ、康人の体。嬉しい。また、こんなに体を合せる事が出来る日が来るなんて。
「…香澄?」
「前も洗わせてください」
「い、いや、前は自分で」
「洗わせてください!」
少し強く言った。
「わ、分かった」
しっかりと体全体を妻に洗って貰った。特にあそこは念入りに。口でも洗ってくれた。
おかげで…。
でも、この位は、激しい運動じゃないよね。先生!
―――――
河西康人君、早くも○○ケル必要か?!
香澄さんと薫さんの心の戦いも復活です。
来週は、いよいよ仕事開始です。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
個室なので、その辺は多少緩かったが。
ドアがノックされると
「河西君」
「中田社長。わざわざ」
入ってくるなり、ベッドの側まで来ていきなり床に正座した。
「河西君。この度は本当に申し訳なかった。愚息の行いとはいえ、親である私にも責任がある。この通りだ」
床に手を着いて、頭を下げた。
「…頭を上げて下さい。社長が謝る事はないです。洋二さんの所為です」
「しかし」
「今、洋二さんは」
「さんなんぞ付けないでくれ。あいつは、今府中の刑務所にいる。七年の服役だ。出所したらすぐにブラジル支店に飛ばす。河西君達の目には触れないようにする」
「分かりました。もう、手を上げて下さい。香澄、椅子を」
「はい」
「社長、仕事ですが」
「気にするな。事務代理印は、常務の岩城にやらせる。専務決済案は、私が、受け持つ」
「しかし、それでは社長が」
「いいんだ。せめてこの位はやらせてくれ。むしろゆっくり休んで退院後、しっかりとした体で出社してくれることが、今の君の仕事だ」
「…ありがとうございます」
中田社長が、病室を出てから、一時間くらいして、金田社長が薫と美香を連れて入って来た。
「河西君。具合はどうだ」
「大分、楽になりました。まだこれからですが、肝臓の回復は順調だと主治医が言っていました」
「そうか。それは、良かった。中田社長は来ましたか」
香澄の顔を見て聞いている。
「はい、先ほどお見舞いに来て下さいました」
「そうですか。君が刺された後の中田の様子は見られたものじゃなかった。ここに来れるまでに立ち直ったのか」
「…そこまで」
「ああ」
少し、話した後、香澄と美香を残して金田社長が帰って行った。
「康人さん。良かったです。本当に良かったです」
香澄がいる事も気にせずにベッドの側に来て僕に近付いて言う。
自由にできる手を握り、頬を寄せて目を瞑った。目から涙がこぼれている。
少しの時間が経った後、薫は目を開けて、
「美香、こちらに来なさい」
「はい、お母様」
「康人さん、美香です」
「美香ちゃんか。元気にしているか」
「はい、お父様」
それを確認すると薫は、
「香澄さん、すみませんでした。これで帰らせて頂きます」
薫は、美香の手を繋いで病室を出て行った。
私は、ショックだった。薫さんは、康人にとって、言い方は悪いが、公認の愛人。そう思っていた。
だけど、それが間違いだったことを知った。薫さんにとって康人は心の中では夫であり、自分の子美香は、康人が血を分けた子供であるという事を。
涙が出て来た。自分は、康人の妻であり、美羽は夫の子供。これが事実のはず。でも…。
「香澄、どうした」
「いえ、何でもありません。すみません」
僕は、香澄が何を思ったのか、少しだけ感じた。薫の行動。それに反応したんだ。特に最後の言葉「はい、お父様」という言葉に。
私は、美香の手を引きながら康人さんの病室を出て廊下を歩いている。
ふふっ、これで香澄さんに一歩リードよ。
一か月後、
「河西さん、一昨日の精密検査の結果が出ました。患部はほぼ回復しました。あばら骨も順調に修復し、補強材も消えつつあります。明後日には、退院できると思います」
「本当ですか」
「あなた、良かった」
主治医の言葉に僕は感激を覚えた。やっと病院を出れる。二週間前からのリハビリも最初はきつかったが、今は、痛みもなくなった。これで仕事にも復帰できる。
「河西さん。退院は出来ますが、経過観察をする必要があります。当分は、一週間に一度患部を見せに来て下さい。それと…。激しい運動は絶対に禁物です。肝臓に負担を掛ける様な事は、しないで下さい」
「望月先生」
「なにか」
「ちょっと」
先生の耳に口を近づけて
「あちらは」
「控えめにして下さい。するなとは言いませんが」
真面目な顔をして言う先生に
「分かりました」
はあ、これから大変そう。
僕は無事に退院した。玄関には主治医の他、今までお世話になった看護師の皆さんが送りに来てくれた。
やっと病院を出れる反面、ちょっと寂しさを感じたのも事実だった。
退院したその週は、家で過ごした。いきなり出社は無理だろうと自分で判断したからだ。会社には、病院から家に戻るとすぐに電話した。
「中田社長。河西専務からお電話です」
「なに、そうか。直ぐに繋いでくれ」
「中田社長、河西です。本日退院しました。長い間、ご迷惑かけてすみませんでした」
「何を言っている。復帰してくれるだけでも嬉しい。いつから来れる」
「はい、来週の月曜からは普通に出社できると思います」
「分かった、ここ一ヶ月の引継ぎも含めて岩城常務に言っておこう。月曜は出社したら、私の所へ一番に来てくれ」
「承知しました」
「月曜日を楽しみにしているぞ」
「はい」
久々の家族での夕食。テーブルには結構な料理が並べられていた。
「凄いな。香澄」
「あなた、今日は退院祝いです」
「お父さん、美羽もお手伝いしたのよ」
「それは凄いな」
僕の膝元で甘えている可愛い娘に言うと
「ふふっ、そうですよ。美羽もいっぱいお手伝いしてくれました」
「お父さんは、もう病院行かなくていいの」
「もう少し、通院するよ。一週間に一度位」
「一週間に一度かあ。しかたないな。でも、もうずっと美羽の側に居てくれるんでしょ」
「うんそうだよ」
美羽が、膝の上で僕に抱き着いて来た。
「あなた、お風呂に入りましょう」
「えっ」
「背中を流さしてください」
「…わ、分かった」
夫の背中を見た。大きな傷が、右背中にある。優しく指で触った。そして背中を優しく撫でる様に洗うと自分の体を夫の背中に着けた。
ああ、康人の体。嬉しい。また、こんなに体を合せる事が出来る日が来るなんて。
「…香澄?」
「前も洗わせてください」
「い、いや、前は自分で」
「洗わせてください!」
少し強く言った。
「わ、分かった」
しっかりと体全体を妻に洗って貰った。特にあそこは念入りに。口でも洗ってくれた。
おかげで…。
でも、この位は、激しい運動じゃないよね。先生!
―――――
河西康人君、早くも○○ケル必要か?!
香澄さんと薫さんの心の戦いも復活です。
来週は、いよいよ仕事開始です。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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