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39.アレス、突入する
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“会いたい”
水鏡の中で、オルフェが泣いている。
しかし、その言葉をもう一度聞いたのに、会いに行くことをためらっている自分がいて、アレスは驚いた。
これ以上何をためらう必要があるのか。
けれど。
オルフェは親友の男を受け入れるかもしれない。人間同士、それが良いのかもしれない。
けれど。
けれど。
「くそっ!」
考えることが嫌になり、勢いで人間たちの世界へと続く道を開く。
自分を祀る神殿や祠などあれば、神から道を作ることはとても簡単なのだ。しかし、今までアレスはほとんどそれをしたことがなかった。
十年に一度の祭りの時のみ。
けれど今それをせず、いつ力を使うというのか。
道を開き、走ってオルフェの元へと向かう。
オルフェの村の祠から、オルフェの家はそこまで遠くない。
勢いで走って走って、その勢いのままオルフェの家のドアを開けた。
するとそこには、床に押し倒されて、服を脱がされそうになっているオルフェがいた。
「オルフェに触れるな!」
オルフェの上に覆いかぶさった男をはがすと、勢いのままオルフェを抱きしめる。
「大丈夫か?」
抱きしめて、オルフェの顔を覗き込む。
そこには確かに泣いた後があって、苦しくなるほど胸が痛んだ。
会いたかった。
抱きしめたかった。
もう離したくない。
その気持ちをきちんと言葉にすることは、今のアレスには難しすぎて、ただオルフェを抱きしめる。
最後の日、手が触れたのに抱きしめることができなかった。
手を伸ばしても、水鏡の中には届かなかった。
もう会わないと、会えないと思っていた。
けれど、抱きしめて気づく。どうしてもう会わないと思えたのだろう。こんなにもオルフェの体は、体温はアレスにぴったりとハマるのに。
これを失くして生きていけるほど、アレスは心を無くしたつもりはなかったのに。
「あぁ、オルフェ……。オルフェ」
思う存分抱きしめて、ようやくアレスはオルフェから何も反応が返ってこないことに気づく。
そしてオルフェを見下ろすと、彼は目を大きく開いたまま固まっていた。
「オルフェ?」
オルフェは何も言わないまま、アレスから体を離す。
体温が離れるのが嫌で、アレスは引き留めようとするが、オルフェは有無を言わせない強い力でアレスを引きはがす。
そして倒れたマルスの元へと向かった。
「マルス。ちょっともうよく分からんのだけど、とりあえず今日は帰ってくれる?」
アレスが現れたというのに、まさか他の男に声をかけるなんて。嫉妬のままアレスが声を荒げようとするのを、マルスが遮った。
「その男が、オルフェを襲った神様なの?なんでいるの。もう二度と会わないんじゃないの?ねぇオルフェ、僕よりその男を取るの!?そんな男のどこがいいのさ!」
狂ったように泣き叫ぶマルスに対して、恐ろしいほど冷静にオルフェが首を横に振ってみせる。
「マルス。お前は俺の親友だ。俺にとっては、それがすべてなんだ。流されてセックスしようとしてごめん。でもそれをしたって、俺たちの関係は変わらない」
「オルフェ。僕はこんなにも君のことを思っているのに」
「ごめん」
オルフェの言葉に、なおも言い募ろうとするマルスに、アレスは耐え切れなくなる。
こいつがいる限り、オルフェは私を見ない。アレスはそう思い、マルスの肩を掴んで、家の外へと強い力で引きずる。
抵抗されるが、そんなことは些細なことだ。
「オルフェは、私のものだ」
ドアの外にマルスを放り出し、オルフェに聞こえないのを良いことにそう告げる。
「二度とこんなことをするな。もしオルフェを悲しませるようなことをしたら、お前の家族すべてを呪ってやる」
それだけ最後に言い放ち、マルスの目の前でドアを閉める。
ようやく、邪魔者がいなくなった。
そう思ってアレスがオルフェに向き直ると、オルフェはどうすればよいか分からずに泣きそうな顔をして、固まっていた。
「オルフェ。すまない、もう二度と会わないと思ったのに、耐え切れずに来てしまった」
抱きしめようと腕を伸ばすが、オルフェにその手を振り払われる。
なぜだ。
先ほどまで、オルフェはアレスの名を呼んで、会いたいと言っていたのに。
「無理。帰って」
オルフェはアレスの目を見て、そう話す。
「なぜ」
意味が分からずに、強い口調でアレスは言い返す。するとオルフェは、それ以上に言葉を荒げた。
「ふざけるな!もう二度と会えないから、俺はもう忘れようと思ったんだ!なんで会えるんだよ。だって!だって!!」
「すまない、オルフェ。だが私は、忘れられなかった」
「俺だって!でも、あんたは神様で、俺はただの人間で。馬鹿でアホで、優しくもないし、何もかも神様にはふさわしくなくて!もう嫌だ。もう、こんなに苦しいの、嫌だ」
「オルフェ」
何を言ってもうまく伝わらない気がして、アレスはオルフェを無理矢理抱きしめる。するとオルフェが、アレスが肌身離さず持っていたベールに気づく。ずっと懐に入れて大切に持っていたのだ。
「こんなことされて、もう俺、分かんないよ。分かんない、アレス。もう嫌だ。もう、離せよ。帰れよ。もう嫌だよ。もう」
「それでも私は、お前を抱きしめたい」
「でも、それでまたアレスはいなくなるんだ。もう嫌だ。嫌だよ。またあんな思いするくらいなら、もう二度と会いたくなんてなかった。早く離れろよ。また、また」
「もう黙れ」
抵抗するオルフェの頭を掴むと、そのまま無理矢理アレスはオルフェに口づけた。抵抗されるかと思いきや、すんなりと唇が重なる。
けれどその唇は涙にぬれて、塩辛い味がした。
水鏡の中で、オルフェが泣いている。
しかし、その言葉をもう一度聞いたのに、会いに行くことをためらっている自分がいて、アレスは驚いた。
これ以上何をためらう必要があるのか。
けれど。
オルフェは親友の男を受け入れるかもしれない。人間同士、それが良いのかもしれない。
けれど。
けれど。
「くそっ!」
考えることが嫌になり、勢いで人間たちの世界へと続く道を開く。
自分を祀る神殿や祠などあれば、神から道を作ることはとても簡単なのだ。しかし、今までアレスはほとんどそれをしたことがなかった。
十年に一度の祭りの時のみ。
けれど今それをせず、いつ力を使うというのか。
道を開き、走ってオルフェの元へと向かう。
オルフェの村の祠から、オルフェの家はそこまで遠くない。
勢いで走って走って、その勢いのままオルフェの家のドアを開けた。
するとそこには、床に押し倒されて、服を脱がされそうになっているオルフェがいた。
「オルフェに触れるな!」
オルフェの上に覆いかぶさった男をはがすと、勢いのままオルフェを抱きしめる。
「大丈夫か?」
抱きしめて、オルフェの顔を覗き込む。
そこには確かに泣いた後があって、苦しくなるほど胸が痛んだ。
会いたかった。
抱きしめたかった。
もう離したくない。
その気持ちをきちんと言葉にすることは、今のアレスには難しすぎて、ただオルフェを抱きしめる。
最後の日、手が触れたのに抱きしめることができなかった。
手を伸ばしても、水鏡の中には届かなかった。
もう会わないと、会えないと思っていた。
けれど、抱きしめて気づく。どうしてもう会わないと思えたのだろう。こんなにもオルフェの体は、体温はアレスにぴったりとハマるのに。
これを失くして生きていけるほど、アレスは心を無くしたつもりはなかったのに。
「あぁ、オルフェ……。オルフェ」
思う存分抱きしめて、ようやくアレスはオルフェから何も反応が返ってこないことに気づく。
そしてオルフェを見下ろすと、彼は目を大きく開いたまま固まっていた。
「オルフェ?」
オルフェは何も言わないまま、アレスから体を離す。
体温が離れるのが嫌で、アレスは引き留めようとするが、オルフェは有無を言わせない強い力でアレスを引きはがす。
そして倒れたマルスの元へと向かった。
「マルス。ちょっともうよく分からんのだけど、とりあえず今日は帰ってくれる?」
アレスが現れたというのに、まさか他の男に声をかけるなんて。嫉妬のままアレスが声を荒げようとするのを、マルスが遮った。
「その男が、オルフェを襲った神様なの?なんでいるの。もう二度と会わないんじゃないの?ねぇオルフェ、僕よりその男を取るの!?そんな男のどこがいいのさ!」
狂ったように泣き叫ぶマルスに対して、恐ろしいほど冷静にオルフェが首を横に振ってみせる。
「マルス。お前は俺の親友だ。俺にとっては、それがすべてなんだ。流されてセックスしようとしてごめん。でもそれをしたって、俺たちの関係は変わらない」
「オルフェ。僕はこんなにも君のことを思っているのに」
「ごめん」
オルフェの言葉に、なおも言い募ろうとするマルスに、アレスは耐え切れなくなる。
こいつがいる限り、オルフェは私を見ない。アレスはそう思い、マルスの肩を掴んで、家の外へと強い力で引きずる。
抵抗されるが、そんなことは些細なことだ。
「オルフェは、私のものだ」
ドアの外にマルスを放り出し、オルフェに聞こえないのを良いことにそう告げる。
「二度とこんなことをするな。もしオルフェを悲しませるようなことをしたら、お前の家族すべてを呪ってやる」
それだけ最後に言い放ち、マルスの目の前でドアを閉める。
ようやく、邪魔者がいなくなった。
そう思ってアレスがオルフェに向き直ると、オルフェはどうすればよいか分からずに泣きそうな顔をして、固まっていた。
「オルフェ。すまない、もう二度と会わないと思ったのに、耐え切れずに来てしまった」
抱きしめようと腕を伸ばすが、オルフェにその手を振り払われる。
なぜだ。
先ほどまで、オルフェはアレスの名を呼んで、会いたいと言っていたのに。
「無理。帰って」
オルフェはアレスの目を見て、そう話す。
「なぜ」
意味が分からずに、強い口調でアレスは言い返す。するとオルフェは、それ以上に言葉を荒げた。
「ふざけるな!もう二度と会えないから、俺はもう忘れようと思ったんだ!なんで会えるんだよ。だって!だって!!」
「すまない、オルフェ。だが私は、忘れられなかった」
「俺だって!でも、あんたは神様で、俺はただの人間で。馬鹿でアホで、優しくもないし、何もかも神様にはふさわしくなくて!もう嫌だ。もう、こんなに苦しいの、嫌だ」
「オルフェ」
何を言ってもうまく伝わらない気がして、アレスはオルフェを無理矢理抱きしめる。するとオルフェが、アレスが肌身離さず持っていたベールに気づく。ずっと懐に入れて大切に持っていたのだ。
「こんなことされて、もう俺、分かんないよ。分かんない、アレス。もう嫌だ。もう、離せよ。帰れよ。もう嫌だよ。もう」
「それでも私は、お前を抱きしめたい」
「でも、それでまたアレスはいなくなるんだ。もう嫌だ。嫌だよ。またあんな思いするくらいなら、もう二度と会いたくなんてなかった。早く離れろよ。また、また」
「もう黙れ」
抵抗するオルフェの頭を掴むと、そのまま無理矢理アレスはオルフェに口づけた。抵抗されるかと思いきや、すんなりと唇が重なる。
けれどその唇は涙にぬれて、塩辛い味がした。
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