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最終章:大魔王討伐

第60話 勇者の大剣

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 ぺちゃくちゃとお喋りをしながら、朝陽とソチネは、二人で一つの魔法陣を描いた。円の中心にいる大魔王が暴れる中、迷いのない線で描き上げていく。

 ソチネがポッと頬を赤らめる。

「私とアサヒが二人で考えた魔法陣を、私たち二人で描き上げていく……。これが私たちの初めての共同作業なのね……。なんて素敵なの」
「これがケーキ入刀かあ……。まあ、確かに僕たちらしくて悪くないですね」
「アサヒ!? それってつまり、今私たちは結婚式を挙げてるってこと!?」
「たくさん観客もいますし、もうそれでいいんじゃないですか?」

 沸騰したソチネの頭から湯気が立つ。彼女は作業を中断して、朝陽の背中に抱きついた。

「じゃあ誓いのキスをしなきゃね!! ほら、アサヒ、早く早く!」
「早く作業に戻ってください。時間が差し迫ってるんですよ。真面目にやってください」
「あっ、はい。すみません」

 ふざけた二人のやりとりに、激怒した大魔王が雷を打ち落とす。しかし、ソチネを庇った朝陽に直撃はしたものの、ダメージを与えることはできなかった。その後も大魔王の足掻きは絶えず続いたが、どれも朝陽の恐ろしいほどまでの耐久力の壁を砕けなかった。

 一時間ほどで、大魔王を中心に置いた魔法陣が完成した。儀式はソチネが師をつとめ、朝陽、リヴィル、ドロリスが、襲いかかる魔物を倒しつつソチネをサポートをする。

 大魔王討伐に向けてソチネと朝陽が共同で作り出した儀式。それは、大魔王の魂の転生を止めさせるものだった。

(この儀式は、私が人生をかけてずっと作り出そうとしていたもの。でも私一人じゃ無理だった。アサヒがいなければ、完成しなかった)

 ソチネは、この時のために新たに生み出した「太陽の第〇」ペンタクルを掲げ、リヴィルに合図する。

 リヴィルが聖木の木の実とフルーバの聖水を大魔王の頭の上に撒いた。
 続いてドロリスが、自身の爪と髪、そして血を大魔王の足元に置く。
 最後に朝陽が、林檎と衣服を大魔王の胸の上に載せた。

 跪き、長い呪文を唱えるソチネは、まるで永遠の誓いをしているようだった。

「ア……アァッ……アアアアアアァァアァッ……ッ!!」

 大魔王の絶叫が部屋に響き渡る。しかし、苦しんでいるだけで消滅する気配はない。

 ソチネは舌打ちした。

「思ってた以上に大魔王の魂が濃かったようね……。このままじゃ、この儀式は失敗に終わる……っ」

 ぬっとソチネの背後から影が伸びた。振り返ると、剣を握った勇者が瞳に映り、ソチネは顔を歪ませる。

「この期に及んでまだ私たちの邪魔をする気……!?」

 勇者は無表情のまま首を横に振る。

「チガウ……。コノ剣……を、使ウト良い……。コレは、勇者が代々使ッテいたモノ。大魔王と縁ガ深く、勇者タチの大魔王ヘノ想いガ詰まってイルハズだカラ……。役に立ツかもシレナイ」
「……」

 ソチネがおそるおそる剣を受け取り、アサヒに指示を出す。

「アサヒ、この剣を天に突き付けて」
「えっ、僕ですか」
「あなたしかマトモなヒト族がいないのよ」
「わ、分かりました」

 勇者の剣を渡された朝陽は、その剣のずっしりとした重みと、剣に沁み込んだ勇者の汗の匂いを感じ、なぜか涙が出そうになった。

 朝陽は慣れない手つきで剣を握り、「よっこらせ!」と恰好がつかない掛け声で勇者の剣を空高く突き上げた。

「ギャッ、ギャァッ……ギエアァァァアアァッ!!」
「アサヒ! ちょっとビリビリッて来るけど我慢してね!!」
「は、はい!」

 ソチネが即興で考えた新たな呪文を唱え、特級「雷」魔法スクロールを展開する。
 雷鳴が轟き、大魔王城に大雷が落ちた。それは勇者の剣を通じ大魔王の心臓を捉える。

 その光景を見て、勇者は自嘲的に笑った。

「ハッ……。『勇者が伝説の剣を天に突き付けたら、大魔王が雷に打たれて死んだ』……嘘ッパチだった歴史ガ、勇者ガ大魔王に魂ヲ売った日に、アサヒが本当の歴史ニしてシマウナンテな……。どこまでも、憎タラしいヤツだ、オ前は……」

 長い断末魔のあと、魔法陣の中に残ったのは、巨大な魔石だけだった。
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