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最終章:大魔王討伐
第59話 交渉材料
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勇者は目を見開き、ぶるぶると震えた。
「ナ……ナニを言ってイルンダ!? オ、オ前、俺ヲ裏切る気カ!?」
「裏切るも何も、元々そのつもりで君を仲間にしたんだけどなあ」
「ナンダト……!? お、お前ハ、オレのコトを、右腕ダト言ったジャナイか……!! 大切ニするト……ッ」
「うん。この時までは大切にするつもりだった。だって交渉材料なわけだから」
ドロリスはこんな気持ちであの光景を見ていたのかな、と朝陽は三年前の出来事を反芻した。
失意と怒りに支配された勇者が、ボロボロの体を起こして泣き叫ぶ。その声が不快だったのか、大魔王はうんざりした表情で耳の穴に指を突っ込んだ。
「もう。うるさいなお前。もういいよ、交渉も成立しなさそうだし。役に立たないなら今すぐ死んで」
大魔王が指を鳴らすと、勇者の目先に数百の矢が、頭上に巨大な岩が、背後の壁から魔物の群れが現れた。
死を悟った勇者は、悔し涙を流しながら目を閉じる。
(俺ハ一体、何ノためニ生まれてキタンダ……)
「ほんと……バカだよなあ」
耳元で声が聞こえ、勇者は瞼を上げた。虚ろな目に映ったのは、勇者を庇う朝陽の胸。
数百の矢を背中で受け止めた朝陽は振り返り、大魔王に言った。
「今、なんかした?」
朝陽の背中に当たった矢は、全て刺さらず床に落ちた。
勇者の頭上に落下する巨大な岩は、ドロリスが吹き飛ばし壁にのめり込む。
壁から現れた魔物の群れは、ソチネとドロリスが一瞬にして灰にした。
顔を歪める大魔王に目もくれず、朝陽は勇者の頬をぺちんと叩く。
「どう? あの時の僕の気持ち分かっただろ? すごく辛かったんだぞ」
「……ドウして助ケタ……」
「助けるよ、そりゃ。君のことはむかつくし嫌いだけど、死んでほしいなんて思ったことはない」
それに、と朝陽は小さな声でモゴモゴと言った。
「今まで君が頑張ってたこと、知ってるし」
「……」
「これからはさ、あんまり人をバカにしたり、おごり高ぶって偉そうにするんじゃないぞ。あと、国王にもちゃんと謝りに行くこと。分かった?」
戸惑いながらも頷いた勇者に、朝陽は頬を緩めた。
そして勇者に背を向け、大魔王を真っすぐ見る。
「えっと……ソチネさん? ぼ、僕も戦えばいいん……ですよね……?」
「ええ。この時のために、私たちはあなたの戦力を温存してたのよ」
「わあー……。もうちょっと早く教えてくれてたら、戦う練習できたのになー……」
朝陽パーティ全員が大魔王に武器を向ける。交渉決裂なのは明白だ。
大魔王は顔を歪め、何度も指を鳴らした。大魔王の間を埋め尽くすほどの魔物が地面から現れる。
「いつもそうなんだよ!! ヒト族はここに来て、熱い喧嘩と感動的な仲直りをしてから、オマケみたいに僕を倒してヒョコヒョコ帰っていくんだ!! 僕はいつまでこの茶番に付き合わされるんだ!? いい加減うんざりなんだよ、もう!!」
「それは……心中お察しするよ……」
大魔王が一瞬にして朝陽に詰め寄り、剣を横薙ぎに振るう。朝陽は慌てて避けたが、風圧で腹に一線の傷が付き、血が噴き出す。
「いっ、いったぁぁあぁっ……!」
「あははは! そんなちょっとの傷で涙目になっちゃって! 怪我したことないの?」
「ないよっ……。戦ったことすらないよ……。でもっ、なんか僕が戦わなきゃいけないみたいだから、頑張る……」
朝陽は「えーい」と間抜けな声で拳を繰り出した。動作が不格好だし、朝陽はなぜか目を瞑っている。
それなのに、呆れてジト目になっている大魔王の頬にのめり込んだのは、目にも止まらないほどの速度とオリハルコン級の硬度と質量を持った一撃だった。
「ブバァ!?」
大魔王の顎の骨が砕け、口から歯と大量の血が噴き出した。
倒れている大魔王に、朝陽は大急ぎで特級「拘束」魔法スクロールを使った。見えない縄で縛りつけられた大魔王は、蛇のように地面をのたうち回っている。
「よし……! なんかよく分からないけど、ここまでできたぞ……! ソチネさん!」
「今行く!」
無限湧きする魔物と戦っていたソチネが、朝陽の元にやって来た。
「ごめんごめん……! さっきあっちでドラゴンが湧いてさ……。倒すの大変だったー」
「ええ……。僕がヒョロヒョロパンチを一撃繰り出しただけの間にそんなもの倒してたんですか……」
「ドラゴンの次はヒュドラが湧いたけど、ドロリスとリヴィルに丸投げして来ちゃった」
「そっちの方が明らかに大変そうじゃないですか」
「バカね。あなただから、こんなに簡単に大魔王を拘束できたのよ」
「ナ……ナニを言ってイルンダ!? オ、オ前、俺ヲ裏切る気カ!?」
「裏切るも何も、元々そのつもりで君を仲間にしたんだけどなあ」
「ナンダト……!? お、お前ハ、オレのコトを、右腕ダト言ったジャナイか……!! 大切ニするト……ッ」
「うん。この時までは大切にするつもりだった。だって交渉材料なわけだから」
ドロリスはこんな気持ちであの光景を見ていたのかな、と朝陽は三年前の出来事を反芻した。
失意と怒りに支配された勇者が、ボロボロの体を起こして泣き叫ぶ。その声が不快だったのか、大魔王はうんざりした表情で耳の穴に指を突っ込んだ。
「もう。うるさいなお前。もういいよ、交渉も成立しなさそうだし。役に立たないなら今すぐ死んで」
大魔王が指を鳴らすと、勇者の目先に数百の矢が、頭上に巨大な岩が、背後の壁から魔物の群れが現れた。
死を悟った勇者は、悔し涙を流しながら目を閉じる。
(俺ハ一体、何ノためニ生まれてキタンダ……)
「ほんと……バカだよなあ」
耳元で声が聞こえ、勇者は瞼を上げた。虚ろな目に映ったのは、勇者を庇う朝陽の胸。
数百の矢を背中で受け止めた朝陽は振り返り、大魔王に言った。
「今、なんかした?」
朝陽の背中に当たった矢は、全て刺さらず床に落ちた。
勇者の頭上に落下する巨大な岩は、ドロリスが吹き飛ばし壁にのめり込む。
壁から現れた魔物の群れは、ソチネとドロリスが一瞬にして灰にした。
顔を歪める大魔王に目もくれず、朝陽は勇者の頬をぺちんと叩く。
「どう? あの時の僕の気持ち分かっただろ? すごく辛かったんだぞ」
「……ドウして助ケタ……」
「助けるよ、そりゃ。君のことはむかつくし嫌いだけど、死んでほしいなんて思ったことはない」
それに、と朝陽は小さな声でモゴモゴと言った。
「今まで君が頑張ってたこと、知ってるし」
「……」
「これからはさ、あんまり人をバカにしたり、おごり高ぶって偉そうにするんじゃないぞ。あと、国王にもちゃんと謝りに行くこと。分かった?」
戸惑いながらも頷いた勇者に、朝陽は頬を緩めた。
そして勇者に背を向け、大魔王を真っすぐ見る。
「えっと……ソチネさん? ぼ、僕も戦えばいいん……ですよね……?」
「ええ。この時のために、私たちはあなたの戦力を温存してたのよ」
「わあー……。もうちょっと早く教えてくれてたら、戦う練習できたのになー……」
朝陽パーティ全員が大魔王に武器を向ける。交渉決裂なのは明白だ。
大魔王は顔を歪め、何度も指を鳴らした。大魔王の間を埋め尽くすほどの魔物が地面から現れる。
「いつもそうなんだよ!! ヒト族はここに来て、熱い喧嘩と感動的な仲直りをしてから、オマケみたいに僕を倒してヒョコヒョコ帰っていくんだ!! 僕はいつまでこの茶番に付き合わされるんだ!? いい加減うんざりなんだよ、もう!!」
「それは……心中お察しするよ……」
大魔王が一瞬にして朝陽に詰め寄り、剣を横薙ぎに振るう。朝陽は慌てて避けたが、風圧で腹に一線の傷が付き、血が噴き出す。
「いっ、いったぁぁあぁっ……!」
「あははは! そんなちょっとの傷で涙目になっちゃって! 怪我したことないの?」
「ないよっ……。戦ったことすらないよ……。でもっ、なんか僕が戦わなきゃいけないみたいだから、頑張る……」
朝陽は「えーい」と間抜けな声で拳を繰り出した。動作が不格好だし、朝陽はなぜか目を瞑っている。
それなのに、呆れてジト目になっている大魔王の頬にのめり込んだのは、目にも止まらないほどの速度とオリハルコン級の硬度と質量を持った一撃だった。
「ブバァ!?」
大魔王の顎の骨が砕け、口から歯と大量の血が噴き出した。
倒れている大魔王に、朝陽は大急ぎで特級「拘束」魔法スクロールを使った。見えない縄で縛りつけられた大魔王は、蛇のように地面をのたうち回っている。
「よし……! なんかよく分からないけど、ここまでできたぞ……! ソチネさん!」
「今行く!」
無限湧きする魔物と戦っていたソチネが、朝陽の元にやって来た。
「ごめんごめん……! さっきあっちでドラゴンが湧いてさ……。倒すの大変だったー」
「ええ……。僕がヒョロヒョロパンチを一撃繰り出しただけの間にそんなもの倒してたんですか……」
「ドラゴンの次はヒュドラが湧いたけど、ドロリスとリヴィルに丸投げして来ちゃった」
「そっちの方が明らかに大変そうじゃないですか」
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