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最終章:大魔王討伐
第53話 可哀想なサイクロプス
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国王から大魔王討伐の指令を受けた一週間後、ソチネ、リヴィル、ドロリス、そして朝陽は、大魔王城の門前に転移した。ドロリスの城も禍々しかったが、大魔王の城を見たあとでは可愛く思えてくる。それほどまでに、大魔王の城は、巨大で、鬱々とした瘴気が漂っていた。
淀んだ空気。鼻を突く死臭。その上湿気でジメジメしている。
臭いだけでなく景色も最悪だ。空を見上げると、ドラゴンが不気味な鳴き声を上げながら城のまわりを飛び回っている。視線を落とすと、地面を覆い尽くすほどの骨と腐った何かが落ちている。前を向くと、門の奥にいる明らかに強そうな魔物と目が合った。
紙と筆を取り出した朝陽にソチネは甘えた声ですり寄る。
「きゃ、アサヒッたら積極的。自分から魔法スクロールを作り始めちゃうなんてっ。頼りになるわ、さすが私のアサヒ」
「いえ。死ぬ前に、せめて僕の一番好きな書道と魔法陣の臨書をしておこうと思いまして」
「わあ、それ、私の作った魔法陣じゃないっ。んもう~アサヒはほんとに私のことが好きねえ」
「はい。世界で一番好きですよ、魔術師ソロモンの魔法陣のこと」
腕を広げて飛びつこうとしたソチネを避け、朝陽はさらさらと筆を走らせた。
朝陽の心の準備が整うと、ドロリスが大魔王城の門を開けた。
侵入者に、全長三メートルほどの斧や剣を握るトロールが襲いかかる。しかしドロリスは表情ひとつ動かさず、トロールの胴体を真っ二つにした。
(うわあ……やっぱりドロリスさんって強いんだな……)
朝陽だけではなく、ソチネたちも感心している様子だった。
「さすが魔王だけあるわね。頼もしい限り」
庭にはびこる魔物たちを、ドロリスを筆頭にメンバーがらくらく片付けていく。朝陽は、いつもと変わらず背後で適当に魔法スクロールを使って援護していた。
「いてっ」
後頭部にコツンと何かが当たり、朝陽は涙目で振り返った。
背後に立っていたのは、鉄の棍棒を持ったサイクロプス。
朝陽の顏から血の気が引いていく。
(あ、僕死んだ)
サイクロプスが棍棒を振り上げても、硬直した朝陽は動くことができなかった。ただ力なく笑い、うるんだ瞳で一つ目の怪物を見上げることしかできない。
「「「アサヒ!!」」」
次の瞬間、サイクロプスの目に矢が何十本も刺さり、頭上から雷が落ち、体が燃え上がった。挙句の果てに足元に魔法陣が浮かび上がり、またたくまにミイラになった。
「ひえ」
オーバーキルにもほどがある、と朝陽はサイクロプスに哀れみの目を向けた。
茫然と立ち尽くす彼に、真っ先にリヴィルが駆け寄る。
「ああああっ! ソロモンの番になんてことを! 許さんぞあの一つ目の魔族め!!」
ドロリスも珍しく慌てている。
「アサヒから一瞬でも目を離した自分が忌まわしいっ」
ソチネに至っては号泣している。
「うわああああん!! アサヒがっ! アサヒが傷物にされたぁぁぁっ!!」
リヴィルとドロリスは朝陽の体中を撫でまわし、怪我がないか確認した。ソチネに至っては服を脱がそうとしてきたので、朝陽は女の子のような悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと! 助けてくださってありがとうございます! 僕は無傷ですから! 大丈夫ですから!」
宥めようとしても、ドロリスはなかなか落ち着かない。
「無傷なのは分かっているが……っ。それでも自分が許せんっ……! あいつはお前の後頭部を下品な棍棒なんぞで殴りつけおった!!」
「えっ」
「低俗なサイクロプス風情がよくも私の大切なアサヒを……っ! 百代にわたり呪ってやるからな!!」
リヴィルも彼女と似たようなものだった。
「よくもソロモンの番に手を出しよったな……! 忌々しいっ! 矢が万本あっても足りん!!」
一方ソチネは、黙々と地面に大きな魔法陣を描いている。
「はいキレましたー。観賞用のアサヒに手を出した不届き者がいたのでこの地は焼き尽くしますー。はい、サヨナラー」
ソチネが呪文を唱えると、大魔王城の庭が一面火の海になった。
朝陽は荒れ狂う三人を、菩薩のような顔で眺めていた。
(うん。普通に怖いこの人たち)
そして朝陽は後頭部を撫で、首を傾げた。
(僕、本当に棍棒で殴られたのか? そんな感覚なかったけど)
淀んだ空気。鼻を突く死臭。その上湿気でジメジメしている。
臭いだけでなく景色も最悪だ。空を見上げると、ドラゴンが不気味な鳴き声を上げながら城のまわりを飛び回っている。視線を落とすと、地面を覆い尽くすほどの骨と腐った何かが落ちている。前を向くと、門の奥にいる明らかに強そうな魔物と目が合った。
紙と筆を取り出した朝陽にソチネは甘えた声ですり寄る。
「きゃ、アサヒッたら積極的。自分から魔法スクロールを作り始めちゃうなんてっ。頼りになるわ、さすが私のアサヒ」
「いえ。死ぬ前に、せめて僕の一番好きな書道と魔法陣の臨書をしておこうと思いまして」
「わあ、それ、私の作った魔法陣じゃないっ。んもう~アサヒはほんとに私のことが好きねえ」
「はい。世界で一番好きですよ、魔術師ソロモンの魔法陣のこと」
腕を広げて飛びつこうとしたソチネを避け、朝陽はさらさらと筆を走らせた。
朝陽の心の準備が整うと、ドロリスが大魔王城の門を開けた。
侵入者に、全長三メートルほどの斧や剣を握るトロールが襲いかかる。しかしドロリスは表情ひとつ動かさず、トロールの胴体を真っ二つにした。
(うわあ……やっぱりドロリスさんって強いんだな……)
朝陽だけではなく、ソチネたちも感心している様子だった。
「さすが魔王だけあるわね。頼もしい限り」
庭にはびこる魔物たちを、ドロリスを筆頭にメンバーがらくらく片付けていく。朝陽は、いつもと変わらず背後で適当に魔法スクロールを使って援護していた。
「いてっ」
後頭部にコツンと何かが当たり、朝陽は涙目で振り返った。
背後に立っていたのは、鉄の棍棒を持ったサイクロプス。
朝陽の顏から血の気が引いていく。
(あ、僕死んだ)
サイクロプスが棍棒を振り上げても、硬直した朝陽は動くことができなかった。ただ力なく笑い、うるんだ瞳で一つ目の怪物を見上げることしかできない。
「「「アサヒ!!」」」
次の瞬間、サイクロプスの目に矢が何十本も刺さり、頭上から雷が落ち、体が燃え上がった。挙句の果てに足元に魔法陣が浮かび上がり、またたくまにミイラになった。
「ひえ」
オーバーキルにもほどがある、と朝陽はサイクロプスに哀れみの目を向けた。
茫然と立ち尽くす彼に、真っ先にリヴィルが駆け寄る。
「ああああっ! ソロモンの番になんてことを! 許さんぞあの一つ目の魔族め!!」
ドロリスも珍しく慌てている。
「アサヒから一瞬でも目を離した自分が忌まわしいっ」
ソチネに至っては号泣している。
「うわああああん!! アサヒがっ! アサヒが傷物にされたぁぁぁっ!!」
リヴィルとドロリスは朝陽の体中を撫でまわし、怪我がないか確認した。ソチネに至っては服を脱がそうとしてきたので、朝陽は女の子のような悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと! 助けてくださってありがとうございます! 僕は無傷ですから! 大丈夫ですから!」
宥めようとしても、ドロリスはなかなか落ち着かない。
「無傷なのは分かっているが……っ。それでも自分が許せんっ……! あいつはお前の後頭部を下品な棍棒なんぞで殴りつけおった!!」
「えっ」
「低俗なサイクロプス風情がよくも私の大切なアサヒを……っ! 百代にわたり呪ってやるからな!!」
リヴィルも彼女と似たようなものだった。
「よくもソロモンの番に手を出しよったな……! 忌々しいっ! 矢が万本あっても足りん!!」
一方ソチネは、黙々と地面に大きな魔法陣を描いている。
「はいキレましたー。観賞用のアサヒに手を出した不届き者がいたのでこの地は焼き尽くしますー。はい、サヨナラー」
ソチネが呪文を唱えると、大魔王城の庭が一面火の海になった。
朝陽は荒れ狂う三人を、菩薩のような顔で眺めていた。
(うん。普通に怖いこの人たち)
そして朝陽は後頭部を撫で、首を傾げた。
(僕、本当に棍棒で殴られたのか? そんな感覚なかったけど)
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