【完結】魔力0の書道家が、底辺職から魔術師に成り上がるまで~異世界転移した先で、僕は魔法陣と出会った~

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第6章:大魔王討伐パーティ結成

第50話 僕を追放してください

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「ひっ……ひぃっ……」

 今にも失禁しそうな国王と、今にも国王を殺してしまいそうなドロリスの間に、ソチネが割って入った。

「はいストップストップ! 二人とも落ち着いてくださいね? ちゃんと説明しますから」

 ソチネが大魔王討伐パーティとして選んだ人物。それは、純血エルフであるリヴィル、魔王であるドロリス、魔術師ソロモン、そして朝陽の四人だった。

「あと、国王のワガママで仕方なく勇者を」

 役職は、勇者が剣士、リヴィルが弓士、ドロリスが魔法使い、ソロモンが魔術師、最後に朝陽がローラーだ。

 ドロリスの登場によって怯えているものの、つわもの揃いのメンバーに国王は期待で目を輝かせる。

「こ、これは……確かに、大魔王にも太刀打ちできる最強のパーティと言っても過言ではあるまい……。それにしても、よくこのメンバーを集めることができましたね。魔王を手懐けてしまうとは……さすがソロモン様」
「ドロリスを手懐けたのは私ではないですよ。ふふ」
「……?」

 朝陽にとっても、見知った頼もしい人たちがメンバーだったことは嬉しいことだった。

 しかし、勇者だけは断固反対のようだ。

「国王! ソロモンとエルフの村長に関しましては、私も大賛成です! 元々の私のパーティを差し置いて大魔王討伐のメンバーに選ばれても納得ができます! しかし! 魔王とアサヒは断固反対です!! 魔王はいつ裏切るか分かりませんし、アサヒに至っては弱すぎて話にならない!!」

 国王も勇者と半分同じ気持ちのようだ。

「ふぅむ……。魔王はソロモン様に従うだろうからおそらく大丈夫だろう。しかし……アサヒについてはわしも同意見だ……」
「アサヒが同行するのなら、私はこのパーティから辞退します! 他の剣士をお探しください!」
「なっ……! そ、それは困る。頼む勇者。どうか考え直してくれんか。大魔王討伐にはそなたの力が必要不可欠なんだ……!」

 勇者は勝ち誇った顔で朝陽を一瞥したあと、強い口調で国王に詰め寄る。

「それでは、アサヒをこのパーティから追放してくださいますね?」
「む……むぅ……」

 汗をだらだら流しながら、国王はソチネに顔を向けた。

「ソロモン様。今の会話は聞こえていましたか……?」
「ええ。耳を塞いでも聞こえるほどの大声でしたから」
「でしたら……ご理解いただけますな。どうか、アサヒを……」

 ソチネはニッコリ笑い、きっぱり答えた。

「嫌です」
「ふぐぅぅん……」

 目と鼻の先で一部始終を見ていた朝陽は、板挟みで困っている国王がだんだん可哀想になってきた。そもそも朝陽は大魔王討伐のパーティに加わりたいとは思っていない。むしろ追放は大歓迎だ。大魔王の城で魔物の返り血にまみれるより、図書館で魔術の勉強をしている方がよっぽど性に合う。
 なので朝陽は、角が立たないように体よくこの場から去りたかった。

「あのぉ、ソチネさん……。国王もお困りのようですし、僕はやっぱり辞退しようと思います。勇者もあんなに嫌がってますし。だってほら、この世界の主人公は勇者でしょう? 彼の顔を立ててやるべきだと思うんですよね。だからモブの僕はこの辺で失礼します――」

 背中を向け扉に向けて歩き出した朝陽の首根っこを、ソチネがニコニコ笑いながら掴む。細い腕なのにムキムキのダイアくらい力が強いことに、朝陽は心底怯えた。

「誰が帰って良いって言ったのかな? アサヒくん」
「で、でもぉ。このままじゃラチがあきませんよ……。いいじゃないですか、ローラーの僕なんてなんの役にも立ちませんし……」

 ソチネは「ふーん」と声を漏らし、朝陽から手を離した。
「そ。じゃあ帰っていいわよ」
「えっ。あ、意外とあっさり。もっと早く言えばよかった。じゃあ、お言葉に甘えてお先に失礼します」
「はーい、お疲れさまー」

 朝陽は国王にペコッと頭を下げ、出口に向かった。もちろん手を叩いて喜んでいる勇者は無視だ。

「……ん?」

 なぜかドロリスがうしろをついてくる。

「……ドロリスさん? どうかしましたか?」
「ん? お前が帰るなら私も帰る」
「なぜ?」

 ドロリスは呆れたようにため息を吐いた。

「私はお前の顏で来てやったんだ。お前がいないなら手を貸すこともない」
「え? ソチネさんの顏で来たのではなく?」
「違う。あいつはただお前を餌にして私を釣っただけだ」
「……」

 朝陽の視線から慌てて顔を背けたソチネも荷物を背負い、国王に手を振った。

「私も、アサヒが行かないなら辞退しまーす! それじゃ、勇者クン、頑張ってねー!」

 ソチネに続き、リヴィルも国王に背を向ける。

「ソロモンとアサヒが辞退するなら私が付き合う理由はない。失礼する。愚かなヒト族の長と愚民代表の若造よ」

 茫然としている国王と勇者より、朝陽の方が狼狽えていた。

「ちょっと! みなさんどうしたんですか!? なんで急にそんなっ」

 ソチネは朝陽の腕に抱きつき、頭をこすりつける。

「だって、アサヒがいないと寂しいんだもんっ」

 朝陽は黙ったまま全力でソチネの頭を体から引きはがした。

「あの、ソチネさんはそれでいいんですか? あんなに頑張って大魔王に立ち向かおうとしていたのに、そんなくだらない理由で手を引くなんて、あなたらしくないですけど……」
「大丈夫よ」

 ウィンクをして、朝陽と共に謁見の間を出ようとするソチネ。
 背後から国王が大声で引き留めた。

「お待ちくだされ……! 分かった、分かりました……。アサヒはメンバーから外しませんから、どうか考え直していただけないでしょうか……っ」
「えっ、国王!?」

 のけぞる勇者に、国王はきつくい言い聞かせる。

「勇者。そなたも分かっていよう。この場で一番弱いのはアサヒだが、二番目に弱いのがそなただ」
「ぐっ……」
「そなたのパーティが育つのを待っておったが、その間にも着実に大魔王は力をつけている。知っているだろう? この国で疫病が流行り始めていることを」
「そ、そうですが……」

 国王はソチネ、リヴィル、ドロリスに手のひらを向ける。

「彼らは恐らく、現時点で大魔王に対抗できる唯一の人材。それが奇跡的に集まった今こそ、動かなければならん時だ。そして彼らの要となっているのが、どうやらアサヒという名のローラーらしい」
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