【完結】魔力0の書道家が、底辺職から魔術師に成り上がるまで~異世界転移した先で、僕は魔法陣と出会った~

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第5章:純血エルフの村

第40話 リヴィルの癇癪

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 間髪入れず、ソチネはリヴィルの首を杖でつつく。

「あのね、私はあなたに黒歴史を暴露されるためにここに来たんじゃなくて、魔術の道具を買うために来たの。だからそろそろ、私の話を聞いてくれない?」

 半ば脅され、リヴィルは彼が経営しているのであろう店にソチネと朝陽を案内した。そこには魔術具や剣、弓矢など、さまざまな武器や道具が揃っている。どれもチノマの町では見ない、天然石のような素材でできたものばかりだ。

 朝陽は店内を見回し、ほうっとため息を吐いた。

「すごく綺麗ですね。造形も凝っているし、それになんかふんわり光ってませんか?」
「ミスリルっていう、とっても稀少な鉱石で作られてるの。見た目は綺麗だけど、なかなか可愛くない代物よ」

 ミスリルとは、限られた鉱山でしか採掘できない珍しい鉱石だ。軽量でありながらも非常に硬質で、その上、魔力増幅効果が付与されているらしい。そのため、魔力も力も持ち合わせている冒険者には、力特化のオリハルコン素材の武器よりもミスリルの方が求められているとか。

「まあ、ミスリル製の武器を手に入れるには、フルーバのように隠された純血エルフの村を見つけ出し、エルフに受け入れられないといけないけれど」
「つまり、ものすごく入手困難なもの、ということですね」
「そいうこと」

 二人の会話を聞いていたリヴィルは、どこか自慢げに言った。

「少なくともこの村では、ここに百年の間でソロモン以外のヒト族にミスリル武器や魔術具を売ったことはない」

 リヴィルがソチネに尋ねる。

「そして? 何が欲しいんだ。ペンか? ペンタクルか? お前の望むものを私が直々に作ってやろう。さあ言え。なんでも言え。あ、そう言えば、この前黄金羊皮を手に入れたんだ。お前が好むだろうと思ってその皮で羊皮紙を作っておいた。きっと魔術に役立つだろう。持って帰るんだ」

 朝陽には、リヴィルがソチネのことを我が子のように溺愛しているように見えた。

(もしくはキャバ嬢に貢ぐちょっと気持ち悪いおじさんか、推しのATMになりたがるオタクの鑑)

 少なくとも、朝陽のエルフのイメージとかなりかけ離れた存在であることは確かだった。

 リヴィルの独り言に近い言葉の数々を聞き流し、ソチネはにっこり笑って応える。

「筆を作って欲しいの」
「筆? 画家が持っているような筆か?」
「うーん、まあ、そんな感じ」
「羽ペンでも杖でも短剣でもなく、筆か?」

 ソチネの注文がしっくり来ないのか、リヴィルは何度も同じ質問を繰り返した。
 忍耐強く返事をしていたソチネが、とうとう大声を上げる。

「もう! そうだって言ってるでしょ!?」
「い、いや、しかし。お前はそのような魔術具を使ったことがないから信じがたく……」
「私じゃなくて、アサヒのための魔術具を作って欲しいのよ」
「……は?」

 先ほどまで目をキラキラ輝かせていたリヴィルが真顔になり、朝陽を見る。

「それは聞いていない」
「言ってなかったから」

 ソチネが悪びれもなくそう応えると、リヴィルは唇を尖らせそっぽを向いた。

「お前の魔術具じゃないのなら、断る」
「どうして? アサヒは信頼できる魔術師よ。ミスリル製の魔術具を使って悪さなんてしないし、長年にわたり大切に使ってくれるわ」
「そんなの関係ないぃいぃいぃ!!」

 泣きながらソチネの肩を掴むリヴィル。

「どうして俺がお前の番に魔術具を作らねばならんのだ!!」
「逆にどうして私の婚約者って理由で断るのよ! それでもプロなのかしらぁ!?」
「フルーバのエルフは己の目しか信じんのだ!! 安請負などしない!!」

 ソチネが頬を膨らませると、余裕を取り戻したリヴィルがフッと笑った。

「お前は惚れた男には盲目になる傾向がある。むしろその傾向しかない。そんなお前から信頼を寄せられているだけなど、なんの説得力もない。なにより私はこいつに魔術具を作りたくない。俺の大事なソロモンを奪ったこいつなんぞにぃぃぃ……っ!」

 どうやら面倒な人に敵対視されてしまったなみたいだなあ、と朝陽はぼんやり思った。
 朝陽はソチネの服を摘まむ。

「ソチネさん。リヴィルさんがこんなに嫌がっているんですから、諦めましょう。僕、今の筆で充分満足していますし」
「嫌よぉ。私、アサヒに一番良い魔術具をプレゼントしたいの」

 朝陽とソチネの会話を聞いていたリヴィルがボソリと呟いた。

「はんっ。また男に貢ごうとしている」

 ソチネが杖を、リヴィルが弓を構えたので、朝陽はその場からそっと離れた。

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