上 下
41 / 63
第5章:純血エルフの村

第40話 リヴィルの癇癪

しおりを挟む
 間髪入れず、ソチネはリヴィルの首を杖でつつく。

「あのね、私はあなたに黒歴史を暴露されるためにここに来たんじゃなくて、魔術の道具を買うために来たの。だからそろそろ、私の話を聞いてくれない?」

 半ば脅され、リヴィルは彼が経営しているのであろう店にソチネと朝陽を案内した。そこには魔術具や剣、弓矢など、さまざまな武器や道具が揃っている。どれもチノマの町では見ない、天然石のような素材でできたものばかりだ。

 朝陽は店内を見回し、ほうっとため息を吐いた。

「すごく綺麗ですね。造形も凝っているし、それになんかふんわり光ってませんか?」
「ミスリルっていう、とっても稀少な鉱石で作られてるの。見た目は綺麗だけど、なかなか可愛くない代物よ」

 ミスリルとは、限られた鉱山でしか採掘できない珍しい鉱石だ。軽量でありながらも非常に硬質で、その上、魔力増幅効果が付与されているらしい。そのため、魔力も力も持ち合わせている冒険者には、力特化のオリハルコン素材の武器よりもミスリルの方が求められているとか。

「まあ、ミスリル製の武器を手に入れるには、フルーバのように隠された純血エルフの村を見つけ出し、エルフに受け入れられないといけないけれど」
「つまり、ものすごく入手困難なもの、ということですね」
「そいうこと」

 二人の会話を聞いていたリヴィルは、どこか自慢げに言った。

「少なくともこの村では、ここに百年の間でソロモン以外のヒト族にミスリル武器や魔術具を売ったことはない」

 リヴィルがソチネに尋ねる。

「そして? 何が欲しいんだ。ペンか? ペンタクルか? お前の望むものを私が直々に作ってやろう。さあ言え。なんでも言え。あ、そう言えば、この前黄金羊皮を手に入れたんだ。お前が好むだろうと思ってその皮で羊皮紙を作っておいた。きっと魔術に役立つだろう。持って帰るんだ」

 朝陽には、リヴィルがソチネのことを我が子のように溺愛しているように見えた。

(もしくはキャバ嬢に貢ぐちょっと気持ち悪いおじさんか、推しのATMになりたがるオタクの鑑)

 少なくとも、朝陽のエルフのイメージとかなりかけ離れた存在であることは確かだった。

 リヴィルの独り言に近い言葉の数々を聞き流し、ソチネはにっこり笑って応える。

「筆を作って欲しいの」
「筆? 画家が持っているような筆か?」
「うーん、まあ、そんな感じ」
「羽ペンでも杖でも短剣でもなく、筆か?」

 ソチネの注文がしっくり来ないのか、リヴィルは何度も同じ質問を繰り返した。
 忍耐強く返事をしていたソチネが、とうとう大声を上げる。

「もう! そうだって言ってるでしょ!?」
「い、いや、しかし。お前はそのような魔術具を使ったことがないから信じがたく……」
「私じゃなくて、アサヒのための魔術具を作って欲しいのよ」
「……は?」

 先ほどまで目をキラキラ輝かせていたリヴィルが真顔になり、朝陽を見る。

「それは聞いていない」
「言ってなかったから」

 ソチネが悪びれもなくそう応えると、リヴィルは唇を尖らせそっぽを向いた。

「お前の魔術具じゃないのなら、断る」
「どうして? アサヒは信頼できる魔術師よ。ミスリル製の魔術具を使って悪さなんてしないし、長年にわたり大切に使ってくれるわ」
「そんなの関係ないぃいぃいぃ!!」

 泣きながらソチネの肩を掴むリヴィル。

「どうして俺がお前の番に魔術具を作らねばならんのだ!!」
「逆にどうして私の婚約者って理由で断るのよ! それでもプロなのかしらぁ!?」
「フルーバのエルフは己の目しか信じんのだ!! 安請負などしない!!」

 ソチネが頬を膨らませると、余裕を取り戻したリヴィルがフッと笑った。

「お前は惚れた男には盲目になる傾向がある。むしろその傾向しかない。そんなお前から信頼を寄せられているだけなど、なんの説得力もない。なにより私はこいつに魔術具を作りたくない。俺の大事なソロモンを奪ったこいつなんぞにぃぃぃ……っ!」

 どうやら面倒な人に敵対視されてしまったなみたいだなあ、と朝陽はぼんやり思った。
 朝陽はソチネの服を摘まむ。

「ソチネさん。リヴィルさんがこんなに嫌がっているんですから、諦めましょう。僕、今の筆で充分満足していますし」
「嫌よぉ。私、アサヒに一番良い魔術具をプレゼントしたいの」

 朝陽とソチネの会話を聞いていたリヴィルがボソリと呟いた。

「はんっ。また男に貢ごうとしている」

 ソチネが杖を、リヴィルが弓を構えたので、朝陽はその場からそっと離れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

異世界転移の特典はとんでも無いチートの能力だった。俺はこの能力を極力抑えて使わないと、魔王認定されかねん!

アノマロカリス
ファンタジー
天空 光(てんくう ひかる)は16歳の時に事故に遭いそうな小学生の女の子を救って生涯に幕を閉じた。 死んでから神様の元に行くと、弟が管理する世界に転生しないかと持ち掛けられた。 漫画やゲーム好きで、現実世界でも魔法が使えないかと勉強をして行ったら…偏った知識が天才的になっていたという少年だった。 そして光は異世界を管理する神の弟にあって特典であるギフトを授けられた。 「彼に見合った能力なら、この能力が相応しいだろう。」 そう思って与えられた能力を確認する為にステータスを表示すると、その表示された数値を見て光は吹き出した。 この世界ではこのステータスが普通なのか…んな訳ねぇよな? そう思って転移先に降り立った場所は…災害級や天災級が徘徊する危険な大森林だった。 光の目の前に突然ベヒーモスが現れ、光はファイアボールを放ったが… そのファイアボールが桁違いの威力で、ベヒーモスを消滅させてから大森林を塵に変えた。 「異世界の神様は俺に魔王討伐を依頼していたが、このままだと俺が魔王扱いされかねない!」 それから光は力を抑えて行動する事になる。 光のジョブは勇者という訳では無い。 だからどんなジョブを入手するかまだ予定はないのだが…このままだと魔王とか破壊神に成りかねない。 果たして光は転移先の異世界で生活をしていけるのだろうか? 3月17日〜20日の4日連続でHOTランキング1位になりました。 皆さん、応援ありがとうございました.°(ಗдಗ。)°.

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...