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第4章:魔族の子
第29話 懐かしい顔
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ドロリスはカップに口を付けたまま朝陽を手招きする。
「元いた世界が恋しいか」
「あっ。また心読みましたね!?」
「仕方ないだろう。聞こえてくるのだから」
ドロリスが悪びれもなくそう応え、指を鳴らす。すると魔王の間の中央に霧がかった球体が現れた。そこに徐々に映像が浮かび上がり、朝陽の頭の中に声が響いた。
《みなとくん、みなとくん。今日は習字コンクールのしめきり日だよ。ちゃんと作品は提出した?》
《あたりまえだろー! あかりこそ、ちゃんと提出したのかよ!》
《し、したよお。最後まで、上手く書けなかったけど》
懐かしい声に、朝陽の目に涙が滲む。
「こ……これは……」
「お前がずっと気がかりにしている子どもたちはこやつらだろう。お前を元の世界に戻すことはできないが、元いた世界の一部分をお前に見せることは、なんとかできた」
球体に映る映像はほとんどぼやけている。だが、ずっと湊の笑顔を見ていた朝陽には、彼が真っ白な歯を見せて笑ったことが分かった。
《すげえな! あれで上手くないって思うんだなー! アサヒがな、あかりのことをこう言ってた! 『あかりは努力の天才だ』って! 俺もそう思う!》
鼻をすする音が聞こえた。
《……みかもちゃんと作品出したって言ってたし、これで完璧だな! アサヒ、褒めてくれるかなあ》
《先生、天国できっと褒めてくれてるよ。もしかしたら今も見てくれてるかもね》
湊と朱莉は、空に向けて手を振った。
《おーい! アサヒー! お前がいなくなってからも、俺たちちゃんと、習字続けてるからなー!》
《せ、先生ー。私、将来は習字の先生になりたいの。朝陽先生みたいな優しい先生になりたいな……》
《俺は将来サッカー選手になるけど、習字も続けるぞー! だから、ずっと俺たちのこと、天国から見守っててくれよなー!》
霧の球体が小さくなっていき、消えた。彼らの声ももう聞こえない。
嗚咽を漏らしていた朝陽は、あることに気付きぽかんと口を開ける。
「……あれ? 僕、死んだことになってるんですか?」
「そうみたいだな」
「もしくは失踪したとは子どもには言えなくて、死んだことにしてるかのどっちかだ……。どちらにせよ、少なくともあの子たちの中では僕はもう死んだ人になってるのか……」
項垂れる朝陽を、ドロリスは無言で眺めていた。
「……でも、湊たちは習字コンクールの作品を仕上げたみたいだし、これからも習字を続けてくれる……。死んだことになってるのは寂しいけど、ちょっと安心しましたし、嬉しかったです。ドロリスさん、見せてくださってありがとうございます」
朝陽は目をこすり、ぎこちない笑顔を作った。ドロリスはそんな彼から目を背け、小さな声で言った。
「私は、お前が哀れでならんよ」
「……」
「元いた世界でも子どもに慕われていたんだな。私の子らも、お前によく懐いている」
「実は……あなたのお子さん、さっきの子たちにちょっと似てるんです。性格とか、習字が好きなところとか。だから、デュベたちといると、すごく心が落ち着きます」
ドロリスは素っ気ない声で「そうか」とだけ言い、指を鳴らした。
朝陽の足元がぬかるんでいく。今日の子守はここまでのようだ。
視界が歪んでいく中、ドロリスの声が聞こえた。
「だったらいつでも来ると良い。お前が来たいと思うときに、好きなだけ」
「元いた世界が恋しいか」
「あっ。また心読みましたね!?」
「仕方ないだろう。聞こえてくるのだから」
ドロリスが悪びれもなくそう応え、指を鳴らす。すると魔王の間の中央に霧がかった球体が現れた。そこに徐々に映像が浮かび上がり、朝陽の頭の中に声が響いた。
《みなとくん、みなとくん。今日は習字コンクールのしめきり日だよ。ちゃんと作品は提出した?》
《あたりまえだろー! あかりこそ、ちゃんと提出したのかよ!》
《し、したよお。最後まで、上手く書けなかったけど》
懐かしい声に、朝陽の目に涙が滲む。
「こ……これは……」
「お前がずっと気がかりにしている子どもたちはこやつらだろう。お前を元の世界に戻すことはできないが、元いた世界の一部分をお前に見せることは、なんとかできた」
球体に映る映像はほとんどぼやけている。だが、ずっと湊の笑顔を見ていた朝陽には、彼が真っ白な歯を見せて笑ったことが分かった。
《すげえな! あれで上手くないって思うんだなー! アサヒがな、あかりのことをこう言ってた! 『あかりは努力の天才だ』って! 俺もそう思う!》
鼻をすする音が聞こえた。
《……みかもちゃんと作品出したって言ってたし、これで完璧だな! アサヒ、褒めてくれるかなあ》
《先生、天国できっと褒めてくれてるよ。もしかしたら今も見てくれてるかもね》
湊と朱莉は、空に向けて手を振った。
《おーい! アサヒー! お前がいなくなってからも、俺たちちゃんと、習字続けてるからなー!》
《せ、先生ー。私、将来は習字の先生になりたいの。朝陽先生みたいな優しい先生になりたいな……》
《俺は将来サッカー選手になるけど、習字も続けるぞー! だから、ずっと俺たちのこと、天国から見守っててくれよなー!》
霧の球体が小さくなっていき、消えた。彼らの声ももう聞こえない。
嗚咽を漏らしていた朝陽は、あることに気付きぽかんと口を開ける。
「……あれ? 僕、死んだことになってるんですか?」
「そうみたいだな」
「もしくは失踪したとは子どもには言えなくて、死んだことにしてるかのどっちかだ……。どちらにせよ、少なくともあの子たちの中では僕はもう死んだ人になってるのか……」
項垂れる朝陽を、ドロリスは無言で眺めていた。
「……でも、湊たちは習字コンクールの作品を仕上げたみたいだし、これからも習字を続けてくれる……。死んだことになってるのは寂しいけど、ちょっと安心しましたし、嬉しかったです。ドロリスさん、見せてくださってありがとうございます」
朝陽は目をこすり、ぎこちない笑顔を作った。ドロリスはそんな彼から目を背け、小さな声で言った。
「私は、お前が哀れでならんよ」
「……」
「元いた世界でも子どもに慕われていたんだな。私の子らも、お前によく懐いている」
「実は……あなたのお子さん、さっきの子たちにちょっと似てるんです。性格とか、習字が好きなところとか。だから、デュベたちといると、すごく心が落ち着きます」
ドロリスは素っ気ない声で「そうか」とだけ言い、指を鳴らした。
朝陽の足元がぬかるんでいく。今日の子守はここまでのようだ。
視界が歪んでいく中、ドロリスの声が聞こえた。
「だったらいつでも来ると良い。お前が来たいと思うときに、好きなだけ」
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