上 下
19 / 63
第2章:ナナライパーティ

第18話 単発ローラー最終日

しおりを挟む
 ひと眠りしたあと、朝陽とナナライパーティはダンジョン最奥のボス、オーガと戦った。身長三メートルほどもある二足歩行の魔物が斧を振り回すので、ナナライパーティは苦戦していた。ちなみに朝陽は、遠く離れた場所で情けない声を上げながら、やみくもに魔法スクロールを広げて形だけのサポートをしていた。

 苦闘の末、なんとかオーガを倒したナナライパーティは、全員五体満足で青空を仰ぐことができた。

 一週間ぶりの新鮮な空気を噛み締めながら、ナナライはダンジョン管理人に攻略完了の報告をしに行った。

「管理人さん! たぶん完全攻略できました!!」
「ほーう? 隠し通路は見つけたかい?」
「はい、もちろん! そこも無事攻略できました!」

 管理人は「そんなまさか」と鼻で笑う。

「ハッタリはよしなさい。俺がここの管理人になってもう十五年になるけど、今まであそこを攻略できた冒険者はいないよ。なんたってあそこは、かの有名な魔術師ソロモン様が造った仕掛けと言われているんだから。魔術が退化した今、解ける冒険者なんぞおらん」

 Gランクダンジョンに潜るような低級冒険者ならなおさらな、と管理人は付け足した。
 ナナライは管理人を睨みつけ、朝陽の鞄から「魔術師の外套」を引っ張り出す。

「これ、そこの宝箱に入ってた装備です!」
「なっ……それはっ!!」

 ダンジョン内の宝箱リストを確かめ始めた管理人を置いて、ナナライたちはその場をあとにした。

 チノマ町に戻った彼らは、三日月と星が輝く夜空の下で乾杯をした。
 少し遅れてやって来たピヴルがテーブルに麻袋を置く。

「お待たせ! 素材とかを換金してきたぜー!」

 麻袋の中には金貨が六十枚と大銀貨八枚が入っていた。ナナライは、消耗品の費用と朝陽の給金を差し引いた金額を四人で均等に割った。
 オウンは配られた金貨に頬ずりする。

「おおーっ。これで当分の宿賃が払えるぜぇぇっ!」

 ピヴルもマルシャも満足そうだ。
 ナナライは申し訳なさそうに、朝陽に金貨三枚と大銀貨五枚を渡す。

「みんなより少なくてごめんね、アサヒ」
「いえ。むしろ水晶の間の宝を一番多くいただいてしまってすみません」
「何言ってんの! アサヒは魔術の仕掛けをといてくれた、今回一番の功労者! 本当にありがとうね!」

 そのあと朝陽は、ナナライパーティから正式なメンバーにならないかと誘われた。
 ナナライパーティは、メンバー全員が面白くて優しい人だ。一緒に旅をしたらきっと楽しいだろう。

 悩んだ末、朝陽は首を横に振る。

「すごく嬉しいです。僕も、パーティを組むならナナライたちとがいいって思っていました。でも……もうしばらくは、フリーのローラーとしてやっていこうかなと」

 異世界に召喚されて約一カ月半。さすがの朝陽も、これが白昼夢などではなく現実に起こったことだと受け止める、覚悟と諦めの準備がついた。
 それなら自由に異世界を楽しもうじゃないかと、朝陽は半ばヤケクソ気味に考えていた。

 ナナライたちとパーティを組んで冒険者として旅をするのも魅力的だ。
 だが、朝陽は他にやりたいと思えることを見つけてしまった。

「魔術の勉強がしてみたいんです。あの仕掛けを解いているとき、すごく楽しかった」

 ナナライパーティは目尻を下げ、朝陽の言葉に耳を傾けた。

「魔術文字が読めるようになりたい。もっといろんな魔法陣を描いてみたい。魔力がない僕が魔術の勉強をするなんて馬鹿げているかもしれないけれど……。それでも、やりたいことがいっぱいできて、ワクワクが止まらないんです」

 だからごめんなさい、と朝陽が頭を下げると、ナナライとオウンが満面の笑みを浮かべ、彼の背中を押した。

「嬉しい! アサヒには絶対、魔術師の才能があると思ってたの!!」
「魔術師に魔力があるとかないとか関係ねえよ! お前の書く字には、特別な力が宿ってる! 俺はそう思った! 頑張れよ!!」

 マルシャとピヴルは、朝陽のジョッキに乾杯する。

「でも、単発ローラーは続けるんだよね!? じゃあまた誘うからさ、時々一緒に旅しよ!」
「おう! 俺、お前が作るメシが好きなんだ! 旅に行けない日も、たまには一緒に酒飲もうぜ!」

 ナナライたちと話していると、たまに涙腺が緩んでしまうことがある。

 非情な勇者に、異世界に召喚されてしまったのは朝陽にとって不運な出来事だった。湊の作品を灰にされ、勇者パーティに使い捨ての命だと笑われたあの日のことは、目を閉じるだけで、嫌でも蘇り彼を苦しめ続けていた。突然切り離された元の世界に戻りたくても戻れないやるせなさに、朝陽は何度こっそり涙を流しただろう。

「あなたたちと出会えて、本当に良かった」

 元いた世界と、勇者との苦い思い出。朝陽がそれらと決別して前を向いて歩こうと思えたのは、ナナライパーティのおかげだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

世界異世界転移

多門@21
ファンタジー
東京オリンピックを控えた2020年の春、突如地球上のすべての国家が位置関係を変え異世界の巨大な惑星に転移してしまう。 その惑星には様々な文化文明種族、果てには魔術なるものまで存在する。 その惑星では常に戦争が絶えず弱肉強食様相を呈していた。旧地球上国家も例外なく巻き込まれ、最初に戦争を吹っかけられた相手の文明レベルは中世。殲滅戦、民族浄化を宣言された日本とアメリカはこの暴挙に現代兵器の恩恵を受けた軍事力を行使して戦うことを決意する。 日本が転移するのも面白いけどアメリカやロシアの圧倒的ミリタリーパワーで異世界を戦う姿も見てみたい!そんなシーンをタップリ含んでます。 43話までは一日一話追加していきます!

異世界転移の特典はとんでも無いチートの能力だった。俺はこの能力を極力抑えて使わないと、魔王認定されかねん!

アノマロカリス
ファンタジー
天空 光(てんくう ひかる)は16歳の時に事故に遭いそうな小学生の女の子を救って生涯に幕を閉じた。 死んでから神様の元に行くと、弟が管理する世界に転生しないかと持ち掛けられた。 漫画やゲーム好きで、現実世界でも魔法が使えないかと勉強をして行ったら…偏った知識が天才的になっていたという少年だった。 そして光は異世界を管理する神の弟にあって特典であるギフトを授けられた。 「彼に見合った能力なら、この能力が相応しいだろう。」 そう思って与えられた能力を確認する為にステータスを表示すると、その表示された数値を見て光は吹き出した。 この世界ではこのステータスが普通なのか…んな訳ねぇよな? そう思って転移先に降り立った場所は…災害級や天災級が徘徊する危険な大森林だった。 光の目の前に突然ベヒーモスが現れ、光はファイアボールを放ったが… そのファイアボールが桁違いの威力で、ベヒーモスを消滅させてから大森林を塵に変えた。 「異世界の神様は俺に魔王討伐を依頼していたが、このままだと俺が魔王扱いされかねない!」 それから光は力を抑えて行動する事になる。 光のジョブは勇者という訳では無い。 だからどんなジョブを入手するかまだ予定はないのだが…このままだと魔王とか破壊神に成りかねない。 果たして光は転移先の異世界で生活をしていけるのだろうか? 3月17日〜20日の4日連続でHOTランキング1位になりました。 皆さん、応援ありがとうございました.°(ಗдಗ。)°.

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

処理中です...