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第2章:ナナライパーティ
第18話 単発ローラー最終日
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ひと眠りしたあと、朝陽とナナライパーティはダンジョン最奥のボス、オーガと戦った。身長三メートルほどもある二足歩行の魔物が斧を振り回すので、ナナライパーティは苦戦していた。ちなみに朝陽は、遠く離れた場所で情けない声を上げながら、やみくもに魔法スクロールを広げて形だけのサポートをしていた。
苦闘の末、なんとかオーガを倒したナナライパーティは、全員五体満足で青空を仰ぐことができた。
一週間ぶりの新鮮な空気を噛み締めながら、ナナライはダンジョン管理人に攻略完了の報告をしに行った。
「管理人さん! たぶん完全攻略できました!!」
「ほーう? 隠し通路は見つけたかい?」
「はい、もちろん! そこも無事攻略できました!」
管理人は「そんなまさか」と鼻で笑う。
「ハッタリはよしなさい。俺がここの管理人になってもう十五年になるけど、今まであそこを攻略できた冒険者はいないよ。なんたってあそこは、かの有名な魔術師ソロモン様が造った仕掛けと言われているんだから。魔術が退化した今、解ける冒険者なんぞおらん」
Gランクダンジョンに潜るような低級冒険者ならなおさらな、と管理人は付け足した。
ナナライは管理人を睨みつけ、朝陽の鞄から「魔術師の外套」を引っ張り出す。
「これ、そこの宝箱に入ってた装備です!」
「なっ……それはっ!!」
ダンジョン内の宝箱リストを確かめ始めた管理人を置いて、ナナライたちはその場をあとにした。
チノマ町に戻った彼らは、三日月と星が輝く夜空の下で乾杯をした。
少し遅れてやって来たピヴルがテーブルに麻袋を置く。
「お待たせ! 素材とかを換金してきたぜー!」
麻袋の中には金貨が六十枚と大銀貨八枚が入っていた。ナナライは、消耗品の費用と朝陽の給金を差し引いた金額を四人で均等に割った。
オウンは配られた金貨に頬ずりする。
「おおーっ。これで当分の宿賃が払えるぜぇぇっ!」
ピヴルもマルシャも満足そうだ。
ナナライは申し訳なさそうに、朝陽に金貨三枚と大銀貨五枚を渡す。
「みんなより少なくてごめんね、アサヒ」
「いえ。むしろ水晶の間の宝を一番多くいただいてしまってすみません」
「何言ってんの! アサヒは魔術の仕掛けをといてくれた、今回一番の功労者! 本当にありがとうね!」
そのあと朝陽は、ナナライパーティから正式なメンバーにならないかと誘われた。
ナナライパーティは、メンバー全員が面白くて優しい人だ。一緒に旅をしたらきっと楽しいだろう。
悩んだ末、朝陽は首を横に振る。
「すごく嬉しいです。僕も、パーティを組むならナナライたちとがいいって思っていました。でも……もうしばらくは、フリーのローラーとしてやっていこうかなと」
異世界に召喚されて約一カ月半。さすがの朝陽も、これが白昼夢などではなく現実に起こったことだと受け止める、覚悟と諦めの準備がついた。
それなら自由に異世界を楽しもうじゃないかと、朝陽は半ばヤケクソ気味に考えていた。
ナナライたちとパーティを組んで冒険者として旅をするのも魅力的だ。
だが、朝陽は他にやりたいと思えることを見つけてしまった。
「魔術の勉強がしてみたいんです。あの仕掛けを解いているとき、すごく楽しかった」
ナナライパーティは目尻を下げ、朝陽の言葉に耳を傾けた。
「魔術文字が読めるようになりたい。もっといろんな魔法陣を描いてみたい。魔力がない僕が魔術の勉強をするなんて馬鹿げているかもしれないけれど……。それでも、やりたいことがいっぱいできて、ワクワクが止まらないんです」
だからごめんなさい、と朝陽が頭を下げると、ナナライとオウンが満面の笑みを浮かべ、彼の背中を押した。
「嬉しい! アサヒには絶対、魔術師の才能があると思ってたの!!」
「魔術師に魔力があるとかないとか関係ねえよ! お前の書く字には、特別な力が宿ってる! 俺はそう思った! 頑張れよ!!」
マルシャとピヴルは、朝陽のジョッキに乾杯する。
「でも、単発ローラーは続けるんだよね!? じゃあまた誘うからさ、時々一緒に旅しよ!」
「おう! 俺、お前が作るメシが好きなんだ! 旅に行けない日も、たまには一緒に酒飲もうぜ!」
ナナライたちと話していると、たまに涙腺が緩んでしまうことがある。
非情な勇者に、異世界に召喚されてしまったのは朝陽にとって不運な出来事だった。湊の作品を灰にされ、勇者パーティに使い捨ての命だと笑われたあの日のことは、目を閉じるだけで、嫌でも蘇り彼を苦しめ続けていた。突然切り離された元の世界に戻りたくても戻れないやるせなさに、朝陽は何度こっそり涙を流しただろう。
「あなたたちと出会えて、本当に良かった」
元いた世界と、勇者との苦い思い出。朝陽がそれらと決別して前を向いて歩こうと思えたのは、ナナライパーティのおかげだ。
苦闘の末、なんとかオーガを倒したナナライパーティは、全員五体満足で青空を仰ぐことができた。
一週間ぶりの新鮮な空気を噛み締めながら、ナナライはダンジョン管理人に攻略完了の報告をしに行った。
「管理人さん! たぶん完全攻略できました!!」
「ほーう? 隠し通路は見つけたかい?」
「はい、もちろん! そこも無事攻略できました!」
管理人は「そんなまさか」と鼻で笑う。
「ハッタリはよしなさい。俺がここの管理人になってもう十五年になるけど、今まであそこを攻略できた冒険者はいないよ。なんたってあそこは、かの有名な魔術師ソロモン様が造った仕掛けと言われているんだから。魔術が退化した今、解ける冒険者なんぞおらん」
Gランクダンジョンに潜るような低級冒険者ならなおさらな、と管理人は付け足した。
ナナライは管理人を睨みつけ、朝陽の鞄から「魔術師の外套」を引っ張り出す。
「これ、そこの宝箱に入ってた装備です!」
「なっ……それはっ!!」
ダンジョン内の宝箱リストを確かめ始めた管理人を置いて、ナナライたちはその場をあとにした。
チノマ町に戻った彼らは、三日月と星が輝く夜空の下で乾杯をした。
少し遅れてやって来たピヴルがテーブルに麻袋を置く。
「お待たせ! 素材とかを換金してきたぜー!」
麻袋の中には金貨が六十枚と大銀貨八枚が入っていた。ナナライは、消耗品の費用と朝陽の給金を差し引いた金額を四人で均等に割った。
オウンは配られた金貨に頬ずりする。
「おおーっ。これで当分の宿賃が払えるぜぇぇっ!」
ピヴルもマルシャも満足そうだ。
ナナライは申し訳なさそうに、朝陽に金貨三枚と大銀貨五枚を渡す。
「みんなより少なくてごめんね、アサヒ」
「いえ。むしろ水晶の間の宝を一番多くいただいてしまってすみません」
「何言ってんの! アサヒは魔術の仕掛けをといてくれた、今回一番の功労者! 本当にありがとうね!」
そのあと朝陽は、ナナライパーティから正式なメンバーにならないかと誘われた。
ナナライパーティは、メンバー全員が面白くて優しい人だ。一緒に旅をしたらきっと楽しいだろう。
悩んだ末、朝陽は首を横に振る。
「すごく嬉しいです。僕も、パーティを組むならナナライたちとがいいって思っていました。でも……もうしばらくは、フリーのローラーとしてやっていこうかなと」
異世界に召喚されて約一カ月半。さすがの朝陽も、これが白昼夢などではなく現実に起こったことだと受け止める、覚悟と諦めの準備がついた。
それなら自由に異世界を楽しもうじゃないかと、朝陽は半ばヤケクソ気味に考えていた。
ナナライたちとパーティを組んで冒険者として旅をするのも魅力的だ。
だが、朝陽は他にやりたいと思えることを見つけてしまった。
「魔術の勉強がしてみたいんです。あの仕掛けを解いているとき、すごく楽しかった」
ナナライパーティは目尻を下げ、朝陽の言葉に耳を傾けた。
「魔術文字が読めるようになりたい。もっといろんな魔法陣を描いてみたい。魔力がない僕が魔術の勉強をするなんて馬鹿げているかもしれないけれど……。それでも、やりたいことがいっぱいできて、ワクワクが止まらないんです」
だからごめんなさい、と朝陽が頭を下げると、ナナライとオウンが満面の笑みを浮かべ、彼の背中を押した。
「嬉しい! アサヒには絶対、魔術師の才能があると思ってたの!!」
「魔術師に魔力があるとかないとか関係ねえよ! お前の書く字には、特別な力が宿ってる! 俺はそう思った! 頑張れよ!!」
マルシャとピヴルは、朝陽のジョッキに乾杯する。
「でも、単発ローラーは続けるんだよね!? じゃあまた誘うからさ、時々一緒に旅しよ!」
「おう! 俺、お前が作るメシが好きなんだ! 旅に行けない日も、たまには一緒に酒飲もうぜ!」
ナナライたちと話していると、たまに涙腺が緩んでしまうことがある。
非情な勇者に、異世界に召喚されてしまったのは朝陽にとって不運な出来事だった。湊の作品を灰にされ、勇者パーティに使い捨ての命だと笑われたあの日のことは、目を閉じるだけで、嫌でも蘇り彼を苦しめ続けていた。突然切り離された元の世界に戻りたくても戻れないやるせなさに、朝陽は何度こっそり涙を流しただろう。
「あなたたちと出会えて、本当に良かった」
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