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第2章:ナナライパーティ
第16話 水晶と墨汁
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ナナライパーティがヤケ酒を始めても、朝陽は魔法陣の前で魔術書を眺めていた。
(本当に力ステータスが足りないせいなのかな。僕はそうとは思えない)
ここはGランクダンジョンだ。出現する敵も、駆け出しの冒険者でも倒せる程度の弱い魔物しかいない。そんな彼らでも魔術さえできれば解けるものであるはずだ。それに、この神秘的な魔術の部屋で、床を彫る力が足りないと攻略できないなんて引っかけはあまりにもナンセンスである。
(他にも見落としてるところがあるはずだ)
魔法陣のページを何度も見直した朝陽は、もう片方のページに描かれた小さな図に着目した。
(水晶とインクの絵? 隣に説明文がびっしり書かれてる。魔術ってどんなものを使うかも重要な魔法陣もあるのか。へえ、興味深いな。・……ちょっと待てよ)
朝陽は別のページに描かれた他の魔法陣のページも確認した。先ほどのページでは水晶とインクが描かれていたが、図がないものや、ナイフや石、羊皮紙とペンなど、魔法陣によってそれぞれ違う図が載っていることもあった。
(描く道具が指定されてる魔法陣があるんだ! つまりこの魔法陣は、彫るんじゃなくてインクで水晶に描かないといけない)
朝陽は鞄から硯と墨汁、筆を取り出した。
インクで水晶に文字が書けるのかとか、インクじゃなくて墨汁だけど大丈夫なのだろうかとか、不安要素は山ほどあったが、彫るよりは成功の可能性が高いだろう。
水晶に筆を載せる。水晶は墨を弾かず、むしろ染み込み一体となった。朝陽が線を引くと、縁がネオンのように青白く光る。
(これ……ひょっとして正解なんじゃないか?)
朝陽は彫られた魔法陣をなぞり、誤字はしれっと修正した。あの魔術書を初めて見た時からずっと魔術文字を書いてみたいと思っていたので、喜びと興奮で鼓動が高鳴る。
(うおぉぉぉっ……! かっこいい、かっこいいぞこの文字! 縁が光ってるのも最高すぎないか! 書くの楽しぃー!)
その頃ナナライのパーティは、突如不思議な道具を取り出して四つん這いになった朝陽に怪訝な目を向けていた。声をかけても、集中力が高まりすぎた朝陽は全く反応しない。
四人は忍び足で朝陽に近寄り、彼の手元を覗き込んだ。
「……すごい」
朝陽が描き出す魔法陣は、魔術書に描かれたものとほとんど同じ、むしろ書物よりもずっと力がこもっているように感じた。
そしてなにより、彼の線質は目を奪われるほどに美しい。
「こいつ……魔術師なんじゃねえの……」
オウンの呟きに、ナナライは首を横に振る。
「そんなはずない。だってアサヒは魔術文字が読めないし、そもそも魔力を持たないんだもの……」
「だったらどうしてこんな完璧な魔法陣を描けるんだよ。なんでこんな道具を持ち歩いてる?」
「分からない……」
朝陽は三時間かけて魔法陣を描いた。あとは一番外側の円を閉じるだけだ。
筆にたっぷり墨を含ませ、最後の仕上げをする。
「っ……ぷはぁっ……。できた……ナナライ!」
朝陽が振り返ると、魔法陣のすぐ外にナナライたちが立っていた。魔法陣が完成した喜びより、朝陽が一体何者なのかが分からず戸惑っているようだ。
「あ、あのっ。ナナライ、魔法スクロールをお願いします!」
「わ、分かった……!」
ナナライたちが蝋燭に火を点け、月桂樹の枯れ葉を蘇らせている間に、朝陽は魔法陣から出ようとした。しかし、見えない壁が張っていて外に出られない。
「えっ。なにこれっ。閉じ込められた!? えっ、えっ!?」
外からも魔法陣内に入られないようで、仲間たちが見えない壁を叩いている。
「アサヒ! とりあえずこの儀式を終わらせよう! 魔法スクロールで扉に向かって風を!」
「わ、分かりました!」
「いい!? 絶対に、ちゃんとかっこつけて広げるんだよ!」
魔王城に挑んだときも思っていたが、なぜ冒険者は技を繰り出すときに恰好をつけたがるんだろう、と朝陽は無性にイラッとした。
「僕はそういうの苦手なんだよ……。はぁ……」
しかし、絶対にしなければならないということなので、仕方なく、本当に仕方なく、朝陽は大袈裟な身振りで巻物を広げた。外野から「いいよー! かっこいいよアサヒー!」と聞こえて死にたくなった。
巻物から一閃の風が吹く。その風は、朝陽が描いた墨の魔法陣を扉まで連れて行った。床の魔法陣は消え、代わりに扉に彫られた魔法陣と重なる。
まばゆい光が放たれ、ガコン、と音がした。
(本当に力ステータスが足りないせいなのかな。僕はそうとは思えない)
ここはGランクダンジョンだ。出現する敵も、駆け出しの冒険者でも倒せる程度の弱い魔物しかいない。そんな彼らでも魔術さえできれば解けるものであるはずだ。それに、この神秘的な魔術の部屋で、床を彫る力が足りないと攻略できないなんて引っかけはあまりにもナンセンスである。
(他にも見落としてるところがあるはずだ)
魔法陣のページを何度も見直した朝陽は、もう片方のページに描かれた小さな図に着目した。
(水晶とインクの絵? 隣に説明文がびっしり書かれてる。魔術ってどんなものを使うかも重要な魔法陣もあるのか。へえ、興味深いな。・……ちょっと待てよ)
朝陽は別のページに描かれた他の魔法陣のページも確認した。先ほどのページでは水晶とインクが描かれていたが、図がないものや、ナイフや石、羊皮紙とペンなど、魔法陣によってそれぞれ違う図が載っていることもあった。
(描く道具が指定されてる魔法陣があるんだ! つまりこの魔法陣は、彫るんじゃなくてインクで水晶に描かないといけない)
朝陽は鞄から硯と墨汁、筆を取り出した。
インクで水晶に文字が書けるのかとか、インクじゃなくて墨汁だけど大丈夫なのだろうかとか、不安要素は山ほどあったが、彫るよりは成功の可能性が高いだろう。
水晶に筆を載せる。水晶は墨を弾かず、むしろ染み込み一体となった。朝陽が線を引くと、縁がネオンのように青白く光る。
(これ……ひょっとして正解なんじゃないか?)
朝陽は彫られた魔法陣をなぞり、誤字はしれっと修正した。あの魔術書を初めて見た時からずっと魔術文字を書いてみたいと思っていたので、喜びと興奮で鼓動が高鳴る。
(うおぉぉぉっ……! かっこいい、かっこいいぞこの文字! 縁が光ってるのも最高すぎないか! 書くの楽しぃー!)
その頃ナナライのパーティは、突如不思議な道具を取り出して四つん這いになった朝陽に怪訝な目を向けていた。声をかけても、集中力が高まりすぎた朝陽は全く反応しない。
四人は忍び足で朝陽に近寄り、彼の手元を覗き込んだ。
「……すごい」
朝陽が描き出す魔法陣は、魔術書に描かれたものとほとんど同じ、むしろ書物よりもずっと力がこもっているように感じた。
そしてなにより、彼の線質は目を奪われるほどに美しい。
「こいつ……魔術師なんじゃねえの……」
オウンの呟きに、ナナライは首を横に振る。
「そんなはずない。だってアサヒは魔術文字が読めないし、そもそも魔力を持たないんだもの……」
「だったらどうしてこんな完璧な魔法陣を描けるんだよ。なんでこんな道具を持ち歩いてる?」
「分からない……」
朝陽は三時間かけて魔法陣を描いた。あとは一番外側の円を閉じるだけだ。
筆にたっぷり墨を含ませ、最後の仕上げをする。
「っ……ぷはぁっ……。できた……ナナライ!」
朝陽が振り返ると、魔法陣のすぐ外にナナライたちが立っていた。魔法陣が完成した喜びより、朝陽が一体何者なのかが分からず戸惑っているようだ。
「あ、あのっ。ナナライ、魔法スクロールをお願いします!」
「わ、分かった……!」
ナナライたちが蝋燭に火を点け、月桂樹の枯れ葉を蘇らせている間に、朝陽は魔法陣から出ようとした。しかし、見えない壁が張っていて外に出られない。
「えっ。なにこれっ。閉じ込められた!? えっ、えっ!?」
外からも魔法陣内に入られないようで、仲間たちが見えない壁を叩いている。
「アサヒ! とりあえずこの儀式を終わらせよう! 魔法スクロールで扉に向かって風を!」
「わ、分かりました!」
「いい!? 絶対に、ちゃんとかっこつけて広げるんだよ!」
魔王城に挑んだときも思っていたが、なぜ冒険者は技を繰り出すときに恰好をつけたがるんだろう、と朝陽は無性にイラッとした。
「僕はそういうの苦手なんだよ……。はぁ……」
しかし、絶対にしなければならないということなので、仕方なく、本当に仕方なく、朝陽は大袈裟な身振りで巻物を広げた。外野から「いいよー! かっこいいよアサヒー!」と聞こえて死にたくなった。
巻物から一閃の風が吹く。その風は、朝陽が描いた墨の魔法陣を扉まで連れて行った。床の魔法陣は消え、代わりに扉に彫られた魔法陣と重なる。
まばゆい光が放たれ、ガコン、と音がした。
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