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第1章:魔王討伐
第9話 使い捨て
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炎が消え去ったあとには、焼け焦げ息絶えたドラゴンの姿があった。
朝陽の前にぽつぽつと影が増えていく。中央に立つ勇者は、それまで見せたことのない冷たい目で朝陽を見下ろしていた。
「おい、貴様。先ほどの会話、聞こえていたぞ」
「……」
「俺たちよりも使い捨ての道具の方が大切だって?」
「『ひだまり』は使い捨ての道具なんかじゃありません……。湊の……僕にとっても……とても大切な作品だったんです……」
勇者は鼻で笑い、朝陽を蹴り上げた。
「ぐあっ……」
「ふざけるな! 俺たちは代用のきかない勇者パーティなんだぞ! この使い捨てのアイテムやお前と違ってな!!」
「……僕のこと、使い捨てだと思ってたんですか……?」
眉を寄せる朝陽に、勇者をはじめ他のメンバーもわざとらしく首を傾げた。
「当然だろう。なんだ? まさかこれまでの言葉を真に受けていたか?」
「で、でも……勇者、君は僕の命も大切だと言ってくれたじゃないですか……」
勇者の高笑いが魔王の間に響き渡る。
「ああ! 大切だったさ。さっきまではな。なぜならお前は――ローラーは、俺たちが危険にさらされたときの囮……つまり身代わりの命として必要だったからなあ!」
「は……?」
朝陽は仲間たちの顔を見回した。昨晩酒を振る舞ってくれたエルマも、楽しい話を聞かせてくれたサルルも、大声で笑いながら朝陽の頭を撫でまわしていたダイアも、今では彼にゴミを見るときのような目を向けている。
勇者が朝陽の頭に足を置く。
「俺たちの身代わりになる前に死なれちゃかなわない。それじゃあ高い金を払った意味がなくなるからな。それに俺たちは、伝説級の魔法スクロールを……いざとなれば戦力になるものを、お前が隠し持っていることも知っていた」
「違う……っ、これは魔法スクロールなんかじゃない……っ」
「うるさい」
踏みつけられ床に頭を強打した朝陽は、痛みとショックのあまり意識を失いそうになった。
勇者は怒りに任せ、今まで隠していたことを暴露した。
朝陽が召喚された前日に失踪した勇者パーティの一人も、長期雇われのローラーだったそうだ。それまで酷使され続けていた彼の体はもうボロボロで、魔王城に挑むとなれば、まず間違いなく命はないだろうと悟り、ローラーは逃げ出した。
「全く。臆病者の出来損ないだったよ、彼は」
慌てて臨時ローラーを募集するも、手を挙げる者はいなかった。
「魔王城に挑むには俺たちのレベルがまだ低すぎるとか、せめてもっと弱い魔王に挑めとか、ローラーの分際で鬱陶しいアドバイスを言うだけ言って逃げるんだ。それでも挑もうとする勇敢な俺たちに、本来ならば賞賛を向けるべきじゃないのか? 国の為に戦う俺たちに命を賭すべきなんじゃないか?」
藁にもすがる思いで、勇者たちは召喚術を試みたそうだ。召喚術は、魔術の退化によりここ百五十年成功させた者がいなかった。それをエルマが奇跡的に成功させ、朝陽が召喚されたらしい。
「やはり神は勇者の味方だ。異世界人ほど身代わりとしてうってつけの命はない。なぜなら魔族は稀少なものを好むからな。万が一のことがあっても、お前の命を差し出せば俺たち全員が助かるに違いなかった」
その上、朝日の鞄には伝説級の魔法スクロール――生徒の習字作品が三枚も入っていた。たとえ朝陽が非戦闘員だったとしても、そのスクロールがあれば、下手な冒険者よりも戦力になると勇者パーティは踏んだのだ。
朝陽は力ない声を漏らす。
「じゃあ……元から僕の命も、生徒の作品も、使い捨てとしか見ていなかったんですね……。あんなに優しくしてくれたのに……」
「そりゃあ、辛く当たって逃げられると都合が悪いからな。俺たちはそこまでバカじゃない。ローラーには優しくして、喜んで囮になってもらえるよう接している」
勇者は朝陽の髪を掴み、耳元で囁いた。
「ああ、それと。送還術なんて魔術は存在しない」
朝陽は目を見開き、拳をぶるぶると震わせた。
「存在しない……? じゃあ、まさか……」
「お前にローラーをさせるための方便だ。奇跡的に魔王城から無事帰れたとしても、お前は元の世界になんか帰られないんだよ」
勇者が噴き出すと、他の三人もつられて肩を震わせた。
「それなのにお前はそれを信じて……全員分の荷物を文句ひとつ言わず持ち、美味いメシを作り、鎧や武器まで磨いてくれていたなあ。ぷぷ、ぶはっ、あはは! 本当におかしかったよ! 健気で従順なお前を見る度、笑いを堪えるので必死だった!!」
朝陽の前にぽつぽつと影が増えていく。中央に立つ勇者は、それまで見せたことのない冷たい目で朝陽を見下ろしていた。
「おい、貴様。先ほどの会話、聞こえていたぞ」
「……」
「俺たちよりも使い捨ての道具の方が大切だって?」
「『ひだまり』は使い捨ての道具なんかじゃありません……。湊の……僕にとっても……とても大切な作品だったんです……」
勇者は鼻で笑い、朝陽を蹴り上げた。
「ぐあっ……」
「ふざけるな! 俺たちは代用のきかない勇者パーティなんだぞ! この使い捨てのアイテムやお前と違ってな!!」
「……僕のこと、使い捨てだと思ってたんですか……?」
眉を寄せる朝陽に、勇者をはじめ他のメンバーもわざとらしく首を傾げた。
「当然だろう。なんだ? まさかこれまでの言葉を真に受けていたか?」
「で、でも……勇者、君は僕の命も大切だと言ってくれたじゃないですか……」
勇者の高笑いが魔王の間に響き渡る。
「ああ! 大切だったさ。さっきまではな。なぜならお前は――ローラーは、俺たちが危険にさらされたときの囮……つまり身代わりの命として必要だったからなあ!」
「は……?」
朝陽は仲間たちの顔を見回した。昨晩酒を振る舞ってくれたエルマも、楽しい話を聞かせてくれたサルルも、大声で笑いながら朝陽の頭を撫でまわしていたダイアも、今では彼にゴミを見るときのような目を向けている。
勇者が朝陽の頭に足を置く。
「俺たちの身代わりになる前に死なれちゃかなわない。それじゃあ高い金を払った意味がなくなるからな。それに俺たちは、伝説級の魔法スクロールを……いざとなれば戦力になるものを、お前が隠し持っていることも知っていた」
「違う……っ、これは魔法スクロールなんかじゃない……っ」
「うるさい」
踏みつけられ床に頭を強打した朝陽は、痛みとショックのあまり意識を失いそうになった。
勇者は怒りに任せ、今まで隠していたことを暴露した。
朝陽が召喚された前日に失踪した勇者パーティの一人も、長期雇われのローラーだったそうだ。それまで酷使され続けていた彼の体はもうボロボロで、魔王城に挑むとなれば、まず間違いなく命はないだろうと悟り、ローラーは逃げ出した。
「全く。臆病者の出来損ないだったよ、彼は」
慌てて臨時ローラーを募集するも、手を挙げる者はいなかった。
「魔王城に挑むには俺たちのレベルがまだ低すぎるとか、せめてもっと弱い魔王に挑めとか、ローラーの分際で鬱陶しいアドバイスを言うだけ言って逃げるんだ。それでも挑もうとする勇敢な俺たちに、本来ならば賞賛を向けるべきじゃないのか? 国の為に戦う俺たちに命を賭すべきなんじゃないか?」
藁にもすがる思いで、勇者たちは召喚術を試みたそうだ。召喚術は、魔術の退化によりここ百五十年成功させた者がいなかった。それをエルマが奇跡的に成功させ、朝陽が召喚されたらしい。
「やはり神は勇者の味方だ。異世界人ほど身代わりとしてうってつけの命はない。なぜなら魔族は稀少なものを好むからな。万が一のことがあっても、お前の命を差し出せば俺たち全員が助かるに違いなかった」
その上、朝日の鞄には伝説級の魔法スクロール――生徒の習字作品が三枚も入っていた。たとえ朝陽が非戦闘員だったとしても、そのスクロールがあれば、下手な冒険者よりも戦力になると勇者パーティは踏んだのだ。
朝陽は力ない声を漏らす。
「じゃあ……元から僕の命も、生徒の作品も、使い捨てとしか見ていなかったんですね……。あんなに優しくしてくれたのに……」
「そりゃあ、辛く当たって逃げられると都合が悪いからな。俺たちはそこまでバカじゃない。ローラーには優しくして、喜んで囮になってもらえるよう接している」
勇者は朝陽の髪を掴み、耳元で囁いた。
「ああ、それと。送還術なんて魔術は存在しない」
朝陽は目を見開き、拳をぶるぶると震わせた。
「存在しない……? じゃあ、まさか……」
「お前にローラーをさせるための方便だ。奇跡的に魔王城から無事帰れたとしても、お前は元の世界になんか帰られないんだよ」
勇者が噴き出すと、他の三人もつられて肩を震わせた。
「それなのにお前はそれを信じて……全員分の荷物を文句ひとつ言わず持ち、美味いメシを作り、鎧や武器まで磨いてくれていたなあ。ぷぷ、ぶはっ、あはは! 本当におかしかったよ! 健気で従順なお前を見る度、笑いを堪えるので必死だった!!」
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