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第1章:魔王討伐
第8話 ひだまり
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勇者が扉を開ける。その重い扉を開けるだけでも苦しそうな呻き声を漏らしているのに、どうやって魔王と戦うのだろうか、と朝陽は唇を噛んだ。
扉の奥には、全長十メートルのドラゴンが待ち受けていた。
「こいつが……魔王か……」
絶望が滲む勇者の声はひときわ小さかった。
「ドラゴンに化けてるヒト型魔物か……それともドラゴンそのものなのか……どっちだ」
勇者の言葉にエルマが苦笑する。
「どちらでも……厳しいことには変わりないわ」
ドラゴンが吠えただけで、衝撃で勇者たちの体がぐらつく。
「くそっ……。ダイア、行くぞ!」
「おうよ!!」
勇者は剣を抜き、ダイアは拳を構え、ドラゴンに向かって突撃した。
「うおおおおおお! くらえっ! 聖剣斬撃!」
「重拳三百連打っ! おらおらおらおらっ!」
後方ではエルマが杖を振り、サルルが魔法スクロールを展開する。
「アルス・フルズム! 氷の鬼雨を降らせてあげるわ!」
「特級『行動不能』! モン・ムヴィリエ!!」
魔法スクロール効果によりドラゴンの動きが止まったのはたった十秒。その間に勇者とダイアの攻撃は当たったが、ドラゴンの硬い皮膚には傷ひとつついていない。エルムの氷魔法も、ドラゴンにとってはただの小雨だった。
「なに……っ」
目を見開く勇者がドラゴンの視界に映った。ドラゴンは大きな欠伸をしたのちに、前足で勇者とダイアをなぎ倒す。
勢いよく吹き飛ばされた二人は壁に体を強打し、口から血を吐いた。
サルルが慌てて回復魔法をかけようとしたが、彼女と勇者の間に炎を吐かれ、魔法と視界を妨げられる。
「勇者様! ダイア!」
仲間の元へ駆け寄ろうとしたサルルの横腹に、ドラゴンの尻尾が打ち付けられる。サルルはそのまま反対側の壁まで飛ばされ、意識を失った。
魔王の間に入ってたったの三分で、意識を保っているのはエルマと朝陽だけになった。
エルマの体が激しく震え、後ずさる。
「あ……あ……。み、みんな……」
そして彼女は朝陽をキッと睨み、襟首を掴んだ。
「アサヒッ……!! あんた、いい加減ソレ使いなさいよ!! みんなが危ないのよ!?」
「えっ……、ソレッてなんですか……?」
「しらばっくれるんじゃないわよ! その! あんたの鞄の中に入ってる! 伝説級の魔法スクロールよ!!」
当然、朝陽の鞄の中にそんなものは入っていない。
「いい加減にして! 私たちみんな知ってるんだから!! ほら……これよ!!」
「あっ、それは……!」
エルマが朝陽の鞄を引っ手繰り、中から一枚の紙を取り出した。
それは、「ひだまり」と書かれた習字――あの日、湊が一番上手く書けた作品だった。
「これはただの習字ですっ。魔法スクロールなんかじゃありません!」
「まだ嘘吐くの!? これはね、れっきとした炎魔法スクロールよ! 魔力を持っている者だったらすぐに分かるわ。しかも、とてつもなく上質のものだってこともね!」
呪文を唱え始めたエルマから、朝陽は湊の作品を取り返し、守るように抱きしめる。
エルマは、床にしゃがみこむ朝陽を鬼の形相で睨みつけた。
「……こんな状態になっても、それを使わせない気なの?」
「ごめんなさい……! これは、僕の生徒の大切な作品なんです!! 何時間もかけて、やっと生み出した作品なんです……! それを使い捨ての道具にすることはできません……!」
エルマは懇願している朝陽を蹴って転ばせ、湊の作品を奪った。
「やめてください! お願いします! それは湊の……大事な……っ!」
「フラムリエ・マティス」
「あっ……」
「ひだまり」から、ドラゴンを丸ごと覆い尽くすほどの炎火が放たれる。
ドラゴンの絶叫が聞こえる中、朝陽は呆然とエルマを見上げていた。彼女の手から灰になった「ひだまり」がパラパラと落ちる。朝陽の視界が涙で滲んだ。
扉の奥には、全長十メートルのドラゴンが待ち受けていた。
「こいつが……魔王か……」
絶望が滲む勇者の声はひときわ小さかった。
「ドラゴンに化けてるヒト型魔物か……それともドラゴンそのものなのか……どっちだ」
勇者の言葉にエルマが苦笑する。
「どちらでも……厳しいことには変わりないわ」
ドラゴンが吠えただけで、衝撃で勇者たちの体がぐらつく。
「くそっ……。ダイア、行くぞ!」
「おうよ!!」
勇者は剣を抜き、ダイアは拳を構え、ドラゴンに向かって突撃した。
「うおおおおおお! くらえっ! 聖剣斬撃!」
「重拳三百連打っ! おらおらおらおらっ!」
後方ではエルマが杖を振り、サルルが魔法スクロールを展開する。
「アルス・フルズム! 氷の鬼雨を降らせてあげるわ!」
「特級『行動不能』! モン・ムヴィリエ!!」
魔法スクロール効果によりドラゴンの動きが止まったのはたった十秒。その間に勇者とダイアの攻撃は当たったが、ドラゴンの硬い皮膚には傷ひとつついていない。エルムの氷魔法も、ドラゴンにとってはただの小雨だった。
「なに……っ」
目を見開く勇者がドラゴンの視界に映った。ドラゴンは大きな欠伸をしたのちに、前足で勇者とダイアをなぎ倒す。
勢いよく吹き飛ばされた二人は壁に体を強打し、口から血を吐いた。
サルルが慌てて回復魔法をかけようとしたが、彼女と勇者の間に炎を吐かれ、魔法と視界を妨げられる。
「勇者様! ダイア!」
仲間の元へ駆け寄ろうとしたサルルの横腹に、ドラゴンの尻尾が打ち付けられる。サルルはそのまま反対側の壁まで飛ばされ、意識を失った。
魔王の間に入ってたったの三分で、意識を保っているのはエルマと朝陽だけになった。
エルマの体が激しく震え、後ずさる。
「あ……あ……。み、みんな……」
そして彼女は朝陽をキッと睨み、襟首を掴んだ。
「アサヒッ……!! あんた、いい加減ソレ使いなさいよ!! みんなが危ないのよ!?」
「えっ……、ソレッてなんですか……?」
「しらばっくれるんじゃないわよ! その! あんたの鞄の中に入ってる! 伝説級の魔法スクロールよ!!」
当然、朝陽の鞄の中にそんなものは入っていない。
「いい加減にして! 私たちみんな知ってるんだから!! ほら……これよ!!」
「あっ、それは……!」
エルマが朝陽の鞄を引っ手繰り、中から一枚の紙を取り出した。
それは、「ひだまり」と書かれた習字――あの日、湊が一番上手く書けた作品だった。
「これはただの習字ですっ。魔法スクロールなんかじゃありません!」
「まだ嘘吐くの!? これはね、れっきとした炎魔法スクロールよ! 魔力を持っている者だったらすぐに分かるわ。しかも、とてつもなく上質のものだってこともね!」
呪文を唱え始めたエルマから、朝陽は湊の作品を取り返し、守るように抱きしめる。
エルマは、床にしゃがみこむ朝陽を鬼の形相で睨みつけた。
「……こんな状態になっても、それを使わせない気なの?」
「ごめんなさい……! これは、僕の生徒の大切な作品なんです!! 何時間もかけて、やっと生み出した作品なんです……! それを使い捨ての道具にすることはできません……!」
エルマは懇願している朝陽を蹴って転ばせ、湊の作品を奪った。
「やめてください! お願いします! それは湊の……大事な……っ!」
「フラムリエ・マティス」
「あっ……」
「ひだまり」から、ドラゴンを丸ごと覆い尽くすほどの炎火が放たれる。
ドラゴンの絶叫が聞こえる中、朝陽は呆然とエルマを見上げていた。彼女の手から灰になった「ひだまり」がパラパラと落ちる。朝陽の視界が涙で滲んだ。
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