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プロローグ:異世界転移
第4話 クソステ、ハズレ特性、ハズレスキル
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勇者は顎をさすりながら、朝陽のステータスが書かれた巻物をまじまじと見る。
「特性が付いているな。〝遅咲き〟……ああ、なるほど。それでこのステータスか」
〝遅咲き〟とは、レベル五十五までの基本ステータスは救いがたいほど低いが、レベル五十五を超えるとそれまでの伸び悩みを取り返すかのように、超人的なスピードでステータスが上がっていく、という特性だと勇者は説明した。レベル七十を超えると平均以上になり、八十を超えると優秀、九十を越えると類稀。そしてマックスレベルの九十九に到達したときには、全ステータスを上限値の九千九百九十九まで伸ばすことができるらしい。
ただし、と勇者は補足する。
「アサヒの場合、そもそも持たない魔力は例外だ。君の魔力はレベル九十九になってもゼロのままだろう」
「逆に言えば、魔力以外のステータスはカンストできるってことですか。っていうか、レベル九十九になったらみんなステータスをカンストできるわけではないんですね」
「ああ。アサヒや俺のような特殊な特性を持たない人は、全ステどころか得意ステをカンストさせることすらできない。稀に、特性に頼らずステをいくつかカンストさせる人もいるが……。そんな人は歴史に名を遺す偉人だけだ」
朝陽は目を輝かせ、自分のステータスを見つめた。
「つまり、〝遅咲き〟はとんでもなく良い特性ということですね!?」
勇者は渋い顔で応える。
「いや……。実はそうでもなくて……むしろ……ハズレ特性と言われている」
「ええっ、どうしてですか!?」
「〝遅咲き〟の特性が活きるのはレベル五十五以降だというのは分かったな? だが、この特性を持った人がレベルを五十五まで上げるのなんて不可能だ」
一般的な人であれば、レベルが上がるごとにレベルアップに必要な経験値が増えていく。だが、〝遅咲き〟特性持ちは、レベル一から九十八までの総合必要経験値を九十八で割り均等に振り分けられているそうだ。そのため、低レベルの時は絶望的なほどレベルが上がりづらく、逆に高レベルになるごとにレベルが上がりやすくなるらしい。
「弱いうちからレベルアップに求められる経験値が多すぎる」
二十五レベルでスタートしたことは不幸中の幸いだったよ、とサルルが呟く。
「レベル二十五の〝遅咲き〟特性持ちなんて初めて見たよ~。みんなレベル二にすらなれないの。まあ、当然よね。スライムですら倒すのもやっとの人に、強い魔物を倒して効率的に経験値を稼ぐ術はないんだもん」
勇者は頷き、朝陽になんとも言えない視線を送る。
「だから〝遅咲き〟の人は、特性の恩恵を受けられないうちに……魔物に殺されたり、寿命で死んだり、心が折れてレベル上げを諦めたりする人がほとんどだ。少なくとも、俺たちはレベル二以上の〝遅咲き〟を見たことがなかった」
勇者の話を聞き、すでに朝陽の心はぽっきり折れていた。
勇者はまだ何か言いたげに朝陽のステータスを覗き込む。
「スキルが表示されていないが……」
「スキルなしか、もしくはランクSSS以上のレアスキル持ちかのどちらかね。この中級『鑑定』魔法スクロールでは、ランクSSまでのスキルしか表示されないの。まあ、どう考えたって・・・・・・」
エルムはそれ以上言葉を続けなかったが、「どう考えたって前者でしょうけど」と言いたいことは朝陽にも分かった。
しかし、と勇者は食い下がる。
「召喚術によって召喚された異世界人は、基本ステータスや特性にかかわらず、総じて稀少なスキルを持っていたと魔術書に記載があると言っていたじゃないか。彼ももしかしたら……」
「確かにそう書かれていたわね。じゃあ、上級の『鑑定』も使ってみるわ。気が進まないけれど」
気が進まないのは朝陽の方だ。これ以上個人情報を勝手に開示されるのは勘弁だったので朝陽は逃げ出した。しかしドアノブに手をかけるまでにダイアに捕まってしまった。
暴れる朝陽の前に広げられた巻物を見て、勇者は目を輝かせる。
「おっ! やはり稀少スキル持ちだった! 見ろエルマ、ランクSSSスキルだ!」
「本当だわ! どんなスキルなのかしら。聞いたことがないわ」
稀少スキルと聞き、興味が湧いた朝陽も巻物に目をやった。
【スキル名】 ブック(ランクSSS)
・書物の内容を瞬時記憶することができる。
・文字に強い魔力を込めることができる。
・
スキルの内容を読み終えた朝陽は、項垂れる勇者に尋ねた。
「ど、どうでしょう、僕のスキルは……」
「そ、そうだな……。とても実用的で素晴らしいスキルだよ、うん……」
とてもSSSとは思えないスキルだがなあ、とダイアが呟くのが聞こえたので、朝陽は不安げに勇者を見た。
「えっと……。あんまり良くないスキルなんですかね……?」
「確かにランクSSSにしてはインパクトが弱いスキルだし、パッと見ではランクS程度のスキルにしか見えないな……」
勇者は巻物をつつき、ボソッと「相性が最悪だ……」と呟いた。
「これは魔術師職に最適のスキルだ。しかし魔力を持たないアサヒには魔術師の適正がない。二つ目のスキルなんて、君にとっては何の意味もない。つまり、君は本を暗記できるようになっただけだ」
「えーっと、じゃあつまり……」
朝陽が言い淀んだことを、エルマは悪びれもせず口に出した。
「ハズレスキルね。あなたにとっても、私たちにとっても不運なことに」
基本スキルは雑魚魔物以下。重過ぎるお荷物の特性に、ハズレのランクSSSスキル。
白昼夢でくらい都合の良い展開になってほしかったと、朝陽は涙目で笑った。
「そろそろこの最悪な夢から覚めたいな……」
そんなことを呟いた朝陽の頬を、ダイアが思いっきりつねる。
「いだいいだいいだいいだいっ! ちょっと、いきなり何するんですか!?」
「まーだそんなこと言ってんのかと思ってなあ! いいか坊主、夢じゃねえんだよ、これ! 目はさっきからずぅーっと覚めてんだ!」
「信じられないですよそんなこと! だって僕、さっきまで普通に日常を過ごしてたんですよ!?」
言い争うダイアと朝陽の間に入った勇者は、朝陽にわざとらしい笑顔を向けた。
「異世界人。夢ならば夢でいいじゃないか。夢から覚めるその時までの間、暇つぶしに俺たちに付き合ってくれないか? つまり、明日に予定している魔王討伐に、共に挑んで欲しいんだが。もちろん給金は支払うし、それまでの衣食住は保障するよ」
迷うことなく首を横に振る朝陽に、勇者は構わず話し続ける。
「安心してくれ。君は魔物と戦わなくていい。戦線に立たず、ただ俺たちのサポートをしてくれたらそれでいいんだ。もし魔王討伐に付き合ってくれたら、そのあと君を〝送還術〟で元いた世界に戻すと約束しよう」
あまりに良い条件に朝陽は目を細める。
「戦わなくていい? どういうことですか?」
勇者は他のメンバーに目配せをしてから、説明を始めた。
「考えていたんだが、君は〝ローラー〟というジョブに適性があると思うんだ――」
〝ローラー〟とは、武術と魔法の適正がない人、つまり戦うことができない人でも就ける唯一の冒険者ジョブだそうだ。〝ローラー〟の役割は、魔力を持たない者でも使用することができる初級魔法スクロールでの戦闘サポートや、他のメンバーの荷物持ち、食事や寝床の準備などをする、冒険者パーティにとってなくてはならないジョブだと勇者は言った。
(勇者は良い感じに言ってるけど、それってつまり使いっぱしりの底辺職ってことじゃないか)
しかし、戦線に立つ必要がなく、荷物持ちや料理をするだけで元の世界に戻してもらえるのだとしたら、それほど悪い話ではない。
「あの。本当にそれが終わったら帰してくれるんですか?」
「やっと君も夢じゃないと認めたんだな。もちろん帰すさ。勇者は約束を破らない」
マッチョに頬をつねられても夢から覚めなかった。それに、マッチョの汗臭さは夢とは思えないほど強烈だ。あのわらび餅のような感触は非現実的なほど柔らかかったが、そろそろ現状に目を向けなければいけないかもしれない。
夢であればそれでいいが、もし夢ではないのなら、勇者の話に乗るのが一番手っ取り早く元の日常に戻ることができる。
朝陽は深く息を吸い、頷いた。
「……分かりました。その話に乗ります」
沸き起こる歓声。喜びのあまり飛びつく勇者パーティに窒息させられそうになりながら、朝陽は拭いきれない違和感を持て余していた。
(どうして底辺職にしか就けないような僕を、ここまでしてパーティに入れたかったんだろう)
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〝遅咲き〟とは、レベル五十五までの基本ステータスは救いがたいほど低いが、レベル五十五を超えるとそれまでの伸び悩みを取り返すかのように、超人的なスピードでステータスが上がっていく、という特性だと勇者は説明した。レベル七十を超えると平均以上になり、八十を超えると優秀、九十を越えると類稀。そしてマックスレベルの九十九に到達したときには、全ステータスを上限値の九千九百九十九まで伸ばすことができるらしい。
ただし、と勇者は補足する。
「アサヒの場合、そもそも持たない魔力は例外だ。君の魔力はレベル九十九になってもゼロのままだろう」
「逆に言えば、魔力以外のステータスはカンストできるってことですか。っていうか、レベル九十九になったらみんなステータスをカンストできるわけではないんですね」
「ああ。アサヒや俺のような特殊な特性を持たない人は、全ステどころか得意ステをカンストさせることすらできない。稀に、特性に頼らずステをいくつかカンストさせる人もいるが……。そんな人は歴史に名を遺す偉人だけだ」
朝陽は目を輝かせ、自分のステータスを見つめた。
「つまり、〝遅咲き〟はとんでもなく良い特性ということですね!?」
勇者は渋い顔で応える。
「いや……。実はそうでもなくて……むしろ……ハズレ特性と言われている」
「ええっ、どうしてですか!?」
「〝遅咲き〟の特性が活きるのはレベル五十五以降だというのは分かったな? だが、この特性を持った人がレベルを五十五まで上げるのなんて不可能だ」
一般的な人であれば、レベルが上がるごとにレベルアップに必要な経験値が増えていく。だが、〝遅咲き〟特性持ちは、レベル一から九十八までの総合必要経験値を九十八で割り均等に振り分けられているそうだ。そのため、低レベルの時は絶望的なほどレベルが上がりづらく、逆に高レベルになるごとにレベルが上がりやすくなるらしい。
「弱いうちからレベルアップに求められる経験値が多すぎる」
二十五レベルでスタートしたことは不幸中の幸いだったよ、とサルルが呟く。
「レベル二十五の〝遅咲き〟特性持ちなんて初めて見たよ~。みんなレベル二にすらなれないの。まあ、当然よね。スライムですら倒すのもやっとの人に、強い魔物を倒して効率的に経験値を稼ぐ術はないんだもん」
勇者は頷き、朝陽になんとも言えない視線を送る。
「だから〝遅咲き〟の人は、特性の恩恵を受けられないうちに……魔物に殺されたり、寿命で死んだり、心が折れてレベル上げを諦めたりする人がほとんどだ。少なくとも、俺たちはレベル二以上の〝遅咲き〟を見たことがなかった」
勇者の話を聞き、すでに朝陽の心はぽっきり折れていた。
勇者はまだ何か言いたげに朝陽のステータスを覗き込む。
「スキルが表示されていないが……」
「スキルなしか、もしくはランクSSS以上のレアスキル持ちかのどちらかね。この中級『鑑定』魔法スクロールでは、ランクSSまでのスキルしか表示されないの。まあ、どう考えたって・・・・・・」
エルムはそれ以上言葉を続けなかったが、「どう考えたって前者でしょうけど」と言いたいことは朝陽にも分かった。
しかし、と勇者は食い下がる。
「召喚術によって召喚された異世界人は、基本ステータスや特性にかかわらず、総じて稀少なスキルを持っていたと魔術書に記載があると言っていたじゃないか。彼ももしかしたら……」
「確かにそう書かれていたわね。じゃあ、上級の『鑑定』も使ってみるわ。気が進まないけれど」
気が進まないのは朝陽の方だ。これ以上個人情報を勝手に開示されるのは勘弁だったので朝陽は逃げ出した。しかしドアノブに手をかけるまでにダイアに捕まってしまった。
暴れる朝陽の前に広げられた巻物を見て、勇者は目を輝かせる。
「おっ! やはり稀少スキル持ちだった! 見ろエルマ、ランクSSSスキルだ!」
「本当だわ! どんなスキルなのかしら。聞いたことがないわ」
稀少スキルと聞き、興味が湧いた朝陽も巻物に目をやった。
【スキル名】 ブック(ランクSSS)
・書物の内容を瞬時記憶することができる。
・文字に強い魔力を込めることができる。
・
スキルの内容を読み終えた朝陽は、項垂れる勇者に尋ねた。
「ど、どうでしょう、僕のスキルは……」
「そ、そうだな……。とても実用的で素晴らしいスキルだよ、うん……」
とてもSSSとは思えないスキルだがなあ、とダイアが呟くのが聞こえたので、朝陽は不安げに勇者を見た。
「えっと……。あんまり良くないスキルなんですかね……?」
「確かにランクSSSにしてはインパクトが弱いスキルだし、パッと見ではランクS程度のスキルにしか見えないな……」
勇者は巻物をつつき、ボソッと「相性が最悪だ……」と呟いた。
「これは魔術師職に最適のスキルだ。しかし魔力を持たないアサヒには魔術師の適正がない。二つ目のスキルなんて、君にとっては何の意味もない。つまり、君は本を暗記できるようになっただけだ」
「えーっと、じゃあつまり……」
朝陽が言い淀んだことを、エルマは悪びれもせず口に出した。
「ハズレスキルね。あなたにとっても、私たちにとっても不運なことに」
基本スキルは雑魚魔物以下。重過ぎるお荷物の特性に、ハズレのランクSSSスキル。
白昼夢でくらい都合の良い展開になってほしかったと、朝陽は涙目で笑った。
「そろそろこの最悪な夢から覚めたいな……」
そんなことを呟いた朝陽の頬を、ダイアが思いっきりつねる。
「いだいいだいいだいいだいっ! ちょっと、いきなり何するんですか!?」
「まーだそんなこと言ってんのかと思ってなあ! いいか坊主、夢じゃねえんだよ、これ! 目はさっきからずぅーっと覚めてんだ!」
「信じられないですよそんなこと! だって僕、さっきまで普通に日常を過ごしてたんですよ!?」
言い争うダイアと朝陽の間に入った勇者は、朝陽にわざとらしい笑顔を向けた。
「異世界人。夢ならば夢でいいじゃないか。夢から覚めるその時までの間、暇つぶしに俺たちに付き合ってくれないか? つまり、明日に予定している魔王討伐に、共に挑んで欲しいんだが。もちろん給金は支払うし、それまでの衣食住は保障するよ」
迷うことなく首を横に振る朝陽に、勇者は構わず話し続ける。
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(勇者は良い感じに言ってるけど、それってつまり使いっぱしりの底辺職ってことじゃないか)
しかし、戦線に立つ必要がなく、荷物持ちや料理をするだけで元の世界に戻してもらえるのだとしたら、それほど悪い話ではない。
「あの。本当にそれが終わったら帰してくれるんですか?」
「やっと君も夢じゃないと認めたんだな。もちろん帰すさ。勇者は約束を破らない」
マッチョに頬をつねられても夢から覚めなかった。それに、マッチョの汗臭さは夢とは思えないほど強烈だ。あのわらび餅のような感触は非現実的なほど柔らかかったが、そろそろ現状に目を向けなければいけないかもしれない。
夢であればそれでいいが、もし夢ではないのなら、勇者の話に乗るのが一番手っ取り早く元の日常に戻ることができる。
朝陽は深く息を吸い、頷いた。
「……分かりました。その話に乗ります」
沸き起こる歓声。喜びのあまり飛びつく勇者パーティに窒息させられそうになりながら、朝陽は拭いきれない違和感を持て余していた。
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