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第三章
第37話 吊り橋
しおりを挟む疫病神がうちに住みついてから八カ月が経った夏の日。ムミィは私を山奥へ連れて行った。
私の住んでいるところには山なんてないはずなのに、徒歩ニ十分歩いただけで山の中に辿り着いていた。ムミィはきっと近道を使ったのだろう。
木々が立ち並ぶ山の中にも、コンクリートで固められた道があった。道だけではなく、日本家屋や、歴史を感じる古い店などもちらほら。廃れている様子からして昔は栄えていた場所のかもしれない。
ムミィが私の手を引き、今にも落ちそうな吊り橋を歩こうとしたので、私は必死に抵抗した。
「待って待って! 怖すぎる無理こんなボロい吊り橋渡りたくないんだけど!?」
「あはは! 大丈夫ですよ~! 真白さんの体重ならかろうじて!」
「かろうじて!? 私あんたと出会ってから五キロ太ったんだけど本当に大丈夫!?」
「……大丈夫です!」
「今の間は何!? 本当に大丈夫なんでしょうね!?」
「いやあ、実は僕も六キロ太ったんですよねえ。合計十一キロプラスかぁ」
ムミィは軋む橋と下に流れている川を見て、力強く頷いた。
「万が一落ちてしまっても、川底が深いので大丈夫でしょう!」
私が嫌がっても、ムミィはそのやたらと強い力で私を引きずって目的地に連れて行こうとする。
ムミィが吊り橋に足をかけると、ギシィ……と危機感しか覚えない音が聞こえた。
顔を青くしてムミィの手を払おうと暴れる私を、ムミィは窘める。
「こら、真白さん。そんなに激しい動きをしたら、落ちない橋も落ちてしまいます!」
「いやだぁぁぁ! 離してぇぇっ! 私絶叫系のアトラクション苦手なの! 橋から落ちるなんて絶対に無理!!」
「橋から落ちたくないのに、どうして落ちるようなことをするんでしょうか……」
呆れたようにため息を吐いたムミィは、それでも私を引きずって先へ進もうとする。こんなに嫌がっているのに引き返すという選択肢を選ばないいムミィが怖い。どうして私がワガママで変な行動を取る人みたいな目で見られないといけないの? 橋を渡らなければいいだけの話でしょうが!
橋の中央近くになって、私はやっとムミィの手を振りほどけた。
「いい加減にしなさぁぁい! 引き返すって言ってんのぉぉ!」
「真白さん! あと半分ですよ! 進むも戻るもほぼ同じ距離です!」
「進むとまた戻らなきゃいけないでしょ! 実質三倍よ!」
私は全速力で来た道を引き返した。
うしろでムミィがボソッと呟いたのが耳に入る。
「戻りはこの橋を使う必要ないですよ……。近道を使えるので……」
私はピタッと立ち止まり、ムミィを睨みつけた。
「……それをもう少し早く言って欲しかったなあ」
「まさか引き返すなんて思わないじゃないですかあ! ほら、真白さん、今ならまだこっちに戻って来られますよね! 今から行く場所も、真白さんはきっと喜びますから!」
「……」
まるで犬を呼び寄せるかのように、中腰で指を揺らすムミィ。
私は深いため息を吐きムミィの元に歩き出す。
「ちょっとぉ、ムミィ、迎えに来てよ!」
「無理ですよお。真白さんが必要以上に行ったり来たりを繰り返したので、橋の耐久度が限界を――」
「「あ」」
ムミィが言葉を言い終える前に、私の踏んだ床板が重みに耐えきれず折れた。
五十メートル下に流れる川がなんの隔たりもなく見事に一望できたのは一瞬だけ。あとは一直線に落ちていることの恐怖心が視界を覆った。
「真白さぁぁぁん!!」
橋の上から伸ばされたムミィの手を掴みそこなった私は、けたたましい叫び声を山に響き渡らせながら川に向かって落下した。
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