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第二章
第34話 高慢
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使わなかった食材は余らせてしまったけれど、段ボールの中身はごっそり減った。
そして私とムミィの体力もゼロに近い。
酒瓶が転がる静かになったパブで、私とムミィはぐったりと椅子にもたれかかった。
「真白さん……お疲れさまでしたぁ……」
「お疲れ……。神様ってみんなパワフルだね……」
「はい……。それはもう元気なんですよ……」
ムミィは伸びをしてから、私に笑いかけた。
「みんな、真白さんの料理に大喜びでしたよ」
「ありがたいことにねえ……」
「八幡神の塩は痛かったですが、そんなの気にならなくなるくらい儲けられました!」
カウンター裏には、神からお代としてもらった物が山積みになっている。
「それは良かった。で? お給料は?」
私が手の平を差し出すと、ムミィの顔が引きつった。
「え? もらってたじゃないですか。神から直接」
「あれはチップでしょ。あれは別。あんたから給料欲しい」
「うっわ、がめつ……」
「だからあんたにだけは言われたくない」
ムミィは顔をしわくちゃにして、山積みになった報酬からいくつかを私に渡した。
「これは宇迦之御魂神からもらったお米十キロ×五セットです。それとこれは玉租命からもらった手鏡と勾玉のネックレス。あとこれは――」
不機嫌な顔で次々と品物を渡すムミィに、私は思わず口を開いた。
「ちょ、ちょっとムミィ!? さすがにこんなにいっぱいもいらないよ!?」
「え? そうなんですか?」
「こんなにもらえるほどの料理は作ってないから」
私の言葉を聞き、ムミィはニィッと口角を上げ、首を傾けた。
「へえ。真白さんって高慢ですねえ」
「なんでそうなる? むしろ逆では?」
ムミィは首を横に振り、胸を軽く叩く。
「だって、神である僕よりも、自分の方が正しいと思っているじゃないですか」
「い、いや、そういうわけでは……」
「そうじゃないなら、報酬をお受け取り下さい。僕がこのくらいの価値があると決めて報酬を渡しているんです」
そういうことなら、ありがたくいただくけれども……。やっぱりずいぶん多めに報酬をもらってしまっている気がしてモヤモヤする。
あんなに欲しがっていた報酬をもらっても嬉しそうにしない私を見て、ムミィが呆れたようにボソッと呟いた。
「神を信じるのも、神に逆らうのも、ヒトだけに与えられた特権ですねえ」
この時のムミィは、私が知っているムミィとはまるで別人のように感じた。あどけない笑顔、子どもっぽい口調、馴れ馴れしいスキンシップ……そんなものはひとつもなかった。
ほんの少し、怖いと感じた。これが畏怖というものなのかもしれない。
私の視線に気付いたムミィは、ハッとしていつもの満面の笑顔を向ける。
「真白さん! 神に逆らうのは結構ですが、どうせならもっとこう……いつものように、ポジティブな逆らい方をしてください! 報酬が少ないとか、もっと寄越せとか、そんな感じの方が僕は楽しいです!」
「どんな注文よそれ……」
「だって、今の逆らい方は誰も得しないし面白くないじゃないですか。せめてどちらかは楽しめるようにしましょう!」
ムミィはよっぽど、私の報酬への態度が気に食わなかったらしい。
それだったらお望み通り、過剰請求してやるわよ。
「そう。だったらもっとちょうだい。あと、浴槽ゼリーの報酬もまだもらってないよね? それもちょうだい。それと足りない調味料は次までにちゃんと揃えといてね」
私はド厚かましいことを次から次へと口に出した。ムミィは怒るフリをしていたけれど、なぜか口元がほころんでいた。ムミィってもしかしてちょっとMなのかな。
そして私とムミィの体力もゼロに近い。
酒瓶が転がる静かになったパブで、私とムミィはぐったりと椅子にもたれかかった。
「真白さん……お疲れさまでしたぁ……」
「お疲れ……。神様ってみんなパワフルだね……」
「はい……。それはもう元気なんですよ……」
ムミィは伸びをしてから、私に笑いかけた。
「みんな、真白さんの料理に大喜びでしたよ」
「ありがたいことにねえ……」
「八幡神の塩は痛かったですが、そんなの気にならなくなるくらい儲けられました!」
カウンター裏には、神からお代としてもらった物が山積みになっている。
「それは良かった。で? お給料は?」
私が手の平を差し出すと、ムミィの顔が引きつった。
「え? もらってたじゃないですか。神から直接」
「あれはチップでしょ。あれは別。あんたから給料欲しい」
「うっわ、がめつ……」
「だからあんたにだけは言われたくない」
ムミィは顔をしわくちゃにして、山積みになった報酬からいくつかを私に渡した。
「これは宇迦之御魂神からもらったお米十キロ×五セットです。それとこれは玉租命からもらった手鏡と勾玉のネックレス。あとこれは――」
不機嫌な顔で次々と品物を渡すムミィに、私は思わず口を開いた。
「ちょ、ちょっとムミィ!? さすがにこんなにいっぱいもいらないよ!?」
「え? そうなんですか?」
「こんなにもらえるほどの料理は作ってないから」
私の言葉を聞き、ムミィはニィッと口角を上げ、首を傾けた。
「へえ。真白さんって高慢ですねえ」
「なんでそうなる? むしろ逆では?」
ムミィは首を横に振り、胸を軽く叩く。
「だって、神である僕よりも、自分の方が正しいと思っているじゃないですか」
「い、いや、そういうわけでは……」
「そうじゃないなら、報酬をお受け取り下さい。僕がこのくらいの価値があると決めて報酬を渡しているんです」
そういうことなら、ありがたくいただくけれども……。やっぱりずいぶん多めに報酬をもらってしまっている気がしてモヤモヤする。
あんなに欲しがっていた報酬をもらっても嬉しそうにしない私を見て、ムミィが呆れたようにボソッと呟いた。
「神を信じるのも、神に逆らうのも、ヒトだけに与えられた特権ですねえ」
この時のムミィは、私が知っているムミィとはまるで別人のように感じた。あどけない笑顔、子どもっぽい口調、馴れ馴れしいスキンシップ……そんなものはひとつもなかった。
ほんの少し、怖いと感じた。これが畏怖というものなのかもしれない。
私の視線に気付いたムミィは、ハッとしていつもの満面の笑顔を向ける。
「真白さん! 神に逆らうのは結構ですが、どうせならもっとこう……いつものように、ポジティブな逆らい方をしてください! 報酬が少ないとか、もっと寄越せとか、そんな感じの方が僕は楽しいです!」
「どんな注文よそれ……」
「だって、今の逆らい方は誰も得しないし面白くないじゃないですか。せめてどちらかは楽しめるようにしましょう!」
ムミィはよっぽど、私の報酬への態度が気に食わなかったらしい。
それだったらお望み通り、過剰請求してやるわよ。
「そう。だったらもっとちょうだい。あと、浴槽ゼリーの報酬もまだもらってないよね? それもちょうだい。それと足りない調味料は次までにちゃんと揃えといてね」
私はド厚かましいことを次から次へと口に出した。ムミィは怒るフリをしていたけれど、なぜか口元がほころんでいた。ムミィってもしかしてちょっとMなのかな。
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