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第一章
第22話 映画を観ながらアイス
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◇◇◇
今日はクリスマス。世の中を謳歌している恋人たちは、イルミネーションで彩られた町中を手を繋いで歩き、おいしいごはんでも食べているのだろう。
そんな中、私はスーパーで二リットルの業務用アイスを買い物かごに放り込んでいた。
私の五つ目の夢。二リットルアイスをディッシャーで食べながら、暗い部屋で映画を観ること。
その夢を叶えるため、そしてさらに満足感を得るために、スーパーでアイスやスナック菓子を買い漁っている最中だ。私の買い物カートには、パンパンに商品が詰め込まれたかごがふたつ載っている。
「真白さん! アイスと言えばホイップクリームですよね!!」
姿を消していたムミィが、絞るだけで良いホイップクリームを三箱抱えて戻って来た。しかもひとつはチョコホイップクリーム。
私は深いため息を吐いた。
「ムミィ……」
「ダ、ダメでしたか……?」
「最高。入れて」
ムミィはパァッと顔を輝かせ、柔らかい商品が潰れないよう、慎重に場所を選んでホイップクリームをかごに入れた。
実は私、ムミィと出会ってから二キロくらい太ったんだよね。
……ま、いっか! 美味しいし!
私がレジに並んでいると、またもやムミィが何やら持ってきた。抱えているのは、折り紙とスティックのり。
「今日はクリスマスです! 部屋の中を飾りつけましょう!」
「もしかして、折り紙で輪っか作るの? ええ~、何それ楽しい……! ムミィも手伝ってくれる?」
「もちろん! 精一杯、頑張れーって応援します!」
「ま、そうだよねー」
ムミィは夢を叶えるためにアイディアを出してくれたり、どこかへ連れて行ってくれたりは積極的にしてくれるけれど、作業を手伝ってくれたことは一度もない。それをしないことに強いこだわりを持っているようにすら感じるほど、頑なに。
はじめは不満に感じていた私も、だんだんと慣れてきた。今では「そうだよねー」で済ませられる。
家に帰った私は、早速折り紙でオーナメント作りを始めた。
輪っかのものより可愛いく、作り方も楽そうだったハート型のものを作ることにした。
まず、折り紙を八等分にカット。それらを半分に折り、一枚ずつハート型にしてホッチキスで繋ぎ留めていくだけ。とっても簡単なお仕事だ。
ホッチキスの留まる感覚と音が気持ち良くて、気付いたらとてつもなく長いオーナメントが出来上がってしまった。
ハートのオーナメント壁一面に這わせると、何の特徴もない部屋がポップでキュートになったので、思わず後ずさってしまう。
「う、うわぁぁ……。なんだこれ……。思った以上に可愛すぎてちょっと無理……」
「どうしてですか!? とっても素敵じゃないですかー! 僕は好きですよ!」
「そ、そう……? じゃあ、このままにしとくか……」
落ち着かなくてソワソワするけど、ムミィが気に入ったのなら外すこともない。
私はローテーブルにスナック菓子を広げた。もちろん、全部一気にパーティ開け。部屋の中がコンソメやキャラメルの匂いでいっぱいになり、私もムミィも顔がほころんだ。
そしてお待ちかねの二リットルアイスの登場。私はチョコレートとバニラのミックスを、ムミィはストロベリーのアイスを抱え、ソファに座る。
「この蓋に付いたアイスが一番美味しいと思わない?」
「間違いないです! これはアイスの大トロですよ!」
「言い得て妙。あんたは喩えが上手いねえ」
アイスの大トロを食べたあと、アイスの上にホイップクリームをもりもり絞る。
私はただ無造作に絞っただけだったけれど、ムミィは二色のホイップクリームを使い分けてクマのイラストを描いていた。それがまた上手なこと。
「可愛い。私にも描いてよ、ムミィ」
「仕方ないですね~。今回だけですよ?」
ムミィは、まんざらでもなさそうに私のアイスにもイラストを描いてくれた。可愛すぎて食べるのがもったいない。
暗くした部屋で、クリスマスをテーマにした洋画を再生する。陽気なBGMと俳優のまばゆい演技に、幸せを感じつつも微かにメンタルにダメージを食らう。
「あー……なんか泣けてきた……」
「まだ始まって三分ですよ? どこにそんな泣くところが」
「ヒトはね、キラキラしてる他人を見ると、時たま心がキュッとなるのよ」
ムミィは首を傾げた。暗い部屋の中、彼の瞳にテレビの映像が反射している。
「不思議な感覚」
そう呟いたムミィから、全くこの気持ちが分からないことが伝わってきた。
そうね。きっと神には分からない。分からないヒトもたくさんいるんだろうな。
「でも僕は、真白さんを見ていると時たま胸がキュッとなります」
「どうして?」
ムミィはソファの上で体育座りをして、もぞもぞと体を揺らした。
「……不幸を与えたあとは、真白さんとお別れしなきゃいけないんだなーって考えると」
その言葉に、私も胸がキュッとした。
……いや、なんでキュッとしなきゃいけないの。ムミィは疫病神だよ。できることなら今すぐにでもお別れしてほしい存在のはずだ。
それなのに、別れの時を想像して寂しくなってしまった。
私は咳ばらいしてディッシャーを手に取る。
「なにしんみりしてるの? アイス溶けちゃうよ。早く食べよう」
「あ! 本当だ! いただきまーす!」
さっきのしょんぼりはどこへやら。ムミィはディッシャーいっぱいにアイスを掬い、幸せそうに頬張った。
私もいっぱい食べようとしたけれど、お腹が痛くなってディッシャー二杯で断念した。それどころか、映画の途中でトイレに籠ってしまい、戻った頃にはエンドロールが流れていた。
今日はクリスマス。世の中を謳歌している恋人たちは、イルミネーションで彩られた町中を手を繋いで歩き、おいしいごはんでも食べているのだろう。
そんな中、私はスーパーで二リットルの業務用アイスを買い物かごに放り込んでいた。
私の五つ目の夢。二リットルアイスをディッシャーで食べながら、暗い部屋で映画を観ること。
その夢を叶えるため、そしてさらに満足感を得るために、スーパーでアイスやスナック菓子を買い漁っている最中だ。私の買い物カートには、パンパンに商品が詰め込まれたかごがふたつ載っている。
「真白さん! アイスと言えばホイップクリームですよね!!」
姿を消していたムミィが、絞るだけで良いホイップクリームを三箱抱えて戻って来た。しかもひとつはチョコホイップクリーム。
私は深いため息を吐いた。
「ムミィ……」
「ダ、ダメでしたか……?」
「最高。入れて」
ムミィはパァッと顔を輝かせ、柔らかい商品が潰れないよう、慎重に場所を選んでホイップクリームをかごに入れた。
実は私、ムミィと出会ってから二キロくらい太ったんだよね。
……ま、いっか! 美味しいし!
私がレジに並んでいると、またもやムミィが何やら持ってきた。抱えているのは、折り紙とスティックのり。
「今日はクリスマスです! 部屋の中を飾りつけましょう!」
「もしかして、折り紙で輪っか作るの? ええ~、何それ楽しい……! ムミィも手伝ってくれる?」
「もちろん! 精一杯、頑張れーって応援します!」
「ま、そうだよねー」
ムミィは夢を叶えるためにアイディアを出してくれたり、どこかへ連れて行ってくれたりは積極的にしてくれるけれど、作業を手伝ってくれたことは一度もない。それをしないことに強いこだわりを持っているようにすら感じるほど、頑なに。
はじめは不満に感じていた私も、だんだんと慣れてきた。今では「そうだよねー」で済ませられる。
家に帰った私は、早速折り紙でオーナメント作りを始めた。
輪っかのものより可愛いく、作り方も楽そうだったハート型のものを作ることにした。
まず、折り紙を八等分にカット。それらを半分に折り、一枚ずつハート型にしてホッチキスで繋ぎ留めていくだけ。とっても簡単なお仕事だ。
ホッチキスの留まる感覚と音が気持ち良くて、気付いたらとてつもなく長いオーナメントが出来上がってしまった。
ハートのオーナメント壁一面に這わせると、何の特徴もない部屋がポップでキュートになったので、思わず後ずさってしまう。
「う、うわぁぁ……。なんだこれ……。思った以上に可愛すぎてちょっと無理……」
「どうしてですか!? とっても素敵じゃないですかー! 僕は好きですよ!」
「そ、そう……? じゃあ、このままにしとくか……」
落ち着かなくてソワソワするけど、ムミィが気に入ったのなら外すこともない。
私はローテーブルにスナック菓子を広げた。もちろん、全部一気にパーティ開け。部屋の中がコンソメやキャラメルの匂いでいっぱいになり、私もムミィも顔がほころんだ。
そしてお待ちかねの二リットルアイスの登場。私はチョコレートとバニラのミックスを、ムミィはストロベリーのアイスを抱え、ソファに座る。
「この蓋に付いたアイスが一番美味しいと思わない?」
「間違いないです! これはアイスの大トロですよ!」
「言い得て妙。あんたは喩えが上手いねえ」
アイスの大トロを食べたあと、アイスの上にホイップクリームをもりもり絞る。
私はただ無造作に絞っただけだったけれど、ムミィは二色のホイップクリームを使い分けてクマのイラストを描いていた。それがまた上手なこと。
「可愛い。私にも描いてよ、ムミィ」
「仕方ないですね~。今回だけですよ?」
ムミィは、まんざらでもなさそうに私のアイスにもイラストを描いてくれた。可愛すぎて食べるのがもったいない。
暗くした部屋で、クリスマスをテーマにした洋画を再生する。陽気なBGMと俳優のまばゆい演技に、幸せを感じつつも微かにメンタルにダメージを食らう。
「あー……なんか泣けてきた……」
「まだ始まって三分ですよ? どこにそんな泣くところが」
「ヒトはね、キラキラしてる他人を見ると、時たま心がキュッとなるのよ」
ムミィは首を傾げた。暗い部屋の中、彼の瞳にテレビの映像が反射している。
「不思議な感覚」
そう呟いたムミィから、全くこの気持ちが分からないことが伝わってきた。
そうね。きっと神には分からない。分からないヒトもたくさんいるんだろうな。
「でも僕は、真白さんを見ていると時たま胸がキュッとなります」
「どうして?」
ムミィはソファの上で体育座りをして、もぞもぞと体を揺らした。
「……不幸を与えたあとは、真白さんとお別れしなきゃいけないんだなーって考えると」
その言葉に、私も胸がキュッとした。
……いや、なんでキュッとしなきゃいけないの。ムミィは疫病神だよ。できることなら今すぐにでもお別れしてほしい存在のはずだ。
それなのに、別れの時を想像して寂しくなってしまった。
私は咳ばらいしてディッシャーを手に取る。
「なにしんみりしてるの? アイス溶けちゃうよ。早く食べよう」
「あ! 本当だ! いただきまーす!」
さっきのしょんぼりはどこへやら。ムミィはディッシャーいっぱいにアイスを掬い、幸せそうに頬張った。
私もいっぱい食べようとしたけれど、お腹が痛くなってディッシャー二杯で断念した。それどころか、映画の途中でトイレに籠ってしまい、戻った頃にはエンドロールが流れていた。
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