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第一章
第13話 炊き込みご飯
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遊び疲れてソファにくったりもたれかかるムミィが、お腹をさすりながら言った。
「真白さん、僕お腹がすきました! 晩ごはん作ってください!」
「ええ……。いっぱい駄菓子食べたじゃん」
「それはそれ、これはこれです! 今日もとびきりおいしい晩ごはん、お願いします!」
ムミィの胃袋は宇宙だ。明日の分を作り置きするために多めに作っても、その日のうちに全部ムミィに平らげられてしまう。そんな彼が駄菓子で満足できるわけないとは思っていたけれど、まさかノーダメージだとは。恐るべし、疫病神。
出来るなら手抜き料理で済ませたいところだけど、私の料理は、大切なものを盗られないためのムミィへの貢物でもある。あからさまなズボラメシなんて作ったらあとが怖い。
私は気の進まないままキッチンに立った。さて、作りますか……。
炊飯ジャーに白米三合ともち米〇・五合をさらさらと流し入れると、ムミィが中を覗き込み吐息を漏らす。
「はぁ……。炊く前のお米はまるで宝石ですね。真珠の欠片にも見えます」
「ムミィって感受性豊かだよね。私、お米見てそんなこと思ったことない」
お米をさっと洗って水切りしてから、具材の下準備に取りかかる。
鶏もも肉を一センチ角に切り、万能つゆと砂糖でコトコト煮る。煮ている間に、細かく切ったこんにゃくをフライパンに移し、万能つゆで炒める。私の料理の味は万能つゆでなんとかなっている。万能つゆ万歳。
そして、しめじを手でほぐし、にんじんを千切りに、油揚げを短冊切りに、ゴボウを笹掻きにして、用意した具材を炊飯ジャーに落とし込んだ。
そこでムミィが床に崩れ落ち、プルプル震えた。
「まさか……まさか真白さん……あなたは……っ!」
「ふふふ。やっと気付いた? 今晩のメニューのひとつは……炊き込みご飯だよ!!」
「うぐぁぁぁっ……! 真白さん……あなたって人はぁぁぁっ!!」
ムミィが突然立ち上がった。殴りかかられるのかと思いきや、腰にガッシリしがみつかれる。
「もし僕が神でなくヒトだったのであれば、間違いなくあなたと婚姻関係になり法律で縛りつけていたのに!! あああ、どうして僕はヒトじゃなかったんだぁぁぁっ!!」
「なにそのプロポーズの仕方、こわ」
初めてのプロポーズが疫病神からだなんて。しかも文句がメンヘラめいている。こんなのトラウマにしかならない。っていうか炊き込みご飯だけで結婚相手を選ぶな。
私は腰にしがみついたムミィをそのままにして、次の料理にとりかかった。
まずは大根をいちょう切りして酢入りの水に浸けておく。そして先ほど多めに切っておいたゴボウも水に浸ける。にんじんとこんにゃく、油揚げは短冊切り。豆腐は一センチ角に切って、白菜は二センチ大くらい。小芋は輪切りにして、これも酢入りの水に浸ける。最後に豚バラを適当に切って、下準備完了。
万能つゆとだしで煮込んでいた鍋いっぱいの水の中に豆腐を放り込むと、ムミィが「えっ」と声を上げた。
「お豆腐って普通最後に入れるんじゃないですかあ!?」
「普通はね。私は煮詰まったカスカスのお豆腐が好きだから、いつも一番初めに入れるの」
「カスカスのお豆腐……? そんなもの、食べたことありません……」
「良かったね。今日食べられるよ」
「は、はい……」
困惑しているムミィを見るのはちょっと楽しい。
カスカスの豆腐なんて確かにあまり好きな人はいないかも。実家住まいしていたときも、よくお母さんに苦笑いされていた。それでもいつもお母さんは、私に合わせて豆腐をカスカスに煮詰めてくれていたな。
豆腐の次は、ゴボウと大根、そのあとは適当にドバドバ野菜を入れて、最後に小芋と豚。
野菜が炊けるまでの間に、次の料理。
私が冷凍庫からホッケの開きを取り出すと、ムミィは嬉しそうに飛び跳ねた。
「ホッケだ~~~! 日本酒に合うホッケだ~~~!」
「残念ながら、日本酒は昨晩あなたが全部飲み干したのでありませーん。その代わりに缶ビールいっぱい買っといたから、一緒に飲もうね」
「ビールにも合うからヨシです!!」
ムミィは少年の姿をしているけれど、私よりずっとお酒に強い。いただきものの日本酒はここ数日ですっかり空にされてしまったくらい。
喜んでいたムミィが、いつの間にか泣いていた。
「真白さんっ……! 僕、あなたが死ぬまでずっとここでいていいですかっ……? あなたが死ぬまで、ずっと僕のために料理を作り続けてくださいぃ……っ」
「いやだから、さっきから言葉ひとつひとつが怖すぎんのよ」
もしかしなくても、私は厄介な存在に気に入られてしまったのかもしれない。
「真白さん、僕お腹がすきました! 晩ごはん作ってください!」
「ええ……。いっぱい駄菓子食べたじゃん」
「それはそれ、これはこれです! 今日もとびきりおいしい晩ごはん、お願いします!」
ムミィの胃袋は宇宙だ。明日の分を作り置きするために多めに作っても、その日のうちに全部ムミィに平らげられてしまう。そんな彼が駄菓子で満足できるわけないとは思っていたけれど、まさかノーダメージだとは。恐るべし、疫病神。
出来るなら手抜き料理で済ませたいところだけど、私の料理は、大切なものを盗られないためのムミィへの貢物でもある。あからさまなズボラメシなんて作ったらあとが怖い。
私は気の進まないままキッチンに立った。さて、作りますか……。
炊飯ジャーに白米三合ともち米〇・五合をさらさらと流し入れると、ムミィが中を覗き込み吐息を漏らす。
「はぁ……。炊く前のお米はまるで宝石ですね。真珠の欠片にも見えます」
「ムミィって感受性豊かだよね。私、お米見てそんなこと思ったことない」
お米をさっと洗って水切りしてから、具材の下準備に取りかかる。
鶏もも肉を一センチ角に切り、万能つゆと砂糖でコトコト煮る。煮ている間に、細かく切ったこんにゃくをフライパンに移し、万能つゆで炒める。私の料理の味は万能つゆでなんとかなっている。万能つゆ万歳。
そして、しめじを手でほぐし、にんじんを千切りに、油揚げを短冊切りに、ゴボウを笹掻きにして、用意した具材を炊飯ジャーに落とし込んだ。
そこでムミィが床に崩れ落ち、プルプル震えた。
「まさか……まさか真白さん……あなたは……っ!」
「ふふふ。やっと気付いた? 今晩のメニューのひとつは……炊き込みご飯だよ!!」
「うぐぁぁぁっ……! 真白さん……あなたって人はぁぁぁっ!!」
ムミィが突然立ち上がった。殴りかかられるのかと思いきや、腰にガッシリしがみつかれる。
「もし僕が神でなくヒトだったのであれば、間違いなくあなたと婚姻関係になり法律で縛りつけていたのに!! あああ、どうして僕はヒトじゃなかったんだぁぁぁっ!!」
「なにそのプロポーズの仕方、こわ」
初めてのプロポーズが疫病神からだなんて。しかも文句がメンヘラめいている。こんなのトラウマにしかならない。っていうか炊き込みご飯だけで結婚相手を選ぶな。
私は腰にしがみついたムミィをそのままにして、次の料理にとりかかった。
まずは大根をいちょう切りして酢入りの水に浸けておく。そして先ほど多めに切っておいたゴボウも水に浸ける。にんじんとこんにゃく、油揚げは短冊切り。豆腐は一センチ角に切って、白菜は二センチ大くらい。小芋は輪切りにして、これも酢入りの水に浸ける。最後に豚バラを適当に切って、下準備完了。
万能つゆとだしで煮込んでいた鍋いっぱいの水の中に豆腐を放り込むと、ムミィが「えっ」と声を上げた。
「お豆腐って普通最後に入れるんじゃないですかあ!?」
「普通はね。私は煮詰まったカスカスのお豆腐が好きだから、いつも一番初めに入れるの」
「カスカスのお豆腐……? そんなもの、食べたことありません……」
「良かったね。今日食べられるよ」
「は、はい……」
困惑しているムミィを見るのはちょっと楽しい。
カスカスの豆腐なんて確かにあまり好きな人はいないかも。実家住まいしていたときも、よくお母さんに苦笑いされていた。それでもいつもお母さんは、私に合わせて豆腐をカスカスに煮詰めてくれていたな。
豆腐の次は、ゴボウと大根、そのあとは適当にドバドバ野菜を入れて、最後に小芋と豚。
野菜が炊けるまでの間に、次の料理。
私が冷凍庫からホッケの開きを取り出すと、ムミィは嬉しそうに飛び跳ねた。
「ホッケだ~~~! 日本酒に合うホッケだ~~~!」
「残念ながら、日本酒は昨晩あなたが全部飲み干したのでありませーん。その代わりに缶ビールいっぱい買っといたから、一緒に飲もうね」
「ビールにも合うからヨシです!!」
ムミィは少年の姿をしているけれど、私よりずっとお酒に強い。いただきものの日本酒はここ数日ですっかり空にされてしまったくらい。
喜んでいたムミィが、いつの間にか泣いていた。
「真白さんっ……! 僕、あなたが死ぬまでずっとここでいていいですかっ……? あなたが死ぬまで、ずっと僕のために料理を作り続けてくださいぃ……っ」
「いやだから、さっきから言葉ひとつひとつが怖すぎんのよ」
もしかしなくても、私は厄介な存在に気に入られてしまったのかもしれない。
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