【完結】疫病神がうちに来まして~不幸せにするために、まずはあなたを幸せにします~

mazecco

文字の大きさ
上 下
5 / 49
第一章

第4話 ほかほかの朝食

しおりを挟む
 ムミィがそわそわと見守る中、私は冷蔵庫から食材を取り出した。

「うわあ、もうおいしそう!」
「まだ何も作ってないのにおいしそう? よっぽどこっちの料理が好きなんだね」
「何作ってくれるんですか!?」
「なんだと思う?」

 私の問いかけに答えるために、ムミィは食材をじっと見た。
 キッチン台に並ぶのは、卵と大根、冷凍しじみ、万能ねぎ。具材はそれだけで、あとは調味料が万能つゆ、味噌、砂糖、片栗粉、そして醤油。
 閃いたムミィは味噌を指さした。

「ひとつ分かりました! 鍋に張られた水、そしてしじみと味噌……。あなたが作ろうとしているのは、味噌汁ですね!?」
「正解!」
「シジミ、砂抜きしなくていいんですか? 僕、じゃりじゃりはいやですよ」
「大丈夫。冷凍する前にちゃんと砂抜きしてあるよ」

 そう応えると、ムミィが満足そうに顔をほころばせ、また食材に目を戻す。

「そして残ったのは卵と大根と万能ねぎ。万能ねぎはきっとトッピング用ですね。大根も……大根おろし器が出ているので、これもトッピング用」

 同じ場所を行ったり来たりを繰り返しながら指で唇をトントン叩くムミィは、さながら難解な事件を解こうとしている探偵のようだ。

「卵は……あ! 四角いフライパンがコンロの上にありますね。ということはつまり……だし巻き卵を作るのではないですか!?」
「それも正解! 今日の朝ごはんメニューは、白ごはん、しじみの味噌汁、だし巻き卵、そして納豆! 焼き魚はめんどうくさいからお昼で我慢してね」

 簡単なメニューだったから文句を言われると思ったけれど、実際のところそんなことはなかった。
 ムミィは「くぅぅ~!」と感激の声を漏らし、その場でぴょんぴょん飛び跳ねる。

「最高です! 僕、そういう家庭料理一度食べてみたかったんですよ!! あああ~待ちきれない! 待ちきれないよ~!」
「……そこまで喜んでもらえるとは思ってなかったな」
「どうしてですか!? 完璧ですよ! しかも納豆!? くぅ~!」

 こんなに褒められると照れくさい。私はムミィから顔を背け、冷凍しじみを鍋の中に入れた。水が沸騰するまでに、だし巻き卵の準備をする。
 卵三つをボウルで溶き、小さじ一杯の砂糖を放り込む。そこで登場、万能つゆ。片栗粉をちょこっと混ぜた、希釈した万能つゆと卵を混ぜ合わせて、少しずつフライパンに流し込んだ。
 ちまちまとだし巻き卵を丸めいる私の隣で、ムミィは鼻息を荒くしてフライパンを凝視している。

「おぉぉ……! なんと美しい黄蘗……! そしてプルンプルンと揺れる柔肌……!」
「だし巻き卵でそんな興奮しないでよ」
「食べるのがもったいない……! いや、でも食べないと傷んでしまう……。ああ、なんと儚い!」

 ムミィはずっとこんな感じで、料理している私の傍でいちいち感動していた。
 三十分後、ムミィの前にほかほかの料理が並ぶ。ちょっと品数が少ない気がしたので、味付けのりと漬物も添えると、ムミィが頭を抱えた。

「どれから食べればいいんだぁ……っ」
「どれからでもいいよ。好きなものからどうぞ」
「全部おいしそうで、僕には選べません……っ」
「じゃあ、お味噌汁からどうぞ」

 ムミィは震える手でお椀を掴み、そっと味噌汁を啜った。そしてほうっと吐息を漏らし、目を瞑る。

「幸せは味噌の色……」
「ちょっと意味が分からないですね」
「つまりとても美味しいです。カクリヨでは味わえない、ヒトのあたたかみが詰まっている優しい味がします」
「大げさだなあ」

 食べ物を、美味しそうに、嬉しそうに食べる人に悪い人はいないって、おばあちゃんが言っていた。
 もしそれが本当なら、もしかしたらムミィは悪い人じゃないのかもしれない。

「どうしましょう真白さんっ。あなたを幸せにする前に僕が幸せになってしまいましたぁっ」

 感激しすぎて泣き出したムミィは、鼻水を垂らしたままだし巻き卵を頬張った。

「僕も必ずっ……必ずあなたを幸せにして……そしてあなたを必ず不幸せにしますからぁっ……! この恩は絶対に忘れませんからぁっ……!」

 いやちょっと待てよ。不幸にしようとしてくる疫病神が悪くないわけないよね。危ない危ない。勘違いするところだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

処理中です...