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第一章
第4話 ほかほかの朝食
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ムミィがそわそわと見守る中、私は冷蔵庫から食材を取り出した。
「うわあ、もうおいしそう!」
「まだ何も作ってないのにおいしそう? よっぽどこっちの料理が好きなんだね」
「何作ってくれるんですか!?」
「なんだと思う?」
私の問いかけに答えるために、ムミィは食材をじっと見た。
キッチン台に並ぶのは、卵と大根、冷凍しじみ、万能ねぎ。具材はそれだけで、あとは調味料が万能つゆ、味噌、砂糖、片栗粉、そして醤油。
閃いたムミィは味噌を指さした。
「ひとつ分かりました! 鍋に張られた水、そしてしじみと味噌……。あなたが作ろうとしているのは、味噌汁ですね!?」
「正解!」
「シジミ、砂抜きしなくていいんですか? 僕、じゃりじゃりはいやですよ」
「大丈夫。冷凍する前にちゃんと砂抜きしてあるよ」
そう応えると、ムミィが満足そうに顔をほころばせ、また食材に目を戻す。
「そして残ったのは卵と大根と万能ねぎ。万能ねぎはきっとトッピング用ですね。大根も……大根おろし器が出ているので、これもトッピング用」
同じ場所を行ったり来たりを繰り返しながら指で唇をトントン叩くムミィは、さながら難解な事件を解こうとしている探偵のようだ。
「卵は……あ! 四角いフライパンがコンロの上にありますね。ということはつまり……だし巻き卵を作るのではないですか!?」
「それも正解! 今日の朝ごはんメニューは、白ごはん、しじみの味噌汁、だし巻き卵、そして納豆! 焼き魚はめんどうくさいからお昼で我慢してね」
簡単なメニューだったから文句を言われると思ったけれど、実際のところそんなことはなかった。
ムミィは「くぅぅ~!」と感激の声を漏らし、その場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「最高です! 僕、そういう家庭料理一度食べてみたかったんですよ!! あああ~待ちきれない! 待ちきれないよ~!」
「……そこまで喜んでもらえるとは思ってなかったな」
「どうしてですか!? 完璧ですよ! しかも納豆!? くぅ~!」
こんなに褒められると照れくさい。私はムミィから顔を背け、冷凍しじみを鍋の中に入れた。水が沸騰するまでに、だし巻き卵の準備をする。
卵三つをボウルで溶き、小さじ一杯の砂糖を放り込む。そこで登場、万能つゆ。片栗粉をちょこっと混ぜた、希釈した万能つゆと卵を混ぜ合わせて、少しずつフライパンに流し込んだ。
ちまちまとだし巻き卵を丸めいる私の隣で、ムミィは鼻息を荒くしてフライパンを凝視している。
「おぉぉ……! なんと美しい黄蘗……! そしてプルンプルンと揺れる柔肌……!」
「だし巻き卵でそんな興奮しないでよ」
「食べるのがもったいない……! いや、でも食べないと傷んでしまう……。ああ、なんと儚い!」
ムミィはずっとこんな感じで、料理している私の傍でいちいち感動していた。
三十分後、ムミィの前にほかほかの料理が並ぶ。ちょっと品数が少ない気がしたので、味付けのりと漬物も添えると、ムミィが頭を抱えた。
「どれから食べればいいんだぁ……っ」
「どれからでもいいよ。好きなものからどうぞ」
「全部おいしそうで、僕には選べません……っ」
「じゃあ、お味噌汁からどうぞ」
ムミィは震える手でお椀を掴み、そっと味噌汁を啜った。そしてほうっと吐息を漏らし、目を瞑る。
「幸せは味噌の色……」
「ちょっと意味が分からないですね」
「つまりとても美味しいです。カクリヨでは味わえない、ヒトのあたたかみが詰まっている優しい味がします」
「大げさだなあ」
食べ物を、美味しそうに、嬉しそうに食べる人に悪い人はいないって、おばあちゃんが言っていた。
もしそれが本当なら、もしかしたらムミィは悪い人じゃないのかもしれない。
「どうしましょう真白さんっ。あなたを幸せにする前に僕が幸せになってしまいましたぁっ」
感激しすぎて泣き出したムミィは、鼻水を垂らしたままだし巻き卵を頬張った。
「僕も必ずっ……必ずあなたを幸せにして……そしてあなたを必ず不幸せにしますからぁっ……! この恩は絶対に忘れませんからぁっ……!」
いやちょっと待てよ。不幸にしようとしてくる疫病神が悪くないわけないよね。危ない危ない。勘違いするところだった。
「うわあ、もうおいしそう!」
「まだ何も作ってないのにおいしそう? よっぽどこっちの料理が好きなんだね」
「何作ってくれるんですか!?」
「なんだと思う?」
私の問いかけに答えるために、ムミィは食材をじっと見た。
キッチン台に並ぶのは、卵と大根、冷凍しじみ、万能ねぎ。具材はそれだけで、あとは調味料が万能つゆ、味噌、砂糖、片栗粉、そして醤油。
閃いたムミィは味噌を指さした。
「ひとつ分かりました! 鍋に張られた水、そしてしじみと味噌……。あなたが作ろうとしているのは、味噌汁ですね!?」
「正解!」
「シジミ、砂抜きしなくていいんですか? 僕、じゃりじゃりはいやですよ」
「大丈夫。冷凍する前にちゃんと砂抜きしてあるよ」
そう応えると、ムミィが満足そうに顔をほころばせ、また食材に目を戻す。
「そして残ったのは卵と大根と万能ねぎ。万能ねぎはきっとトッピング用ですね。大根も……大根おろし器が出ているので、これもトッピング用」
同じ場所を行ったり来たりを繰り返しながら指で唇をトントン叩くムミィは、さながら難解な事件を解こうとしている探偵のようだ。
「卵は……あ! 四角いフライパンがコンロの上にありますね。ということはつまり……だし巻き卵を作るのではないですか!?」
「それも正解! 今日の朝ごはんメニューは、白ごはん、しじみの味噌汁、だし巻き卵、そして納豆! 焼き魚はめんどうくさいからお昼で我慢してね」
簡単なメニューだったから文句を言われると思ったけれど、実際のところそんなことはなかった。
ムミィは「くぅぅ~!」と感激の声を漏らし、その場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「最高です! 僕、そういう家庭料理一度食べてみたかったんですよ!! あああ~待ちきれない! 待ちきれないよ~!」
「……そこまで喜んでもらえるとは思ってなかったな」
「どうしてですか!? 完璧ですよ! しかも納豆!? くぅ~!」
こんなに褒められると照れくさい。私はムミィから顔を背け、冷凍しじみを鍋の中に入れた。水が沸騰するまでに、だし巻き卵の準備をする。
卵三つをボウルで溶き、小さじ一杯の砂糖を放り込む。そこで登場、万能つゆ。片栗粉をちょこっと混ぜた、希釈した万能つゆと卵を混ぜ合わせて、少しずつフライパンに流し込んだ。
ちまちまとだし巻き卵を丸めいる私の隣で、ムミィは鼻息を荒くしてフライパンを凝視している。
「おぉぉ……! なんと美しい黄蘗……! そしてプルンプルンと揺れる柔肌……!」
「だし巻き卵でそんな興奮しないでよ」
「食べるのがもったいない……! いや、でも食べないと傷んでしまう……。ああ、なんと儚い!」
ムミィはずっとこんな感じで、料理している私の傍でいちいち感動していた。
三十分後、ムミィの前にほかほかの料理が並ぶ。ちょっと品数が少ない気がしたので、味付けのりと漬物も添えると、ムミィが頭を抱えた。
「どれから食べればいいんだぁ……っ」
「どれからでもいいよ。好きなものからどうぞ」
「全部おいしそうで、僕には選べません……っ」
「じゃあ、お味噌汁からどうぞ」
ムミィは震える手でお椀を掴み、そっと味噌汁を啜った。そしてほうっと吐息を漏らし、目を瞑る。
「幸せは味噌の色……」
「ちょっと意味が分からないですね」
「つまりとても美味しいです。カクリヨでは味わえない、ヒトのあたたかみが詰まっている優しい味がします」
「大げさだなあ」
食べ物を、美味しそうに、嬉しそうに食べる人に悪い人はいないって、おばあちゃんが言っていた。
もしそれが本当なら、もしかしたらムミィは悪い人じゃないのかもしれない。
「どうしましょう真白さんっ。あなたを幸せにする前に僕が幸せになってしまいましたぁっ」
感激しすぎて泣き出したムミィは、鼻水を垂らしたままだし巻き卵を頬張った。
「僕も必ずっ……必ずあなたを幸せにして……そしてあなたを必ず不幸せにしますからぁっ……! この恩は絶対に忘れませんからぁっ……!」
いやちょっと待てよ。不幸にしようとしてくる疫病神が悪くないわけないよね。危ない危ない。勘違いするところだった。
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