【完結】またたく星空の下

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8章

第69話 広がり落ちる星

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 海茅はぽかんと口を開けた。匡史が何を言っているのか分からない。

「思えば、今までにも似たような感覚がしたことがあったんだ。たとえば――」

 初めて海茅に絵を見せたとき。
 悩みを聞いた海茅が一緒になって苦しんでくれたとき。
 海茅が画家のウンチクを聞きたいと言ってくれたとき。
 居眠りをした海茅が肩にもたれかかったとき。
 おめかしした海茅を見たとき。

「――他にもたくさんあるけど、全部、みっちゃんと一緒にいるときだった。最近なんて、みっちゃんが笑ってるだけでちょっとそんな気持ちになる」

 匡史は言った。この感情は、心地いいときもあれば、気持ち悪くなるときもある。ときたま自分の感情がコントロールできなくなって、困ってしまうこともある。
 たぶんこれが、〝恋〟というものなのだろう、と。

「俺は恋愛ってあんまりしたくない。楽しいのは、はじめのうちだけだろうなって思うし、お互いに傷つくことも増えると思うから。……頭ではそんなふうに考えてるのに、気持ちが言うことを聞かないんだ。それで気付いたんだ。これが〝好き〟ってことなんだって」

 そこで匡史はうーんと考え込んだ。

「……話が長くなっちゃったな。どうでもいいことをたくさん話しちゃった気がする」

 匡史と視線が合った海茅は、助けを求めるかのようにか弱い声を出す。

「難しいのと恥ずかしすぎるので、ほとんど頭に入ってきませんでした……」

 それを聞いた匡史は声に出して笑った。
 そして海茅の手を握り、こくりと頷く。

「つまり、俺もみっちゃんのことが好きです」

 匡史を見上げたまま呆けている海茅の顔は、なんと間抜けなことか。

「俺、こういうのはじめてだから、頼りないけど大丈夫?」
「う、うん。私もはじめてだから……」
「悩み癖があってめんどうくさいヤツだけど、それでもいいの?」
「そういう匡史君が、す、す、すき、だから……」

 海茅が精一杯にそう応えると、匡史は顔をほころばせる。

「みっちゃん。俺と付き合ってください」

 小さな星が集まって、チョウのように飛び立った。広がり落ちる星たちは二人の少年と少女の指に止まり、すぅっと胸の中に溶けていく。
 紅葉がひらひらと舞う十月の放課後。廊下からは、下校する生徒の笑い声や、吹奏楽部員の鳴らす楽器の音が聞こえてくる。
 そんな中、校舎の片隅で、海茅と匡史は手を握り合う。気恥ずかしくて、何を話せばいいのか分からなくて、二人してはにかんだ。
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