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7章
第63話 びっくり
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◇◇◇
そしてデート当日、海茅は優紀に選んでもらった水色のワンピースを身につけた。
千七百九十円でありながら、襟元にダークブラウンの細いリボンが付いた可愛らしいデザインだ。生地は薄っぺらいが、サラサラした肌触りが気持ちいい。なにより、サイズが海茅にぴったり合っている。
海茅は、ワンピースに合わせてミュールとショルダーバッグも新調した。
優紀の反対を押し切って購入した白いミュールも、財布とスマホしか入らない小さなバッグも、どちらも千円台で購入した。
家を出た海茅は、おぼつかない足取りで駅に向かう。少し歩いただけで汗が滲み、彼女はハンカチを額に当てた。ハンカチは、汗と一緒にファンデーションも拭きとった。
残ったお金で買った化粧品で、姉に化粧をしてもらった。顔に色んなものを塗りたくられて不快極まりない。マスカラを塗った瞼は重いし、グロスを塗った唇はねっとりして最悪だ。
待ち合わせ場所の公園には、まだ匡史の姿はなかった。海茅は公衆トイレの鏡で化粧直しをしてからベンチに腰かける。すでに靴ずれしてかかとが痛い。
「みっちゃん、お待た――」
声が聞こえ海茅が顔を上げると、匡史が言葉の途中で固まった。
(えっ、お化粧変だった!? やばい、どうしよう……)
魂が抜けたように、海茅の姿を茫然と見つめる匡史。海茅が半泣きで項垂れていると、意識を取り戻した匡史がやっと海茅の隣に座った。
「びっくりした。声かける人、間違えたのかと思った」
「ご、ごめんね、なんか……」
「ううん。いやー、それにしてもびっくりした……」
海茅が窺い見た匡史は、口元に手を当て、眉をハの字にしていた。
匡史は横目で海茅を見た。海茅と目が合った瞬間、ぽっと頬を染め、慌てて目を逸らす。
「だめだ、まだびっくりする。今日大丈夫かな……」
じりじり照り付ける太陽のことも忘れ、二人はベンチに座ったままぎこちなく言葉を交わした。口は動かしているが、脳みそも耳も正常に作動せず、自分が何を話しているのかも、相手が話している内容も分からないまま抜けていく。
海茅と匡史の頬には大粒の汗が流れている。それが暑さから来ていると気付いたのは、会ってから十分ほど経ってからだった。
匡史は、公園の近くを流れている小川に海茅を連れて行った。
川辺に腰かけ、足を水に浸ける彼にならい、海茅も座って靴を脱いだ。
雑草の絨毯が冷たくて気持ちいい。水面を足先で撫でると、火照っていた体から熱がすぅっと抜けていく。
吐息を漏らした海茅に、匡史は口元を緩める。
「小さいとき、よく母さんとここで水遊びしてたんだよね」
「そうなんだ。思い出の場所なんだね」
匡史は頷いたかと思えば、気まずそうに体を揺らした。
「ごめん、俺、創たちみたいに楽しい場所あんまり知らなくてさ。こんな場所しか連れて来れなくて」
「え? すごく良い場所だと思ったよ。気持ちいいし、なんか落ち着くし」
「そっか。よかった」
川が流れる音と、草木が風に揺れる音のおかげだろうか。二人の肩の力が抜け、パニックになっていた頭も少しずつ落ち着いてきた。
ゆったりとした呼吸でぼんやりと自然を眺める海茅と匡史は、何も話していないのに居心地のよさを感じていた。
そしてデート当日、海茅は優紀に選んでもらった水色のワンピースを身につけた。
千七百九十円でありながら、襟元にダークブラウンの細いリボンが付いた可愛らしいデザインだ。生地は薄っぺらいが、サラサラした肌触りが気持ちいい。なにより、サイズが海茅にぴったり合っている。
海茅は、ワンピースに合わせてミュールとショルダーバッグも新調した。
優紀の反対を押し切って購入した白いミュールも、財布とスマホしか入らない小さなバッグも、どちらも千円台で購入した。
家を出た海茅は、おぼつかない足取りで駅に向かう。少し歩いただけで汗が滲み、彼女はハンカチを額に当てた。ハンカチは、汗と一緒にファンデーションも拭きとった。
残ったお金で買った化粧品で、姉に化粧をしてもらった。顔に色んなものを塗りたくられて不快極まりない。マスカラを塗った瞼は重いし、グロスを塗った唇はねっとりして最悪だ。
待ち合わせ場所の公園には、まだ匡史の姿はなかった。海茅は公衆トイレの鏡で化粧直しをしてからベンチに腰かける。すでに靴ずれしてかかとが痛い。
「みっちゃん、お待た――」
声が聞こえ海茅が顔を上げると、匡史が言葉の途中で固まった。
(えっ、お化粧変だった!? やばい、どうしよう……)
魂が抜けたように、海茅の姿を茫然と見つめる匡史。海茅が半泣きで項垂れていると、意識を取り戻した匡史がやっと海茅の隣に座った。
「びっくりした。声かける人、間違えたのかと思った」
「ご、ごめんね、なんか……」
「ううん。いやー、それにしてもびっくりした……」
海茅が窺い見た匡史は、口元に手を当て、眉をハの字にしていた。
匡史は横目で海茅を見た。海茅と目が合った瞬間、ぽっと頬を染め、慌てて目を逸らす。
「だめだ、まだびっくりする。今日大丈夫かな……」
じりじり照り付ける太陽のことも忘れ、二人はベンチに座ったままぎこちなく言葉を交わした。口は動かしているが、脳みそも耳も正常に作動せず、自分が何を話しているのかも、相手が話している内容も分からないまま抜けていく。
海茅と匡史の頬には大粒の汗が流れている。それが暑さから来ていると気付いたのは、会ってから十分ほど経ってからだった。
匡史は、公園の近くを流れている小川に海茅を連れて行った。
川辺に腰かけ、足を水に浸ける彼にならい、海茅も座って靴を脱いだ。
雑草の絨毯が冷たくて気持ちいい。水面を足先で撫でると、火照っていた体から熱がすぅっと抜けていく。
吐息を漏らした海茅に、匡史は口元を緩める。
「小さいとき、よく母さんとここで水遊びしてたんだよね」
「そうなんだ。思い出の場所なんだね」
匡史は頷いたかと思えば、気まずそうに体を揺らした。
「ごめん、俺、創たちみたいに楽しい場所あんまり知らなくてさ。こんな場所しか連れて来れなくて」
「え? すごく良い場所だと思ったよ。気持ちいいし、なんか落ち着くし」
「そっか。よかった」
川が流れる音と、草木が風に揺れる音のおかげだろうか。二人の肩の力が抜け、パニックになっていた頭も少しずつ落ち着いてきた。
ゆったりとした呼吸でぼんやりと自然を眺める海茅と匡史は、何も話していないのに居心地のよさを感じていた。
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