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6章
第51話 パーカッションはかっこいい
しおりを挟む明日香が過呼吸になったことで逆に冷静になった福岡先輩は、明日香の手を握りながらか細い声で謝った。
「明日香、ごめん……! 言い過ぎた……!」
明日香は息が乱れたまま、福岡先輩に応える。
「私のことは……いいです……。それより……パーカッションの人たちに……謝ってください……」
福岡先輩は、気まずそうに目を伏せたまま樋暮先輩に顔を向けた。
「その……本当にごめん……」
「ちょっと許せませんけどね。謝られたのに許さないのはダサいんで、頑張って許します」
樋暮先輩はそれだけ言って、頭を冷やすために音楽室から出て行った。段原先輩も樋暮先輩のあとを追う。
「……俺は、パーカッションがやりたくて吹奏楽部に入りました。確かにオーディションに落ちてパーカッションになった部員もいますけど、落ちこぼれなんかじゃありません。自慢できるパートメンバーです」
項垂れる福岡先輩と、呼吸が落ち着いてきた明日香をそのままに、海茅と優紀も音楽室を出て先輩を追いかけた。
先輩たちは、音楽室から少し離れた教室の隅にいた。声を上げて泣いている樋暮先輩の背中を、段原先輩がさすっている。
教室に入ってきた後輩に気付き、段原先輩は困ったように笑ったが拒絶はしなかった。
「悔しいっ……! 何でパーカッションがバカにされなきゃいけないの!? パーカッション最高なのに!! 管楽器がそんなにエラいのかぁ!? くっそぉぉっ……!」
樋暮先輩が拳を床に叩きつける。
「楽器を奏でてるのは、管楽器も打楽器も同じでしょ!? それなのに楽器を吹いてないだけで発言権もないの!? 同じ吹奏楽部のメンバーじゃないの!?」
「福岡先輩、頭に血が上ってただけだから。きっと本心じゃないよ」
段原先輩のフォローに、樋暮先輩はぶんぶんと首を横に振った。
「違う! あれが本心だよ! むかつく!! むかつくむかつく!!」
荒らぶる樋暮先輩の頬に、段原先輩が両手を押し付ける。
「で、樋暮も頭に血が上ってる。むかつくのは分かるけど、ちょっと落ち着こう。海茅ちゃんと優紀ちゃんに見られてるよ」
「えっ」
そこで初めて、樋暮先輩は後輩がいることに気付いた。彼女は慌てて目を擦り、バツが悪そうに笑う。
「い、いたんだー! ごめんねカッコ悪いとこ見せちゃって!」
海茅と優紀は、樋暮先輩の両隣りに座り背中をさすった。
「先輩、かっこよかったですよ。ご、ごめんなさい。私、如月さんがあんなこと言われてるのに、止めに行く勇気がなくて……」
「私もです。樋暮先輩、段原先輩、止めてくれてありがとうございます」
二人の言葉に、樋暮先輩がこくりと頷いた。こんなにしおらしい彼女を見るのは初めてだ。
海茅は、「それに」と言葉を付け足した。
「私も、パーカッションがバカにされてムカつきましたから……」
その感情には海茅自身も驚いた。
パーカッションになりたての頃の海茅は、福岡先輩と同じことを思っていた。だから心の中で「パーカッションなんか」「シンバルなんて」と毒づいてしまっていた。
それが今は、パーカッションをバカにされることは、自分をバカにされることよりも心が乱された。
「わ、私、オーディションに落ちてパーカッションになりましたけど、今ではパーカッションになれて良かったと思ってます。シンバルに出会えて、他のたくさんの面白い打楽器に触れられて、それに最高のパートメンバーと一緒に練習できて」
樋暮先輩の目からぶわっと涙が溢れ、赤ちゃんのように激しく泣き声を上げた。隣では段原先輩がこっそり目を拭っている。
「パーカッションはかっこいいです。大好きです」
そう言って笑った海茅に、先輩と優紀は濡れた目尻を下げて頷いた。
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