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4章
第40話 後悔
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海茅が絞り出した言葉は、小さく、震えていた。
「本当に……後悔しています……」
泣かないと決めていたのに、海茅の目から涙が落ちる。
「勉強……一度分からなくなると、どんどん分からないことが増えていって……。どうしたらいいのか分からなくなって。開き直って、勉強しなくてもいいやって思ってました……」
顧問は何も言わず、静かに海茅の言葉に耳を傾けた。
「でも、昨日優紀ちゃんに、逃げるなって叱られました。叱られたのは勉強のことじゃなかったんですけど、私、勉強からも逃げてたんだって気付きました……」
海茅は乱暴に目をこすり、鼻をすする。
「テスト一週間前から、クラスメイトが私に勉強を教えてくれました。それでちょっとずつ勉強をするようになって、ちょっとずつ楽しいと思えるようになりました。でも、始めるのが遅すぎました……」
「悔しかったか?」
「はい。どうしてもっと早く勉強を始めなかったんだろうって、悔しくて、悔しくて……」
顧問はため息を吐き、海茅の成績が書かれた紙ぺらを弄んだ。
「……彼方の成績が、前回と比べて上がったことは分かっている。音楽室で喜田たちと勉強をしていたことも」
ペンを持った顧問が海茅に尋ねた。
「次のテストでは何点取る?」
「えっと……。まず国語、英語、社会は四十点以上取りたいです……。あとは、理科は五十点台、数学は六十点台を目指したいなと……」
「そのためにはどうする?」
「……夏休み中に、ちゃんと今までのことを復習して、分からないところをなくしたいです。あとは、夏休み明けてからは授業をしっかり聞いて、テスト前だけじゃなくて日ごろから勉強をしなきゃいけないと思っています」
海茅が話したことを、顧問はサラサラと紙ぺらに書き込み、口を開いた。
「国語、英語、社会は五十点以上取ること。後期中間テストまでの間は、一週間に一度、勉強した内容を俺に報告すること。一晩考えても分からない問題は速やかに俺か他の先生に質問すること」
そう言ってから、顧問が海茅に視線を送る。
「できるか?」
戸惑いながらも頷く海茅に、顧問が無表情のまま言った。
「コンクールには彼方のシンバルが必要だからな」
そして顧問は立ち上がり、控室を出ようとした。
海茅は口をあんぐり開け、しばらく茫然とする。
「……コンクールに出てもいいですか?」
「ああ。その代わり、さっきのことは徹底してやること。分かったか?」
「はい……。はい……!! ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「早く音楽室に行くぞ」
「はい!!」
顧問と海茅が音楽室に入ると、部員が不安そうに海茅を窺い見た。特にパーカッションパートの人たちの顔は血の気がない。
部活始めのミーティングが終わると、優紀が海茅に駆け寄った。
「海茅ちゃん、どうだった……!?」
海茅はワッと泣き出し、優紀に抱きつく。
「コンクール……出られる……!!」
「そっか、ダメだったか……。って、え!? 出られるの!?」
「うん……! 出てもいいって、先生が!!」
「ちょっともう! 泣くからダメだったと思ったじゃん!! ややこしいなもう~!!」
ふくれっ面をする優紀の目から涙がぽろぽろ零れた。いつしか彼女の顔はしわくちゃになり、海茅にしがみついて泣く。
「よかったぁぁぁ……! よかったよぉぉぉっ!」
「優紀ちゃん、ありがとう……。優紀ちゃんのおかげで私、私ぃぃぃっ……!」
二人を見守っていた他のパーカッションパートだけでなく、管楽器パートも安堵のため息を吐いた。
「あぁぁー……よかったー……」
「ヒヤヒヤさせないでよーもうー」
吹奏楽部員で赤点を取った生徒は、海茅ただ一人だった。後期中間テストの厳しい条件を出されたものの、そんな海茅もなんとかコンクール出場を許された。おかげで、コンクールは部員全員で出場することができる。
海茅のことが気がかりでパート練習に行けなかった部員に、部長が手を叩いて指示を出す。
「はーい! みんなパート練習行ってねー! あとは練習するのみなんだから、コンクールまでみんなで頑張ってこー!」
「本当に……後悔しています……」
泣かないと決めていたのに、海茅の目から涙が落ちる。
「勉強……一度分からなくなると、どんどん分からないことが増えていって……。どうしたらいいのか分からなくなって。開き直って、勉強しなくてもいいやって思ってました……」
顧問は何も言わず、静かに海茅の言葉に耳を傾けた。
「でも、昨日優紀ちゃんに、逃げるなって叱られました。叱られたのは勉強のことじゃなかったんですけど、私、勉強からも逃げてたんだって気付きました……」
海茅は乱暴に目をこすり、鼻をすする。
「テスト一週間前から、クラスメイトが私に勉強を教えてくれました。それでちょっとずつ勉強をするようになって、ちょっとずつ楽しいと思えるようになりました。でも、始めるのが遅すぎました……」
「悔しかったか?」
「はい。どうしてもっと早く勉強を始めなかったんだろうって、悔しくて、悔しくて……」
顧問はため息を吐き、海茅の成績が書かれた紙ぺらを弄んだ。
「……彼方の成績が、前回と比べて上がったことは分かっている。音楽室で喜田たちと勉強をしていたことも」
ペンを持った顧問が海茅に尋ねた。
「次のテストでは何点取る?」
「えっと……。まず国語、英語、社会は四十点以上取りたいです……。あとは、理科は五十点台、数学は六十点台を目指したいなと……」
「そのためにはどうする?」
「……夏休み中に、ちゃんと今までのことを復習して、分からないところをなくしたいです。あとは、夏休み明けてからは授業をしっかり聞いて、テスト前だけじゃなくて日ごろから勉強をしなきゃいけないと思っています」
海茅が話したことを、顧問はサラサラと紙ぺらに書き込み、口を開いた。
「国語、英語、社会は五十点以上取ること。後期中間テストまでの間は、一週間に一度、勉強した内容を俺に報告すること。一晩考えても分からない問題は速やかに俺か他の先生に質問すること」
そう言ってから、顧問が海茅に視線を送る。
「できるか?」
戸惑いながらも頷く海茅に、顧問が無表情のまま言った。
「コンクールには彼方のシンバルが必要だからな」
そして顧問は立ち上がり、控室を出ようとした。
海茅は口をあんぐり開け、しばらく茫然とする。
「……コンクールに出てもいいですか?」
「ああ。その代わり、さっきのことは徹底してやること。分かったか?」
「はい……。はい……!! ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「早く音楽室に行くぞ」
「はい!!」
顧問と海茅が音楽室に入ると、部員が不安そうに海茅を窺い見た。特にパーカッションパートの人たちの顔は血の気がない。
部活始めのミーティングが終わると、優紀が海茅に駆け寄った。
「海茅ちゃん、どうだった……!?」
海茅はワッと泣き出し、優紀に抱きつく。
「コンクール……出られる……!!」
「そっか、ダメだったか……。って、え!? 出られるの!?」
「うん……! 出てもいいって、先生が!!」
「ちょっともう! 泣くからダメだったと思ったじゃん!! ややこしいなもう~!!」
ふくれっ面をする優紀の目から涙がぽろぽろ零れた。いつしか彼女の顔はしわくちゃになり、海茅にしがみついて泣く。
「よかったぁぁぁ……! よかったよぉぉぉっ!」
「優紀ちゃん、ありがとう……。優紀ちゃんのおかげで私、私ぃぃぃっ……!」
二人を見守っていた他のパーカッションパートだけでなく、管楽器パートも安堵のため息を吐いた。
「あぁぁー……よかったー……」
「ヒヤヒヤさせないでよーもうー」
吹奏楽部員で赤点を取った生徒は、海茅ただ一人だった。後期中間テストの厳しい条件を出されたものの、そんな海茅もなんとかコンクール出場を許された。おかげで、コンクールは部員全員で出場することができる。
海茅のことが気がかりでパート練習に行けなかった部員に、部長が手を叩いて指示を出す。
「はーい! みんなパート練習行ってねー! あとは練習するのみなんだから、コンクールまでみんなで頑張ってこー!」
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