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3章
第36話 期末テスト
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◇◇◇
期末考査三日前になると、匡史たちとのグループLINEチャットが、海茅に向けた一問一答で埋め尽くされていた。海茅が正解すると次の問題が出され、不正解だと書き取りした写真や復唱した音声を海茅が送ってから次の問題に移る。
海茅が問題に正解すると、メンバーが手放しに褒めてくれた。不正解でも、反復練習をした海茅を労ってくれる。誰も海茅を叱らず、ただただ気持ちいい思いをさせてくれるので、海茅は少しずつ勉強に意欲的になっていった。
そして期末テスト当日――
海茅はガタガタ震えて時間が来るのを待っていた。
顔色が真っ青な海茅に、優紀が心配そうに声をかける。
「み、海茅ちゃん、大丈夫……?」
「緊張しすぎておなか痛い……。赤点取ったらどうしよう優紀ちゃん……。私コンクール出られないの……? もう二度とシンバル叩けないの……? あぁぁぁ……私の人生終わった」
テストが始まる前から負けを確信している海茅に、優紀は苦笑いした。
「わー。海茅ちゃんの悪いとこ出ちゃってるわー……」
「私はなんてダメな人間なんだろう。どうしてもっと前から勉強してなかったんだぁぁ……。入学当初の自分をひっぱたきたいよ……。あぁぁぁ……あと一カ月欲しかった……」
自分に呪いの言葉をかけ続ける海茅。手に負えないと思ったのか、優紀は匡史を連れてきた。
「みっちゃん、テスト頑張ろうね」
「ま、匡史君……ごめんねぇ……たくさん教えてもらったのに、私ダメかもしれなくてぇぇ……」
「大丈夫だよ。だってこの一週間ずっと頑張ってたし。昨日の一問一答も、半分くらいは正解してたし。大丈夫」
匡史は何度も「大丈夫」と言ったが、それは彼自身に言い聞かせているようだった。
匡史の本音は、海茅の赤点回避が成功する確率は半分。さすがに全教科一桁の海茅を叩き上げるには時間が少なすぎた。
「とにかく、できることはやった。だからテストも後悔しないよう精一杯やろう。回答がズレないようにだけ気を付けてね」
「う、うん……。ありがとう」
チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
テスト用紙が配られ、先生の合図でテスト開始だ。
海茅はどの教科も、後悔しないようにテスト時間をみっちり使って何度も見直した。分からなかったところもとりあえずそれっぽい答えを書いて、空白だけは作らないようにした。
自信は全くない。テスト用紙を回収される時はいつも後悔と絶望でいっぱいだ。しかしちょっとした達成感が海茅の疲弊した心を癒してくれた。
期末考査三日前になると、匡史たちとのグループLINEチャットが、海茅に向けた一問一答で埋め尽くされていた。海茅が正解すると次の問題が出され、不正解だと書き取りした写真や復唱した音声を海茅が送ってから次の問題に移る。
海茅が問題に正解すると、メンバーが手放しに褒めてくれた。不正解でも、反復練習をした海茅を労ってくれる。誰も海茅を叱らず、ただただ気持ちいい思いをさせてくれるので、海茅は少しずつ勉強に意欲的になっていった。
そして期末テスト当日――
海茅はガタガタ震えて時間が来るのを待っていた。
顔色が真っ青な海茅に、優紀が心配そうに声をかける。
「み、海茅ちゃん、大丈夫……?」
「緊張しすぎておなか痛い……。赤点取ったらどうしよう優紀ちゃん……。私コンクール出られないの……? もう二度とシンバル叩けないの……? あぁぁぁ……私の人生終わった」
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「わー。海茅ちゃんの悪いとこ出ちゃってるわー……」
「私はなんてダメな人間なんだろう。どうしてもっと前から勉強してなかったんだぁぁ……。入学当初の自分をひっぱたきたいよ……。あぁぁぁ……あと一カ月欲しかった……」
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「ま、匡史君……ごめんねぇ……たくさん教えてもらったのに、私ダメかもしれなくてぇぇ……」
「大丈夫だよ。だってこの一週間ずっと頑張ってたし。昨日の一問一答も、半分くらいは正解してたし。大丈夫」
匡史は何度も「大丈夫」と言ったが、それは彼自身に言い聞かせているようだった。
匡史の本音は、海茅の赤点回避が成功する確率は半分。さすがに全教科一桁の海茅を叩き上げるには時間が少なすぎた。
「とにかく、できることはやった。だからテストも後悔しないよう精一杯やろう。回答がズレないようにだけ気を付けてね」
「う、うん……。ありがとう」
チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
テスト用紙が配られ、先生の合図でテスト開始だ。
海茅はどの教科も、後悔しないようにテスト時間をみっちり使って何度も見直した。分からなかったところもとりあえずそれっぽい答えを書いて、空白だけは作らないようにした。
自信は全くない。テスト用紙を回収される時はいつも後悔と絶望でいっぱいだ。しかしちょっとした達成感が海茅の疲弊した心を癒してくれた。
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